第22話 アンドロイドは襲撃者と相対する

「そこまでだ。よくもやってくれたな」


 五つの銃口がこちらを向いている。よく訓練された私兵といったところだろう。

 一人だけ服装の違う男がいる。これが将軍だろう。

 将軍自ら出ているということは、よほどの重要項目、もしくは秘密事項のどちらかだ。


「あなた方ですね、船で好き放題してくれたのは」

「貴様を野放しにするわけには行かないのだ。わかっていることだろう? 星外に脱出されてはこまるのでな」

「何のことですか。私がこの星に降り立ったのは今回が初めてです」


 しかし、将軍は鼻を鳴らすだけだった。


「下手な言い訳だ。痛い思いをしたくなければ抵抗をやめて両手を上げて後ろを向け」

「どちらもお断りします。私は忙しいのであなた方に付き合っている暇はありません」

「ふん、相変わらず口の減らない奴め。構わん、腕や足の一、二本、ふっ飛ばしても捕獲しろ。但し殺すなよ」

「ほ、本当によろしいのですかっ」


 兵士の一人が怯んで確認を求める。が、将軍は構わん、と一言で両断する。

 なるほど。

 将軍は私のオリジナルに逃げられたのだろう。

 兵士たちの服装や肩の紋章から、私兵で間違いないだろうが、紋章を検索しても該当の家の情報は見当たらない。二年前のホーデン公の私兵とも違う。

 間合いを取りながらジリジリと隙を窺う。


「何をしている、早く撃てっ!」


 将軍の激が飛んだ瞬間、兵士たちのためらいが銃口を下げさせた。その隙を突いて懐に飛び込み、銃を狙う。

 三人目の銃を叩き落として体当たりを食らわせたところで銃声が響いた。

「押さえ込めっ」


 周囲にいた兵士たちが飛びかかってくる。それぞれ顎とみぞおちに一発ずつくれて放り出すと、起き上がっていて無事な兵士は将軍だけとなった。


「腰抜け共がっ……王族に銃を向けるのがそんなに怖いかっ! 俺は怖くなどないぞっ!」


 銃で私の体幹を狙いながら、将軍は喚く。


「誰と勘違いしているのか知りませんが、私はあなたがたがた探している王族とやらではありません」


 三百秒のタイムリミットを過ぎたようだ。リミッターがかかる。体の随所で冷却処理(クーリング)が始まった。


「間違えるわけがない。船で拘束した時に行った簡易検査でも証明されている。貴様は廃嫡されたハーシェル本人だ。死んだなどと噂が流れていたが、ここにちゃんと生きているではないかっ!」


 ハーシェル廃嫡――王子?


 王族の中にそんな名前の王子がいたという記録はない。いや、もしかしたら騒乱以降、当局が歴史からすべての記録を抹消したのか。

 だとしたら、その人物こそがホーデン公が擁立したという王族なのではないか。

 スゥの言葉を思い出す。


『今頃大変なことになってるんじゃないかなぁ』


 スゥは知っていたのだ。医療キットがはじき出したハーシェルの名前と、その人物が何者なのかも。

 オリジナルのものとして、ハーシェル王子の死亡通知が関係各所に飛んだのだ。

 公にいないことになっている人が死んだからといって、公的機関がすることは何もない。

 『身元不明者アンノウン』の死体が一つ、ふえただけだ。だが、記録は消せても人の記憶は消せない。

 関係者、特に直接本人を知る者、支援者や監視役に届けられた通知は、愛するもの、支援対象、監視対象の物理的な喪失に他ならないのだ。


「では、お聞きします。私が仮にあなたの探している人物だとして、私が死んでいてはなぜ困るのですか? なぜ執拗に私を捕まえようとするのです? 脱出がどうの、と船で言っていましたね。ということは、私はあなた方のもとで監禁されていたと考えるのが筋でしょう。私があなたの考える人物だとして、しかも何らかの騒動に関連した人物だとして。この星の歴史上どこにも存在しない者が死亡や星外逃亡したところで、何の意味も持たず、ゆえに私を捕らえる価値もない、と思われるのですが」

「ええい、屁理屈を並べるなっ、貴様が生きて目の前にいる。理由はそれだけで十分だ」

「船であなたは、まだ役に立ってもらわねば困る、と言っていた。その人物が生きていることを公に知られると困る。だが死んでも困る。だから目の届くところに監禁していた。そんなところではありませんか?」

「わかりきったことを聞くなっ!」


 殺せるものなら殺してしまいたい――将軍からはそんな苛立ちも見て取れた。


「貴様がおとなしくしていれば何の問題もないのだ。貴様さえっ」

「お断りします」


 突きつけられている銃口を見つめ、答える。


「あなた方の妄想につきあう義理は私にはありません」


 冷却完了のシグナルが飛んできた。

 周囲に転がったままの兵士を視野にいれつつ、一歩ずつ将軍に歩み寄る。


「お前らっ何をしてるっ、捕まえんかっ! 撃たんかっ!」


 だが兵士たちは動かない。

 六十年前に形骸化したはずの王家の威光がいまだに民の中に残っているのだ。無視できないほど深く濃い。

 だから、二年前の騒乱につながったのだ。

 首謀者の生死も、王族の名前も、民にとってはどうでもいいから報道されないのではなく、一種の禁忌タブーだからなのか。


「何より私はあなたの探している人物じゃない。時間の浪費です」


 スゥからの直通コール。

 これ以上足止めを食う訳にはいかない。将軍の横を通り過ぎながらつぶやいた。


「あなたのオーナーに伝えて下さい」


 将軍の横を通り過ぎる。

 その耳元で、他の兵士に聞こえないように囁いた。


機械アンドロイドを王に据える気ですか? と」

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