第十一章 足りない情報
第41話 ミオはゼン老師を疑う
移動した先は、さっきまでいた小屋よりさらに上層にあって、しかも大きかった。
ホテルでも作るつもりだったのか、それともマンションのつもりだったのか、部屋数だけなら二十はありそうな建物で、一階が大広間、地下には娯楽室らしき部屋。
どう考えてもこれ、カジノか何か作るつもりだったんだ。こんなところに観光地の維持を見た気がする。
二階以上はどうやら作りかけだった。扉がはまってない。ベッドがない。ただのがらんどうの部屋が並んでいる。
地下のさらに下にあたしたちはいた。
食糧倉庫と動力室がある横に、小さな部屋があって、そこには最初の小屋よりも本格的なプロ用機材が並んでいた。
「隣の動力室からこっそり電力もらってね。さすがに発電機動かせないから、発電機用の非常電源だけど」
てきぱきと機材のセットアップをするダイの横で、ハルが解説してくれる。さらにその横でスーもネットワークの構築を始めた。
「ジャン、ここからネットワーク拾える?」
「いえ、無線は無理です。ノイズがひどすぎる」
「そう」
「ああ、この辺りはジャミングしてるから。ここも極秘だから有線しかない。もう少しでセットアップが終わるから待て」
ダイの言葉にジャンは素直にうなずいた。
「で、どこにつなぐ?」
「あたしの船につないでくれればいいわ。制御はジャンがするから」
「わかった――あんた、物理ポートあるか?」
「はい、大丈夫です」
ダイはジャンを手招きすると椅子に座らせ、何やら操作を始めた。じきにジャンはうなずくとあたしのほうを向いた。
「ミオ、つながりました」
あたしはジャンの後ろに立った。さりげなくダイが場所を譲ってくれるけど、そこにモニターがあるわけでなく、黒い表面の機械があるだけだ。
「モニターは出せない?」
「表示用に使える機材があれば出せますが……ミオ、端末はありませんか?」
「ないわ。……仕方ないわね、あんたには見えてるのよね?」
「はい」
「ならいいわ。ゼン老師につなげられる?」
「はい――つながりました。音声出します」
ジャンは機械のほうを向いたまま、視線をさまよわせている。あたしたちには見えない脳内モニターを追いかけているのだ。
『おう、ようやく来たか。それにしても今時映像なしか?』
ふいにジャンからゼン老師の声が流れた。どこから聞こえてくるのかわからないが、ジャンの口からではないのは間違いない。
ジャンは人じゃない。わかってるんだけど、わかりたくない。
だから、船の中で人に見えない行動は取らせなかったけど。そんなこと、言ってる場合じゃないよね。
「すみません、ゼン老師、カメラがないので」
『おおそうか。ん? シュガーポットはどうした』
「船は無事です。ミオ、老師と話しますか?」
『ミオ? お、無事に会えたか?』
あたしはジャンが座っている椅子の背もたれに手を置いた。
「ゼン爺? 聞こえる?」
『おー、ミオの声じゃな。よう聞こえとるぞ。船はちゃんと修理しとるからの』
「ありがと。……ジャンから話は聞いたわよ」
『そうか』
応じたゼン老師の声は固い。聞きたいことは山ほどあるけど、ここでやることじゃない。
「いろいろ聞きたいこともあるけど、船の修理が終わってからにするわ」
『そりゃ助かる。なんせ修理の手が足りんでの』
「一つだけ聞いてもいい?」
『なんじゃ?』
あたしは唾を飲み込むと口を開いた。
「ゼン爺はあたしの敵?」
一瞬の沈黙ののち、低い笑い声が聞こえた。
『ミオは単純でええのう』
「それ、貶してんの?」
『んにゃ、褒めとるぞ』
笑いがほっほっといつもの高笑いに切り替わった。馬鹿にされてる気がして、見えてないのに唇を尖らせる。
「……まあいいや。とにかく船持ってきて。超特急でね」
『任せとけ』
それきり声は聞こえなくなった。
船はこれでいいだろう。ゼン老師には船を持ってきてくれた時に直接問いただせばいい。
「ミオ。……話があります」
くるりと振り向いたジャンの表情は真面目というよりは不機嫌に見えた。
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