サイドストーリー 『高宮瑞希の恋愛感1』

『オレって』



「お前の人生は決まっている。

高宮の有益になる事をするように。

そして婚約者がいる事を忘れるな」



そう言われて育ってきた。

オレを縛り付けるモノ、それは『高宮』。

日本で三本の指に入る卸売業務を国内外で行っている。


オレの両親も政略結婚。

その両親の両親も政略結婚。


オレの将来も決まっている。

高宮の跡取り息子なんだから。




「ねぇ、瑞希くん。一緒に帰ろ?」


綺麗なストレートヘアーの女子。

髪からは良い匂いがする。



中学生の時からオレの周りにはいつも女子がいた。

高宮の跡取り息子だと認識し、それに興味を寄せる女が増えたのは高校に入学してから。

今、オレに声を掛けてきたのは二個上の先輩。

彼女は美術部。

夏目前の今日、彼女は半袖から色白な二の腕をだし、それはどこか色っぽく、そして可憐に見えた。


帰宅部のオレは授業が終わればすぐに帰る。

下駄箱で靴を履きかえている時、後ろから声を掛けてきたのが、菅野玲菜先輩。



「今日は調子がイマイチでさぁ」


そう彼女は言いながらも、頬はピンクに染まっている。


「一緒に帰ろ?」

「は?なんで」


女に惚れてはいけない。

好きになったら最後、苦しむのは自分。


だから近づかないようにしてたんだ。

それをこの人は、勝手に土足で入ってくる。


オレがどんなに無下に扱っても、彼女はグイグイとオレの心に入り込む。


もう夏休みが始まる。

オレの心の中には菅野玲奈と言う女がドンと居座ってしまった。

気づけば携帯の番号を交換させられ、夏休みに入った今、毎日のようにメールが来る。


『ヒマなんだよね』

『宿題終わった?』

『何してるの?』

『会いたいなぁ』


そんなクダラナイメールが入れば、オレの頬は勝手に緩む。


その日はヒマで、遊ぶ相手もいない。

ちょうど良く菅野先輩からメールがきた。



『プール行かない?』


その文と一緒にプールのチケットの画像。


「いいよ」


そう返信すれば、十秒とたたないうちに着信が入った。

嬉しそうな声を出す菅野先輩。

一時間後に駅で待ち合わせをした。


駅に現れた彼女はキレイだった。

ブルーのワンピース。

そして髪は軽くアップにされている。



「ゴメン、待った?」

「別に」

「そっか。良かった瑞希くんと一緒に行きたかったんだ」


彼女は嬉しそうにそう言い、オレの手を勝手に取り、引っ張る様に先導する。

電車の中でも、当たり前のようにオレの腕に絡みつく。

彼女から香る匂いに胸がドキドキと音をたてる。

これは恋なのか?

それとも……。



都心の一等地にあるホテル。

その最上階にあるプール。


平日の昼間と言う事もあり、人は少なく。

そして日本人より外国人が多かった。


彼女は白いビキニで現れ、オレは言葉を無くした。


色白のせいか華奢だと思っていたのに、そこにあるのは豊満な胸。

そして括(くび)れたウエスト。


明らかに女性の身体。



「ねぇ、ビーチマット借りる?」


プールに浮かべて寝そべりたい。彼女は笑いながら言っていた。



プールに入っているのは子供とオレら。

彼女の希望通り、ビーチマットを借り、プールに浮かべる。

そこに横たわる彼女の姿に、身体の中心に熱が集まる。

彼女を女と認識してしまっている自分がなんだか恥ずかしく思えて仕方なかった。


「日焼しすぎちゃったね」


彼女は肩の紐をずらし、オレに焼けた肌を見せる。


そして……、

「少し疲れちゃった。休んで行こうよ」


彼女の言葉に深い意味はないんだろう。

でも、明らかにコレって誘われてるよな?


そして彼女の手には一枚のカード。

手を引かれるまま、ホテルの一室に入った。


冷房の効いた室内は少し寒い程。



「シャワー浴びてゆっくりしようね」


彼女は当たり前のようにバスルームに入っていった。

オレの思考は追い付かない。

女子にチヤホヤされてはいるけど、最後までシた事はない。



そして、これってそう言う事だよな?

広いベッドが目に映る。

オレの部屋のベッドの倍はある。


ダイブするようにベッドに倒れ込めば、心地よい弾力がオレを押し戻す。

そのまま、天井を見た。


天蓋付のベッド。

レースが天井を多い、支柱で結ばれていた。

目を閉じると菅野先輩の水着姿が鮮明に映り込む。



バタン。そんな音をたてバスルームのドアが開く。

オレは目を閉じたまま、菅野先輩の水着姿を消そうと必死。



「寝ちゃった?」


頬に伝う少し生暖かい雫。

瞳を開ければ全面に菅野先輩のドアップが入ってくる。

髪から落ちる雫がオレの頬に落ちれば、彼女は舌をペロッと出しながらタオルでオレの頬を拭いた。


「瑞希くん、シよっか?」


彼女からキスをされれば、スイッチは簡単に入る。

好きじゃなくっても抱ける事を知った。



彼女の豊満な胸がオレを包み、細いウエストに手を伸ばせば、彼女は自分で腰を振った。


オレに跨り喘ぐ。

それは初めてじゃない事を示している。


こうしてオレの初めては『童貞キラー』と影で呼ばれている菅野先輩によって終わった。




「うん、初めてにしては上出来。

あ、私一度シた人とは二度としないから。

瑞希くんの初をありがとうね」



彼女が言った最後のセリフ。

その言葉を聞いた途端、オレの胸がキリキリと痛んだ。


少なからず、オレは彼女を好きだったんだと知った。



オレの初体験は童貞キラーによって高校一年生の夏休みに奪われた。


そこからオレの貞操観念は崩壊してしまった。



end




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