第16話 アンドロイドは一度死ぬ

「――い、おい!」


 再起動。設定の通り、五分の待機時間を合わせて六分ちょうどのブラックアウト時間を計測。

 激しい振動とナイの声。自己診断プログラムのシーケンスをカットして目を開けると、至近距離にナイの顔があった。


「よかった、あんたがいきなりぶっ倒れるのが見えたから、飛んで来たんだよ。起き上がれるか?」


 ナイが手を伸ばしてくる背後で、スゥがいつもの笑みを浮かべたまま、唇に人差し指を当てている。

 ナイには話すな、という合図だと了解する。


「はい、問題ありません。ありがとうございます」


 ナイの手を借りて立ち上がると、土を払い落とす。


「タクシーまで歩けるか?」

「ええ、大丈夫です。先に行ってもらえますか? すぐに追いつきます」

「わかった。スゥ、付き添ってやってくれ」

「はーい」


 ナイを見送り、スゥと麓までの坂を下る。


「彼には話さなくてよかったのですか?」

「んー、言わないほうがいいかなーって思ってねぇ。あたしは高精度アンドロイドを何人も見て知ってるからあんまり驚かないけどぉ、ナイは免疫ないと思うしぃ。でも医療キットをごまかせるほどのアンドロイドなんて初めてよぉ。医療キットが死亡宣告出したから慌てちゃったぁ」


 彼女はそういい、ちろっと舌を出す。


「でもおかげで面白いことが分かっちゃったぁ。たしかこの星には来たことないって言ってたよねぇ?」

「ええ、製造されてから一度も」

「知ってるぅ? 医療キットってぇ、普通は社会保障番号を入力して使うんだけどねぇ、旅行者や行き倒れてる場合は入れようがないじゃなぁい? 対象が死亡した場合に限って血液採取とバイオコードの確認が行われるようになっててぇ、この星の人間だったら関係者に直接連絡が行くようになってるんだってぇ」


 少しの沈黙。振り返ると、彼女は微笑んだ。


「いまごろ大変なことになってるんじゃないかなぁ。あなたのオリジナルが死んだことになってぇ」


 クスクスと笑い出す。

 医療キットが私の情報を読み取り、この星にいるオリジナルと診断したというのか。


「私にバイオコードはないはずですが……」


 一般的に個人認証に使われるものは、虹彩と掌紋、それに声紋だ。どれも認証装置側でアンドロイドかどうかを検知しているため、通用するはずがない。


「それもすり抜けちゃったみたいねぇ。まあ、医療キットのほうが出来が悪いのかもしれないけどぉ」

「それは――」


 誰、といいかけて口を閉じる。私のオリジナルについて考察するのは時間の無駄であり、禁止事項だ。


「ねー、だいじょーぶぅ? 本当に顔色悪いけどぉ」

「ええ、お構いなく」


 そうだ、そんなことを言っている場合ではない、ミオが狙われているのだ、それも不特定多数から。


「行きましょう。対策を考えなくては」


 ナイが手を降っている。夜明けはまだ暗い。

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