サイドストーリー 『想いの強さ前編』

林田梅16歳。

今夜彼と一夜を共にします。



『一夜の関係』



今日は希衣(きえ)さんの結婚式。

『三十路前には結婚したい!』そう言っていた希衣さんは30歳になった今日、花嫁さんになった。


ホテルの教会で式をあげ、招待客300名の豪華披露宴。

希衣さんのお相手は3個年下で、このホテルの跡取り息子。

私はお母さんと二人、石橋家の親族席に座り結婚式に参列している。



「本当に希衣さんキレイだなぁ」

「そうね、とっても綺麗ね」


お母さんは瞳をウルウルとさせている。


「ほら、化粧崩れちゃうよ」


お母さんにハンカチを渡しながら、私の目はあの人を追いかけていた。


「あーあ、こんなになるまで飲まなきゃいいのに」


オバサマが呆れた様にため息をついた。


「仕方ないよ。私の代わりに飲んでくれたんだ」


花嫁の父のオジサマは注がれるお祝い(お酒)を紀人さんへとバトンタッチしていたようだ。



「コレどうしましょう?」


オバサマは困ったようにオジサマへ問いかけていた。


紀人さんの両親と私の母はこれから飲みに出かける予定だったらしい。

花嫁の両親として、長い時間接待を強いられていた緊張を解す為。そう私に言い訳がましく言っていた。



「あの、私が連れて帰りましょうか?」


その言葉に母達の目が輝いた。

それを知らない振りをしながら、嫌々引き受ける。そんな感じの空気を醸し出す。



「梅ちゃんいいの?お願いしても」


オバサマは嬉しそうに言った。

簡単に話はまとまり、親達が紀人さんをタクシーへと担ぎ込み、私の手には数万が握らされている。


「紀人の家からタクシーで帰りなさい」


そうオジサマは言い、タクシー代以上のお金を私にくれた。


「酔っ払いの相手だ。これでも足りないだろうけど」そう言いながらウィンクした。

うん、キモい。



でも、臨時収入は嬉しい。

そして、それ以上に今の状況が嬉しい。


私の笑顔をお金のせいだと両親たちは勘違いしているだろう。

ルンルン気分を押えながら、窓の外にいる両親たちに手を振った。


20分もしないうちにタクシーは紀人さんのマンションに到着した。

運転手さんの手を借り、部屋へとなだれ込む。

ちゃんとお礼を言ってドアのカギを閉めた。


泥酔状態の紀人さん。

足元がフラフラしている状態。

これは起きているのか?


ソファーに倒れ込んでいる紀人さんからスーツを脱がせる。

体格のいい紀人さんから脱がせるのは至難の業。


やっとジャケットを脱がせ、ネクタイを取り外し、ワイシャツのボタンに手を掛けていると、紀人さんが急に起き上がった。


「ネルのはコッチか」


片言の言葉を吐きながら、ベッドルームへと自ら歩いて行った。

そして倒れるようにベッドに横になり、薄く目を開ける紀人さん。



「……ん?誰だっけ」


そう言いながら私を見上げる。

私は紀人さんの腰に跨り、ワイシャツのボタンをゆっくりと外した。

シャツから覗く素肌。

そこにそっと顔を近づける。


『チュッ』そう音を立て鎖骨にキスを落とした。



「……そうか」


目を瞑ったままの紀人さんはそう口にだし、私の脚に手を伸ばしてきた。

その手は熱く、ジリジリと私を焦していく。

紀人さんは私だと気づいていないのか?

それとも気づいているのか?


そっと顔を覗き、静かに唇を合わせてみる。


これが私のファーストキス。

私には長く感じたけど、数秒だった思う。

唇を離そうとした瞬間、紀人さんの手が私の後頭部に添えられ……。


息も出来ぬ程のキスをされた。



そのキスは大人のソレで。

初心者の私から思考を奪うのは容易い。


激しいキスを浴びせられ、気づけば私たちの位置は変わっていた。

紀人さんにされるがまま、ワンピースのファスナーは開け放たれ、ブラックの下着だけにされてしまう。


紀人さんの指が器用に胸の膨らみの頂を摘まみ、初めての感覚に背中が反る。


「あっん……んん……」


唇から零れる声。

自分の声とは違う気がする。


紀人さんは私の声が漏れる場所を探す旅をするように、あちこちに指を進め、その度に厭らしい声を発してします。


気づけば下着は全て取り外されていて、全裸のままベッドで喘がされている私。

紀人さんの指は私の肌を焦しながら、脚の付け根あたりを行ったり来たり。


勿体ぶる様に指は湿りを帯びた場所には触れない。



激しいキスの応酬と、全てが初めての事ばかりに躊躇ってしまう自分がいるのも確か。

でも、この時を逃したら一生紀人さんと結ばれる事は無いのも事実。



紀人さんによって開発されていく女の身体。

くすぐったい感覚がいつの間にか気持ちイイ感覚へと変わる。

訳の変わらない気持ちよさ。

好きな人に触れられる心地良さ。


キスを交わすたびに頭がボーっとしてくる。

アルコールの匂いが私を酔わしているのかもしれない。



「紀人さん……大好き」


そう口に出せば、待ってましたとばかりに激しいキスが私を襲う。

そして紀人さんの指が一度も触られた事のない場所へと伸びてきて。



「あ……っん、あっ……んぁん」


自然と零れる嬌声。

指は静かに中へと入り、奥深くにあるソコに触れれば、私は声にならない声を発してしまう。


ピリピリと痺れるような感覚に戸惑いながら、広げられた脚を閉じようと力を入れる。


「ダメ。もっと開いて……」


紀人さんの色っぽい声に従ってしまう身体。

私に覆いかぶさる紀人さんの体温を感じ、少し乱れた息遣いを胸で受け止める。

紀人さんの指が私を霰も無い姿へと変え……。


「あっ、ん……っつ」


今までとは形も大きさも違うものが私の中へと侵入し、全身を貫かれたような激しい痛みと甘い痛み。

紀人さんは「入ったな」そう小さく呟き、私の肩を押えながらゆっくりと動き始めた。



「っつ……う、あん……いや、いやん……」


激しい痛み、違和感、貫かれそうな勢いと昂揚感。

動かれれば苦しくって、痛さを上回る快楽が私を襲う。


激しい動きとは反対に優しいキスが落ちてきて、溢れ出る涙を拭う事さえできず、ただ喘ぐほかなかった。



大好きな紀人さんと繋がれた嬉しさ。

シラフでは絶対に起こらない行為。



複雑は心境になるのは分かっていた事。

でも、今を逃したら一生無理だった事。



もうすぐ紀人さんは結婚する。

私が大人になる前に結婚してしまう。



十代の私がいくら真剣だと言ったところで相手になどしてくれない。

だから私は強行手段に出たんだから。


「の、のりとさん……っあん……ん」


紀人さんは私を見ようとはしない。

ただ私が何かを口にすればキスがただ落ちてくるだけ。

深い所まで侵入し、私を翻弄する。



「もう、ダメだ……イク。つけなきゃ……」



そう紀人さんの口から零れた言葉。

動きを止め、抜こうとする瞬間、私は紀人さんの腰を脚で押さえつけた。


「だい、だいじょうぶ。これは夢かもしれないから」



一瞬紀人さんが目を開け、私を見た。

そして、頷くように目を閉じ……力強い鼓動を刻みながら、私の悲鳴と一緒に全てを吐き出した。




「ありがとう紀人さん」



隣で眠る紀人さんに声を掛ける。

この部屋から私の居た痕跡を残さないよう、細心の注意を払いながら部屋を出た。


わざと紀人さんのスーツを一枚づつ廊下に放り投げる。


まるで一人で帰って来たように。



玄関に書き置きを残す。


『酔っ払いの相手は面倒で~す。鍵はポストに入れて行きますね』


そして部屋の電気を全て消し、玄関のカギを閉める。

そのカギは書いたようにポストに。



滞在時間2時間。


私の全ては紀人さんで埋め尽くされ、罪悪感と達成感が交互に私を襲った。



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