第40話 ミオは疑惑を口にする
「じゃあ次」
コーヒーと非常用のビスケットでブレイクを取った後、まずはあたしから口火を切る。
というか、ジャンが持っていた情報はすべて提供した。あとはハルたちの持ってる情報。それから、あの二人だ。
「ハル。……さっきの話から、あたしの船にオリジナルと同じ顔をした男が乗ってることは知ってたわけよね。……いつ知ったの?」
「いつって」
向かいのソファに座ったハルは眉根を寄せたままこっちをじっと見ている。
「そうね……あたしが王庭を出て、あんたの運転するバスに乗る前だったのか、後だったのか。……時間経過からすると、前よね? たぶんその時点でもうあたしの賞金首情報、出てたんじゃないかと思うし」
「どうだったかな」
覚えてない、と言いながらハルは薄く笑う。これはあたしの出方を見てるんだろう、と気が付いた。ダイも同じように表情をかためたままじっとあたしを見ている。
「ジャンが
「ええ」
スーはにっこり微笑んだまま答えない。ジャンが応答し、あの優男はソファにもたれたまま手の中のグラスを揺らしている。
「となると、王城であたしに接触してきたのも計画のうち? ハル。……もしかして、あの屋台の妊婦さんもあんたたちの仲間なのかしら」
「妊婦?」
スーが口をはさんだ。
「ええ。王城の中の土産物屋の女将さん。あのおなかが嘘だとは思いたくないけど」
「あたしたちが入ったときにも会った人ねぇ。一目であたしと賞金首になってる彼女とは別人だって言ってくれた人だわ」
「ああ、いたな。快活な女将さんって感じの。おなかもはちきれそうにデカかった」
スーに視線で促されてナッチが口を開く。
「そう。……あんたたちの組織がどういうものかは知らないけど、身重の人まで駆り出してるなんてずいぶんひどいわね。人で足りてないんじゃない?」
「……別に駆り出してるわけじゃない。彼女はただあそこに店を出してるだけだ」
ぶすっとむくれたままダイが口を開いた。
そういう組織があること自体は否定しないんだ。なるほど。
「ふぅん? 知らない仲じゃないってことね。そういえばスー、ナッチ」
「なぁに?」
ふんわりとピンクの髪を揺らしてスーが微笑む。
「囮になってくれてありがとう」
「どういたしまして」
「囮で逃げてる時に同じユニフォームで武装した集団には遭遇しなかった?」
「あたしは気が付かなかったかなぁ。ナッチは?」
「俺も見かけなかった。チームらしいのは見かけたけど、どこぞの私兵みたいに揃いのってのはいなかったな」
「そう。……ってことは、あの時襲ってきた武装集団って将軍の手のものって考えていいのかしらね? ハル」
「……あの時って、あの時か」
ハルの運転で行った見晴らしの良い夜景スポット。あの場所で見かけた武装集団は、夜目でちょっとわかりづらかったけど、似たユニフォームで揃えていたように思う。
「ジャン、あんたが襲われた将軍の映像、出せる?」
「はい。お待ちください」
ジャンはうなずくと眼前に何枚かの画像を展開した。六人ぐらいの集団でいるシーンと、将軍の顔が判別できるものを手元に引き寄せて拡大する。ついでに開いた正規軍の画像と比べてみると、明らかに軍のものに酷似したデザインだ。なんとなく似てる気がするけど、まともに見てないからなんとなくとしか思えない。
「ハル、あの時のユニフォームと似てる? どう?」
「……似てるように思う。ただ、夜でよく見えなかったからな」
あの時点で将軍があたしを追い回してる可能性は低いはず。将軍がほしかったのはあくまでもジャンで、あたしじゃないんだもの。
それとも、ジャンの確保に失敗したからあたしを確保しようとした? その可能性も捨てきれない。
「ハル、あの時すでにあたしの賞金首情報、知ってたんでしょ。だから助けに来た? 逃がしに来た?」
「いや。……そういうわけじゃなかったんだけど」
ハルは頭をかいてソファに体を沈めた。
「前にも言ったように、あんたの後を追うように一個小隊が登ってったのを見て気が付いただけだ」
「……ごめん、いまいち信じきれないのよね。土産物屋の女将を使ってあたしをバスに誘導したのはどうして? あたしと接触したかったんでしょ? 彼が船に乗ってるかもしれないから」
沈黙が場を支配する。黙ったままハルとダイは手にしたグラスをじっと見つめている。
「あたしを手に入れるために彼らを雇ってたとしても驚かないわ。……まんまとその罠にはまったわけだけど、あたしが賞金首になってるって話したのも、一緒に逃げることになったのも、都合がよかったわけよね。……ユニオンの端末と携帯端末、わざと壊した?」
「あれは……本当に事故だった」
すまなそうにハルがつぶやく。
「誓ってもいい。ミオを襲ったように見せかけるようなことはしてない。あの時の一個小隊は俺はかかわってない」
「何に誓うの?」
誓う、と言われてもあたしは眉を顰めるだけだ。この星の宗教は知ってるけどそれに誓われても困る。
「俺の命にかけて。ミオの命を狙ったことは一度もない。ダイも」
ちらりと視線を投げかけると、ため息をついてダイもソファの背もたれに身を預けた。
「俺も誓ってもいい。……さっきのは脅かすつもりはなかったし、まさかあんたがさらに下がると思わなかったんだ。……すまない」
「……もういいわよ。一応信じたげる。どうせあんたたちにはあたしに言えないことがてんこ盛りだろうから、期待してないけど」
あたしもため息をつくとすっかり冷めた紅茶に口をつける。しゃべりっぱなしでのどがカラカラだ。
「ともあれ。……あたしがここに無事でいるのはハルとダイのおかげだから、その点は感謝してる」
ハルとダイは神妙な顔でうなずいた。
「ダイ、あたしを狙う人間に心当たりがあるって言ってたよね」
「ああ……なくはない。が証拠になるものは何にもない。うかつに犯人扱いはできないぞ」
「わかってるわよ」
正直な話、あたしはあたしとジャンが二度と狙われないんならそれでいい。二度とホウヅカに来なければ、縁も切れる。でも、上客を逃したくはないし、今回の落とし前はきっちりつけてもらう。
そうでなくとも損害出てるんだっての。三倍料金じゃ全然割に合わない。
「じゃ、とりあえず電波を捕まえられる場所に移動しましょ。ここは居心地がいいけど、船に連絡入れなきゃ」
「そうだな」
「ここで長々としゃべってても埒が明かないからね。それと、この二人についてはどうするの?」
スゥとナッチを振り返ると、ハルは渋い顔をしながらうなずいた。
「事が終わるまで協力してもらうことになっている。……それで構わないな?」
「ええ、大丈夫よぉ」
「俺も構わねえけど……なんか大変なことに首突っ込んでるような気がして仕方ねえんだけど……」
ナッチは居心地悪そうに首の後ろに手をやった。たぶんその勘はあたりだ。
あたしだって当事者でなければ積極的にかかわろうとしなかっただろう。
でも逃げられない。――逃げない。
「そう、じゃあ改めてよろしく。ジャンについては口外無用だから」
「わかってらぁ。……普通にしてりゃ誰も気が付かねえよ」
ナッチはそういってさっさと腰を上げた。どうやら頭を使う方面は苦手らしい。その分はスゥが補っていて、ナッチは肉体労働に特化してるのだろうと推測はつく。
「じゃあ、移動しよう」
ハルの言葉に、残る全員が腰を上げた。
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