第12話 アンドロイドは襲撃者と話をする

 脱線しがちな彼女の長い話を要約すると、依頼を受けて船を襲う職業、ということのようだ。

 観光しかないこの星では、観光にまつわる様々な仕事が発達したのだという。もちろん、表に出せるものばかりではない。法律すれすれのものや明らかに違法なものも多いらしい。


「たとえばぁ、客の気に入った女の子や男の子を誘拐して来る誘拐屋とかぁ、始末屋とかぁ。客が起こした事故や殺人を肩代わりする身代わり屋なんてのもあるのよねぇ」


 そう言いながら彼女は両手で包み込んだコーヒーカップを転がし始めた。

 聴取を進めていくにつれ、頭痛がひどくなってくる。

 これでよく秩序が維持できるものだ。警察機構が働いていない、とは聞いていたが、おそらく全てにおいてこの調子なのだろう。


「で、俺らは襲撃屋。依頼を受けて船を襲い、金品をいただく」

「ただの襲撃屋じゃないのよぉ。ナッチってば、曲がったことは大っ嫌いだし、人殺しも大嫌いだからぁ。あたしたちのはぁ、人助けっていうかぁ、恋の演出の一部なのぉ」


 ピンクの髪を揺らして彼女は言う。


「ほらぁ、男と女がコワイ思いを共有すると愛に発展しやすくなるっていうでしょぉ? 二人の乗ったプライベートシャトルを襲撃することで危機を演出してあげるのぉ。本人からの依頼しか受けないしぃ、船にも保険がかけてあるから多少の被害はオーケーなのぉ。あたしたちはお金がもらえるしぃ、依頼主はかっこよく彼女を守ってラブラブになれるしぃ、一石二鳥でしょぉ?」


 そう言って彼女はにっこり微笑み、小首をかしげる。


「なるほど。そういうことでしたか。逆に攻撃されたりはしないのですか?」

「そういう依頼もあるぜ。その時はやられ屋とつるむんだ。いつもは一撃くれてやって、墜落ポイントで脅しをかければ仕事は完了なんだが」


 男はそう言うとコーヒーを飲み干してカップを机に置いた。


「だってぇ、今回は最初から変だったものぉ。いつものルートだったけどぉ、映像じゃなくて写真だけだったしぃ、本人と確認できるものもなかったしぃ」

「そこらへんはお前に任せてただろ? いまさら言うなよ」

「だってナッチぃ、怪しいって言っても聞いてくれなかったじゃないのぉ」

「そりゃ……ここしばらくはその、船の修理代がかさんでよぉ」

「その依頼主というのはどういう人物でしたか?


 おそらくはゼン老師の手配だろう。しかし、男は首を振った。


「守秘義務があるんでな、教えるわけには行かねえ」

「えーっ、いいんじゃないのぉ? こうなっちゃったら依頼料もらえるかどうかもわかんないしぃ」

「何だって? 前払いじゃないのか?」


 驚いて男は顔を上げた。


「そう、今回に限って急な依頼だったからぁ、後払いにしてくれってぇ。だから怪しいなーってぇ」

「くっそ、タダ働きかよっ」

「うん、そうなりそう」


 がっくりと肩を落として男はへたり込んだ。が、ややあって、男はのそっと顔をあげるとつぶやいた。


「あんただよ」

「え?」


 それは予想の上を行く回答だった。


「依頼人はあんただった。いや、正しくないか。あの時はバスタイムだとかなんとか言って、制止画像での通信だったから。ともかく、依頼人と通信した時の写真は、間違いねえ、あんたの顔だった。いい服を着てたし、後ろに映ってた調度品とかも一級品だし、いい金づるだと思ったんだよ」

「でもさぁ、あれってぇ……」


 コーヒーカップを弄びながら、彼女が口を開いた。


「――王族の正装、だよねぇ?」

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