第15話 アンドロイドはオーナーが賞金首になったことを知る

「ナッチはこーいうの疎いからぁ、ぜーんぜん気がつかないんだよねぇ。だからあたしが目を光らせなきゃすーぐ変な仕事に引っかかるのよねぇ」


 あくまでも静かな口調で。


「今回の変な依頼もそうだしぃ、あなたがあたしたちを騙してるって可能性もまだ十分あるしぃ」

「そうですね」


 私の存在がターゲットであるミオの周辺から発見されなければ、彼女を探そうとする私の依頼理由が不明瞭になる。


「実はねぇ、こーいうの、見つけちゃったのよねぇ」


 そう言ってスゥが開いた画像には、ミオの顔写真があった。賞金首の手配書。


「こんなものが……いつ公開されたものですか、この情報は」


 高額な報奨金、生死不明の文字。

 私にもこの金額がとんでもない数値だということはわかる。

 何より生死不明の一文。

 襲撃者オメガの手配ではないのか。私が知る限りでは蓋然性が最も高い。

 それほどこのボディがほしいのだろうか。


「情報開示は昨日の夜ねぇ。ここに書いてあるのがそ~よう」


 手配書の左上をスゥが指差す。私が一度目の再起動をしたのち、オメガとのやり取りの最中の時刻だ。

 やはり、これはオメガによるものだ。彼は本気でミオを抹殺し、私の所有権を手にしようと考えているのだ。

 だが、この金額を出せるのであれば、ミオから合法的に私を買い取ることは不可能ではない。私の残債を肩代わりすると申し出れば、彼女は喜んで応じるだろう。

 その可能性を、なぜ取らなかったのだろう。


「この報奨金を手に入れるためにあたしたちを巻き込んでる可能性もまだあるよねぇ」

「現状では否定できる材料がない、ということですね」


 スゥはうなずいた。


「あの船を強奪してきたんじゃないって証明が出来ないんだったらぁ、そうなるかなぁ」


 やはり侮れない女性だ。事情をすべて秘したまま協力を仰いでも、応じてはもらえないだろう。


「私は備品扱いなので、乗員ではありません」

「備品……?」


 データを探しているのだろう。彼女の手が一瞬だけ止まった。


「そう、なんだぁ。でもそれだけじゃ信用できないなぁ。どこからどう見ても人にしか見えないしぃ、そう偽ったところで調べるすべはない、よねえ?」


 事情をすべて詳らかにしても、彼女の疑念に対する回答にはならない。人でないことの証明を求められているのだ。

 人と同じであることを求められる個体たる私にとっては最も難しい命題である。


「認識番号と個体コードをお答えすればよろしいでしょうか」


 慎重に言葉を運ぶ。


「しかし、それではあなたの疑念に対する答えにはならないと私は認識しています。私がアンドロイドであるという暗示を欠けられている可農政もありますから、私が何を答えたところで、証明にはなりません」

「そうねぇ」

「では、やはりこの方法しかありませんね」


 人にはできない唯一のこと。


 ――死からの再生。


 待機時間を五分に定めて、再起動シーケンスを開始する。


「倒れてもお構いなく。それから停止中にハッキングを試みないでくださいね。認証なく接続しようとしたら高電圧がかかる仕組みになっていますから――」


 自分の発生が間延びして聞こえ――私は今日三度目のブラックアウトを迎えた。

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