第14話 アンドロイドは襲撃者に依頼する

「ところで、なぜ最初に私の誘いに乗ったのですか? 私は船内に、あなた方は船外にいた。逃げることは容易だったはずです。しかもあなた方には火器があった。聞かせてもらえますか?」


 船の外に出たところで、私は抱いていた疑問を口にした。

 船外の二人の会話に割り込んだあと、ハッチを開けた時の二人は警戒することなく武装解除して立っていた。

 二人に手渡した電子手錠も、疑うことなく手にはめた。


「逃げる? 何で逃げなきゃならねえんだよ」


 男――ナイ・ナッチが振り返った。


「そもそもこれはビジネスだし、逃げるわけには行かねえだろ? ああ、あんたの演技を信じたかどうかってんなら、信じてなかったぜ。――いや、ちょっとは期待したかな。なんせ銃突き付けて脅してる相手から話が聞きたいとか言われんの、初めてだったし、大した大物かも知れねえなってな。いい関係が築ければいいビジネスができるんじゃねえかってな。ま、期待はずれだったわけだけどさ。ぶっちゃけ、理由は何でもよかったんだよ。ハッチ開けさせて乗り込む手はずになってたし。普通はスゥが電子攻撃で操船系乗っ取って、内側から開けさせるんだけどな」

「あ、そうそう。なんでハッキングできなかったのか、教えて欲しいなぁ」


 女――スージー・スゥもそう言って振り返った。


「この船には操船ネット自体がないのです。もともと人間が一人で操縦するように設計されていますから」

「やっぱりぃ。ねぇ、この船本当は何の船? 客船じゃないよねぇ?」

「貨物船です。母船は宙港に繋留して、直接地上に降りる際に使います」

「それであの客室か。どーりで金かかってねぇわけだ」

「人を運ぶ依頼はほとんどありませんので」


 実際、ミオは人を運ぶことを極端に嫌う。物品の配達以外で受けたことは、私が知る限り一度もない。ユニオン側もそれをよく知っているようで、人と物を同時に運ぶ依頼が回ってくることはない。


「うーん、でもねぇ、それだけじゃない感じだったんだよねぇ。軍用の払い下げなのかなぁ。有線で繋いでもなかなか侵入できなかったんだよぉ」

「細かいことは存じません」


 彼女の指摘は鋭い。

 シュガーポットのベースは当時最速の軍用輸送機だと老師から聞いている。

 本来の役目においてすでに退役した期待を再利用するのはよくあることだ。スピードと頑丈さが重視される運び屋業界でもこの型の船はいまだに多く現役として働いている。ゼン老師曰く、『運び屋にはもってこいの船』。


「で、まずはそのオーナーとやらを探せばいいんだな?」

「ええ。ミオの映像を回します」


 最後に確認した、シャトルに乗るミオの映像をモニターに出す。


「情報収集は任せるぞ、スゥ」

「りょーかーい。まっかせてー。宙港のカメラ、追っかけてみるねぇ」


 彼女が携帯端末に指を走らせると、スクリーンが同時に複数開いた。


「スゥはああ見えて情報戦は得意なんだ。任せておきゃ大丈夫。で、オーナーはどこに行くとか言ってなかったか?」

「あまり詳しくは存じません。ただ、王庭のプレミアムチケットが手に入った、と喜んでいたところから、夜景を見に王庭に向かったのは間違いないかと思います」


 王都のある首都はすでに夜時間に突入している。


「王庭ねえ。ホテルとかの予約は?」

「日帰りの予定でしたから、予約はしていません」

「もう宙港に戻ってるとかは?」


 私は首を横に振った。


「もしシャトルで宙港に戻っているなら、私に連絡が入りますのでわかります。まだこの星にとどまっているのは間違いないと思われます」

「連絡なしで一泊するとかはありか?」


 これも首を振る。


「今日のうちに出発して、母船を修理工場に運ぶ手はずになっています。余程のことがなければありえません」

「となると、首都に戻れない位置にいたか、何かあったってことだな」

「たぶんだけどねぇ、後者じゃないかなぁ。宙港から王城までの足取りはさくっと出てきたのよねぇ。その後がなかなかつかめなくってぇ」


 スゥはそういい、スクリーンに拡大地図を開いた。宙港から王城までミオが辿ったルートが赤く点滅している。


「まずは王城付近からだな。じゃ、タクシー呼んでくるわ」


 ナッチはそう言い、麓に降りていく。私は船の偽装をステルスに変え、ロックした。


「ところでぇ、ひとつ聞きたいんだけどぉ、オーナーさんの名前、ミオ・バーンであってるぅ?」


 スゥが口を開いた。


「はい」

「船の名前がシェケル二号。運び屋さんなんだぁ」

「はい」

「んー、でもねぇ、宙港の入港記録にはぁ、乗員一名ってあるのねぇ」


 スゥは顔を上げ、笑み木彫も変わらず、


「ほんとはどちらさま?」


と、首を傾げた。

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