8話「軌跡」

 テラスから見上げた夜空には闇を照らす真ん丸の月が浮かんでいた。

 無心に空へ視線を投げかけるゲーテは手元に置いていたロックグラスに手を伸ばし、ウイスキーを口に含んだ。喉に熱い炎が迸るような感覚が走った。

 グラスをそっと元の位置に戻す時、カランと氷がぶつかり合う音がした。


 エルルの正体を知った森の一件後、二人は互いに支え合うようにして帰路に着いた。その間二人の間では一切言葉は交わされなかった。

 家に戻ると夕食の準備を整えて待っていたメディが二人を迎えたが、エルルはただいまの挨拶も言わずにメディの横をすり抜けた。

 


「ごめんなさい、ちょっと気分が悪いから今日は寝ます……」



 そう言って彼女は割り当てられた部屋に閉じこもってしまった。

 果たして彼女の言葉はメディに向けられたものなのか、それともゲーテにあてられたものなのか……。

 

 当然メディはエルルの態度に不審を抱いたようだ。しかし彼女は何かを言うことはなかった。



「食べるのでしたら冷めない内にお召し上がり下さい」



 メディはそれだけ言った。


 ゲーテとメディの二人で取った夕食は確かに孤独感はなかったけど何か必要なピースが足りないような、そんな感じがした。

 足りないピースはまず間違いなくエルルが持っている。分かっていても、今夜ばかりは埋めることが出来なかった。



 きっと今頃、メディが温めなおした食事を部屋の前に置いていることだろう。

 娘が存命だった頃、娘が癇癪を起こして部屋に引きこもったりすると妻のヘクスは同じような行動を取った。

 事の経緯や胸の内は全く別物ではあるものの、一度心を閉ざしてしまった子供は大人でも手を負えないほど頑固になるのはきっと同じだ。

 なので親としては半端者のゲーテに今の彼女にしてやれることは恐らく何もない。


 

 夜空探索に耽っていると居間の大きな窓ガラスが開けられる音がした。

 横目でそちらを覗くとメディがテラスにやって来る所だった。



「いつかこうなることは聡明なお前なら分かっていたんじゃないか?」

「ええ。しかしだからといってわたくしから明かしていい問題ではありません。今回の事にいえばエルルがどのような心持ちでいるのか、私でも分かりかねましたから……」



 メディが椅子に腰を下ろしたゲーテの横に立つ。



「立ったままで話すのは疲れるだろう。メディも……いや、この場においてはその呼び方も無礼講というものか。とにかく座るといい。魔王軍直属の配下である四天王の一人――メデューサ殿」



 

 メデューサと呼ばれた女は静かに頷いて向かいの席に座った。その際、夜風が彼女の美しい銀色の髪を撫でた。

 


「ゲーテ様、よろしければわたくしにもウイスキーを一杯頂けないでしょうか」

「それは構わないんだがね、甚だ疑問に思ってたことがあるんだ。君たち魔物は飲食を取る必要があるものなのか?」



 あらかじめ用意しておいたもう一つのロックグラスにウイスキーと二、三の氷をそそぐ。



「結論からいえば必ずしも必要ではありません。魔物というのは魔力をエネルギーに変えて活動していますので。ただし食事を取ったり水分を取ることでもエネルギーの供給は可能です」

「なるほど。構造は多々違えど生物であることに変わりはないのか」

「仰るとおりですわ。こうして魔物である私がゲーテ様と会話できているのも一つの証拠です」



 メディはウイスキーの入ったグラスを受け取ると、早速口につけた。グラスから口を離した時の湿った唇が艶やかに光った。



「エルルとメデューサ殿がここに訪れた時、私はひどく驚いたよ」

「お気持ちはお察しいたします。ただ一つ、今のお話には関係ないことですが、私のことはどうかメディとお呼びください。魔王軍の一員だったメデューサはもういないのです」

「ということは……私を殺す意志はないということか?」



 ゲーテの問いにメディはきょとんとした。



「どういうことでしょうか」

「私は君達の天敵であるし、同時に君たちの慕う魔王の命を奪った本人だ。残された君たちは私の首を獲るつもりであるのが普通ではないか」

「人間ならばそのように考えるのかもしれません」



 しかし、とメディは続ける。



「私は魔物です。人間と同じように感じ、考えることができるといっても別の生物なのです。ということはつまり、人間たちとは考え方や道徳、倫理観といったものも全く別なのです。まあ、これはあくまで個体の話であり、集団となるとまた話は変わりますが。……それに個体でも今のあの子に限っては違うかもしれません」



 メディはエルルが閉じこもっている部屋の方に目を向けた。

 その言葉でゲーテは確信する。やはり数日前、ドアの部屋に立っていた者は……。



「魔王軍としても、そして一個人としても魔王様のことを敬虔しておりました。その魔王様の命を奪ったゲーテ様には怒りを覚えれど、復讐しようとは夢にも思いませんでした。過去は過去、起きてしまったことはどうすることもできません。それに寝首を掻くのならば私よりもゲーテ様の方ではありませんか?」

「どうしてそう思う」

「今は大人しくしていても過去には数えきれぬ程の人を殺しているのですよ? 殺された人々の恨みを晴らすのは勇者のお仕事ではないですか」



 メディの言葉にゲーテは自嘲にも似た笑みがこぼれる。



「そうかもしれないな。かつての勇者ならば残虐非道なメデューサ殿を成敗していたのだろうな」



 ウイスキーグラスを掴む。

 目を落としてグラスをふっと横に揺らした。



「だが私はそうする理由を失ってしまった。勇者でいる理由を失ってしまった」

「それはやはり家族を喪ってしまったからですか」



 メディの確認にもさして驚きはしなかった。

 

 ゲーテの向かいに座るメデューサは魔王軍一の智将であった。

 魔法の時代から兵器の時代へ移ろうとしていたまさにその時、魔王軍の侵略が始まって統一時代が幕を開けた。

 魔物に対抗するため、人類は兵器の運用から強制的に魔法の使用に偏移せざるを得なかった。

 

 基本的には物量で責めてくる魔王軍だったが、メデューサだけはそういった武器の持ち替えに戸惑っているところを狙って戦略を組んできた。

 故に一体一体の力は大したことがなくとも人類は大いに苦戦した。

 

 安全な所でふんぞり返ってる魔王に比べたらメデューサの方が遥かに厄介だった。

 一時期、メデューサの策をいかに抑えこむ事ができるかが人類の存続を決めるとまでいわれていたほどである。

 そんなメデューサのことだ。

 戦後のゲーテの情報を掴むことなど朝飯前だろう。



「さあな。そうかもしれないし、違うかもしれない。どちらにせよ時代はもう勇者を必要としていないのだ。今更勇者を名乗ったところでどうもこうもあるまい」



 言い切ってからウイスキーをグイッと飲んだ。



「私のことはいい。それよりもメディの事を聞かせてくれ。魔界での決戦の時に君は突如姿を消したがその辺はどうなっているんだ」



 魔界に乗り込んだ勇者一行を待ち受けていたのは魔王軍の残勢力との総力戦だった。その中には四天王達との戦いも含まれている。

 

 メデューサとの戦いではゲーテ達があと一歩という所まで追い込んだところで一瞬の隙をついて姿を消したしまったのだ。

 他の四天王たちは最後の最後まで粘っていたために彼女と彼女の軍のあっけない逃走に思わず毒気が抜けてしまったのを覚えている。



「負けを確信したが故の撤退で、それ以上の意味はありません」

「しかし他の四天王は命を失うギリギリまで戦い続けていたぞ?」

「ええ。ポセイドン辺りは好戦的ですから何が何でも戦い抜いたでしょうね。他の者達はどうかは存じませんが、敗北が確定したなら即座に戦場を離れろと私は魔王様から直に厳令を受けていたのです」



 メディの横顔を見つめる。

 考え方の違う異形の女は無表情でどんな感情が渦巻いているのか、ゲーテにはまるで予想がつかなかった。



「君がエルルといるのは偶然なのか?」

「いいえ。もし戦場を離れるのであれば娘であるエルルを連れて行って欲しい。それが魔王様の最後のお願いでした」

「だから君は……いや、済まない。忘れてくれ」



 だから君は無様と思われても逃げることを選んだんだな、という言葉は胸に締まっておいた。

 幾ら彼女が無意味に命を投げ出すことだと分かっていても、魔王軍の一員として、四天王として、智将として、魔王を慕う者として――意地があったはずだ。きっとエルルという存在がいなかったら、メディも命の花を散らしていたのだろう……。



「魔王様の意志を汲んだ私と僅かに生き残った私の軍の配下はエルルを連れて魔界を離れました。そして戦地から充分に離れた場所で一時の安息を得ると同時に私の軍は解体しました」



 理由としては集団で行動していたら目立つのでそれぞれが生き延びるには散開した方がいい、というものだったらしい。

 しかしあくまでそれは表向きの理由で、いずれ魔王は倒され、魔王軍は歴史から消え去るのを覚悟しての事だった。魔王軍亡き後、未練を抱えたまま軍を組んでいたらもう一度勢力を結成して人類に報復を、なんてことになるのが目に見えていた。

 例え魔王軍がこれまで以上に力を付け直したとしても、魔王軍の宿敵であるゲーテが消えたとしても、その時に人間は想像もつかないような武器を製造しているに違いない。

 すなわち、どう足掻こうと辿る道は絶滅か、人間たちの中に溶けこむかの二択しか無かった。

 メディは再起を図るためのキッカケをなくすために己の軍を解体したのだ。



「その後、私はエルルと共に人里に身を隠しました。見た目は女ですから、仕事を見つけるのにはさほど苦労はしませんでした。しかし派手に暮らすと私を知っている人間に見つかってしまう……。故に私とエルルは慎ましい生活を送らざるを得ませんでした」



 虚空を見つめるメディは過去の自分とエルルを見ているのだろう。

 日々を生き延びるため、こっそりと日銭を稼ぐメディに家で独り留守番をして待っているエルル。そんな二人の姿が思い浮かんだ。



「お陰でエルルには心寂しい日々を過ごさせてしまったと思います。それともうお分かりでしょうが、エルルは見た目の倍近い年齢をしています。精神年齢は見た目相応ですが。魔物は長寿な分見た目と精神年齢の成長が緩慢なんですよ」



 エルルの見た目は高くて一八歳、低くて一四歳ぐらいだ。

 なので最低でも三十近い年を重ねていることになる。 



「エルルとの侘びしい生活は数年間続きました。統一時代の爪痕そうこんも徐々に癒えていき、魔王軍の記憶も少しずつ薄れていきました。それまでは辺境の地を転々としていましたが、ようやく一つの地に腰を落ち着けて暮らせるようになりました。僅かな日銭をコツコツ貯めてようやく人らしい生活を私たちは獲得したんです」



 魔物が人らしい生活を送るのも滑稽な話ですが、とメディは苦笑した。



「これまでエルルにとっての世界は社会や節度といったもののない魔界と、魔物に対してあまりにも辛辣な人間界しかありませんでした。絶対神のような存在である父親を失った挙句、自分のような魔物が追いやられる世界に放り込まれた彼女が心を閉ざしてしまうのは目に見えるでしょう。例え魔王の娘であっても精神は見た目相応の少女に等しいのですから」



 魔物達は人間と倫理観が違うと言っていたが、どうやらこの辺は似たようなものらしい。もっとも人型の魔物に限った話である可能性も否定はできない。



「そのようにエルルは狭い世界で暮らしていました。これまで窮屈な思いをさせていたこともあります。もっと視野を広くしてもらいたいと考えた私はエルルを学校へ通わせることにしました。魔王城に居た頃も知識を付けるため勉強はしていましたが……学校での体験はエルルにとって未知の経験の連続だったそうです」



 これまでは知性のある魔物達から教授された魔物視点の知識を植え付けられていたようだ。

 しかし人間の学校なのだから当然人間視点の教養を学ぶわけである。

 

 人間と魔物の違いを学識から発見できたことが驚きの一つ。


 そしてもう一つの驚きは同い年の子供達――実際の所エルルは彼らより年上なわけだが――との接触だった。

 ほんの少し前までメディという盾に守られていたため人に近づいたこともほとんどないのだろう。それに統一時代のこともあって人は魔物に対し好ましい思いはしてないと教えられていたのだ。

 エルルが人間というものに偏見を持っていてもおかしくない。

 そんな状態の彼女が裸の人間たちと交流をしたなら驚くというのも当然だ。エルルにとっては革命が起きたようなものだろう。



「エルルは目に見えて明るくなっていき、また様々な知識を貪欲に求めていくようになりました」



 こうして今のエルルの像が完成していった。



「そういった事が背景にある中、私の軍の参謀であった者から情報を貰いました。彼はどうやら独自にある者を追っていたようなのです。そのある者というのが……」

「私ということか」



 メディからの控えめな視線を感じてゲーテは確信する。



「はい。……魔王様を討ち、世界に平和をもたらしたゲーテ様のその後を私はそこで初めて知ったのです」

「戦後の私の人生なんて本に書き起こしても一ページにも満たないさ。家族の行方を求め、それを突き止めた後は荒れに荒れ、歳を重ねて落ち着いたところでこの街に流れ着き隠居を始めた。ドラマも何もないだろう」



 静けさがほんの少しの間空間を支配する。

 グラスの中の氷が溶けて控えめにカランと音がした。



「世間から行方をくらませ、放浪しながら酒を浴びるように飲んでいる。私が初めて情報を受けた時に聞いたゲーテ様の現状がそれです」



 ゲーテは手元のグラスを見つめてから静かに目を閉じた。

 

 当時の記憶は曖昧模糊で具体的な思い出は存在しなかった。

 ただ覚えてるのはゲーテは必ずアルコールの入った酒を手に持っていて、時折薄暗く汚いスラムのような場所をフラフラとした足取りで進んでいたといったものぐらいだ。


 あと一歩間違えていたらゲーテは酒ではなく、薬にも手を出していただろう。

 心の奥底に眠っていた勇者としての自覚がギリギリ最後の一線を超えさせなかった。

 かろうじて生きている理由がゲーテの人間性を壊してしまった原因であるのだから何とも皮肉なものだ。



「それからも度々報告を受けました。最初のうちは日増しに悪くなっていきましたがが、年月を重ねていくと状況が少しずつ好転に向かっているのを聞きました。フォードタウンに居を構えたのを確認して情報者は追跡を止めたそうです。理由に関しては一言、『ゲーテはもう勇者ではなくなった』とだけ言っていました」



 こうしてメディは今に至るまでのゲーテの歴史を知ったわけだ。



「情報者とやらはその後どうなったんだ?」

「あれ以降連絡を取っていないので存じません。しかしどこかで上手くやっていると信じています」

「なるほど、聞くのは野暮だったか。話を折ってすまない」

「いえ。話を戻しましょう。同じ頃、積学せきがくしたエルルは人間そのものに興味を示していました。また学校では歴史も学んでいて、そちらにも関心を向けていたそうです。特に近代の史学には……」



 それも当然だろうとゲーテは思う。

 自分と同じ種族や仲間、そして肉親が殺されたという時代の一場面を聞かされた時、エルルの胸中には果たしてどんな思いが去来したのだろうか。

 


「どうやらエルルは私が密会していることに気づいてたらしく、話をするようにせがんできました。この時ばかりはどうするのが正解なのか迷いました。結局根負けして白状してしまったのですが……。話を聞いたエルルは一人の老兵に強い反応を見せるようになりました」


 

 その老兵は言うまでもなくゲーテのことだ。

 父親を殺した人類の英雄の現在を知ったエルル。例えエルルでなくとも気になるものだ。一目会いたくなるというのも理解できた。



「だから君たちはここに来たということか」

「はい。ただゲーテ様との相見は目的の一つでした。エルルは広大な世界を自分の目で見てみたかったそうです。学ぶことで見解が広がるように、実際に見ることでまた何か得ることがあるのではないか。そのように仰っておられました」

「……立派な子だ」



 行動だけを見るととても人界を支配しようとした魔王の子供だとは思えない。

 ……いや、あるいは魔王の子供だからこそ世界を見たいと言い出したのかもしれない。



「長い旅路の道中、遂に私達はゲーテ様にたどり着きました。初めてゲーテ様と顔を合わせた時の……いいえ、ここに来てからのエルルの心情は皆目検討がつきません」



 メディは控えめに首を横に振ってから僅かにエルルの寝室へと視線をやった。



「今の私にできることは侍女としての役割だけなんですわ。ゲーテ様がもはや勇者ではないと仰るように私も魔王軍の四天王ではないのです。今日の出来事を経てあの子がどんな結論を出すのかは知りませんが、どんなものであろうと私は黙って従うまでです」



 メディは暗にここを離れるとエルルが言っても引き止めるつもりはない、と言っているのだろう。

 ゲーテにもそれくらいの事はわかっていた。



「理解してるよ。ここから先はエルル……それと私の問題だ。最後に一つだけ聞かせて欲しい。エルルは擬態能力を持っているのか? 誰かの姿を真似て変身するような力を……」

「やろうと思えば出来なくもないかもしれませんが……一度もそのようなことはしたことがありませんし、この場においてする必要もありません」

「そうか。いや、悪かった。ちょっと色々思うことがあってな」



 流石にこの質問は意外だったのか、メディは不審さと少しの不満を持って答えた。

 ただ、お陰でようやくハッキリした。

 エルルが娘のリープに限りなく似ているのはただの偶然だった。必然とも思われた偶然は運命の悪戯でしかなかったのだろう。



「もう夜も遅いですし私は寝ることにしますわ。長い話にお付き合いいただき感謝します」



 メディは残っていたウイスキーを一気に飲み干すと静かに立ち上がった。



「ああ、こちらこそ付きあわせて悪かったな。おやすみ、メディ。良い夢を」

「おやすみなさいませ。ゲーテ様にも良い夢が訪れますように」



 背後でテラスの窓を開ける音がした。

 ゲーテはまたグラスに口を付けようとした所で声がかかった。



「そうでした、最後に一つ訊ねてもよろしいでしょうか」



 首を後ろに向けると、メディは立ち振舞いを正してこちらを見ていた。全身から感じる雰囲気はまるでメデューサと名乗ってた頃のあの時のようだった。



「魔王様討伐のためご自宅から出発される際にゲーテ様は家族と家を目に映していたと思われるのですが……その時ゲーテ様は



 彼女の言葉は質問というよりも一方的な叱責のように感じられた。

 

 質問を意のままに捉えたゲーテは君の言うとおりだ、という返答を思いつくもののすぐに言外の意味に気づいて言い淀んだ。

 違う。メディが求めている答えはこんなものではない。

 では彼女はどんな答えを期待しているというのだろう。娘と妻の心とかか? いや、分からない……。



「すいません、少々意地の悪い質問でした。忘れて下さい」



 厳しい顔をしていたメディは戸惑うゲーテを見て頬を緩ませた。

 月の明かりに照らされた銀髪のメイドはそれはそれは妖艶だった。



「今度こそ本当に寝床につくとします。おやすみなさいませ」



 丁寧に一礼をしてメディは去っていく。

 彼女の姿が見えなくなるまで見届けてから再び月に目を向けた。

 月がゲーテを見守っている。全くあなたは不器用なんだから、と妻のヘクスが呆れながら言ってるような気がした。

 残りのウイスキーを一気に喉に流し込んだ。後から炎が湧き上がるように熱を帯びる。

 グラスに残った氷がカランと波打った。

 


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