二人のダブロク

じんくす

二人のダブロク

 夜の商店街を散歩する。吐く息は白く、しっかりと着込まなければ、随分と寒いものだが、歩いている時の寒さは、大したほどではない。

 駅前通りをクロスして伸びる県道を挟んだ商店街は、昼間こそ賑やかなものの、二十二時にもればシャッター街で、駅から帰宅する歩行者や、お迎えの車がいくらかある程度だ。街灯は等間隔で設置され、暗いということはない。この静寂な商店街を、二十四時間営業のスーパーを目指して歩く。妻に牛乳と卵、シリアルを頼まれ、買いにいくところだ。

 体を動かす時間がめっきり減って、お腹も三十代の中年男性らしい膨らみ具合となってきたのが気になりはじめ、せめてこうやって歩く機会を増やしている。三年前までは、あるスポーツを嗜んでいたのだが、それがなくなってから、膨らみ始めた気がする。

 遠くのほうでオートバイの音が聴こえた。どこかの信号で止められた、アイドリングだ。こんな時、僕は立ち止まって、オートバイの車種を想像するのが好きで、今回は聴き馴染みのある二気筒サウンドだから、特別に興奮した。

「二気筒だな。……V型じゃない。並列だ。はは、400か、650か、それとも800?」

 音が走りだして、交差点を曲がり、こちらに向かってくる。加速と変速を繰り返しながら近づき、僕の横を通り過ぎたのは、やっぱり、カワサキの、あのオートバイだった。

 マフラーが社外品に交換されており、重低音を響き渡らせ、微かなガスの臭いを残して、去っていった。

「いいじゃないの……」

 顔を緩ませた。

 そうして、懐かしくなる。

 三年前の、同じような寒い日を想う。




 深夜。窓の外から愛車を見下ろしていた。カワサキのダブロクだ。銀色のオートバイカヴァーが被されているが、それでも、眺めていると気分がいいし、「いつだって見ているぞ」と、窃盗団へのアピールにもなる。

 この街は、ライダーにとってはあまり治安が良いとはいえない。もっとも、団地周辺なんて、どこもそうなのかもしれない。この一年の間だけでも三件のオートバイ盗難事件が発生し、いずれも解決していない。未遂を含めれば八件だ。盗難車両はいずれも高級車…… というわけでもなく、年季の入った旧式の国産ネイキッドもやられており、ダブロクなんていうお手ごろな国産ミドルクラスだからといって、おちおち安心はしていられない。盗難なんて理由で、こいつとの関係を終えるなんて、これ以上の最低はない。

 ダブロクとの付き合いは、当時の恋人、今では妻であり母親でもある香織と同じくらいの付き合いだから、十二年になる。僕のもう一人の、恋女房である…… なんてことを言っても、香織は嫉妬も呆れもしない。僕は、幸せ者だと思わなければいけない。 

 時計の針は天辺を過ぎ、香織も、小さな娘も眠っていて、台所の冷蔵庫の動作音が聞こえるほど、他の音はない。

 部屋の電気は消している。団地のあちらこちらにある小さな明かりだけが僕を照らす。

 冬の醍醐味である澄んだ夜空に輝く星たちは、二十代のツーリングで何度も栃木や福島の見た自然に囲まれた星空には敵わないが、平坦な埼玉にある団地から見えるこれも、決して悪くはない。

 冷たい風が流れ込んできた。身震いする。タバコを吸いたくなる。が、誘惑を押し殺す。家では吸わない約束だし、もう、本格的に減煙をしようと努力をしている。禁煙ではないのが、我ながら情けない。

 鼻から息を吸い込み、煙のように口から白い息を吐き、タバコを吸った気持ちになった。

 我が家は団地住まいの貧乏家族で、“大黒”と頭に付けるのは過言な、それでも一家を支えようと必至な柱である僕は、タバコなんて、金持ちの愛好品だと思うべきだ。

 けど、オートバイに乗っていると吸いたくなるのだから、まったく困ったものだ。夜の交通量の少ない道を流し、コンビニで休憩する時、缶コーヒーを口にしながら、吸う。また、心地よいワインディングロードを抜けて行き、ふと、山と川の自然の景色をゆっくりと楽しもうとして、停まった時に、吸う。キザなライダーでありたいと思うと、タバコは欠かせないアイテムで、吸っている自分を格好良いと思い、物語の主人公になることができる。タバコは体に悪いけど美味しい、ということ以上の、キーアイテムなのだ。

 ライダーはみな、ナルシストだ。

 オートバイは、ライダーの体を露出して操る乗り物だ。だから、体系とか、服装とか、姿勢なんかまで周りから見られて、格好の良し悪しを判断される。

 良く見られたいライダーは努力をする。ダイエットをしたり、ライダースやツナギをビシッと着こなしたり、道を譲ってくれた車に「サンキュー!」と、手をあげて挨拶したり、そうして、気分を良くしてオートバイを楽しむ。何も、風や自由、スピードを感じることだけが、魅力じゃない。ナルシズムに浸れるのも、魅力なのだ。

 気分が高揚してきた。以前の僕だったら、こんな冬の夜でも夜の道を走りに出かけていた。しかし、今の僕は香織と小さな娘を養う一家の柱で、できることならば、団地暮らしを脱して三人でマイホームに住みたいと、夢も抱いている。可能な限り、二人と夢のために、お金と時間を使いたい。だから、こうして窓の外から愛車を見下ろして、恋女房が盗難されないか心配で、見張るだけで、満足しなければならない。

 夜、一人でいると、最近は頻繁に思うようになってしまった。ダブロクが、僕ら家族の生活にとって、本当になくてはならない存在なのか…… と。

「もう、頃合じゃないか?」

 と、心に自分の声が響く。

 そんなことはありえないと、軽く首を横に振った。

 夜の静寂が、迷いを無駄に増幅させているだけに過ぎない。

 あのダブロクがそこにあることを眺めているだけで、こうも満足できる。

 もう、あと、タバコ二本分を吸うくらいの時間だけ見張ったら、眠ろう。


 六時前に目が覚めた。目覚ましが鳴るよりも三十分くらい早い起床だ。それでも香織はもう起きて、朝の支度をはじめている。娘はまだ、可愛い笑顔をしてスヤスヤと、夢の中にいる。

「おはよっ」

 台所で味噌汁を作る、香織の背中に声をかけた。

「おはよう。最近は起きるのが早い日が増えたんじゃない? ギリギリまで寝ていればいいのに」

 背中はそのままに、爽やかな笑顔だけをこっちに向けて、香織は言った。 

「寒いから眼が覚めちゃうのかなぁ。それとも、僕も、もうおじさんだから、早起きになってきたのかもなぁ」

「何言ってるのよ。じゃあ、年上の私はもう随分なおばさんになったっていうの?」

「そんなことないよ。まぁ、でも、もし君がおばさんになったとしても、素敵に変わりっこない。確か、そんな歌があったね」

 森高千里の『私がおばさんになっても』のサビを口ずさみながら香織の背中に近づき、腰に触れた。

 香織は少しだけ、びくんと驚いて、包丁を置いて、それから笑った。

「もう、ほんと、慶介君って古い人。まだ三十になったばかりなのに」

「そうかい? この曲は九十年代前半だよ」

「だとしても、慶介君、その時いくつ?」

「うーん、幼稚園か、それか小学生に入ったばかりかな?」

「同級生であなたと音楽の趣味が合う人いるの?」

「まぁ…… いないかな」

 二人で笑った。

 僕は自分の世代よりも随分と古い音楽が好きで、森高千里のようなアイドルにはまだそんなに詳しいほうではないが、欧米の七十~八十年代の音楽が主食だ。「ヴィレッジ・ピープル」とか「アースウインド&ファイア」とか、「アラベスク」、「ノーランズ」といった、ディスコミュージックグループが特に大好物だ。自分の世代にピッタリの音楽については、はさっぱりだ。

 伯父の影響だ。彼はレコードの収集家で、また、アイドルオタクでもあった。自宅で執筆をしている人で、僕の両親が二人で出かける時は、よく伯父に預けられて、彼の好きな音楽を一緒に聴いたものだった。そうして、僕の好みは伯父を真似るように形成された。大好きな伯父だったが、僕が中学生の時に彼はアメリカに引越して、疎遠になった。

 香織を素敵だと思うのも、僕の好みの表れでもある。香織は僕を古い人だと言ったが、彼女こそ昭和初期に描かれた小説に登場する、夫に従順な古い女性のようだ。香織は出会ったころから清楚で、声を荒げたり、誰かの悪口を言ったところなど見たことがない。いつも自分をひかえていて、僕に反感を持ったことすらない。

「そういう君だって、エプロンして、台所に立って、古臭い昭和の妻って感じじゃないか。包丁の音をトントン響かせて、味噌汁なんかつくってさ」

 褒めたつもりだが、嫌味ったらしく聞こえたかもしれない。

「奥さんって、いつの時代もこんなものでしょ?」

 香織は、しれっと答えた。 

「そうでもないよ。君みたいな奥さんは、今の日本じゃ天然記念物だ」

「そうなの?」

「そうだよ」

 香織は本当に、できた妻で、僕なんかには、もったいない。


「いってらっしゃい!」

 香織と小さな娘が窓から手を振った。

 左手を軽く上げて、こくんとうなずいた。

 白息を漏らしながら、ダブロクを駐車場の外まで押し歩く。ワンサイズ上のショット製シングルライダースを着て、その下にはアウトドア用の薄手ながら保温性の高いダウンジャケットを着ている。首にはネックウォーマ。下はジーパンだが、その上にオーバーパンツを重ねている。足はレッドウィングのエンジニアブーツ。ヘルメットはバブルシールドを装着したアライのジェットタイプ。グローブはカドヤのレザーと、防寒インナー手袋を組み合わせている。通勤だが、ツーリングとも言えるような、バッチシ決まった格好だ。

 ただ、いずれもかなりの年季が入っおり、特にライダースとブーツ、グローブは中々のやれ具合だ。十年近く使っているのだから、仕方がない。

 駐車場の外まで押し切ると、サイドスタンドを立て、キーをオンにして、セルは備わっているが、あえてキックでエンジンを始動した。ノーマルマフラーの穏やかで心地良い低音サウンドが響き渡り、内部の水蒸気が白煙となって排出され始めた。

 軽くエンジンを温めるため、しばらく愛車を眺めて待つ。

 十二年経っても、惚れ惚れする姿だ。シンプルなダブルクレードルを骨格として、地面に対して直立するバーチカルエンジンを搭載する。左右のシリンダーから一つずつクロームメッキが施されたされたエキゾーストパイプが左右後方へと伸び、キャブトンマフラーへと至る。下手な細工はなく、地面に対して水平。実に男らしい。

 クロームメッキといえば、ワイヤースポークホイールを覆う前後スチールフェンダーも、近年主流の樹脂フェンダーと比べて卓越した輝きと重厚さを放つ。顔にはトラディショナルなレンズカットヘッドライトが選択され、曲線を基調としたラインに作りこまれたエンブレムとニーパットを備えたフューエルタンク、フラットながらホールド性の高いタックロールシート、そしてテールへと流れる。シートのリア部には小さなバッグを取り付けており、流麗なスタイリングをやや崩しているが、ここには大切な愛妻弁当が入っている。

 古き良き英国車をモチーフとしているのが、カワサキWの血統であるが、半世紀を越える歴史から、もうこれはカワサキならではの美しさとも十分に言える。僕はこの完成されたノーマルスタイルが好きで、大きな追加装備といえば、愛妻弁当が入ったリアのバッグと、左後方に設置したデグナーのレザーサドルバッグくらいだ。

 その美しさを再確認したところで、エンジンの暖まり具合も良くなり、車体に跨る。身長一七五センチの僕の足はブーツのヒールでさらに高くなって、両の足の裏がべったりと地面につく。太ってはいないが中肉中背でがっちりしていて、ダブロクのサイズは僕に最高にピッタリだと自分で思う。

 クラッチレバーを握り、ギアをニュートラルから一速へ。慣れた手つきでクラッチレバーをリリースしていくと同時にスロットルを開きはじめ、緩やかにスタートした。


 オートバイは、最も凍える通勤手段だ。

 冬の早朝の容赦ない寒さは、走行風となることでさらに厳しさを増し、着込んだ上からでも体温を徐々に奪っていく。それは、大きなレストランの厨房にある、特大冷凍庫の中にいるような過酷さと僕はよく例えるが、実際のこの極寒世界は、ライダーにしか分からない。だが、それもほとんど毎日ともなれば、ある程度は耐性が身につく。

 忙しない通勤車両を避けるため、少し遠回りして、交通量がほとんどない農道に出る。信号がなく、その気になれば高速道路くらいのスピードも出せるような平坦な道だが、そこを法定速度で走る。スピードは好まない。速度が増すほど寒いし、なによりダブロクはスピードを求めるオートバイじゃない。

 バックミラーに白いワゴン車が映った。僕は車線左側いっぱいに寄り、スロットルを戻し、ブレーキをややかけて、四速へとギアを落とした。ワゴン車は、大きく膨らんで僕を追い越すと同時に、ハザードランプを点灯させて、「ありがとう」と挨拶した。週に二、三回は、あのワゴン車と時間帯が一緒になり、道を気持ちよく譲っている。

 スロットルを再び開き、車線中央に車体を移動する。あんまり回転数を高めないうちに五速へと入れ、再びトコトコと、ゆとりのあるフィーリングを楽しむ。こうやって一人で走っていると、ノーマルマフラーのサウンドも、十分すぎるほど官能的だ。

 穏やかな農道から、横の細い道へと入り込む。アスファルトの路面は年季が入っており、両脇は崩れかけ、軽トラですら通れるだろうかという道幅で、対向車が来れば完全にお手上げだが、まずそれはない。僕が見つけたとっておきのルートで、その先はいくつか、オートバイでもなければクリアできない難所があって、特別にどこかに近道となるわけでもないから、クルマは通らない。

 細い道を進んでいくと、右へ左へと曲がりくねる道がいくつか現れる。教習所のクランクや、S字コースのようなものだ。そこを、適切なスピードとギアを選択し、車体の傾きと上半身の動きを駆使して、巧みに抜けていく。

 続いて、川沿いの道に向かう。土手を上るため、えらく急な坂道があらわれる。シートから腰を浮かせ、前かがみになってそこを上りきるのだが、たまに、途中で停止して、坂道発進を楽しむ。ギリギリまでクラッチをリリースしてゆき、動力が駆動系へと伝わり、エンジンの鼓動が弱くなっていく。エンスト手前のタイミングを見極め、スロットルを適度に開いてやって、トットットットッと、リズミカルな鼓動と共に上りだす。

 水辺の冷たい空気が停滞する土手道を進む。増した寒さに体を強張らせる。

 道には石ころが転がっていて、それを車体を操って避けながら走る。これもまた教習所を思い出す。スラロームだ。

 砂利道も所々あって、速度を落として、シートから腰を上げ、バランスを取りながら進んでみる。サスペンションと同じように、肘と膝を使って、体にかかる大きなショックを和らげる。

 土手道を抜け、まともな一般道に戻ると、舗装路のありがたみを感じて加速するが、やはり法定速度を大きく越えることはない。

 毎日というわけではないが、「オートバイはスポーツだ!」と、こうやって面白い通勤路を選択しては、オートバイらしい走りを満喫している。

 オートバイに乗リ続けている限り、僕は自分をスポーツマンと言う。


 職場に着くと、屋根付き駐輪場の一番奥、絶好のスペースにダブロクを停めた。良い場所を確保するために、わざと早すぎるくらいに到着するように家を出ている。あんまり遅いと、駐輪場に自転車が雑に置かれてしまい、オートバイが入るほどの隙間がなくなってしまうし、自転車とぶつかりかねない。駐輪場に停められなければ、雨風埃にさらされてしまう。十二年もの付き合いの恋女房に、そんな可愛そうなことはしたくない。香織を仕事の間ずっと、雨風埃にさらすのと同じことだ。

 キーをオフにして、エンジンを止める。外気との温度差からカチカチとエキゾーストが独特の金属音を発する中、屈伸や背伸びで冷えた体の血流を取戻していると、同じくオートバイ通勤の同僚が一人、二人と現われる。挨拶を交わして、「寒いですね!」なんて、この季節は毎日同じようなことを言い合いながら、一緒に作業場へと向かう。


 仕事は、天職と呼べるほどのものではないが、稼ぎも休みも安定しており、家族のために働くには良い場所だと腰を落ち着けることができ、かれこれ六年目になる。

 それまでには、様々な職を点々とした。デパートの従業員や、深夜の警備員。趣味を生かしてバイク便ライダーも経験した。手に職をと考えて、無謀にも革職人に弟子入りしようとしたこともあったが、香織が妊娠したことで諦めた。諦めきれずに革靴の修理をはじめてみたが、収入が低くて未来は見えずにいた。そんな時に、工業高校の同級生の誘いで今の会社に就職することになった。

 溶接の仕事をしている。まったくの素人からの入社で、最初はもっぱら雑用だったが、同級生の計らいで休憩時間やサービス残業を利用して、溶接の腕を磨かせてもらった。入社して二年経ったころには仕事への姿勢を認めてくれる人もちらほらと現われ、今では欠勤すると迷惑をかけてしまうほど、頼られる溶接マンの一人となった。気がつけば、手に職を実現していた。

 最近は仕事量が控えめで、時間を持て余すことが多い。そんなときは決まって、職場のオートバイ乗りはこっそり集まり、ツーリングやメンテナンス、オートバイ情報誌を広げて最新の話題について語らう。

 今日は拓郎さんの新しい相棒の話が中心だった。

「拓郎さん。どうです? 現行ハーレー、ツインカムの味わいは?」

 僕は拓郎さんに尋ねた。

「いやぁ。快適だよ。ショベルとは別物だ。当たり前だけど。なんていうか、ハーレーに乗ってるって気がしない。ホンダとまでは言わないが、ヤマハのV型二気筒に乗ってる感じがするなぁ。ロードスターとかさ。まぁ、実際比べると、てんで違うんだけどな。それはともかく、高速のロングツーリングには最適だわ。俺みたいなジジイは、もっと早く乗ってりゃ良かったなぁ。かみさんとも安心してタンデムできっかんな。この間の日曜だって、かみさんとタンデムで那須まで行くかって東北道をひた走るかってなったわ。んまぁ、寒ぃ! ってんで、途中のサービスエリアであったけぇもん食って、帰ってきちまったけどな。どうせならウルトラでも買っちまえば良かったな! ありゃ、あったけぇし。値段でびびっちまったけど、今じゃ、ちっと後悔してら」

 拓郎さんは五十台の金属工で、それも六十歳に近い。頭は寂しいもので、ブルースウィリスのように潔く坊主頭にしている。オートバイ歴は四十年以上で、中でも六十八年製のアーリーショベルを最も長く愛好しており、拓郎さんの分身のような存在だ。僕が尊敬するような懐古主義の持ち主で、仕事もオートバイも大先輩だから、「師匠」と、呼んでいるが、「そんな呼びかたやめれや!」と、拓郎さんは恥ずかしがる。

 こういう職場にいる熟練工は、言動が荒々しい、良くも悪くも“職人気質”というやつで、僕も最初、このような仕事場に対して臆病になっていて、実際に何人かはいまでもおっかない。でも、拓郎さんはまったく違う。言葉遣いは確かに、閉鎖的な男社会で培ってきただけはある汚らしさがあるのだが、怒鳴ったり、物に当ったりというのは、長い人生で一度もないらしい。温厚で、それでいて今の歳でも荒々しくショベルヘッドに跨る渋さもある。どこにでもいる地方のおじちゃんといった風貌なのだが、驚くほどの男の魅力を秘めている。

 拓郎さんは丈夫な男に見えるのだが、歳のせいか、二年前から足腰に不安を抱えるようになって、整形外科に通っている。ショベルヘッドの振動は足腰に容赦がない。だから乗る頻度も急激に落ちて、去年は数えられるくらいしか乗れず、エンジンだけをかけて自宅でアイドリング鑑賞をする日のほうが多かったという。

 それでもやはり拓郎さんはハーレーに乗りたくて、思い切って今年の秋に現行モデルを増車したのだ。モデルはファットボーイロー。二百万円越えの新車を一括現金購入である。

 僕に仕事を紹介してくれた高校の同級生も職場のライダーだ。乗っているのは軽二輪で、カワサキのエストレヤだ。スポーツクォーターモデルと比べれば性能は物足りないかもしれないが、高速も走れる十分なネオレトロモデルだ。単気筒特有の鼓動感も心地よく、エンジンルックスがダブロクと同じく、地面に対して垂直なのが美しい。

 この同級生もまた、面白いやつである。えらい浮気性で、普通自動二輪免許を取得してから十年の間でもう十台以上も乗り継いでいる。

「慶介のバイクって便利そうだな。俺も乗るかな?」

 僕がダブロクに乗っているのを見て、ある日そう言うと、その日のうちに教習所に向かい、入校してしまった。

 そうして教習所に通いはじめたわけだが、オートバイに向いてないのか、エンストや転倒を繰り返して、それでも奇跡的に免許を取得できた。

「バイクはなんかおっかねぇ。俺はスクーターでいいや」

 と、通勤で使えて安いからと、スズキの原付二種スクーターを納車した。

 しばらくすると、運転に慣れてきたのか、マニュアル車に乗りたがった。だが教習所のCB400SFに恐怖を抱いていたため、ネイキッドやスポーツは怖がり、ヤマハのドラッグスタークラシックを増車した。クルーザーモデルだ。これがやつの浮気人生の幕開けとなった。

 クルーザーは重く大きく扱いに困ると、半年で不満を漏らすようになった。この頃にはもうオートバイへの恐怖意識は無くなっていて、軽いバイクということでヤマハのトリッカーに乗り換えた。それが、今度は軽すぎて、おまけにガソリンもろくに入らないと、ついには敬遠していたヤマハのネイキッドに乗り換える。スポーツ熱がさらに高まり、モアスペックと、次はフルカウルを選択するも、自爆事故でバイクを半壊させ、売ってしまう。痛めた足をかばう形でビッグスクーターを数台乗り継ぎ、スクーターはつまらないと悟ると、スズキの異色ネイキッドのグラディウスでマニュアル車にカムバックする。

 しばらくして、大型二輪に興味を持ちはじめ、有給休暇を利用して合宿で免許を短期間で取得。同時にホンダのCB1100を購入した。これで落ち着くかと思いきや、また乗り換えを繰り返し、最終的には「でかいバイクは金がかかる!」と、軽二輪のエストレアに三ヶ月前に乗り換えたのだった。今のところ、やつは満足しているが、この先どうなるかは分からない。

 やつの浮気性は恋愛にも言える。実際に浮気をするわけじゃなく、どんな女性も好きになってしまうものだから、特定の交際相手を選べないのだ。

 先日、二人で走りに出かけたとき、やつはこんなことを言った。

「俺、結婚はもう諦めたわ。だって、絶対浮気するし。一夫多妻制ならいいのにな。俺からしたら、お前らよく一人に女を選べるなって、不思議だわ。でもなぁ、慶介。お前が羨ましいよ。まじで」

 ツーリングでよく行く馴染みのレストランに、可愛いウエイトレスがいて、やつは好意を抱いていた。でも、自分の性格を知っているから、店で話す以上に親しくなれず、結局その子は店を辞めてしまった。

 やつは、その気になれば、一人を愛することくらいたやすいと思う。物と人を、混同し過ぎているだけだ。でも、もしかしたらを考えると怖くて、臆病になってしまうのだ。


 昼食。食堂があるが、そこで料理が提供されるわけではなく、月額で契約して配達されるお弁当を、ほとんどの人が食べている。僕も最初はそうしていたが、節約のために香織に愛妻弁当をお願いするようになった。

 香織は毎日早起きして、朝食とは別に一時間もかけて弁当をこしらえてくれる。今日は、わかめご飯に卵焼き。アスパラとハムの炒め物、カボチャの煮付け、ほうれん草の胡麻和え、きゅうりの御新香。ミニトマト。可愛らしく盛り付けられている。香織と娘も、昼に同じものを食べる。離れていても、同じ時間に同じものを食べていることで、香織は家族の繋がりを感じて微笑んでいるに違いない。

 メニューは毎日変わるが、卵焼きだけは毎日欠かさず入っている。昔からの彼女の得意料理なのだ。付き合っていた頃、一人暮らしの僕のために、訪ねてきては料理を作ってくれて、卵焼きは自宅から持って来たマイフライパンで焼いていた。「これが一番美味しくつくれるの」と言い、仕上がりはお店が出せるくらいの美味しさだった。プロポーズの言葉は、「毎日、君の卵焼きを食べたいよ」だった。まさか、本当に毎日卵焼きを食べることになるとは、思わなかったが。

 職場の既婚ライダーは全員、愛妻弁当だ。みんな愛されていると同時に、お金に苦労している証拠だ。先に話した拓郎さんだって愛妻弁当だ。それだけでなく、現行ハーレーを一括購入は家計に相当な深手だったようで、二十年以上も失敗し続けたという禁煙と禁酒に今年はついに成功している。そうでもしなければ、奥さんに頭が上がらないのだと、苦笑いしている。

 オートバイ乗りは、多分、他の趣味を持つ人よりも自分を厳しく律している。ナルシストであり、ストイックでもあるのだ。

 だから、変に陽気になったり、臆病になったりして、面白い。

 僕はいい仕事を見つけられたし、気の合う仲間にも恵まれた。


 だが、職場のライダーたちの風当たりは、あまり良くない。

 百人を越える従業員の中で、趣味としてオートバイを愛好しているのは十一人しかいなくて、一割にも満たない。だから、趣味に対する言動が理解されなかったり、「あいつはバイクに乗ってるから金持ちだ」なんて誤解を生み、妬まれることもある。

 僕も、一部から快く思われていない。

「相変わらず、バイクで通勤かい?」

 花田センター長が仕事の中休みの時に話しかけてきた。

 彼は四十台後半の中年で、現場と営業の間を補完するセンター業務を任されている。もともと営業部門にいたため、現場に対する理解に乏しく、無茶で乱暴な注文が多い。そのうえ遅れが生じれば平気でサービス残業や休日出勤を提案する。現場からは嫌われている。実際、肩書きだけで能力は薄い。大層な身分でいられるのは、副社長の親しい友人だからだ。副社長も評判が悪い。

「はい。そうです」

 センター長の問いに、僕は素っ気なく答えた。

 彼はオートバイ通勤者の敵でもある。通勤はクルマ、もしくは自転車通勤にすべきだと訴えていて、その理由もくだらない。危険という理由なら分かるのだが、オートバイで通勤する者は仕事姿勢に欠けてると考えているのだ。「バイクなんかで通勤しやがって、仕事は遊び気分か!」と、思っている。まったく、馬鹿げている。

 僕らを理解しようとせず、それで時々こうやって、オートバイ通勤者に声をかけては、嫌味を言う機会を狙っている。

「ふーん。君は相変わらずクルマを持ってないのか?」

「ええ」

「雨が降ると大変だろう? それにこの時期は寒いだろうに」

「それほどでもありません」

 ここまでは何度も経験があるやりとりで、いつもなら、「ああそうかい」と、うなずいて去っていくのだが、今日はさらに言葉を続けてきた。

「うちはバイク通勤を認めてはいるが、だからって推奨しているわけじゃないことは、知っているよな? クルマ通勤に変える気はないのか?」

「そうですね。僕の経済力では難しいものですから」

「大きいバイクには乗っていてもか?」

「は?」

「だから、あのバイク、安くはないんだろう? あんなの買わないでクルマを買えば良かったんじゃないかってことだよ。中古車なら数十万でいくらでも見つかるだろう」

 ダブロクを“あんなの”と、言われて、眉をひそめた。

「もう十年以上前に買ったので、クルマを買えば良かったなんて言われても、ピンと来ません。それに、維持費はクルマに比べれば全然安いものですからね。クルマを買うよりも、良かったと思ってますよ」

 不満顔を隠さずに答えた。

 センター長の顔に、怒りが込み上げているのが明らかに分かった。腕を組み、大きく鼻から息を吸っては吐いて、少し考えてから、言った。

「雪が降ったらどうするんだ?」

「え?」

「だから、雪が降ったら、君はまた会社を休むのかと聞いているんだよ!」

 機械の作業音が響く工場内でも、みんなが振り向くほどの大声をあげた。

「それは……」

 周りの様子を覗きこむ視線に気がついた上司は小さく咳払をして、落ち着いて、続けた。

「バイクに乗ってるのは他にもいるけどな、他のやつらはみんなクルマに乗ってるだろう。その上でバイクだろ? 雪が降ったって、みんな、いざとなればクルマでちゃんと来れる。去年の君はどうだい? 大雪が降り続いて、二日も休んだだろう。君は言ったよな? すみませんでしたって。それで次の冬に備えて、クルマは用意しなかったのか?」

「……してません」

「この冬、また大雪が降ったらどうするんだ?」

「……」

 センター長は、さらに続ける。

「それから君さ、ここで働きはじめて、交通事故を何回起こした?」

「……三回です」

「ここに来て五年か六年か? その間に三回も事故を起こしてるなんて、君、バイクの運転に向いてないんじゃないか?」

「……」

 彼は、僕を打ちのめしたのに良しと思い、したり顔で、

「まぁ、そういうことだから、少しは周りのことよく見た上で、自分の立場を考えてみたらどうだ。君だって、独身じゃないんだろう? 我慢は本当に足りているか?」

 と、最後は肩をぽんっと叩き、いかにも僕のためを思って声を荒げたのだと言わんばかりの満足な表情を浮かべ、気持ちよく去っていった。




 残業もなく仕事を終え、センター長に“あんなもの”と言われたダブロクのエンジンを、セルボタンで素っ気なく始動すると、さっさと職場を後にした。

 同僚に励まされ、気にはかけてくれたが、今日は一人になりたかった。

 片道約十五キロの通勤はもっぱら、ダブロクだ。後は、こいつを整備していたり、気分転換で自転車を漕ぐこともある。金銭的事情から、クルマは所有していない。うちの稼ぎは僕にかかっており、香織は事情があって働けない。

 昨冬、雪の日に二日ほど休んだのは間違いない。でも、無理やり自転車で行くつもりだったし、実際、六時に家を出て、時には漕ぐことが難しくなって膝まで雪に埋まりながら押し歩いたりして、五キロほど進んだ。そしたら先輩から電話があって「今日は無理しなくていいよ。どうせこれじゃ、暇になるだろうし」と言われ、引き返した。翌日も雪が降ることが分かり、夕方に今度は工場長から電話があり「明日は大丈夫だから、休んでも構わないから」と声をいただき、二日分を有給休暇にあてたのだった。

 事故の話も、センター長は少し勘違いしている。確かに六年間で三回のオートバイ事故に遭っているが、いずれも、もらい事故だ。相手の信号無視で軽く接触したのが一回目で、二回目は停車中のクルマが急にドアを開けたのでそれを避け、三回目は信号待ちをしていたら、後からぶつけられた。三回とも自分もダブロクも大した怪我ではなかったが、周りには大変な迷惑と心配をかけてしまった。けど、こちらが気をつけていても、もらってしまったという事故なのだから、不運としか言いようがない。運転に向いていないと言われるのには、納得がいかない。

 不満心から、スロットルをいつもより大きく開いてしまった。

 しばらく走り、コンビニでとまった。

 店内に入り、熱いブラックコーヒーを一本だけ手にした。

 レジでタバコに誘惑されたが、値段を見て、やめた。

 外のベンチに腰かけ、熱いコーヒーをひと口して、ため息をつき、頭を抱えた。

 センター長は、はっきりいって、大嫌いだ。オートバイとライダーを毛嫌いし、日頃から嫌味が耐えない。嫌味だったら、「あのやろう」とか「ふざけるな」と、同僚と愚痴を漏らしあって気を晴らすことができる。だが、今日、彼に言われたことは、嫌味の上だったとしても、正論だった。

 僕はなぜ、まだダブロクに乗っているのか? と、自問する。

 頭を上げて、ダブロクを見る。サイドスタンドに車体を預け、トリプルツリーが左に倒れこみ、ヘッドライトがなんだか、しょげた顔に見えた。

「そんな顔するなよ……」

 と、思わずつぶやいた。


 コンビニで三十分ほど、呆然と過ごし、帰宅せずに副業先のファミレスに向かった。本職の収入だけではままならず、デリバリーのアルバイトもしているのだ。

 いつもは、いったん帰宅してからアルバイトに向かう。残業がなければ十七時に仕事が終わり、家には十八時前には帰れる。香織と娘と三人で食事をして、それからバイト先に向かう。外で一人で夕食をして時間を潰したほうが楽だが、お金がかかる。それよりも、少しでも二人と一緒にいたいから、家に帰りたくなる。

 今日は、元気に顔を合わせる気持ちになれなくて、「今日はバイトに直行します。夕食は済ませちゃってください」と、香織にメールだけした。


「こんばんは」

 嫌なことなどはなかったように、普段どおりの声の調子でファミレスの休憩所に入った。

「あれ? 慶介さん、今日は随分と早くないですか? いつもギリギリなのに」

 昼から夕方までデリバリーで働いている美奈津ちゃんが座っていた。

「今日は職場から直行して、家には帰らなかったんだ」

 椅子に腰掛け、机にヘルメットとグローブを置き、レザージャケットとダウンジャケットを脱ぎながら答えた。暖房の効いた室内は、ものの数秒で暑苦しさを感じさせた。

「なぁに、夫婦喧嘩で帰りにくいとか?」

「馬鹿言わないの」

 美奈津ちゃんは、僕より年下で、二十六歳の女性だ。オートバイ仲間の一人で、彼女が十八歳から知っている。副業を探していた三年前にデリバリーの仕事を紹介してくれたのも、彼女だ。小柄でボーイッシュで、でもオートバイは巧みだ。愛車はヤマハのセローで、林道をこよなく愛するアクティブガールライダーだ。

「残念。誘惑してあげようと思ったのに」

 上半身を机に乗り出して、ニタニタ笑って言った。

「無理。僕は年上が好きだからね」

 まったく興味が無いよ、という顔で答えてやった。

「知ってますよーだ」

 美奈津ちゃんは良い意味で幼い。わんぱくで、淑やかな香織とは正反対だ。二人を比べるようなことはいけないのだが、つい、考えてしまうことがある。あまりにも対照的な二人だから。だからって、間違いを犯したいわけではない。たまにライダー仲間との食事会で美奈津ちゃんと香織が顔を合わせれば、二人はちゃんと親しく会話する。彼女はただ、僕をからかって面白がっているだけだ。

「今日、早出でしたっけ?」

 美奈津ちゃんが言った。

「十九時半からだよ」

「まだ全然じゃないですか。あ、良かったら早く出ません? あたし今日早く上がりたいの。今ならオーダー途切れてるし、いいかなぁ?」

「いいよ。それならこっちも稼げるし」

「やったぁ! これからナップス行きたかったんですよ! 友達と約束しててねぇ。あぁん、もうラッキー!」

 ぴょんぴょん跳ねて喜んだ美奈津ちゃんは、友達に連絡して、「今から行けるよ!」と喜び伝え、さっさと着替えてライダーの姿となり、休憩室を飛び出していった。

「慌てないで気をつけてよ!」

 彼女の背中に向かって言った。

 急に静かになったものだから、休憩室がとてつもなく寂しい空間になった。


 心が不安定な時に運転するのは危険だ。オートバイはスポーツだ。楽しいだけでなく、集中しなければ、痛い目に遭う。デリバリーは屋根付きのスリーターだから転倒はまずないが、撥ねられたり、ぶつけられたりすれば、命に関わる。

 その日の配達中は、昼間の一件が頭から離れず、運転がふわついていた。さすがに十二年間も、ほとんど毎日運転していたものだから、ちょっとした心のふわつきで、ドキッとする場面を生んでしまうほどではないのだが、万が一というのがある。ふわつき、気を引き締め、またふわついては気を引き締めるの繰り返しで、配達をこなしていった。

 二十一時頃、スリーターのスクリーンに雨粒が落ちてきた。予報外の雨だ。

「なんだよ。降るって聞いてないよ……」

 屋根付きのスリーターでも、横はオープンなので濡れるし、帰宅時も降っていれば、ダブロクで雨の中帰らなければいけない。どれだけ乗っていても、雨の中のライディングは嫌だ。悩む頭に追い討ちをかけられ、気が滅入っていく。

「美奈津ちゃん…… 降られたかな?」

 彼女を心配したが、雨など知ったことではないとツーリングする逞しい彼女なら、大した問題ではないと、すぐに思った。元気な彼女の姿勢が羨まししい。

 実は、僕には秘密があって、この美奈津ちゃんに、告白されたことがある。

 あれは、僕がまだ結婚する前、美奈津ちゃんがお酒を飲めるようになった年のことだ。香織と付き合っていることを知っていたのはライダー仲間のうち数名で、美奈津ちゃんは知らなかった。秘密にしたかったわけではなくて、ライダー仲間とは、純粋にオートバイだけを通じて親しくしていたのがほとんどで、それ以外の事は滅多に話さなかったからだ。

 お酒を飲みたいという美奈津ちゃんに応えて開催したライダー仲間の飲み会で、若気の至りでべろべろに酔っ払った美奈津ちゃんは急に、僕に迫った。

「ねぇ。私たち、付き合いませんか? 私、慶介さんのこと好きなんですよ? 二人ともバイク乗ってるし、まぁ、ジャンル違うけど…… 良いと思いません?」

 うつろな眼で、普段感じたことがなかった色気を伴って、体を寄せてきた。

「いやぁ…… それは……」

 と、返答に困っていると、彼女は僕の胸に飛び込んできた。

 強引な行動に驚いたが、それはただ、眠ってしまい、倒れこんだだけだった。

 翌日の彼女は酷い二日酔いで寝込み続け、その次の日になって、飲み会で随分と無茶をしていたことを伝えられ、反省していた。

 僕に告白したことは覚えていなかったし、僕も伝えなかった。でも、あれが美奈津ちゃんの秘めていた心だとしたら、いつまでも僕に交際相手がいることを秘密にしているわけにはいかず、すぐに香織を紹介した。僕らをお似合いのカップルだと喜ぶその顔に淀みは感じられなかったが、もしかしたら、傷ついていたかもしれないし、本当は、告白したことも、覚えていたのかもしれない。

 その後、しばらくして、僕と香織は婚約した。

 結婚後にそういうことがあった美奈津ちゃんと今、頻繁に会っているというのは、香織がその秘密を知らないとしても、負担かもしれない。趣味が同じで、職場が同じだからなんて関係なく、誰であろうと、夫が自分の知らないところで女性と二人で話をしていて、面白いわけがない。もし香織が外で、男友達と二人で会っていたとしたら、僕は一分一秒、正気ではいられないだろう。美奈津ちゃんとツーリングに行くこともある。「いってらっしゃい」と、香織は僕を笑顔で送った後に、ため息をついているのでは、ないだろうか。

 今の僕が香織以外の女性と過ちを犯すことは絶対にありえないのだが、告白すると、あの時、美奈津ちゃんが倒れこんできた時、一瞬、ほんの一瞬だが、香織と美奈津ちゃんを天秤にかけてしまった。

 香織とは、時々はタンデムをすることがあるけど、オートバイという趣味を完全に共有はできない。美奈津ちゃんとなら、一緒にオートバイライフをエンジョイできる。ライダーが結婚するにあたってオートバイライフを共有できるかできないかは、大きな違いとなる。僕はあの時、二人を天秤にかけ、美奈津ちゃんと一緒に走る将来を想像してしまった。こんな過ちは自分の胸の中にしまい続けるか、忘れてしまうのが大人なのだろうが、僕は弱いから、こうやって思い出してしまい、その度に、「ごめん……」と、心の中で香織に謝る。


 予報外れの雨は一時間振ったくらいで、二十二時に仕事を追えた頃には上がった。

 休憩室に戻り、同じ時間で仕事を終えたクルーとしばらく談笑し、見送った。

 僕は、暖房の利いた休憩室で、ぼんやりしていた。

 メールの着信音が鳴る。美奈津ちゃんからだ。

「降られたー! ぢくしょー!」

 ふふっと笑った。

 香織からもメールが届いているのに気がついた。

「雨、降ってますか? 大丈夫ですか? 気をつけて帰ってきてください」

 雨の日は大抵送られてくる内容なのだが、心が痛んだ。




 雨の上がった夜道、ダブロクを走らせ、こいつとの出会いを振り返った。

 バイトも部活もせずに時間を持て余していた高校二年の春のことだ。帰宅中、チェーン店ではないが、わりと大きなオートバイショップのショーウインドウの向こうに展示されていた一台に一目惚れした。

「このバイク…… いいなぁ……」

 オートバイなんて、その時まで興味を持ったことはなく、歩道を歩いていて、ふと横を見たら、それに目が止まり、何か運命を予感させる鼓動の高まりを感じたのだった。

 思い切って店内に足を踏み入れた。今ではすっかり馴染んだ油や金属、ガスの匂いが、大人の趣味の世界空間を思わせて、垢抜けない青年の僕の来る場所ではないと、緊張してした。

 場違いで、引き返そうとしたら、店員に声をかけられた。

「いらっしゃい!」

「あ…… すいません…… 高校生は入っちゃまずいですよね……」

 僕は犯罪者になった気がして、制服を見られて学校に通報されるんじゃないかと、恐怖した。だが、店員は、すこぶるにこやかだった。

「そんなことないよ。高校生でも乗っている子はたくさんいるからね。何か気になるオートバイでもあったかな?」

 近所の優しいお兄さんのような親しい雰囲気に緊張が解れ、

「あの…… 実はあのバイクが気になりまして……」

 と、指差した。

「お、若いのに渋いセンスだねぇ。あれは、カワサキのダブロクだよ」

「ダブロク……」

 店員は、「さぁ、おいで」と、手招きし、案内してくれた。

「こいつは売れ筋の一つだよ。大人向けなんだけど、最近は若い子にも人気だよ」

「へぇ……」

「跨ってみるかい?」

「え? いいんですか?」

「もちろん」

 車体の左側に立ち、中学生の時に乗っていたマウンテンバイクを思い出し、右足を大きく蹴り上げてシートを跨ぎ、両の手でハンドルグリップをしっかり握り、腰をシートに降ろした。

「車体を支えてごらん」

 と、言われ、サイドスタンドにもたれかかっていた車体を持ち上げ、地面と垂直にした。

両手にずしりと金属の塊の重みを感じた。少しでも気を抜けばこれは自立できず倒れてしまう。そこに責任と、一体感を得た。鳥肌が立ち、顔は自然とほころんでいた。

「気に入ったかい?」

「えぇ…… たまりません!」

 その後、店員は二時間近くもオートバイについて僕に語ってくれて、残念ながら僕の年齢ではまだダブロクに乗れない事も教えてくれた。そして、僕がどうすればダブロクに最も早く乗れるかも説明してくれた。店を出る頃にはすっかりオートバイ、正確にはダブロクの虜になっていて、店を出る頃には、今では当たり前となった“バイク”という呼び方はしなくなり、“オートバイ”と、呼ぶようにもなった。

 実際にダブロクに乗るには、先に普通自動二輪免許を取得して、十八歳になって大型自動二輪免許を取得するまで待つこととなったが、この時に、必ずダブロクに乗ると強く決意した。

 あの時に見たダブロクを手に入れたかったが、人気車両だからしばらくして売れてしまった。だが、あの時とまったく変わらないダブロクを、大型自動二輪免許取得と同時に新車で購入した。

 僕のその先十年以上の人生が、ショーウインドウ越しにダブロクを見たこの日に決定した。高校卒業と同時にダブロクとのオートバイライフが始まり、香織と出会い、結婚して、娘が産まれた今でも、かけがえのない存在であり続け、単なる無機質な乗り物なんかじゃなく、生き物だった。

 エンジンが限界を迎えるその時まで、共に歩むことを疑わなかった。

 悩むことはあっても、昨日までは、疑わなかった……


 団地の駐車場手前で、エンジンを切る。車体から降り、駐輪スペースまでして歩く。

 歩道と駐車場の間には緩やかな坂があり、そこを力を込めて押し上る。ほんのわずかな傾斜も、動力を失ったオートバイを押すには困難で、いつもよりそれが辛く思えるのは、寒さとか、疲労だけでは決してない。

 屋根のある駐輪スペースまで押すと、サイドスタンドを立て、ハンドルを左に切る。また、ダブロクの顔がしょげた。

 階段の明かりで薄っすらと垂らされるダブロクを、しばらく眺めた。

 十二年間の付き合いで、随分と傷を増やしてしまった。大きな傷は、大抵が交通事故によるものだ。右側エンジンガードが削れ、同じく左側のステップ、グリップエンド、ミラー、マフラーに深い擦り傷がある。リアフェンダーとナンバーは、曲がりを雑に修正したのがバレバレだ。タンクは綺麗だ。シートを撫でると、野良猫が爪を立てた後が分かる。シートを被せるのを忘れた時に、やられた傷だ。車体左側は、立ちゴケ経験があるが、エンジンガードのお陰で綺麗なもので、左後部にはデグナーのレザーサドルバッグが装着されている。これは、香織が一年目の結婚記念日に奮発して、プレゼントしてくれたものだ。明るいタンカラーだったが、良い感じで飴色に育ってきた。メンテナンスも怠らなかったから、今日の雨もしっかりと弾いている

 眺め、最後にタンクを愛おしく撫でた。


「ただいま」

 玄関を静かに開けて、声をかけた。

 居間のドアが開く音がして、香織が小走りしてきて、

「おかえり。雨、大丈夫だった?」

 と、いつもの、心配顔で言った。

「うん。大丈夫。帰りは降られなかったよ」

 香織は「良かった」と、微笑んだ。


「ご飯は食べてきたんでしょ?」

 バイクカヴァーとロックを持ち出して、ダブロクにしっかりと盗難対策をして、玄関に戻ってきた僕に、香織が言った。

「あ、そういえば食べてないや」

「ええ! お昼からずっと食べてないの?」

「うん。忘れてた」

「忘れてたって…… お腹が空くのを忘れるって、どうしたのよ?」

 本当に忘れていた。考えごとが体中にいっぱいあって、腹が鳴っていたかさえも覚えてない。

「まぁ、節約になっていいじゃない」

 そう答えると、香織は呆れた。

「どうする? ごはん、少し食べる?」

 お腹に手をあて、空腹具合を確かめる手振りをした。

「そうしようかな? 明日は日曜日だし。どうせ、ビールも飲むことだし」

 土曜の仕事終わりは決まって、缶ビールを一本だけ飲むのが楽しみだった。

 香織は台所に向かい、支度をはじめ、僕は、娘の寝室を覗いた。気持ち良さそうに眠る呼吸が聞こえた。キスしたり、抱きしめたかったけど、起こしては悪いと、すぐに、そっとドアを閉めた。

 お風呂で冷えた体を温めて疲れを癒し、着替えを済ませて台所に行くと、テーブルの上にマグロの刺身があった。

「あれ? お刺身なんて珍しいね」

 ちょっぴり驚いた僕に、香織は今朝の残りの味噌汁を温めながら、嬉しそうに答えた。

「ふふふ。でしょ? 今日の夜ね、あなたに何かおつまみでもって買いに行ったら、お刺身が半額だったの。それでね、キハダじゃないのよ。本マグロ! 奮発しちゃった。あなた、マグロ好きだし、久しぶりでしょ?」

 本マグロといっても、閉店ギリギリまで売れ残ったもので、多分スーパーの安いものだから、裕福な家庭からしたら大層なものじゃなくて、団地住まいの苦労人の僕らだから驚くもので、香織は、それでも無邪気な少女のように嬉しい顔をして、「凄いでしょ!」なんて大げさに言う。可愛らしいとか、健気とか、哀しいとか、ひっくるめて、香織を尊く想った。

「本マグロかぁ。ありがとう」

 笑顔を見せると、香織もいっぱいの笑顔で答えた。その顔は、出会った頃と変わってないと思ってたけど、確実にシワが増えている。

 涙が溢れてきたので、探し物をしにいくふりをして、その場からいったん逃げた。


 香織は身体が弱い。

 幼い頃から身体が弱く、友達は少なかったという。走ったり、スポーツしたりは難しくて、今でも一人で外出は、ほとんどすることはない。団地のあの部屋で、買い物以外はほとんどを過ごしている。楽しみといえば、子育てに、料理や編み物、ベランダの小さな家庭菜園だ。マイホームを早く手に入れたく思うのは、香織にもっと窮屈をさせることなく、家で過ごさせてやりたいためだ。

 無理ができないから、働くことも難しい。「働きたい!」と、何度か求人広告を持ってきて僕に見せてきたことがあるが、「やめてくれ」と、首を振り続けた。外で働くことは諦めて、家でできるパソコンワークと、編み物をネット販売して、毎月一万円ほど稼ぐようになった。これが彼女にできる、精一杯だ。

「ねぇねぇ、この間作った赤ちゃん用の帽子、三つも売れたよ!」

 と、先月は大喜びしていた。

 材料費を抜いたら、得られた収入は、小銭でしかない。

 香織は綺麗だし、僕なんかと恋愛結婚をしなければ、上手いこと婚活して、身体が弱くたって稼ぎの良い男に嫁げたはずだ。贅沢な暮らしもできて、半額の本マグロをはしゃいで自慢したり、小銭を稼いで満足する妻にならずにすんだ。


 香織と出会ったのは大学一年の初夏だ。大学で知り合って意気投合した友人に、「彼女が欲しい!」と話をしたら、「親戚にいい人がいるんだけど、会ってみないか?」と、紹介されたのだった。

 初めて会った香織は、小柄ではないが、とても華奢で、淡い黄色をしたワンピースを着ていた。髪の毛は真っ直ぐな黒髪で、真ん中で分けて胸の高さまで伸びていた。目は一重なんだけど厳しくはなくて、大きくて穏やかで、唇は薄く横に伸びて、口角が自然と上がっていた。年上の清楚な女性でありながら、無垢な少女にも思えた。友人の身内と付き合うなんて堅苦しい気がしていたのだが、一目見て、彼女を守りたいと感じた。

 確か、三回目に会った時だ。僕がオートバイに乗っていることを話したら、

「オートバイって、風、気持ち良さそうですね」

 と、興味を見せた。

「良かったら後ろに乗ってみますか?」

 簡単な気持ちで誘うと、少し迷って、「うん」と答えた。

 後日、彼女にしっかりと装備を身に付けさせて、後ろに乗せて、身体が弱いことを知っていたから、彼女の家の近所を教習所のように丁寧にタンデムした。時間にして、たったの十分くらいだった。でも香織は、それだけで、自分の世界が大きく広がったようで、目を輝かせて、涙まで浮かべた。

「このオートバイ、なんていうんですか?」

「カワサキのW650って言うんだけれども、“ダブロク”って略してます」

「ダブロク?」

「うん」

「私も、ダブロク、乗れますか?」

「うーん、どうかなぁ。オートバイはさ、倒れた時に、自分一人で起こせないと乗ることはできないんですよ」

「……じゃあ、無理ですね」

 残念そうに言った。

「……乗りたい時は、僕がいつでも乗せますよ」

 告白としては曖昧な言葉だったが、僕が言いたいことは、香織にちゃんと伝わった。

 僕がダブロクに乗り続けるのを認めているのは、僕の趣味に寛大なだけじゃなくて、二人の思い出が詰まっている、香織のダブロクでもあるからだ。


 でも、今でもそれは言えるのだろうか?

 僕は三回も事故に遭って香織を泣かせてしまった。

 雨が降るたびに、心配させてしまう。

 走りに出かければ、女の気配を不安を感じていたのではないか。

 今でも“二人のダブロク”だなんて、言えるのだろうか?


 軽い夜食を済ませ、半分くらい残しておいた本マグロをつまみに晩酌をはじめた。香織はビールを飲まないから、紅茶で、僕の晩酌に付き合った。いつものように、お互いこの一週間におきた話を次から次へと話した。楽しかったことも、嫌だったことも。

 ひとしきり、話し終え、落ち着いたところで、改まって香織に言った。

「あのさ…… ダブロク、手放そうと思う」

 香織は驚かなかった。でも、返す言葉にしばらく詰まってしまった。

「どうして?」

「先月、お世話になってるバイク屋にメンテナンスの見積もりをお願いしに行ったらさ、随分と金額がかかりそうだったんだ。あちこち、がたがきているからって」

「うん」

「それで、もし買取りってなったら、いくらくらいになるかってためしに聞いてみたら、常連だからって、他じゃ絶対ありえない高値をつけてくれたんだよ」

「手放しちゃったら、通勤はどうするの?」

「職場の人がね、『小さいスクーター欲しくないか?』って前から言ってるんだ。持て余してて、売っても一万円にもならないから、欲しいならって、まだ取っておいてもらってるんだ。それで通勤するよ。維持費も燃費も良いから、今よりかなり節約になる」

 香織は黙って聞いていた。

「それから、いずれはクルマを買う。そうすれば通勤に使ってもいいし、子どもが大きくなれば絶対に必要にはなるだろうから。ダブロクはその資金の手始めにする…… って、僕は考えてるんだけど、後は君の気持ち次第で決めたいんだ」

「私に答えを委ねるの?」

「君のダブロクでもあるから」

 その言葉を聞いて、香織の目に涙が急に溢れて、大粒の涙が落ちた。顔を伏せて指先で涙を拭うも、収まりがきかず、ティッシュをあてた。

 僕は見守って、静かに、彼女の答えを待った。

 やがて、鼻をすすり、声を震わせながら、でも、微笑んで答えた。

「そうね…… それがいいのかも」




 そうして、三年が経った。

 最近は、歩くのが好きになった。オートバイに乗らなくなって、随分と身体が鈍ってしまった。やっぱり、オートバイはスポーツだった。

 ダブロクはあの後、思い出にと二人で一回だけタンデムして、手放した。香織からプレゼントされたレザーサドルバッグだけは記念に残した。三ヵ月後に中古の軽自動車を買った。しばらくは職場の人にもらったスクーターで通勤していたが、快適さに負けて、クルマ通勤になった。ガソリン代は高くつくが、そのほうが香織も安心してくれる。月に一度は、家族でドライブに行くようになった。念願のマイホームは、もうちょっとかかりそうだが、そう遠くない未来だと思う。

 職場のオートバイ仲間とはツーリングこそ行けなくなったが、バイクショップや量販店に行ったり、ミーティングをしたりと、相変わらず良い付き合いをしている。美奈津ちゃんは僕がダブロクを手放したしばらく後に、オフロード仲間と結婚してバイトを辞めた。メールは来なくなった。

 そうそう。あの嫌味好きの上司に「クルマを買いました」と報告したら、にんまり顔で、僕の背中をパシンっと叩き、「そうそう、それでいい!」と、満足そうだった。


「もっと時間をかけて考えてもいいんじゃないか?」


 たった一日でダブロクとの別れを決めてしまった僕に、心配してそう声をかけてくれたライダー仲間はいたし、自分でも思った。でも、あの日、思い切って決めて良かったと思う。もし、香織に話さず次の日を迎えていたら、ダブロクの姿を見た時、「やっぱり手放せない」と、考えを改めていたことだろう。


 たまに、ダブロクが恋しい。でも、後悔はしていない。

 いつか、また、乗ると思う。マイホームのローンが丁重で、子ども大きくなって、拓郎さんみたいに一括現金でぽんっと買える余裕が出来たら、乗りたい。生産終了してしまったし、中古でしか手に入らないが、それでも、乗りたい。


 先ほど通り過ぎていったダブロクの音が、まだ微かに聴こえる。


 いや、僕と香織のダブロクの音が、ずっと耳に残っているのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二人のダブロク じんくす @jirennma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ