第3話 出会う

 近所では見つからないと思い始めた僕は、自転車に乗って市内を抜けた。

古そうな建物が見える。遠目で確認できるのは、瓦屋根の家に木でできた看板。近くに寄ってみる。看板には店の名前、有波ありなみ古書堂と書いてある。

店先に自転車を止めて、店の中をのぞいてみる。棚にはたくさんの本、

カウンターにはおじいさんが眠そうに座っていた。

少しの期待と多くの諦めを胸に秘めて早速はいってみる。眠そうにしていたおじいさんはしわがれた声で


「いらっしゃい」


といった。僕はこんにちはと一言。

僕は本を探し始めた。

 

 一つ目の棚、光る本はない。

 二つ目の棚、光る本はない。

 三つ目の棚、光る本はない。

 四つ目の棚、以下同様。

 五つ(以下略・・・・


それでもあきらめない僕は店内を周回。不思議そうに僕を見るおじいさん。

見つからないのに見つけようとする僕。怪しげに僕を見るおじいさん。

おじいさんは不思議そうに僕に声をかけてきた。

「なにか・・・お探しですかい?」

「ええと、魔・・・じゃないや小説を・・・」

「なんという本ですかな?」

「ええ!?」

タイトルですと・・・? 適当なウソつくんじゃなかった。

魔導書ってタイトルあるんだっけ?無いと聞いたことがあるよな。

「ええっと・・・タイトルは無いんです」

「・・・・・・」

「どうかされましたか?」

「もしかしてお兄さん、魔導書でもお探しですかい?」

「え・・・その・・・はい・・・そうなんです」

「そうならそうと早く言ってくだされば良い。うちにあるんですよ」

「えっ! そうなんですか! 見せてください!」

「いやあ、見せるのはいいんですがね・・・」

「はあ・・・何か問題でも?」

「問題はないんですがね。お兄さん、あなた’’素質’’を持っていますかな?」

「わかりません。あればいいなとは思ってます」

「ふむ・・・そうかい。じゃあ持ってきてみようかね」

「ありがとうございます」


数分後、おじいさんが紙袋をもってカウンターに戻ってきた。


「この紙袋の中にありますぞ。開けてみてください」

「・・・はい、ありがとうございます」


 紙袋に手が触れる。その手はとても震えていた。体も震えていた。自分の心音が聞こえるほどにドキドキしている。開け口に指が触れる。そして開く・・・


 中に入っている本から、わずかな光がでていた。


「わぁ・・・ 光ってます! 光ってますよおじいさん!」

「おお、それはめでたいことです」

「これください! いくらですか!?」

「お兄さん・・・魔導書がいくらするかご存知ですかな・・・?」


知らない・・・。知らないけどもすごく高いのはわかる・・・。


「国家予算並みですぞ」


おじいさんは笑っていた。目玉が飛び出そうな顔をする僕。


「僕そんなお金持ってないです・・・」

「わかってますよ、だからこれはあなたにあげましょう」

「えええええ!!?!?? ほ、ほんとに!?」

「もうお気づきだとは思いますが、私も本使いブックマスターなのですよ。ただ、一つ質問してもいいですかな?」

「な、なんでしょうか?」

「お兄さんは、何のためにこれを欲しているのですか?」

「・・・・・・楽しそうだからです。魔導書に昔から憧れていて、きっとそれを使えば、毎日が楽しくなりそうな気がします。あ、ごめんなさい。理由になりませんよね・・・」

「いやいや、立派な理由ですぞ。そう、魔導書とはあくまで人をサポートする書物。本当に、なんです」

 

 僕はおじいさんが言ったことを一つも聞いてはいなかった。なんたって魔導書である。自分には素質があったのだ。早く中身を読んでみたい。


「ああ、とにかく。この本はお兄さんにあげよう」

「はい! 本当にありがとうございます!」


 早く本を開けたくてたまらなくなり、

僕は自転車に飛び乗り、全速力で家に向かったのである。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る