【2020年9月26日 下呂近くの古民家】
薄明かりが乱反射する埃っぽい室内で、寒くて美咲は目をさました。岐阜の駅前で保科の車を降りて、改札を抜けたところまでは記憶があるのだけど、それからが曖昧だった。
それにしても寒い。それに胸も腰も締め付けられている感じがない。確かめるために手を伸ばそうとしても、手が動かない。手だけでなくて足も動かない。声を出そうとしても口に異物感があって声も出ない。それでもなんとかしようと身悶えしたり、指先であたりを探っていると少し離れた所から声がした。
「おい。気がついたみたいだよ」
同年代の男性の声が聞えた。美咲はなんとなく思い出した。駅の階段で押されて倒れた時に聞いた声だ。
猿ぐつわで口を塞がれているらしく、声を出そうにもうめき声しか出ない。
肌が外気で冷やされている。直接畳の感触が伝わる。服も脱がされているんだろう。おそらく下着さえも。かろうじてブルーの毛布が頭まで被せてあった。
両手とも後ろ手に縛られている。足首と膝のあたりできつく縛られていて、足先が少し痺れる。
そして、毛布がはぎ取られた。そこには男が2人立っていた。
冷たい空気が肌をなでた。見られている。恥ずかしい。
身をよじって隠そうとしたけど、体は上手く転がらなかった。
抵抗しようと声をあげたが、言葉にはならない。
「おい。今さらなんだよ。おまえの裸なら夕べじっくり見させてもらったよ」
「そんな言い方するなよ。恐がってるだろ」
「まぁいいや。俺がやってもいいのかな? 思わずやり過ぎちまいそうだけど」
「相変わらず下品だね。まぁいいや。──あのね、梶木さん。騒がないなら猿ぐつわ外してあげてもいいけど、約束できる?」
選択肢もない美咲は、仕方なく頷いた。
「OK。もし騒いだら、君の相手は彼と変わるからね。いいね」
男はそう言って、暗に『強姦するぞ』と脅した。そして美咲の頭を持ち上げて、猿ぐつわの結び目を解いた。美咲の口から木綿の布がはずされた。
「乱暴してごめんね。人質にするために誘拐させてもらった」
「あ、あの、服を着せてくれない? 寒いし、恥ずかしいの」
「あぁ、それはダメ。逃げ出さないように裸にしたんだから。それに君の服とか、下着とかはココに来るまでに全部捨てちゃったからもうないんだ」
「じゃ、せめて、毛布だけでも掛けてよ」
「それなりにいい眺めだからちょっと残念だけど、それくらいは聞いてあげるよ」
そう言って、男は毛布を美咲に掛けた。
「ありがと……」
「感謝されるほどの事じゃないけど、いくつか聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「なに? わたし、なんにも知らないわよ」
「少なくとも、なんの事を聞かれるのか、わかってるみたいですね」
「そんなのわからないわよ」
「まず貴女は、8日、14日、17日の会見の前後にSNSでマッチポンプをやってましたよね」
「会見ってなに? なにかあったのかしら?」
「知らないわけないでしょ。あなた、河辺市長の手先なんでしょ」
「そんなの知らない。河辺市長って誰よ」
「仕方ないですね、彼と代わりましょうか? それとも代わって欲しいのですか?」
「いやよ。乱暴しないで。お願い」
「乱暴なんてしませんよ。彼も優しくすると思いますよ」
「おい、代わるのか? 意外と早かったな」
そう言いながらもう一人の男は毛布の上から美咲の体をまさぐりはじめた。
「や、やめて、さわらないでよ。いや、やめて。お願いだからぁ」
美咲の声が涙声になってきた。
「ちゃんと答えてくれるなら辞めてあげますよ」
「わ、わかった。言うから」
美咲は鼻をすすり上げながら、言葉を吐き出した。
「やっと話せるようになったみたいですね。──じゃ、配信はじめようか?」
「わかった。じゃ連れて行くぜ」
そう言って男は美咲を抱えて安物の事務椅子に座らせた。ビニル製の座面が、おしりの皮膚に貼り付いた。体勢がかわると縛られていた手や足の痺れがジンジンと増してきた。
裸のまま椅子に載せられた。正面にはビデオカメラが固定されていて、横にあるモニタには、美咲の顔のアップが映っていた。
「なに撮ってるのよ。裸にして配信するのなんていやよ。辞めてよ」
「配信はしますけど、安心してください。あなたがちゃんと答えてくれるなら、顔のアップのままですよ。答えてくれなかったら、カメラを少しずつ引きますけど」
「カメラを引くって……」
「デザインの仕事をしてるならご存知でしょ、全体が映るようにレンズを調整する事ですよ」
「そんな事したら……」
「そうですね、その形のいいバストもなにも付けてない腰とかも、世界中から見られちゃいますね」
「やめてっ。ねぇ。そんなのやめてよ。お願いだからぁ」
「そうだ。いい事を思い付いた。足を思いっきり開かせてから配信を始めようか」
「いやよ。そんなのいやー。やめて。お願いだから」
「うるさいですね。先に口を塞ぎましょうか」
「はーい。わかったよ」
美咲の口に穴の空いたピンポン球のようなモノが押込まれた。美咲はまたうめき声しか出せなくなった。そして口の外に唾液が流れ出すのを止める事ができなかった。
美咲は、恥ずかしくて、情けなくて、悲しくて泣きそうになっていた。だけども恐くてひとしずくの涙さえ流れなかった。
美咲の膝裏には棒が通されて、足は開いたままで固定されてしまった。
「準備はできたみたいですね。梶木さん。そろそろ始めましょうか?」
美咲は声にならないうなり声で抵抗した。
「おい、梶木さんがその気になるまで優しくしてあげろ」
美咲は一層大きなうなり声を張り上げた。
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