エピローグ【高宮瑞希】


呼び出されたのは土曜日の昼。

きちんとスーツを着てくるように。そう言われてピンとくるのは見合い。


指定されたホテルについたのは十一時。


そして、差し出された写真にはすみれが映っていた。



「瑞希、おまえの許嫁。伊波すみれさんだ」


こういう流れになるとは思っても見なかった。



「すみれさんの事はオマエも知ってるよな?」


知り過ぎてるくらい知っている。

背中のホクロの位置さえ、今は知っている。



「伊波さんとは昔からの仲なんだ。苦しい時を一緒に……」


オヤジの会社不安定だった時期事件の話を語り始めた。



「お互いに生まれた子を結婚させよう。大きくなった会社側が結婚式を取り仕切る。そんな話が……」


オヤジの話に頭痛がしてきた。


「オマエが最近取った契約。伊波物産との。あれは本当に評判が良くって」


すみれを救う為に、伊波物産の負債だった元役所の案件を指しているんだろう。


「この間、偶然会って、そろそろいいかな。って話になったんだ」


おいおい、加賀との婚約はどこにいったんだよ。

確かにそれを潰したのはオレ。

それにしても伊波のオヤジは飛んでもねぇヤツだな。



「社内で聞いたんだよ。すみれさんの評判。よく気が利くし、陰から支えるのが得意だと。今日は顔合わせだ。シッカリ捕まろよ」



もう遅い。

すみは今頃、空港に居るはず。



「トイレに行ってくる」


ニコニコ顔の両親を部屋に残し、オレは電話を掛ける為、外に出た。



電話の相手はすみれ。

もう空港に着いていた。


ああ、やっぱり思った通り。

アイツは自分の道を選ぶ。


オレらが置かれている状況なんて、関係ない。


アイツが幸せになる事が何より重要だもんな。


すみれはオレより自分の人生を選んだ。


なに食わぬ顔で部屋に戻れば、面白い展開になっていたよ。



真っ赤な顔をした伊波社長。

そして泣きまくっている義妹の恵理佳。

我関せずのビッチな母親。



伊波社長はすみれが病気になったと言った。



「すみれさんは戻ってきませんよね?」


オレの言葉にその場の空気が凍った。


「すみれさんは伊波の家が嫌になって出て行った。

その原因を作ったのはあなた。

あ、勘違いしないでくだい。

伊波物産と高宮の関係については今より良くなる事も悪くなる事もありません。


ただ、すみれさんをこれ以上追いつめるようであれば、高宮は伊波物産から一切手を引きます。

これは次期社長権限で行いますので」

「瑞希、オマエ何を知ってるんだ?」

「全部知ってるんですよ」

「な、なにを全部知ってると言うんだ。すみれはどこにいるんだ」


父の問いに応えれば伊波社長の檄が飛んでくる。



「伊波物産に関しても伊波家に関しても全て知っています。

これだけで不十分であれば、全てをお話しします。

ただ、それを高宮の現社長に聞かれるのは得策じゃないと思いますよ」



伊波社長が怒りからか、身体を震わせている。



「すみれさんに対しても同じです。

彼女は全てを捨てて出て行った。

結婚したものと思って、彼女を放っておいてあげてください。

なんならオレと結婚したとでも思っていればいい。


彼女に手出ししない限り、高宮と伊波物産の仲は今まで通りです」


「そういう事で、父さんには悪いけど、オレはまだ結婚しない。

そして伊波物産に関しては今後オレ主導で」



両方の父親は目を丸くしたまま。

オレの母親に関して言えば、それは面白そうに、この状況を眺めている。



これで、少しはすみれを守れたかな?

何かを変える事ができたかな?


すみれが伊波の家に縛られなくなる。

アイツが好きな古城を思う存分研究出来る。


そう願いたい。



そして、いつかアイツが日本に戻ってきて、オレを求めてくれたら。



オレはいつまでもアイツの味方でいてやりたい。




オレが初めて愛した人だから。




END


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る