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 教祖は剣士を説き伏せ、入信させる気でいた。

 剣士は型通りに非礼を詫び、謁見に対する礼を言うと、早速質問し出した。まず用兵の巧みさを褒め、続いて風徒教に対する見解や教祖の宗派が扱う教義について訊ねた。

 教祖は答えた。

 昔は武将として戦に出ていたこと。命のやり取りを虚しく思い、出家したこと。そして私欲にまみれた僧達にも絶望していた時に、神のお告げを受けて兵を起こしたこと。更にその時に神から教えを授かったこと。その教えでどれだけの人を幸せにし、また新たに幸せにすることが出来るか等々、熱心に語った。

 その間剣士は非常に興味深そうに聞き入り、頷きながら自然と表情をほころばせていった。

 教祖の語ったことは所謂カルト宗教的内容であり、剣士としてもその不条理は重々理解していた。話を聞くごとに、教祖が清々しい程にどうしようもない人間であることも分かった。あまりのご都合主義的理論に、演劇を観ているかのような遊戯性すら感じられた。

 そしてそれら全て、教祖を斬るに足るだけの理由になり得たので、剣士は心の底から安堵した。これがもし、教祖が本当に素晴らしい人間であったならば、良心の呵責とやらに悩まされなくてはならない。

 しかしそんなこととはつゆ知らず、教祖が、目を輝かせながら話を聞いている剣士に対して並々ならぬ好感を抱いてしまったことは、傍目にも分かるほどであった。


 次いで剣士は、一番気になっていたことを訊ねた。神の加護はあるのか、教祖は本当に不死身なのか。

 更に興味に満ち満ちた目で真剣に訊ねる剣士の姿は、教祖のみならず周りの皆も感心させるほどであった。

 教祖は我が事成せりと思いつつ得意げに語った。

 教祖自身、神に護られている内は不死身であること。そしてご神託を守り、正しき行いをしている教祖は神に護られていること。それは教祖が世界の救済を完遂するか、道を外れた行いをしない限りは続くこと。もし教祖を始めとした信者に剣を向ける者が居たら、必ず神罰が下ること。信仰を深めれば様々な御利益があり、もし信仰の内に殉死しても極楽へ行けること等々。

 数々の信徒達を入信させて来た殺し文句を、惜しげも無くばら撒いた。

 それを聞くと剣士は、感動のあまり嬉しさを抑えきれないと言った面持ちで、教祖に向かって無造作に歩きだした。


 剣士の動きがあまりに自然だったため、周りの兵は止めに入るのも忘れていた。その場にいた誰もが、剣士が教祖の話に感激し過ぎて歩み寄ってしまったのだとさえ思った。

 兵達が我に返った時には、剣士が刀を抜き放ち、一閃した後で腕をだらりと下げた後だった。教祖の首が胴から離れてごろりと床に落ち、残った胴体からは血が噴き出している。

 剣士は教祖の死骸を眺めながら、何事か起きるのを期待していたが、特に何も起きなかったので残念そうな顔をした。


 一瞬の後、屋敷は静寂を破り世界の終末が訪れたかのような騒乱に包まれた。

 側近の僧侶達が、教祖の遺骸を取り巻き慌てふためく。何やら理解し難い罵詈雑言ばりぞうごんを喚いている。周りの兵達はいきり立って武器を構える。

 剣士はそれを見ると、喚いている僧侶達に真っ直ぐ突進し、立ちふさがる教兵を二人すれ違い様に斬って捨てた。そのまま僧侶達を一刀の元に斬殺する。

 教祖のやり方を真近で見ていた僧達は生かしておけないというのもあったが、敵兵を乱す意味の方が大きかった。本来神聖不可侵である僧達を無感情に殺し尽す剣士の姿は、さながら鬼か物怪にでも見えた事だろう。

 信心深い教兵は必死の形相で打ちかかったが、皆隙だらけで軽く首を撫でつけられて倒れた。取り囲む兵達も瞬きするごとに数を減らす。

 駆け付けた教兵長が兵をまとめて距離を取ろうとしたが、号令をかける前に剣士に詰め寄られて死んだ。

 更にその部下を数名斬り伏せると、自ら向かってくる者は殆どいなくなった。

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