戦場からのメリークリスマス

じんくす

戦場からのメリークリスマス

   愛するリリアンへ




 メリークリスマス。




 こんな書き出しの手紙に、君はきっと、とっても驚いていることだろうね。僕らが出会ってもう四年が過ぎたというのに、まぁ、そのうちの半分位は僕が入隊しちゃったからほとんど会えていなかったけれども、とにかく、普通の恋仲だったら、これまでクリスマスを一緒に迎えることができたというのに、「メリークリスマス」と、君に伝えたのは、今回が初めてだ。“君に伝えたのが初めて”なだけじゃないよ? 僕が生きてきた人生の中で“初めて誰かに伝えたメリークリスマス”なんだ。だから、君よりもずっとずっと、僕の方が驚いている。それもまさか、こんな戦場から伝えているんだから、なおさらだよ。いや、こんなところだから…… かもしれないね。


 とりあえず、いつも書いている手紙のように、今の状況から伝えるよ。君はテキサス出身の“カウガール(タフな女の子って意味だよ)”だし、嘘は大嫌いだとも知ってるから、僕も正直に素直な気持ちを伝えられることを嬉しく思うよ。もちろん伝えられる範囲ではあるけれども。


 今はありがたいもので、時間と場所に恵まれているから、たくさん書けそうだ。




 僕は今、とても寒くて、雪が降り積もって真っ白な、ヨーロッパの“どこか”にいる。戦争でもなければ、静かで穏やかないいところなんだろうな。詳しい地名は書くことができないけれど、もう少しで戦争を終わらせることができる“あとちょっとのところにいる”とだけは、伝えても差し支えがないと思う。僕らは終戦に確実に近づいている。これは間違いないから安心して。


 でも、僕らは随分と長い間、この寒くて真っ白い、細長く背の高い木がたくさん生えている森に留まり、森を抜けた先にある村に駐留するドイツ軍とにらめっこ状態にある。現状をどうにかしようにも、人員も物資も心持たない。基本的には静かなものだよ。ただ、時々、ドイツ軍が嫌がらせの砲撃を仕掛けてくるからね。穏やかだとは言えない。僕らはそれから逃れるために、カチコチに凍った地面を掘って作った、たこつぼにもぐり、息を潜めている。かくれんぼみたいで、中々楽しいよ。ここが戦場で、とても寒いことを除けばね。ハハハ。

 

 たこつぼの中で、みんな子どものようにはしゃぐ時がある。寒さをしのぐために、小刻みに動いて、くだらない話を続けるんだ。どんなに有意義に過ごそうと思っても、毎日それが続くと、くだらないじゃれあいになる。時間を持て余してるんだ。僕らはもうタバコもアルコールも嗜むし、いい大人だ。でも、精神的には無邪気な十二、十三歳位に戻っている。


 でも、子どもだってやるべきことはやる。だから、戦争はゲームだと言う人の気持ちも、分からなくはない。撃って走って潜って避ける。戦争が終わって半世紀もすれば、きっと戦争は娯楽になっているかもね? 周りの連中は「ありえないね」って言うけれども。


 今日の午前中のことだ。大砲の音が一つ、二つ、三つ、と、連続して鳴り響いた。森の先の町に駐留するドイツ軍の、定期的な砲撃だ。


「来るぞ! 身を隠せ!」


「退避しろ!」


 と、僕も、誰もが叫んだ。


 外に出ている者は、みんな近いところのたこつぼに飛び込んだ。僕は随分とたこつぼから離れていたから、必至に走った。砲弾が次々と近くに落ち、あいつら僕を狙っているのかと思うほどだった。いよいよ数ヤードといったところに砲弾が落ち、衝撃と砕け散った破片が僕を襲ったけど、同じタイミングで掘りかけの浅いたこつぼに飛び込んで、身を隠すことができた。


 ドイツ軍の定期的な砲撃は本当にくそったれ! と、汚い言葉で表したくなるものだけど、思わぬことを引き起こしたりもするもんだ。僕のすぐ近くに落ちた迫撃砲で吹き飛んだ木の枝が、二の腕に三本、食い込んでしまった。まったくもって大した怪我じゃなかったけど、衛生兵が後方の野戦病院までジープで連れて行ってくれたのだ。負傷者を運ぶのを手伝っていた時に中隊長が僕の傷に気がついて、「しばらく疲れを抜いてこい」と、計らってくれたのだ。確かに、下士官が不足していて、僕の苦労は多かった。喜んで、その言葉に甘えることにしたよ。


 後方の野戦病院も人が足りない。人だけでなく、モルヒネも包帯も足りていない。痛み止めや消毒にはウイスキーも代用して、包帯は煮沸したものを何度も使いまわしている。酷い状況かもしれないけれども、僕と一緒に運ばれた負傷兵のダニーは自分に寄り添っている素敵な看護婦にウイスキーを飲まされて、おでこを優しくなでられると、それまで痛みと寒さを必至に耐えていたのに、力みが抜けて、安堵のため息をつき、自分の周りを見渡して、


「ここは天国かい? 天使が三人も僕を囲んでくれるなんてね」


 と、言った。


「あら、ありがとう」


 彼を撫でる看護婦は笑顔で答えた。もう二人の天使はダニーの右足を処置しようと必至になっていて笑う余裕はなかった。ダニーは酷い怪我だった。モルヒネを我慢したし、ウイスキーで激痛が和らぐわけがない。それでもあの安らいだ顔を与える天使という表現は、正しいだろう。


 ここは雨風寒さを凌げるし、ろうそくの明かりもあるし、砲弾の音は聞こえてもここまでは襲ってこない。机も椅子も、紙もペンもある。天使もいるとなれば、それはもう天国だ。


 僕は今、そんな天国から、安らげる貴重な時の中で君に手紙を書いているんだ。まだあと数時間ここにいられるから、こうやって随分と長い手紙を書けるし、暖かいスープをご馳走になって、仮眠もできそうだ。とても幸せだよ。


 おっと、心配させすぎていたらごめんね。僕の怪我は枝を腕から抜いただけで痛みもないし大丈夫だよ。


 それから、ダニーも酷い怪我だけど切断するほどじゃないってさ。彼はタフなやつだ。オハイオ出身で、祖先は独立戦争前から勇敢に戦い続けている開拓戦士たちで、南北戦争では奴隷解放に精力的で、随分と活躍したらしい。ダニーは先祖の武勇伝を聞いて育ち、幼い頃からウィンチェスターを愛好し、狩りで家計を助けていたという。よっぽど好きらしく、この戦争に本気でレバーアクションライフルを持ってくるつもりだったというから、いつ思い出しても笑ってしまう。十代の頃、自宅で発掘した三文小説に触発され、ポケットに数ドルだけ突っ込んで、ワイオミングやモンタナを旅してカウボーイになり、もうここで撃たれる経験も済ましている。オハイオに戻ったら、パールハーバーの悲劇を知って迷うことなく志願した。彼の人生はわんぱくで僕とは反りが合わないところもあるが、誠実で良い友達だ。ダニーは三日くらい休んで戦線復帰するつもりでいるようだが、本国に帰ることになる。彼の戦いは終わった。彼には悔しいだろうが、きっと生きて帰れることをすぐに感謝するだろう。


 彼の話はこれくらいにしておこう。




 さて、どんな手紙を書こうかと考えた時、もうすぐクリスマスだということを思い出した。クリスマスが待ち遠しいからじゃないよ。


「クリスマスまでには国に帰れるさ」


 と、このヨーロッパの戦場に降り立った時、誰もが口々に言っていたからだ。


 世界戦争なんだ。とてつもなく巨大な出来事なのは分かっていたけど、終わりに目処がある事は目標になったし、本当にクリスマスまでにはと、希望にもなった。でもどうだろう? あと数日で訪れるクリスマスを僕らは、アメリカから遠く離れたよくも分からない寒くて白い森から抜け出すことができず、でもって、ドイツ軍から毎日特大のクラッカーをお見舞いされ続けているんだ。今年のクリスマスが過ぎれば、そのうち誰かが「次のクリスマスまでには……」と言い出しそうで、まったく嫌なものだよ。


 荒々しい言葉が目立つフランキーは南部の農場育ちで、小隊の中でも特に扱いに困る時があるけど、フランスに降下した時から今まで無傷で生き残っている幸運の持ち主で、でもそれは突出した身体能力と狙撃の腕によるものだった。僕らも頼りにしている。


 そんなフランキーがこの森に来る前に、こんなことを言った。


「のんびりと団体で戦争ごっこやってっから帰れねえんだよ。ヒトラーや側近共に莫大な賞金をかけて、あちこち張り紙を撒き散らせばいい。そしたら誰もが金欲しさに奴等の寝首を搔っ切って、戦争はおしまいさ。まぁ、自由行動を許してくれんなら、俺でも構わないけどな。身軽になってドイツ野郎のいる町を難なく抜けてやるぜ。そのままベルリン直行で、コルトか、まぁナイフでも一本ありゃ、楽勝だ。カミソリだっていいぜ。戦争なんか馬鹿みてえだ。必要なのは軍人や武器の数じゃねぇ。クソ度胸持った殺し屋がちらほら、いりゃあいいんだ」


 「何を馬鹿げたことを」という、兵士の世迷い言の一例だが、争いはそんなとんでもないアイデアで、意外とあっさりと終わらせられるのではないだろうか? 人間は、簡単な問題を難しくするのが好きだからね。


 戦争はやっぱり、可笑しなことだらけだよ。




 クリスマスまでに終わると言われていたのは、先の大戦もだった。七月にはじまって、数ヶ月で終わると悠長に考えていたら、気がついたら四年も経っていたのが、前の世界大戦だ。たまったもんじゃなかったろう。三十年もしないうちにまた同じことを言ってるんだから、人間とは何なんだろうと、志願しておいて今さら愚痴を漏らすものではないけれど、思わずにはいられない。


 僕はクリスマスを祝わない家庭で育った。それについてしっかりと話をしたことがなかったね。どうやら、今日はいい機会のようだ。ちゃんと話をしよう。




 先の大戦が始まる前、僕の母親はイギリスに住んでいて、愛する男性がいた。手紙と読書が好きな、ロワーミドルクラスの文学紳士で、とても穏やかな年上の男性だった。でも、母に対してはとても情熱的だったようで、手紙を書くだけでは我慢できず、こっそりと何度も母の家を訪ねては、母の両親に隠れて愛を伝え続けたそうだ。母はまだ女学生で若かったし、結婚も考えてなかったけれども、彼のアタックに根負けして恋に落ちて、気がついたら彼が全てになっていた。二人は結婚した。




 その直後、彼に戦争に行くことを伝えられた時、母は大変ショックを受けた。


「クリスマスまでには終わるから。心配しないでおくれ」


 そう言って、戦場に向かった。母は、夫が戦場に行っても、どうして自分を残して戦場に行ってしまったのかが分からず苦悩した。


「クリスマスまでにはどうかお返しください……」


 と、毎日何度も神様に祈り続けた。


 やがてクリスマスが近づき、誰もがこの戦争がまだ続くことを覚悟し、母も夫がまだ帰ってこれないことを覚悟した。だが、訪れたクリスマスはもっと残酷だった。


 十二月二十四日、母の元に知らせが届いた。夫の戦死を告げるものだった。


 信じられるかい? 何かの手違いがあったのか知らないけれども、クリスマスを控えた日に、母にとってこの世で最も残酷な知らせを受け取るなんて。母が全てを憎み、呪い、悲しみ、毎日死を考えるには十分すぎる仕打ちだった。


 それでも母は強く生き延びて、長引いた戦争も終結した。先のヴィクトリア女王を敬愛する母は一生を喪服で過ごす覚悟を決めていたようが、戦争から帰って来た夫の弟と、大切な人を失った悲しみを補うように一緒になった。その弟というのが、僕の父だ。


 二人が結ばれたといっても、母にとっての再婚は、不幸を忘れるためのものではなかった。再婚後も戦死した父の兄のことを一番に想い続けて苦しんだし、父も母のその気持ちを嫌に想うことは決してなくて、健気に母を支え続けた。父も兄を尊敬して愛していたし、兄が愛した女性を奪うことに、後ろめたさを感じていたのだろう。父は純粋な気持ちで、兄の妻を助けたいと再婚を申し出たのだ。母は愛する人も財産も戦争で失い、生きるには経済的支援が必要だった。父はそんな母の支えにさえなれればよいと、再婚を申し出たのだ。


 僕の家庭は、複雑な感情が地盤なんだ。


 でも、決して不幸な家庭だと思ったことは一度も無い。やがて僕が生まれ、妹が生まれて、母も父も僕らに十分な愛情を注いでくれた。僕が五歳の時、父の会社が経営難に陥り、アメリカに渡ることになった。新しい事業をはじめて軌道に乗り、どちらかというと裕福な生活を取り戻すことができた。だから、周りの家庭のようにうちがクリスマスを楽しく過ごさなくても、困る事は無かった。


 母は毎年、クリスマスが近づくと口数が減り、一人隠れて泣く日が増えた。父は何も言わず、母の肩に手を置いて、一緒に泣いていた。僕と妹はそれを、隠れて見ていた。送られてきたクリスマスカードだけが、暖炉の上に空しく並んでいた。父も母も、「メリークリスマス」を口にしたことはない。僕と妹は、母や父に言われるまでもなく、口にしてはいけない悲しい言葉なんだと覚えて育った。


 いつか、「死んだ前の夫のことを悲しみ続けているなんて、どうかしているわ」と、近所の主婦が母を悪くいうのを聞いたことがある。でも、愛することとは、そういうことなのではないだろうか? 愛した人を忘れられず悲しむことは、悪いのだろうか? 僕は母の愛を尊敬している。そして、それを理解して母と結婚した心の広い父のこともね。


 僕は母も父も愛しているし、顔を知らない父の兄、つまり母が最も愛した人のことはほとんど知らなくても、僕にとっても特別な人だ。だからずっと、「メリークリスマス」と口にすることは、いけないことだと思っていた。だから君と出会った時、言ったよね。


「君にとってクリスマスは、かけがえのない特別なものかい? だとしたら、僕と一緒にいると、楽しくないかも知れない」


 そしたら君は、


「そんなこと、一緒に過ごしてみないと分からないんじゃない?」


 と、半ば呆れたように答えたね。それから三回のクリスマスを通り過ごしてきたけど、お互いの気持ちは変わることがなかったね。それが答えなんだと、僕は確信したし、結婚するなら君しか考えられないよ。


 ……おっと、こんな文中で突然、プロポーズみたいになっちゃったかな? ごめん。返事は今考えなくてもいいよ。どうか慌てないで。帰ったら改めてちゃんと、ロマンチックなプロポーズをするからさ。君が顔を真っ赤にして、恥ずかしくて逃げ出したくなるくらいのね。さぁ、今から覚悟をしておくといいよ。


 話を戻すね。


 君がクリスマスに固着しないでいてくれたのは、とても嬉しかった。けれども、僕の家庭の都合を君に一生押し付けるのは、とても心苦しくもあり、葛藤はしていたんだ。それでも、どうしても、「メリークリスマス」が、口から出なかった。母や父、父の兄への罪悪感が、そうさせた。


 だから、今、この手紙でいきなり「メリークリスマス」と書き出した自分に、自分で、驚いているんだよ。




 母は僕が入隊する前日、こんな話をした。


「あなたはお父さんのお兄様にとてもよく似ているわ。情熱的なところと、本と手紙が好きなところがね。まるであの人の子どもみたい。お父さんとは本当に似ていない。あの人はとてもシンプルな考え方をする人で、難しい考えがお嫌いでしょう? それに私、あの人が手紙を書いているところなんて見たことないし、素直に『愛してる』なんてことも、恥ずかしがって言ってくれないのよ? まぁ、それはそれで、あの人の良いところでもあるのだから、お兄様と比べては決していけないのだけれども、とにかく、あなたは不思議なもので、お兄様に似ているの。だから、入隊するってあなたが言ったとき、『ああやっぱり』と、母さんは、ショックを受けながらも納得してしまった。きっと、我慢がならないのよね。こういう時代の中で、時代に関わらずに何もしないことが。正義感が強いの。それが分かるのに、随分とかかってしまったわ。あなたもあの人も、私がどれだけ反対したってきっと…… でも…… やっぱり側にいて欲しいと思ってしまってね……」


 母は泣きだし、それ以上は言えなかった。もっと何か言いたかったはずだし、僕の入隊も断固として認めたくなかったはずだ。母を抱きしめ、「ごめんよ」しか言えなかった。母のいうことは正しくて、国土が攻撃されたんだ。母親を悲しませて入隊した多くの正義感に溢れる若者の一人に、僕はなった。


 母の話を聞いて、僕はこの戦争の中で、父の兄のことをふと思うことが何度もあった。先の大戦で、「あの人はどう思っていたのだろうか?」ってね。彼はよく母に手紙を書いていたという。実際に送れなかった手紙も、死後に遺品と共にたくさん届けられて、母の宝物になった。僕も君にたくさん手紙を書いている。君の手元に何通届いたか分からないけれども、とにかくたくさん書いているんだよ。そして君の事を思いながら、あの人のことも考えてしまうんだ。


 そして今日、思った。もし彼が戦場でクリスマスを迎えていたら、間違いなく母に向けて、「メリークリスマス」と手紙に書いていたはずだと。そしたら僕も、君に伝えたくて仕方がなくなって、書き出していた。


 残された母にとって、クリスマスはとてつもなく恐ろしい日になってしまった。でも、あの人にとっては、「メリークリスマス」伝えたくて伝えたくて仕方が無いクリスマスだったんだ。だから彼は、天国から母や弟、その子どもたちがクリスマスを悲しく過ごしているのを見続けてきて、もっと悲しんでいたし、自分を責めているのではないかと申し訳なくなった。そして、それに君を巻き込んだことに対しても、申し訳なくなった。


 この野戦病院とても不思議な空間だ。人が安らかに天へと旅立てる、戦場にある天国だ。さっきダニーもここを天国と言った。天国は誇張だとしても、天国に近いのは確かだ。向こうからも近いのかもしれない。あの人が僕に、伝えるべき言葉を伝えるよう、向こうから来て教えてくれたように思える。




 ねぇ、リリアン? 僕は、君が幸福になれるはずだった時間を、随分と奪い続けてしまった。どうか許して欲しい。君ほど美しくて優しくて、愉快で、時々は頑固で、男勝りなところもあるけれど、全部含めて素敵で、そんな最愛の女性を、僕はこの先の人生で見つけることなんて不可能だ。母は僕のことを、亡くしたあの人に似ているといったけど、僕は母にも似ているんだ。一人の人を愛したら、一生、想いを消すことができない。出会った時から君が全てなんだ。


 来年のクリスマスを君と一緒に過ごす約束はできない。戦争だからね。もうすぐ終わるはず、なんて言ったけど、やっぱり、いつ終わるかなんて、僕には分からない。けれども、生きて帰って最初に迎えるクリスマスの日は必ず、二人で一緒に暖かく過ごそう。そして、これまでの分の「メリークリスマス」を、目を見つめながら伝えるよ。


 その時までは、この手紙の言葉で我慢して欲しい。


 ちゃんと届くことを祈っても、届くのはいつの日になるかは分からない。でも、まさに今、この書いている瞬間の僕の愛が空を飛び立って、遠く離れた今の君にしっかりと届きますよう、最後にもう、愛を込めてもう一度書こう……




 メリークリスマス。




   一九四四年十二月二十日 ウィリアム・M・クラーク

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