第2話 人はときに、ヒールにならねばならない

 人はときに、ヒールにならなければならない。

 エンターテイメントに求められるのは、子供でもわかる対立構造。

 つまり、善と悪だ。

 どちらが善でどちらが悪になるのかは、物語の語り手がどちらに寄っているかで決まったり、倫理観やその場その場の空気で決まったりする。

 プロレスにおいての二極構造。善と悪。

 それは、ベビーフェイスとヒール。

 正義の味方と悪党。

 ヒールは禁止されている凶器を使ったり、マイクパフォーマンスで過激な言動をしたり、その凶悪な見た目で会場を恐怖のどん底に叩き落としたりする。プロレスになくてはならない演出、構造だ。

 俺は今日から、親に刃向うヒールになる。

「母さん、真面目な話があるんだ」

「お夕飯のことね。なにか食べたいものでもある?」

「いや、違うんだ。俺が飯のことしか考えてないみたいに思われているのもちょっとショックだけど、もっと重要な話なんだ」

「あ、いけない。卵切らしちゃった。お使い頼まれてくれる?」

 冷蔵庫を開けながら、母さんはおざなりな態度で言う。

「それはかまわないけれど、ちょっとだけ時間をちょうだい」

「んー、だってそれ、将来についてのことよね? きっと」

「うん」

「じゃあ、ダメってことになるなー」

「あの、母さん――」

「お母さんじゃ言い包められる危険性があるからって、茉衣を通すように言われてるのよ」

 弁護士かよ! 親子の間でそんな関係ってありなの?

 そもそもこの家、姉さんの実験が強すぎるでしょ。

「お母さんはノーコメント」

「頼むから聞いてよ――」

 すがりつこうとすると、騒ぎを聞きつけた姉さんが颯爽と現れた。

 すかさず母さんと俺との間に割ってはいる。

「その件に関しては後ほど文書にて発表させていただきます」

 連れて行かれる母さん。マスコミに対応するマネージャーみたいな姉さん。

 毅然とした態度で、有無を言わせず調停の場を壊されてしまった。

 取り合ってすらもらえない俺は、やるせなさを覚えながらも、もう一度奮起しようと心に決める。そう簡単にうまくいくとは思っていない。

 部屋に戻ると、すでに文書が届けられていた。

『卵一パック、牛乳、バター、ナツメグ』

 文書って、お使いに関するものだったのね。庶民的だね。

 今までの俺ならば、ここで引き下がっていただろう。

 大人しくお使いに行って、母さんの負担を減らし、問題を先延ばしにしていただろう。

 でも俺は戦うと決めた。

 ヒールになるのだ! …………まあ、その前に。

「……とりあえず、買い物に行ってからにするか」

「そんな調子では、話なんて永遠に聞いてもらえないわよ?」

 俺のベッドに座っていた姉さんが、ヒールになり切れない俺を嘲笑するように言う。

 完全に遊ばれている。行動原理をすべて解読されているかのように、手も足も出ない。

 俺はきっとこの姉を倒さなければ、先へは進めないのだろう。

「買い物に行きましょう。たまには姉弟水入らずで」

「……なんだか良いように使われているだけな気がする」

「話を聞いてもらいたい弟と、聞く気はないけれど買い物に行ってほしい母と、聞く気は当然露ほどもないけれど散歩したい姉。目的は合致しているわ」

「うん、してないね」

 家事手伝いに関しては逆らう気もないから、言われるがままにスーパーへ向かう。

 姉さんは弟を屈服させている喜びからか、上機嫌に見える。

 学校でも有名なほどのクールビューティーであるから、道を歩けば男性陣の視線が痛いほどに感じられる。それをまるで気付いていないかのように、風を切って歩く姉さん。凛とした態度には秋と通ずるものを感じるが、圧倒的に格が違う。

 秋にはなんというか、臆病さが見え隠れしているような気もする。

 醸し出される絶対的な自信がない。

「あぁ、嘆かわしい」

「どうしたの? 変な男でもいた?」

 赤信号で立ち止まったとき、姉さんは天を仰いだ。

 憂いを全面に出し、運命を呪っている。

「もし浅海がかわいい弟のままだったら、手を引いて歩けたのに。得体の知れないゴリラの末裔みたいな手では、ゴツゴツして触りたくもないわ」

「ゴリラが得体の知れないものかは別として、表現には気を使ってもらいたいな」

「手、見せてごらんなさい」

 言われるがままに、そこまでゴツゴツしていない手を差し出す。

 細く傷ひとつない指が、生命線に沿って動く。

「そう、この生命線。お姉ちゃんよりも長生きして、身長155センチ未満、童顔、僕っ子、甘えん坊、口癖は『お姉ちゃんだーい好き』、なままで添い遂げてくれるものだと思っていたのに……。歳月とは残酷なものね」

「残酷なのは姉さんの方だよ」

 そう言うと、見下すように笑われた。

 スーパーに入ると、買い物かごを持つ。

 店内にいるのはほとんどが主婦で、子供連れもいる。

 俺たちくらいの年齢は見当たらない。

「あ、いけない。今誰と一緒に歩いているか忘れそうになってしまったわ」

「どゆこと? ねえ、どういうこと?」

「その野蛮な口調もやめてくれない? 人間に思えないから」

 姉さんの人間の基準を教えてほしい。いや、やっぱり聞きたくない。なにかが崩壊してしまいそうだ。ショタがどうこう以前に、俺のことを知能の低いゴリラかなにかだと思っていそうだから。そう考えると、こうして一緒に歩いていることも動物実験お湯に思えてくるから恐ろしい。

 忘れられないように付いて回ると、頼まれた品物だけではなく、スマホを見ながらあれこれと買っている。画面には料理のレシピが表示されていた。

「姉さん、料理するの?」

「お姉ちゃんを完璧超人だと思われても困るから先に言っておくけれど、料理はそれほど得意でもないわ。ただ、レシピ通り忠実に作るから、あまり失敗をすることはないわね。手取り足とり教えてくれる教本がなければ、卵焼きを作ることも困難かもしれないけれど」

「料理は難しいからね」

「浅海は料理するの?」

「無理だね。いつも店のものを食べて、たまにお腹を壊してたりしたよ。それでも、自分で作る気にはならなかったな。親父も俺も」

「なら、手料理を作ってもらえたら、グッときちゃうわけね?」

「うれしいだろうね」

 ほのぼのとした家族の会話。

 ただし、隣を歩く血縁者はなにかを企んでいる顔だ。

 怖くて聞く気になれない。

「やめだわ」

「え?」

「これ、戻してきてくれる?」

 レシピに書かれていた食材を、ことごとく戻す姉さん。

 この流れであれば、手料理をふるまってくれるかと思っていたのだが、よく考えれば、今の俺は姉さんの理想とする弟ではなかった。かわいくないから、当然、かわいがってやる必要もない。

 なんて、そこまでシビアではないのだけれど、気が変わったみたいだった。

「ご褒美はじらすものよ」

「さいですか」

「楽しみにしておくことね」

 母さんの食事でも十二分に満足なのだけれど、それでも惜しかった。

 だって、レシピは俺の好きなグラタンだったし、得意でなくとも姉さんならおいしい料理が作れるだろうことを知っているから。そしてなによりも、わざわざ姉さんが作ってくれるつもりだったのだから。

「そう落ち込まないの。骨格の縮む食材が手に入りそうだから、そのときまでの辛抱よ」

「食いたくない! 絶対危ないでしょ! 排水が虹色の川を作っているような山奥の工場で作られてるでしょ、それ」

「健康への害はあると思うのだけれど、短い間でも幸せになれるのであれば、そちらを選ぶのが人の心というものだと思わない?」

「俺の寿命を奪ってまで、幸せを享受しないでくれるかな」

「レビューは最悪だし、輸入も大変なのよね……。あ、そうだ」

 姉さんはなにかを閃いた。

 悪い予感しかしないし、でなくても、悪い考えだろう。

「浅海、宇宙に行ってみたくはない?」

「ロマンはあるけれど、俺の夢はレスラーだから。それで?」

「無重力下で長期間生活していると、背が縮むのよ」

「ほらやっぱりだよ! 案の定だよ! 頼むから成長しちゃったものは諦めてよ」

「じゃあ、お姉ちゃん大好き、って言ってごらんなさい」

 なにを言いだすんだ、この人。

 それを平然とした顔で、あそこにあるお醤油のボトル取って、みたいな口調で。

「え、嫌だよ」

「こっちだって嫌よ!」

「はあ?」

 不安定すぎて付いていけない。情緒が地球の軌道を追い越して回転している。

 俺のいない間に変わり過ぎだ。

「もっとソフトなのにしましょう。リピートアフターミー、お姉ちゃん一緒にお風呂入ろ」

「言えるか!」

 全然ソフトになっていない。なに言ってんだこの人。

 この年で一緒に風呂なんか入っている姉弟はいない。

 いない……はずだ。

 だいたい、レジのおばさんも白目剥いて驚いてるぞ。

 もう意味のわからないこと言うな、なんて言わないから、せめて場所をわきまえてくれ。

「性に目覚めてしまったのね。どうしたって性格から直さないといけないようね」

「俺は姉さんのほうがはるかに、性格に問題があると思うよ」

「実の姉に対してなんてことを言うの」

「実の弟に対してなんてことを言っていたのか思い返してから言って、そのセリフ」

「……無理なようね。絶対に受け入れられない。こんなのわたしのかわいい浅海じゃないわ。偽物よ。そうでなければ、この世界が偽物なんだわ」

 運命を嘆きながら、天を仰ぐ姉さん。

 会計は正気を保っている俺がすることになった。

 もしかしたら、俺が払うように仕向けるためにこんなバカなことを言っていたのかもしれない、と思ってしまうから怖い。なにを考えているのかはわからなくとも、なにも考えていないことはない。なにかしら思考を巡らせて、先読みをしている。

 荷物を持って外に出ると、流れ流されまくっている自分に気付く。

 このままではいけない。穏やかな海に出て行方不明になってしまう。

 伊柄獅の夢と希望に満ちた目を思い出し、決心を固める。

「俺、プロレスラーになりたい」

 姉さんは反対もせず、ただじっと俺の顔を眺めている。

 後ろで組んでいた手を頬に当て、思案したように続きを待つ。

「夢を諦めることはできない。人生は一回きりだから」

「誰?」

「え?」

「誰に影響を受けたの?」

 すべて見透かされているかのようだ。

 俺の瞳の奥に伊柄獅の存在がいるのを感じ取っているみたいに、そっとささやく。

「そう……監視が甘かったわね」

「監視って……あのさぁ」

「お姉ちゃんは認めないから。浅海の敵になったとしても、その夢は諦めさせる。たとえ嫌われたとしても、危険な目にはあわせない。あなたの夢は違うでしょ? お姉ちゃんのお婿さんになることでしょ?」

「うん……て、なんか最後だけぶっ飛んだこと言ったよね?」

 これまでにないほど真剣に向き合ってくれていたと思ったのに、とんでもない爆弾をブチ込んで来た。でも、ふざけているからこそ、言葉の重みをごまかそうとしているようにも思えた。

 姉さんは髪に触れ、じっくりと考えるようにしてからスマホを取り出した。

『もしもし、わたしよ。あなたのお姉様。突然で申し訳ないのだけれど、お願いがあるの。とても重要な、抜き差しならないお願いよ。うん。そう、そのこと。大丈夫、安心して』

 どうやら秋に電話をしているみたいだった。

 秋以外にも「お姉様」と呼ばせているのだとしたら、その時は知らない。

 姉さんの交友関係には口出ししないし、できることなら知りたくはない。

 俺の顔を確認し、さらに電話を続ける。

『浅海のことを監視してほしいの。わたしも学校では見ていられないから。うん。詳しいことは後でメールするわ。うん……うん。それじゃ』

 電話を切ると、両手で頬を押さえる。

 まるで初孫を抱いた時のような、恍惚とした表情だ。

「秋はかわいいわ……。あの子が男の子だったら良かったのに」

 未来永劫ちっとも理解できないようなことを平然とのたまわれた。

 手遅れ感が否めないものの、病院に連れて行った方がいいのかもしれない。

 なにか特効薬はないものだろうか。治療が必要なのだろうか。人里離れた場所で安静にしてなければいけないのか。

 そもそもショタコンという難病は治るのだろうか。

「家の外ではそういうこと言わない方がいいよ。家の中でも言って欲しくないけど」

「あら、嫉妬?」

「どこをどう捻じ曲げればそうなるの? 国会答弁より杜撰だよ!」

「その例えはやめなさい」

「ちょっと反省してる。それはともかく、監視ってなんだよ? え、マジ?」

 遅ればせながら、電話の内容に触れる。

 ツッコミどころが多すぎて、俺一人では手が回らない。

「あなたがいけないのよ。よからぬ人に影響を受けるから」

「よからぬ人って、そんな悪いやつじゃ――」

「やっぱり他人に影響されたみたいね」

 やってしまった。口を押さえた時にはもう遅い。

 きっと勘付いてはいただろうけど、決定的な根拠を与えてしまった。

 伊柄獅ともども、俺の生活に口を出す気なのだろうか?

 いや、でも、監視するだけって線もある。姉さんは厳しくも優しい人だ。

 秋は姉さんに報告をするだけで、実際にその情報を得て口を出すのは姉さん、それならば、現状と大して違いはない。ただこうして、目の前で「監視をする」と突き付けられたことにより、行動に制限がかかる。

 まあ、秋なら俺と関わりたくないだろうし、なにもされないだろうからいいか。

 …………考えていて悲しくなってきた。

「大丈夫、お姉ちゃんが守ってあげるから」

「なにから?」

「成長?」

「頼むからそれは阻害しないで」

 むしろ責め立てているのはその姉さん本人なのだが、気付いているのだろうか。

「あまり俺で遊ばないでくれるかな」

 そう言うと、姉さんは拗ねたように頬を膨らませた。あまり見ることのない、子供っぽい表情で、ちょっとビックリしてしまう。

「いいじゃない、弟で遊ぶくらい。ご褒美も我慢しているのに」

「ご褒美?」

「忘れなさい。わたしが我慢した分は、別の形で返してあげるから」

「どういうこと?」

 それ以上、ヒントはくれなかった。でもなんだろう、ときどき優しさを感じるから、全部許せてしまうんだよな。俺ってもしかしてちょろいのだろうか?

 姉さんは関心が薄れてしまったみたいに、スマホでメールを打ち始めた。

 車通りは少ない道だけれど、安全を任せてくれているみたいで、ちょっとうれしかった。



 伊柄獅彩音はただのプロレスオタクではなかった。

 迷惑なプロレスオタクだった。

「でぃーっや!」

 挨拶はラリアット。気合いのこもった掛け声も忘れない。

 プロレスモードのとき以外は声をかけるのもためらうくらいシャイなくせに、技や掛け声があればスキンシップもお手の物。その動作には彼女なりのはっきりとした謎の境界線があるらしい。

 つまるところ、プロレスは偉大なのだ。俺はこの一言で片づけることにした。

「昨日の試合おもしろかったですねー。燃えましたねー。あそこで決別するとは」

 口を開けばプロレスの話。それがエンドレスに続くこともある。大好きなグラタンを大鍋五杯くらい食べさせられ、デザートはあなたの好きなグラタンよ、と断りきれない笑みで迎えられるような感覚に近い。好きなものでも限度があるように思うが、なんとなく聞けてしまうのは俺もプロレスのファンだからなのだろう。

 とどのつまり、プロレスは偉大なのだ。俺はこの一言で片づけることにしている。

 ただし、伊柄獅は満面の笑みで語るのは、誰も見ていない場所に限る。

「いやあの、当然のごとく試合を見たものとして語らないで。うち地上波しかないから」

「がってむ! CSくらい入れましょう――あ……」

 秋がつまらなそうな視線で廊下を通りかかった。

 それを見て、伊柄獅は急速に口をつぐむ。

 人が通ると他人のふりをして黙り込むのだ。

 早くも内弁慶の様相を呈してきた。

「そんなに嫌なのか? プロレスファンだってことを知られるのが」

「違います。そんなことありません。でも……碧木さん、すごく冷たい目でこちらを見ていました。気づかれてしまったかもしれません」

 ぼさぼさ頭を直しもせず、困ったように頭を押さえている。それこそ演技下手なレスラーみたいで滑稽だ。伊柄獅は秋のことを苦手に感じているらしい。

「いや、あいつはいつもああだ」

「そうでしょうか? なんだか、わたしたちを見るときだけ、恐い顔をしているような気がします。アンチ格闘技なのでしょうか?」

「被害妄想だと思うよ」

 少なくとも、お前に関しては。

 俺のことははっきりと冷たい目で見ているし、恐い顔をしていてもおかしくない。

 早く何とかしたいものだ、と嘆いていると、素早い影が視界に入り込んだ。

「なぁぁぁに話してんぼぼごりょぶぎゅぎゅぎゅ痛いたいたいたいたい!」

「決まったーぁぁぁ! アイアンクローだぁぁぁ!」

「なんだ、巳羽じゃないか」

 手を離すと、こめかみを押さえ、泡を吹いている巳羽がいた。

 泡を吹くなんて芸当、とてもじゃないがこいつにしかできない。

「わかっててやっただろー!」

「そりゃそうだ。そっちだって肩に打撃を繰り出そうとしていたんだから、お相子だ」

「挨拶代わりのソフトタッチだろぉがよぉぉ! ってかあれ? さっき『きたぁぁぁ。タイソンゲイがはぇぇんだぁ』とか言ってる声が聞こえたんだけど」

「聞き間違えにもほどがあるだろ」

 興奮気味に実況をした伊柄獅は窓の外を見て、我関せずを決め込んでいる。

 変わり身の早さには毎度呆れてしまう。

「あっるぇ? 誰かと話してなかった?」

「いや。頭でも打ったんじゃないか?」

「おめぇにやられたんだよ!」

 巳羽はゲシゲシと腹を殴る。まったく力のこもっていない打撃。

 ふんっ、かゆいわ。腹筋ワンダーコアで鍛えている死角のない俺に、そんなやわな攻撃では傷一つ付けられはしない。

「ところで巳羽、お前、プロレスを見たりはしないのか?」

「はぁ? なんでボクが男色系レスラーとかダッチワイフの試合見ねえといけねえんだよ。全然知らねえよ」

「お前知ってるだろ?」

 知ってなきゃそんな単語でてこないぞ。

 仮にも女子が、ダッチワイフなどという言葉を公の場で漏らすべきではない。

「なんだよ、急に。浅海は趣味を押し付けたりしない側のヒューマンじゃなかったのかよ」

 なんだよ、押し付けたりしない側のヒューマンって。そこで英語を持ってくるセンスが抜群にバカっぽい。かわいそうだから口には出さないが、俺の憐れむ目から巳羽はなにかを察したみたいに、ちょっと沈んだ顔をした。

「あれ? ヒューマンって人って意味で合ってたよね?」

 バカっぽいのではなく、バカそのものだった。

 親切に答えていると知能指数が下がりそうなので、無視して続けることにした。

「押し付けたりはしないが、話し相手がほしくなるときもあってな」

「ふーん、ま、ボクはそういう男の趣味に合わせるような媚びた女じゃねぇから? だから、その? 安い女じゃないわけだから? でもまあ、浅海がどーしてもっつうんなら? 見てやっても? いいっつーか――」

「すまん伊柄獅。なんか友達を作ってやろうかとも思ったが、こんなのは流石に嫌だよな。悪かった。ほんと申し訳ない」

「ぅをぉぃ! てめこら、人が話してる最中に、んだこら、なにこら、てめこら!」

 巳羽はときどき言語野が壊れることがある。驚くことではない。

 一方、こちらも正気の人とは思えない伊柄獅は、ちらちらとこちらを見つつも、警戒しているようだった。が隊のいい男には興味深々なのに、得体のしれない生物には物おじしてしまうらしい。動物園のふれあい広場よろしく、安全であることを証明するために巳羽の頭を撫でると、噛みつかれた。

 伊柄獅は震えおののき、逃げてしまった。

「逃がしちまったじゃねえか!」

「あいでっ。また殴ったぁぁ」

「これは躾じゃない。暴力だ」

「余計たちが悪いじゃねえかよ! なんなんだよ、消費税増税!」

 すごいところに噛みついたな。

 巳羽の怒りは収まらないらしく、道行く生徒を一人一人睨んでいる。

 しつけのなっていない獰猛な犬みたいだ。

「落ち着け。なにが気にくわないのか知らないが、怒っていても解決しないぞ?」

「あたしが怒ってんのは、スワローズがまた負けたか――浅海があたしとの会話をすっぽかして、他の女に話しかけたからだよ、ちくしょう!」

 本音が出かかったな。

 こういうスポーツに熱いところがあるから、伊柄獅とうまも合うんじゃないかと思ったのだが、俺自身の友達もまだ少ないのに、他人の友達を作ってやろうなどとおこがましかった。

「だいたいなんだよ、最近まともに絡んでねえじゃにゃぁか? 次、他のやつが割って入ったら、ギッタンギッタンのボッコンボッコンにしてやっかんね? 手出しすんなよ?」

「おう、浅海。英語で教えてもらいたいことがあるんだが……邪魔だったか?」

 熱人が金属バットを持ちながら参上した。

 寝起きなのか、目が血走っている。友達じゃなかったら逃げていたと思う。たぶん、腹筋ワンダーコアで鍛えた体も、こいつには対応できない。

「じゃ、じゃじゃじゃ邪魔なんてそんな……」

「ギッタンギッタンのボッコンボッコンにするんじゃなかったのか?」

 追い打ちをかける熱人。冗談だとわかっていても、その風体からは恐怖を感じてしまう。

 あれ? 冗談ですよね? 熱人さん? おーい。

「へ、へへっ、まさか、冗談ですぜ旦那ぁ。ぅぇっす、ぅぇっす。っぇずぃぁっす!」

 巳羽は一目散に逃げ出した。いっつも逃げているな、あいつ。

 それにしても、タイミングよすぎだろ、熱人。

「よかったのか?」

「大した話もしてないから、いいよ。それよりなんでバットなんて持ってるの?」

「ん? これか? わからん。無意識だ」

「お前おっかねぇなー」

「大丈夫だ。殴ったりはしない。退部になってしまうからな」

 あくびをしながらそう言った。

 退部うんぬんの前に、いろいろありそうなものだけれどな……。

 きっと熱人の中では野球が最優先なんだろうな……。

 巳羽と入れ替わりに戻ってきた伊柄獅が、今度は嬉々とした目でこちらを見ている。

 バット=凶器を持った男と、プロレス好きの俺。

 あいつの中では今学期最大のマッチメイクがなされているのだろう。

 あいにく俺は、無意識でバットを握ってしまうようなナチュラルボーントゥビーいかれ野郎とは戦いたくない。リングの上でならまだしも、ルール無用の場外ファイトなんて流血騒動では済まないからだ。

 熱人の趣味がプロレスではなく、野球であることに心底安堵した。

 俺の気も知らない熱人は、人力で圧縮できる限りやってみました、とでも但し書きが添えられていそうな教科書を差し出してきた。筒状の型を開こうとするが、すぐに暗る待ってしまい、修正しようと努力している。きっと寝起きの力加減を知らない手で、乱暴に握ってしまったのだろう。

「この一文なんだが、どうにも上手く訳せない。意訳でかまわないから、教えてくれ」

「どれどれ」

 頼むから伊柄獅、そんな期待を込めた目で観ないでくれ。

 ウッキウキでこちらを見る伊柄獅。

 さらにその奥、俺をとりまく人物全体を監視している秋がいた。

 なんだこの図。

「えっと、俺はお前の噛ませ犬じゃねえ、かな」

 なんだこの英文。

「なるほど。名文だな」

 なんだその解釈。

 簡単に前後の文脈について教えると、熱人は感謝の意を示して帰っていった。

 バットを肩に置いているため、歩く両サイドが襲撃と勘違いして目を剥く。背後から見ていると殴り込みに行くようにしか見えない。

「なんだったんですか? 彼はいったい」

 伊柄獅が小走りで戻ってきた。

「なんでもないから期待するな。それよりも、もう昼休みが終わるよ」

「そうですね。一つ、いいですか?」

「なに?」

「碧木さんに見張られてません?」

 さすが秋。

 ただでさえ学校では動きがないのに、白昼堂々と廊下でうろうろしていれば目立って仕方がない。それも男子の間では人気があり、その冷たい風貌から伊柄獅をはじめとする一部の女子に怖がられているというのだ。

 目立たない方がおかしい。

「後で話そう。秋も俺の夢を妨げる側の人間だ」

「なんですか、サミーさんを邪魔する悪の連合みたいなのが存在するんですか?」

「お前もマークされないように気を付けろよ」

 伊柄獅は身構え、不敵な笑みを浮かべた。

 きっと、お前の思っているような楽しいことはないぞ。

 


 放課後になるとどのような監視体制を取るのか。

 尾行するのだろうか。はたまた、放課後は家に帰るのだから泳がせるのだろうか。

 そんな疑問は瞬時にかき消された。

「そこを動かないで」

「そう言われましても……」

「一歩も動かないで」

 掃除の班は名前の順で六人一班。

 俺という転入生が来て順番通りにねじこまれたため、各班一人ずつずれることになった。

 名前の順的にうちの班はア行。

 愛川、碧木、伊柄獅、石居、尾河、押元。

 つまり、秋と一緒ということになる。

「掃除ができないんだけど」

「何度も言わせないで」

 班内に緊張が走る。

 伊柄獅を筆頭に、秋に物を言える生徒はいない。

 男子は憐れむような羨むような目で俺を見、なにも言わずに遠くの場所を掃除し始めた。

 昇降口掃除は机などを運ぶ必要はないが、それなりに広い。

 逃げだしたり勝手に帰ったりしないよう、秋は指示を受けているらしかった。

「このままでは俺が嫌われる原因を作ってしまうから、悪いけど働かせてもらうよ」

 箒を受け取り、清掃業務に移る。

 右へ行こうと左へ行こうと、秋は視界から少しも出さないように付いてくる。

「あのー、碧木さん、ちょっとこっち手伝ってほしいんだけど……」

 愛川がリーダシップをとり、注意することなく誘導しようとした。

 しかし、秋は聞き入れようとしない。

 クラスの評価など微塵も気にしていなさそうだ。

「ごめん、愛川。俺がそっち受け持つから、こっちお願い」

 二人分の労働力を愛川が受け持っている場所に集中させる。

 やや不服そうな顔はされたものの、しこりは残さなかった。

「おい、いい加減にしろよ。いくら姉さんに頼まれたからって、こんなことしてたらお前の居場所がなくなるぞ?」

「あなたには関係ない」

 終始俺の意見を聞いてはくれなかった。

 なんとなくぎこちない空気のまま、教室に戻る。

 休み時間とは違い、隠すことなく見張られている。

「あっさみー! かっえろうぜー」

 空気も漢字も英語も化学式も読めない巳羽が腕に抱きついてきた。

 秋の顔がグッと険しくなる。

「お前、補修じゃなかったか?」

「ふぇっふぇっふぇ。そりゃもうばっくれよ――あっ」

 駆け付けた数学教師により、巳羽は迅速に連行された。

 一瞬の無駄もない見事な退場劇だった。この学校には手練が多い。

 巳羽には毎日誘われているが、一緒に帰れたことはない。補習を連日受けるということは、よっぽど成績が悪いのだろう。見た目と行動と実体が完全一致している、三位一体型のバカだ。清々しいほどわかりやすい。

 今日は予定もないし、見られていて落ち着かないからすぐに帰ることにした。

 秋と伊柄獅がついてくる。

 どちらも一言もしゃべらず、不気味でしょうがない。

 校門を出たところで、伊柄獅が詰め寄ってきた。

「碧木さん、お話があります」

「わたしにはないわ」

 冷たくあしらわれた伊柄獅は、両頬をパチンと叩いた。

 大きな音に秋も体が反応し、驚きの表情を浮かべる。

 真っ赤になった顔で、人指し指と小指を立て、その手を天高く突きあげた。

「ウィーーーーーーーーーーーーー!」

 そして、奇声をあげた。奇声と呼ぶにふさわしい奇声だった。

 やばい。

 なにがやばいって、変人が多くてこれくらい慣れてしまった俺の神経がやばい。

 対して、それが当然の反応とばかりに呆然とする秋。そうそう、これが普通だ。

 熱人と巳羽は個人的にいい奴らだと思うが、交友関係を広げていかなければ俺もとんでも人間に仲間入りしてしまうかもしれない。他に友人らしい人物を探すと、胸を張って奇妙なポーズをとる伊柄獅しかいなかった。ああ、本当にやばいかもしれない。

 伊柄獅はウエスタンラリアットでもかましそうな勢いで、深く息を吐き出す。

「碧木さん、お話があります!」

「……あ、はぁ」

 拍子抜けして毒気まで抜かれた秋は、目をぱちくりさせている。

「なんでサミーさんの邪魔をするんですか? 夢を追いかけることがそんなにいけませんか?」

「わ、わたしは別に邪魔なんてしてない。頼まれて見張ってるだけ」

 クラスメイトになにも言わせないほど押し負けることのない秋が、本来気弱な伊柄獅の勢いに圧倒されている。中京大中京と日本文理の試合くらい、とんでもない逆転劇が幕を開けようとしているのではないかと思わせるほどだ。

「頼まれたからって、引き受けるなんておかしいです。なんで応援してあげられないんですか?」

「あなたには関係ないでしょ」

「あります! 同じ夢を追いかけているんです。放っておけません」

 秋は見せたこともないほど表情をゆがめ、歯を食いしばった。

 その顔が、どうしようもなく苦しんでいるように見えた。

「プロレスラーはかっこいいんです! 最高の夢なんです!」

 ぐいぐいと迫る伊柄獅。

 小刻みに震え、顔をそむける秋。

 悪い予感がした。

 サーっと下がる温度。空が重くなったみたいに、強くなる圧。

 仲介に入ろうとした瞬間、張り詰めた空気が……割れた。

「夢夢夢夢うるさいッ! あなたになにがわかるのよ! 夢を持っていれば偉いの? 追いかけていれば正しいの? いい加減にしてよ! もううんざりなのよ!」

 金切り声をあげて、秋は激昂した。

 血の気の引いた伊柄獅は言葉を失い、立ち尽くす。

「秋、どうした?」

「触らないで!」

 手を払われ、鋭い目つきで睨まれる。

 その目には、うっすらと涙が滲んでいた。

 長いこと見ていなかった涙だった。

 変な気持だったけど、その泣き顔を見て安心した。隠すところも、堪えようとするところも、あのころとは違うけれど、変わってはいても、秋は確かに秋だったから。

 自分の涙に気がついた秋は髪を振り乱し、全力で駆けて行った。

「や……やってしまいました……」

「気にするな」

 俺はその小さな肩に手を置いた。

 秋にここまで感情を出させたのは、悲観すべきことではないと思う。結果はどうであれ、俺にはできることじゃないし、かなり頑張ったと思う。

「なにがいけなかったのでしょうか…………掛け声でしょうか?」

「なんか君、思っていたよりハッピーな脳みそしてるのね」

 わけがわからないようで、伊柄獅は首をかしげた。

 熱を発し過ぎたのか、眼鏡がうっすら曇っている。それを気に留める様子もない。

「まあ、大丈夫だよ。秋は根に持たないし、突っかかってきたりはしないから」

「それじゃ困ります。正面切ってぶつかった方が、わかり合えるんです。逃げても逃げられても、問題の解決にはなりません」

 発想がまるで体育会系のそれだ。昭和の熱血教師みたいに、愚直で乱暴。

 でも、まあ、言っていることはわかる。

「昔はああじゃなかったんだけどね。もっとわかり易かった」

「昔から尾行されてたんですか?」

「根っからのストーカーみたいに言わないであげて。ありていに言えば、幼馴染なんだよ。なんだかもう友達としても見てくれてないみたいだけど」

 冗談めかして笑ったら、困った顔をされた。

 止めていた歩みを再開させたところ、伊柄獅の歩調が遅い。

 納得していないみたいだ。

「なにかありますね、あれは」

「なにかって?」

「父親をプロレスラーに殺されたとか?」

「んなバカな。健在だ!」

「冗談です。夢って言葉を嫌がっていましたね。夢を失くしてしまったのでしょうか?」

「かもね」

 秋の夢はなんだっただろう。

 聞いたことがないような、当たり前に語っていたから忘れたような、覚えていない。

 確か……お嫁さん?

 夢を失くすにしては、早すぎるし、ネガティブすぎる。

「そう言えば、この場合、追いかけるべきなんじゃありませんか? 普通」

「あー、どうなんだろうな? 嫌だから逃げられたんだろ? 追いかけても無駄じゃね?」

「非常にサバサバした考えですね。帰国子女だからですかね?」

「なんでも帰国子女と直結させるな。俺だって困ってんだ」

「すみません。でも大丈夫です。プロレスラーは諦めませんから」

「なんだそれ」

 俺はプロレスラーじゃないけれど、諦めるなって言ってるんだろう。

 諦めなければ、道は開けると。

 ある人は言った、人生とはプロレスそのものだ。

 またある人は言った、プロレスとは終わりのないマラソンのようなものだ。

 つまり、人生とは終わりのないマラソンみたいなものだ。

 なんか辛くね? それ。

「碧木さんを笑顔にしましょう。話はそれからです」

「そうなのか?」

「はい。碧木さんを仲間に加えてしまえばいいんです」

「そんなに簡単にいくか?」

「いきます。だって、プロレスラーは強いんですから」

「根拠になってねえよ! だいたい、俺らどっちもプロレスラーじゃねえよ!」

 誰もいないところでは堂々として、胸を張る伊柄獅。

 そこまで自信を持っているのは、ある意味羨ましく思えた。

 しかし、集団の生徒が通って、すぐにまた体がしぼむ。

 なかなか厄介な性格だ。

 垂れたまつげを見ながら、そう思う。

 伊柄獅彩音はただのプロレスオタクではなかった。

 かなりぶっ飛んだプロレス信者だった。

 


 家に帰ると、はやくも私服姿になっている姉さんがいた。

 優雅に紅茶を飲み、男子子役のフォトアルバムを見ている。

 百十何番に連絡すればいいのだろう。指が震えて正確に押せる自信がない。

「あら、おかえり。早く本物の浅海も帰ってこないかしら」

「ただいま。俺は本物だよ。姉さんがなんと思おうと」

 このやり取りにも慣れてきた。

 姉さんは苛立たしげに顔を上げると、俺を一瞥した。

「ぁぁぁぁぁぁああああショタが足りない」

「だから代わりにショ糖をとってるの?」

「………………地獄だわ」

 姉さんは絶句し、フォトアルバムを顔に付くぐらいの位置まで近づけた。

 俺のショ糖ギャグは紅茶と相性が悪かったみたいだ。正確にはこれがオヤジギャグと呼ばれるもので、その絶望的な名前から俺の精神年齢の老化を感じ、姉さんとっては地獄だと感じたのだろう。

 冷静に分析できるくらいには適応してきた。

 姉さんはフォトアルバムをしまうと、手洗いうがいをするように指差した。おっとりした母さんのせいか、奔放なおやじのせいか、俺にマナーや常識をしつけてくれたのは姉さんだった。誇らしげに、自分の仕事であることを満足しているかのように、手厚く育てられた。

 懐かしい思い出も振り返りながら戻ってくると、俺の分の紅茶が入れてある。

「あなた、強姦でもしたの?」

 雅な態度とは裏腹に、度肝を抜くようなことを言われた。

 電光石火のノールックパスでは、味方も受け取ることができない。

「はあ? なに言ってんの?」

「秋が酷い顔で帰ってきたわよ」

「あぁ……」

「さあ、詳しい事情を話してみなさい」

 俺は促されるままに、秋との放課後の出来事を話した。

 いずれ秋から報告が行くだろうから、プロレス好きの伊柄獅のこともしっかりと話し、彼女に悪気がなかったことと、ちょっと変わりものであることも添えた。

「伊柄獅彩音……。その子のことはどう思っているの?」

「どうもなにも、頭のてっぺんから足の先までプロレスのことでいっぱいだ、と思ってるよ」

 それ以外に思い浮かぶ言葉がない。

 ウイーなんて声、普通の女子は上げない。あれは普通じゃない。

「話し合いが困難そうな相手ね」

「う、うん。そんなことよりさ、秋のことなんだけど――」

「大したことじゃないわ。あなたがしっかりと手順を踏んで、選択を誤らなければ、おのずと解決するはずよ」

「どんな手順? なんの選択?」

「今のあなたには、まだ直接的なアドバイスを与えられない。それは浅海の問題ではなく、秋の心の問題だから。あなたにできることは……そうね、ちゃんと見てあげることよ」

「見られてるのは俺なんだけど。てか、姉さんのせいじゃないか」

「違うわ。あなたがかわいくないのが元々の原因よ。責任を押し付けないでくれる」

 話にならない、とはこのことだ。言い争うでも勝てないから結果は同じだし、無駄な時間が短縮されて得なのだ。そう無理やりに納得し、言いたいことをぐっと飲み込み、続きを促した。

「それで、これからはどうするつもりなの? 秋に監視を続けさせるの?」

「いいえ。もう十分よ」

「こんなことになるなら、伊柄獅のことも素直に話しておけばよかったよ」

「本気でそう思っているのなら、あなたはまだまだ子供よ」

 子供好きの姉さんは、思考が大人になれていない俺をいとおしむかのように薄く笑った。

 伊柄獅と巳羽以外、みんななにを考えているのかちっともわからない。

 ティーカップを洗ってから着替え、俺は秋の家の門を開けた。

 インターホンをつなぐとおばさんが出てきて、なにを言わずとも迎えてくれる。

「喧嘩した?」

「まあ、そんなところかもしれません」

「あんな顔の秋見るの久しぶりだから、嬉しくなっちゃった」

「どうしてですか?」

「ん? だって、子供らしくてかわいいじゃない。毎日あんな顔されたら心配するけど、ずーっと平気な顔されててもそれはそれで心配しちゃうしね」

 なるほど、親の考え方は説得力がある。

 感情的になってもらえたと言うことは、感情を隠し続けられるよりも進展している、ともとれる。肝心なのはアフターケアで、つまり、ここからだ。

 俺はヒールになると決めた。

 ヒールのレスラーは本来、優しい人が多い。

 だって、凶器を使う場合に危ない人だったら大怪我させてしまうし、加減をわきまえなければならないからだ。自分が悪役に徹して、エンターテイメントとして盛り上げ、そのうえで勝負をする。観客のために普段から悪ぶっている、なんて逸話もたくさんある。

 リングを降りれば、レスラー同士笑って食事をする人だっている。

 どこがリングで戦場なのかいまいち判然としないけれど、とにかく、傷つけてしまった相手を気遣わなくちゃいけない。もう姉さんが監視させないと言っているのだし、指示されたことを忠実にこなしただけなのだから、秋は悪くない。

「呼んでこよっか?」

「いえ、自分で行きます」

「男らしいわね。わたしがあと十万と二十歳若かったら……」

「化け物じゃないっすか……」

「ふふふ。じゃ、これ持って行って」

 おぼんにお菓子とジュースがのっけられ、渡された。ピンポイントで俺の好みを付いてくるラインナップだ。秋がよく俺を見ていて、話していたのかもしれない。

 階段を上がり、ノックをする。

「お母さんよー、開けてー」

 軽い気持ちでふざけたのだが、返事はなかった。

 だいたい、全然似ていないから、その点でイライラさせてしまったかもしれない。

「秋、すまん。俺と姉さんの戦争に巻き込んじまって」

 扉越しに話しかけるが、水を打ったように静まり返っている。

 もし寝ていたら、俺は扉と話していることになる。

 そう思うと、やっていられない。

 もう一度ノックをする。

「秋ー、寝てるのかー?」

 耳をそばだてるが、音は聞こえない。

 俺は長期戦を決め込み、床に座り込んだ。

 おぼんに乗ったお菓子は、俺の大好きなルマンドだった。

 秋と一緒に食べるべきだが、ちょっとくらいいいだろう。

 袋を開けて口に含んだ瞬間、扉が開かれた。

「………人の部屋の前でなにしてんの」

「お茶?」

「ごゆっくり」

 閉められようとしたところに手を出す。

 前回玄関で繰り広げたみたいにこじ開けるつもりだったが、速度が速すぎて思いっきり挟んでしまった。

「いでっ!」

 幸い、腕をプレスするつもりはなかったらしい。

 扉は再度開かれ、自分がやられたわけでもないのに痛そうな顔をした秋が、怪我の容体を確認しようと覗き込んでいる。俺の手に触れようと手を伸ばしかけ、堪えるようにひっこめた。

「おぼん持ってくれ」

「……わかった」

 潜入成功。痛みは小さな代償だ。このくらい唾をつけておけば治る。

 おぼんを受け取った秋は、そのまま自然な動作で再び扉を閉ざそうとする。

「御苦労さま。それじゃ」

「痛いよー、痛いよー。秋にやられた指が痛いよー」

 行ったことはないがアメリカ流のやり方をしっている。現代では大声を上げる被害者に対して、加害者の立場が弱くなっている。大げさに痛がることで、賠償と謝罪を請求できる。この場合は中に入れてもらう権利だ。

 秋はライオンに捕まったジャッカルの子供を見るような目で、気の毒そうに、それ以上追い出そうとはしなかった。

 危ないところだった。挟まれていて良かった。

 ただなんだろう、子供のようにのたうちまわったことにより、大切ななにかを失ったような気がする。もうちょっとセリフを考えればよかった。情けなさすぎた。カッコ悪すぎた。なんだよさっきの秋の目は。

 ああもうやだ、帰りたい。

 俺は部屋の隅で三角座りをし、心を落ち着けようとする。

「なにしに来たの?」

「…………俺が聞きたいよ」

「なんで落ち込んでるの……?」

「落ち込むよ……だって、部屋に入るためにこんな情けない醜態さらしたらさ……」

「同情できないんだけど……」

 秋は勉強も読書も始めなかった。

 お菓子にも手をつけず、ただ正座をして目の端で俺を見ている。

 きっかけさえあれば、いろいろ話ができそうなのに、心の傷が癒えない。

 昔を知る秋の前では、男らしくしていたかったんだが……。

「修行が、足りないな」

「茉衣さんもときどきそうだけれど、あなたには文脈ってものがないの?」

「いや、あるよ。俺の頭の中では、かなり追いつめられているんだ。この精神的弱さを克服するには、山篭りか、極限までトレーニングして追い込むしかない」

「脳筋」

 話題はひどいものだけれど、秋と会話が成立していた。

 笑いも怒りも泣きもせず、それほど面倒くさそうでもない。

「ごめんな。俺がもっと強かったら、お前を泣かせずに済んだかもしれないのに」

「泣いてない」

「パワーが足りないから、あの場の空気を制することができなかった」

「それ以上ふざけるつもりなら、本気で追い出すから」

 時間を稼いで会話を続ける方法はとらせてもらえなかった。

 不器用な俺にできることは、真っ正面から迎え撃つことだけだ。

 結局、伊柄獅の言っていた通りになってしまった。

「姉さんに弱みでも握られているのか?」

「前も言ったでしょ。恩があるって」

「怨じゃなくて?」

「意味わかんない」

「聞いているかもしれないが、俺を見張るようなことはもうしなくていいそうだ。うちの家庭の問題に首突っ込ませて、悪かった」

 秋は悲しそうな顔をして、黙った。

 相槌もないがかまわず続ける。

「秋がなんで怒ったのかわからないけど、なにか抱えているものがあるのなら、話してくれ。力になれるかと言えば正直厳しいが、愚痴くらいならいくらでも聞いてやる。お前がどう思っていようと、俺は秋のことを友達だと思ってるんだからな」

「友達? わたしと浅海が?」

 冷たいままだった声が瞬間沸騰したみたいに、熱を込めて放たれる。突き放すよりも強い怒りを感じる、そんな言い方だった。

 ゆるみかけた空気が、緊迫したものへと変化した。

「よくもそんな軽々しく。ずっと会ってなかったのに、友達?」

「おかしいか?」

 すっと会っていなければ、友達ではなくなるのだろうか。

 なにをするのにも付いてきて、一緒に遊んで一緒に笑っていたのに、時間が流れてしまったらもう別々の関係になってしまうのだろうか。女とばかり遊んでいて女々しいと揶揄されながらも、それでも一緒にいた子供の俺は、秋の中でどこにもいないことになってしまっているのだろうか。

 嫌われることよりも、過去を否定された気分で、後ろ暗い気持ちになった。

「思ってもいないくせに、都合のいいこと言わないで」

「なんでそんなこと言うんだ。俺はお前のことを大切な友達だと思って――」

「電話してくれなかったじゃんか!」

 秋は甲高い声で叫んだ。

 驚いたのは、俺の頭に引っかかるものがないことだ。なんのことだかちっともわからない。

「電話?」

「そう、電話」

「いったいなんのことだ?」

 秋の表情はよりいっそう崩れ、唇を強くかむことで泣くのを我慢しているみたいに見える。

「日本に帰ってきたら、すぐに連絡くれると思ってたのに!」

「いやその、だって、先に家に帰るのは当たり前だし、すぐに会ったじゃないか」

「空港からどれだけ時間があるのよ! その間少しもわたしのことなんて思い浮かばなかったんでしょ? なにが友達! ……バカみたい」

「あのな、秋」

「聞きたくない!」

 聞いてもらわないと困る。

 だってそれ、勘違いだから。

「俺、携帯電話持ってないから」

 俺の言葉に、秋は瞬間冷却されたみたいに固まってしまった。

 目だけが生きて、右往左往している。

「だってそうだろ? 俺、子供のころからずっと持ってないぜ? メキシコ行っちゃったから買うタイミング失ったし、帰ってきたって連絡しようにも、母さんの携帯にも秋の番号は入ってないし。この家にかければよかったのかもしれないけど、時間的にはまだ学校だったんじゃないか?」

 見るからに、情報が頭の中を高速で空回りしていた。

 理解しようと努めるも、感情が邪魔をして、なにもできずにいるみたいだ。

 俺は落ち着くまでルマンドを食べ、言い分が聞こえてくるのを待った。

「え……だってメールくれたことあったし、そのときにわたしの電話番号も教えたよ」

「あれはPCメールな」

 国際電話は時差もあるし、金もかかるから使わなかったけど、メールはたまにしていた。

 親父のパソコンでアドレスを作って、最初のころは月に一度くらいはやり取りをしていたように思う。慣れないキーボードで、時間をかけてタイピングしていた。意地でも弱音は吐きたくなかったから「楽しいよ」くらいしか送らなかった気もする。そのせいで、書くことがなくなってしまったということもある。

 秋はぷるぷる震えながら、携帯のアドレスをチェックし始めた。

 そこには携帯会社のものではないドメインが表示されている。

「う……そ……」

「スマホとか便利なもの持ってるくせに、そんなことも気付かないのかよ」

「え…………」

 めまいを覚えたみたいに、頭を押さえた。

 ついに、俺に対しての憤りが勘違いによるものだと悟ったらしい。

「バカだな、お前」

「ま、茉衣さんは今どこに?」

「姉さん? 家にいるよ。出かけてないと思う」

「ちょっと相談してくる」

「待てって」

「…………待ってほしいのはわたし。なんのために、あんな無駄な時間を……」

 気が動転していて、ぼそぼそと独り言をつぶやいている。

 今なら、どさくさにまぎれて伊柄獅に怒った理由を聞き出せるかもしれない。

「秋、さっきのことなんだけど、なんであんなに怒ったんだ?」

「…………茉衣さん、茉衣さんのところに……茉衣さんはどこ……」

 完全に我を失っている。

 左手は痙攣したように宙をさまよい、右手ではルマンドを一つずつ握りつぶしている。

 ダメだこいつ、正気に戻るまではなにをしでかすかわからない。

 この場を片づけ、秋が転がり落ちないように注意しながら、下に降りる。

「あら二人とも。……それは……仲直り、できたってことでいいの?」

 おばさんはゾンビのようにふらふら歩く娘を見て、大きな疑問を抱えた。

「俺も良くわかりません。姉さんの名前を呼んでいるので、カウンセリングさせてきます」

「そう、お願いね」

 おばさんの困惑した視線を背中に受けながら、どうしても会いたい姉さんのところへ送ってやる。精気の薄れた顔は不健康で、白く燃えつきそうだ。

 家に戻ると、姉さんは先程同様リビングでくつろいでいた。

「あら、秋。どうしたの? 浅海に強姦されたの?」

「それやめてくれないかな! 誰かに聞かれたら大事になるよ!」

 ビニール袋の落ちる音がし、リンゴが転がった。

 その先をたどると、母さんが青い顔で立っている。

「浅海…………そんな……嘘よ……」

「ほらみろ! 被害者を増やすなよ! 面倒なのは一人で十分だ!」

 亡者のように低く唸り続ける二人。

 秋だけでも大変なのに、母さんを巻き込んでどうする。

 アメリカのゾンビ映画みたいな惨状に、原因の一端を作った姉さんを糾弾する。

「お姉様……お姉様ぁ……」

「浅海が強姦……浅海が……」

 おぞましい光景を目の当たりにし、唯一事態を収束できそうな姉さんを頼る。

「ショタの失禁……ショタの失禁……」

「姉さんも染まってるぅぅぅぅ! てか、あんたが一番危ないこと口走ってるよ!」

 なんだこの荒れた場、カオスすぎるだろ。

 この三人が俺の人生を構成する主要人物だなんて、思いたくない。

 気が狂いそうなのは俺の方だ。

「冗談はさておくとして、浅海、お姉ちゃんの部屋まで秋を運ぶから、肩を貸してあげて」

 ドラマの場面が変わったみたいに、瞬時に切り替えた姉さんが誘導する。

「あ、うん。母さん、そういうわけだから、全部冗談だから」

「うん、しょうがないわよね。お父さんの息子だもの」

 なにが「うん」だ。

 なに一つ理解していないじゃねえか。

 それに、父さんの息子だもの、ってどういう意味だよ。

 次から顔合わせづらいよ! どんな顔すりゃいいんだよ!

 どこまでが冗談かわらない場合、全部を冗談として受け止めるべきだ。決して真実であることを疑ってはならない。

 俺の得た教訓は、そんなところだ。

 この家の冗談のレベルは度を越えている。



 俺は秋を運び終えると、自室待機を命ぜられた。

 人は恨み続けていた対象がいなくなると、生きる気力を失ってしまうことがあるらしい。

 恨みとはそれほど大きく人間に巣食い、侵食する感情なのだ。愛と憎しみは似ている、なんて言われるが、それだけ強い原動力を持っていると言うことだろう。

 秋はきっと、憎しみを不意に失った状態に近いのではないかと思う。

 まさか電話一本よこさなかったせいで嫌われていただなんて、なんとも力の抜ける理由だ。

 無駄に疲れた。誤解が解けたからオールオッケーなわけだけれど。

「入るわよ」

 小さなノックの音とともに、姉さんが入室した。

 秋はもう帰ったみたいだ。

「秋は大丈夫なの? かなり錯乱してたみたいだけど」

「あの程度のことで壊れるくらいなら、もうとっくに壊れてるわ」

 深く問えないほど、不穏な言葉だった。

 まるで過去に深手を負わされたみたいなことを、平然と言っている分に余計。

 それでも、姉さんはちっとも大したこととして扱わない。

「これから真面目な話をするわ」

「は、はい」

「冷水を頭から百度かぶり、身を清めてから来なさい。白装束は用意しておいてあげる」

「どこの世界の真面目な話なんですかねぇ……。別に俺は出家するつもりもないんだけど」

「そうやってすぐ冗談で誤魔化すから、気持ちが伝わらないのよ」

「俺? 俺が怒られているの?」

 姉さんは冗談もほどほどに、居住まいを正した。

 歩く姿も座る姿も折り目正しい姉さんが、よりいっそう雑多な動きを排除している。

 本当に真剣な話らしい。

 じっくりと間をおいてから、気持ちの整理がついたみたいに話し始める。

「あなたの知っていることと知らないことを、わたしの目線で話すわ。

 お父さんの転勤が決まったとき、我が家は荒れた。家族みんなでメキシコに行くか、それとも辞退するか。いくらメキシコ国内にしては治安のいいところとは言え、女子供が突然移り住むには危険すぎる。お父さんは仕事に生きているような人だから、身近に大切な者もなく一人にしておくと、生活を蔑にして体を壊すようなところもある。今は大阪だから会いに行こうと思えばすぐに行けるけれど、飛行機で半日以上かかるうえに身の危険もあるから、様子を見に行くこともできない。

 そんなとき、お父さんと一緒に海を渡る決意をしたのが浅海だった。もちろん反対したわ。でも、浅海は絶対に譲らなかった。お父さんだけ一人はかわいそうと言っていたけれど、きっと子供ながらに、家族をつなぎ止めようとしたのね。その高潔な決意に、わたしも母さんも押し切られてしまった。認めなければならなかった。

 でもね、あのときしがみついてでも止めなかったことを何度も後悔した。

 四年、それは子供にとってとても長い歳月だわ。浅海が変わったように、わたしや秋も大きく変わった。それは目に見えることばかりではなく、心も。不安で眠れない夜もあった。電話が来るまで、怖くて心臓が張り裂けそうだった。そんな日々の経過が、少しずつ浅海に対する感情を歪めてしまったのかもしれないわね。

 お母さんが浅海を危険な目に合わせたくないって気持ち、痛いほどわかるわ。立派な仕事になんて就かなくていい。お金の大小なんてどうだっていいことであるし、家にお金を入れる必要だってない。心から安心して見守っていたい。でも、あなたにはあなたの人生があるから、泣いて喚いて止めさせるなんて、できるならしたくはないの。これも本心」

 姉さんは当時を懐かしむように、穏やかな顔つきで流暢に話した。

 心から絞り出された言葉に、俺は一言も口を挿めず、黙って聞いている。

「わたしにはまだ、あなたの夢に対する想いがどれだけのものなのか、わからない。一時的なものかもしれないし、一生持ち続けるのかもしれない。その判断は、後回しでもいいと思ってる。今はただ、あなたの覚悟が知りたいの」

 姉さんは一呼吸置くと、ミネラルウォーターを口に含んだ。

 ため込んで言葉が通ってきた道を、ゆっくりと水が流れて行く。

 すべてのものを慈しむような目で、ちょっとだけ寂しそうな目で、俺を見る。

 それは子供のころとちっとも変っていない、俺の好きな姉さんだった。

 聡明で冷静で、それでいて誰よりも優しい人。

「俺は姉さんの話を聞いて、ちょっと心が揺れた。でもそれは、夢を追いかけることに対してじゃなく、自分の甘さに対して。夢って言葉だけで自分を正当化できると思って、甘えてた。姉さんの好きな俺じゃなくなっちゃうかもしれないけど、怪我しないように、体を鍛えることにするよ。プロレスは俺のど真ん中にあるから、譲れない」

 真っ正面から、まるで喧嘩するみたいに姉さんと目を合わせた。

 すっかり俺の方がでかくなって、体の太さも比べ物にならないのに、あまりにも大きくたくましく感じる。それは立ちはだかる壁ではなく、倒すべき相手でもなく、越えなくちゃいけないハードルでもない。

 愛すべき家族だ。

 それを再認識したうえで、俺は姉さんの挑戦を受ける。

「秋にあなたの夢を認めさせなさい。そうしたら、わたしはあなたの夢を一時的に認めてあげる。見せてみなさい、あなたの覚悟を。お母さんは、わたしが説得してあげるから」

 姉さんはそう言うと、立ち上がった。

 座り込み、言葉をかみしめる俺の頭に、そっと手を置く。

 なにか言われるのかと思ったが、手は離れ、そっと扉が閉められた。

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