揺さぶられる想い


夜寝る時は一人なのに、朝起きると隣にいる。

目を開ければ飛び込んでくる瑞希の寝顔。

息を殺しながら観察する。


長いマツゲ。

形の良い唇。

うん、頭にくるほどキレイな寝顔。

なんで一緒のベッドに寝ているんだろう。



「ん……おはよ」


パチっと開けられた瞳。

そして少し擦れた声。


「オハヨウゴザイマス」


観察していたのがバレたかとチョット動揺する。

それを隠すように、布団を口元まで持ってくる。

火照った顔を隠すように。


瑞希の家に来て2日目。

一応自宅には梅ちゃんちに泊ると連絡は入れてあるけど、さすがに明日は月曜日、会社もあるし帰宅せざるを得ない。

なぜ一緒のベッドに寝ているのかを聞けば、「他に寝るところがないだろ」と返され、私の意図している内容とはちょっと違う気がするけど、妙に納得してしまう。


大きなベッドの真ん中に一本の線が見える。

その線を越えてはこない。


もちろん私も越える気はない。

瑞希は手当たり次第、女性に手を出す。そんなイメージが変わりつつあった。


料理なんて出来ない私に代わり、瑞希が朝食を作ってくれる。

パンを焼き、ベーコンとスクランブルエッグ、そして珈琲。


男性の一人暮らしは家政婦、もしくはコンビニで賄っていると思っていた私にとって、瑞希が料理をする事に驚きを隠せなかった。


それを瑞希に言えば、「世間知らず過ぎるだろ」と爆笑されてしまったけど。

母は料理よりネイルに気を使い、特別な何かが無い限り、母の手料理を食べる事は無かった。

ただ母が料理をした後、家政婦さんが泣きそうになりながらキッチンの掃除をしていたのは憶えている。


手の込んだ料理を作る代わりにキッチンは台風が過ぎ去ったかのような惨事。

「すみれさんは料理などしなくって良いですからね」そう家政婦に言われたのを真に受け、今まで一切の料理を作ってこなかった。


手際よく料理を作る瑞希をカウンター越しに見ながら、もどかしい気分になる。


「やる気になればこんなの簡単だよ。教えようか?」


教える気などないだろうけど、その言葉が嬉しかった。


「二日間、お世話になりました」


食事が終わり皿洗いをしている瑞希にそう告げる。


明日から仕事が始まる。

いい加減帰らなければならない。


「は?何言ってんの。まだ何も片付いてないから」

「でも、明日から仕事だし」

「ここから行けばいい」

「でも、家に連絡しないと」

「……それは考えてあるから」


今、どんな状態になってて、私はこれからどうすればいいのか。

自分の事だけど、何も分からない。


「でも、スーツもないし、着替えも……」


一泊の準備しかしてこなかった。

替えの下着すら既にない。


「じゃ、荷物取りに行こう」


瑞希はそう言い、自宅に一旦帰る準備をするように言った。

外泊に対して母はうるさく言わない。

でもそれは父が居ない時だけ。


父は私の行動にうるさく干渉する。


「ちゃんと考えてある」


瑞希はそう言い、一枚の書類を出してきた。

その書類にはスキルアップ計画と題がついており、研修出張と一か月のスケジュールが記載されていた。


「これ家に置いてくれば大丈夫だろう」


高宮の代表取締役の名前と判子が押してある。

まるで正式な書類そのもの。


「あの……まるっきり意味が分からないんですけど」


私がそう言うと、瑞希は鼻で笑った。


「正式な書類があれば、オマエは家を空ける事が出来るだろ?

一カ月もあれば、加賀の黒い部分を暴き、足を引っ張っているとされている十年前の案件も処理できる。

オマエは何も考えずに、オレについて来ればいいんだよ」



瑞希は私の頭のてっぺんに手を置いた。

まるで幼い子供を安心させるかのように。


『オレについて来い』その言葉が何度も頭の中でリピートする。

まるでプロポーズの様。

火照る頬を押えながら、外出する準備で気を紛らわす。


当の瑞希は日曜の午前中だと言うのに、携帯で誰かとやりとりしながら、忙しなく動いていた。


瑞希の運転する車で自宅へと到着。

「待ってるから」その言葉に頷き、車を降りた。

門をくぐり、アーチを抜ける。

大きな木戸の玄関を開ければ、相変わらず静かな空間が広がっている。


まだお昼前。

母は寝ているんだろう。


「ただいま」そう呟き自分の部屋に入る。

たった二日いなかっただけなのに、この部屋は既に自分の部屋じゃないような気がする。


海外に行く為に買った大きなトランクを引っ張り出し、洋服をはじめ日常必要なモノを詰めていく。

一カ月と言う長い期間に必要なものってなに?


秋という微妙な季節がさらに私を苦しめる。


カーデガンを始め、秋物のジャケットや靴を無理やり詰め込み、入りきらなかったモノはボストンバックへと入れた。

荷物を玄関に置き、意を決して母の部屋へと足を進める。

誰も居ないといいな。


母以外の人が部屋にいない事を願いながら、部屋のドアをノックした。



「だれぇ~」


中から気怠い声で返事があった。


「私、すみれです」

「入っていいわよ」


恐る恐るドアを開ける。

母はベッドに横たわったまま、こっちを見ていた。


「あのね。会社から辞令が下りて」


瑞希からもらった書類を手渡す。

母は書類を一瞥したが何も言わなかった。


「じゃ、お父さんにもコレ見せておいてね」


母にそう告げ、逃げるように部屋を出た。

何か言われたら反論出来ない気がして。

何かを問う声もなく、呆気なく自宅を出る事が出来た。

重いスーツケースを引きずりながら、瑞希の待つ車へと足を進める。


なぜ瑞希がココまで良くしてくれるのか。

そこに同族意識があるんだと私は勝手に推測する。


同じ様な環境、同じような将来。

困っている妹を助ける、もしくは自分の憂さを晴らす。

そう思う様にしている。



私の中で瑞希はヒーローで、いつも助けてくれる存在。

恋心を抱いてしまったとしても、それを表に出す事は出来ない。

これ以上、苦しみたくない。


そして未来に希望を持ちたくないから。


瑞希は笑いながら私の荷物たちをトランクへと押し込めた。


「じゃ、買い物しながら帰るとするか」


私はただ頷き、その決定に従う。

何を買うのか?

私はどこに行くのか?


全てを瑞希に任せ、助手席に身を沈めた。



流れゆく景色、ジャズの心地良いリズムが流れる。

瑞希はサングラスをかけ、前を向きながらも指でハンドル叩きながらリズムを取っている。


トントントン、そのリズムが私を誘い意識を簡単に手放した。



ゆらゆら揺れる。

温かい何かに包まれ、安心する。

今まで感じた事の無い何かが私の胸を締め付ける。


苦しい。

でも、嬉しい。


ぼやけた視界の向こうには愛おしいと感じてしまうあの人。

私はやっぱり恋をしたんだ。



「ほら、ついたぞ」


乱暴に肩を揺らされ、瞳を開ければ、瑞希の顔が間近に。



「とりあえず、荷物置いてから買い物に行こう」


ココは瑞希のマンション。



「え?」

「オマエの荷物が多すぎて、もう乗らないだろ?」


確かに、私の荷物がトランクを占領してしまっている。

瑞希に急かされ、一緒にトランクから荷物を出す。


背中を押されるようにマンションに入り、部屋へと向かった。



「ココ使って良いから」


そこは寝室のクローゼット。

一角がキレイに空けられている。


「スーツ皺になる前に出せば?」


そう瑞希はいい残し、リビングへと行ってしまった。


当たり前の様に連れてこられ、荷物を運びこんだ。

私の棲家はココになるの?


書類に記載されていた事を思い出す。

会社の研修施設に宿泊、夜は研修、昼は仕事。

一カ月の内、二度の海外出張。


ん?

あれはどうなるの?


何もないクローゼットは私の荷物が入るのを待っているかのように見える。

でも、ココに私が住む事、瑞希にはリスクしかない。


トランクをそのままに、リビングに顔を出せば、ソファーに腰を下ろしながら煙草を吸う瑞希に声を掛けた。



「あの」

「もう終わった?」

「いいえ」

「なに?」

「あの書類だと研修施設に宿泊になってるよね?」

「ああ、そうだったね」

「ココは瑞希の家でしょ?」

「だね」


笑いを堪えながら私の質問に答える瑞希。

なんかイラっとする。


「もう、だめ……あはははっは」


瑞希の笑い声がリビングを支配した。



「あれは方便だよ」

「方便?」

「ああ、嘘も方便。って言うだろ?」


瑞希が出した書類は本当の書類だけど本当じゃない。

そしてそこに記載されていた事も、半分は本当で、半分は嘘。


「あのくらいのインパクトが無いと、オマエ家出れないだろ?」


確かに。

あの書類を見れば、両親は黙って何も言わないだろう。

結婚退職するって話になっているけど、まだ会社には正式に報告していない。



「だから、しばらくオマエはココにいろ」

「……迷惑でしょ?」


私がいたら女性を連れ込めないだろうし。

そう考えると胸が凄く痛い。


「別に、オマエの一人や二人、どうったことない」


瑞希は二本目の煙草に火をつけた。


「さ、買い物行くから、早く用意しろよ」

「うん」


甘えてしまう事しか出来ない。

ホテルに泊まるにも、カードを使えば父にバレるだろうし。

梅ちゃんちはしのさんや柊くんがいるから、そんな一カ月もお邪魔するのは気が引けるし。


とりあえず、瑞希のクローゼットに私の洋服をかける。

その行為が不道徳な気がして、私を密かに興奮させた。


まさかの同居。

ううん、違った居候だった。


どんどん私の服で埋められていくクローゼット。

バックや靴も一緒に納め、何とか片付ける事が出来た。

片付けが終わった事を伝えると、「足りないもん、あんだろ?」瑞希はそう言い、再度車を走らせた。


そして連れて来られたのは大型ショッピングセンター、私の日用品を買ったり、輸入食品店で食料を調達した。



夕飯はショッピングセンターに入っていたイタリアンレストランで済まし、帰路についた。


帰宅して早々、瑞希はパソコンを開き、仕事を始める。

邪魔にならないように、買ってきたモノを随所にしまいながら、私はシャワーを借り、一足先にベッドへと入った。


明日からの生活に胸が躍りながら。










「な、なんで……」


こぼれた言葉が届くのが先か、持っていたバックが床に落ちるのが先か。




帰宅した時から、いつもと違っていた様な気がした。

玄関の真ん中に鎮座するハイヒール。

私のものじゃない。


男女の声が玄関にいる私にまで聞こえてきた。


そっとリビングのドアを開けると、居るはずのない人物が瑞希と一緒にいる。


そして、その姿は寸前そのもの。


ブラウスの前ははだけ、紫のブラジャーが見えている。

めくれ上がったスカートなど気にもせずに、瑞希に跨り、キスをする姿。



なんで、ココに恵理佳がいるの?

私に気付いた恵理佳は不敵な笑みを浮かべていた。

そして瑞希は驚いたように大きな瞳で私を捕えた。


「有得ない……」


そう口に出せば、涙が一斉に零れてきた。

落としたバックを拾い、玄関へと駆け出す。

もう、ココにはいられない。


居たくない。



無我夢中で走る。

そして、着いた先は梅ちゃんの家。

連絡もせずに訪れた私を梅ちゃんは優しく受け入れてくれた。

そして何も言わずに、ただ抱きしめてくれた。


胸が痛い。

痛くってたまらない。


母のみならず妹とも、簡単にキスしてしまう瑞希。

汚らわしい。



私のヒーローはヒーローじゃなかった。



その現実を受け止めるのに必死だった。

何も言わずに泊めてくれた梅ちゃん。



「言いたくないけど、ジュニアとちゃんと話しなよ」

「話す事なんてない」


ラッシュの電車に乗り込み、一緒に通勤する。

混んだ電車でこんな話したくない。


「はぁ。すみれの気持ちも分かるけど、ちゃんと言い訳聞いてあげなきゃダメ」


梅ちゃんは私を諭すように、時折ため息を交えながら話しを続けた。


「恵理佳の事はすみれだって分かってるでしょ?

すみれに対しての嫌がらせ。

全く、妹が可哀想だからって、なんでも許す姉じゃ、しょうがないでしょ」


恵理佳の我儘や嫌がらせは今に始まった事じゃない。

構って欲しいって気持ちを私にぶつける恵理佳。


私以外にぶつける場所が無いのも分かっている。

全部を許している訳じゃない。

でも、恵理佳の状況や心境を考えれば、仕方がないと甘やかしてしまうのも事実。


一番許せないのは瑞希。

母だけじゃなく、恵理佳ともキスをした。


来るもの拒まずなのは、勝手だけど、私の母と妹だと分かっているはずなのに……。

それが何より許せない。


「あのね、行動には不可抗力。って言葉があるんだよ。

ちゃんとジュニアの話を聞いてあげなよ」


電車を降り、会社までの道のり。

梅ちゃんはしきりに瑞希の肩を持った。


黙ったままの私を梅ちゃんは大きなため息で叱咤する。

でも、今回はいつもと違う。


私の中で瑞希の存在が大きくなってしまった事実を受け入れるのに必死で。

恵理佳を責めたり、瑞希を責めたり。

そんな事より大事なのは私の心。


罅(ひび)がはいった胸の中心は、痛く脆い。



これが修復できるとは到底思えない。



会社にはいれば、いつもと同じ。

先輩のサポートをしながら後輩に指示を出す。


私じゃなくっても出来る仕事。

やりがいなんてない。



ココに私が居る事、居る意味さえ考えてしまう。


所詮、結婚までの腰かけ。

そう言われているのも知ってるし、それを否定できない環境に私はいるんだから。


今夜、どこに行こうかな。


梅ちゃんはきっと瑞希と話すように言い、私を泊めてくれないだろう。

かと言って、家に帰る事は出来ない。


手持ちの現金は少ない。

お昼にお金を下ろしに行って、今夜はホテルに泊まろう。




午前中はトラブルもなく、無事に昼休みを迎えられた。

私は銀行に走り、いつもより多くお金を引き出した。

明日の着替えもない。

それを買う為にも、多すぎるお金を財布に入れ、いつもの路地裏のカフェへと向かった。




ランチプレートを頼み、一息つく。

このままどこかに逃げたい。


そんな思いから携帯を開き、いつものサイトを開いた。

写真が羅列するそのサイトは久美教授の『西洋古城研究会』が運営している。

私がまだ大学生だった時に、このサイトが出来、自分で撮った写真を何枚もアップした。

久美教授が撮った写真のほとんどがココにアップされていて、最新の情報と共に、研究会のメンバーが記事を書いている。


今、久美教授はスペインに滞在しているようだ。

イスラム建築の最高傑作とされるアルハンブラ宮殿。

外観は質素な煉瓦造り、しかし、宮殿内にはいれば千夜一夜の幻想世界。イスラム独特の緻密なアラベスク模様の壁面彫刻、透かす彫りの窓。

そして王以外は立ち入りを禁止されたハーレム。

ライオン宮と呼ばれた王の居住スペース。

名前の由来は十二匹のライオンの口から水が流れる円形の「ライオンの噴水」が中央にあるため、この名前がついたとされている。


そして久美教授はライオン宮の中のアベンセラッセの間を調べているらしい。

十六角の天井は鍾乳石飾りで埋め尽くされている。

アベンセラッセの間は、豪族だったアベンセラッセ一族がここでグラナダ王国最後の王ボアブデルに惨殺されたという伝説からきている。

私も久美教授の元に行きたい。


深い歴史が刻まれた古城。

歴史の裏に隠された秘密。

言い伝え。


どれをとっても私の興味は尽きることを知らない。

全てを投げ捨て、逃げてしまいたい。

でも、それは無理。

そんな勇気があれば、既に実行している。



私はガマガエルと結婚する事を承知してしまう程、伊波に縛られている。


「で、そんなに真剣に何をみている?」


私の正面から聞こえる。

その声の主は今一番会いたくない人。


「折角の料理が冷めちゃうぞ」


いつの間にかランチプレートが目の前に置かれ、湯気を上げながら私に食べられるのを待っていた。


瑞希を見ない様に顔をあげ、プレートに箸をつける。

今日のランチは和風ハンバーグとマッシュポテト、そして温根菜のサラダ。



「誤解を解きたい。とにかく今夜ちゃんと帰ってこいよ」


瑞希の声に耳を傾けてしまう自分に嫌気がさす。


「いいです。何も聞きたくないから」


可愛げのない言葉が出る。

わざわざ来てくれたのに。


そんな風に思ってしまう私は重症なのかもしれない。



瑞希を信じてしまっていた自分。

そして今も尚、信じたい自分。


でも、心は亀裂が入り、痛みを伴っている。

これ以上、傷をえぐるような事はごめんだ。



「……とにかく、今夜は話をしよう」


瑞希はそう言い、これまたいつの間にか瑞希の前に運ばれているランチプレートに手を付け始めた。



「今、今聞きます」


そう口に出すのがやっとだった。


「今?こんな所で話すのか?」

「はい」


瑞希のマンションで二人きりになるのは無理。

きっと胸が張り裂け、心が割れてしまう。

ダメージは少ないに越した事ない。



「はぁ……オマエがどう思っているかは分かっている。

でも、全て誤解だ」


小さな声で昨日の話をしだす瑞希。

会社の前で恵理佳に声を掛けられた。

姉を心配する妹を演じ、瑞希はそれを信じた。


マンションに連れ帰り、私が帰るのを待つ間、恵理佳は姉妹の仲が良い事をアピール。

そして、私を心配している。とも言っていたらしい。


「気を許してしまったんだ。

すみれを大事に思っている妹だと勘違いして」



昨日は残業で帰るのが遅くなった。

まさか恵理佳が来ているなんて知らないから。


瑞希も「姉を驚かせたい」といった恵理佳の言葉を信じ、私に連絡をしなかった。


そして、鍵の開く音が聞こえた途端、恵理佳は立ち上がり……。


「それからはオマエが見た通り。

急に変貌したんだ。

それを唖然としたまま受け入れてしまった」


自分でブラウスのボタンを外し、瑞希の膝に上がりキスをした。


「すぐに追いかけたかったんだが、あの子を一人部屋に残しておく方が心配で。

林田の家に行くのは分かっていたしな」


あの部屋には会社から持ち帰った仕事や資料が置かれている。

他人を部屋に入れないと言った瑞希は情報漏えいに注意を払っていたから。


経営者のジュニアが自分の会社だからと言って、会社の機密情報を持ち帰っている事に憤りを感じるけど、それはまた話が違うみたいで。



「すぐに、あの子を自宅へと送り届けたよ。

ちゃんと釘を刺しといた。

これ以上、オマエの迷惑になる様な事をすれば、全て父親に話すと言っといたから」


ガマガエルとの結婚の一件で、瑞希は伊波家を調査したらしい。


「勝手にやってごめん」そう謝ってくれた。

でも、母の不貞や父の浮気、妹の嫌がらせ等々、全てわかった上で、私を助けると。


「ウチの家族も大概だけど、オマエんちの家族もなかなか最低だな」


そう笑いながら言った瑞希。

その笑顔に私の傷が癒えていく。


「とにかく、詳しい話は帰ったら話すから。

だから、


今夜は帰ってこい」



そう言いカフェを出て行った。

わざわざ忙しい最中、こうして私に向き合う為にきてくれた瑞希。

そして、恵理佳の行動は想定内って言えば、想定内で。

心に入った罅は、簡単に修復され、私が思っている以上に、瑞希に好意を抱いている事を、改めて知ってしまった。



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