第2話 遭遇

 前橋駅からバスで西に向かい利根川を越えると、急に建物の数が減り、荒れ果てた大地が姿を見せる。


「昔はここらにも人が住んでたんやろな」


 宗次の隣に座った映助も、神妙な面持ちでその光景を眺めている。

 所々に残る砲弾を受けて崩壊した住居や、焼かれて放置された田畑。

 それは、人類がCEに受けた傷跡のほんの一部であった。


「おっ、着いたようやな」


 足止めされる信号もないので、十分とかからず目的地に着き、宗次達を含め乗客は全員が立ち上がる。

 バスを降りた先に広がっていたのは、高い壁に囲まれた広大な敷地。

 茶色の乾いた大地が延々と続く、殺風景な光景。

 その中心に、無骨で角ばった建物がいくつも建っている。

 此処こそが、彼らがこれから学び、そして戦っていく場所。


「対クリスタル・エネミー特殊隊員養成高等学校か」

「みんな特高としか呼ばんらしいけどな」


 感慨深く立ち尽くす宗次達の横を、同じ制服を着た少年少女達が通り過ぎていく。


「おぉ! 宗次、あれ見てみ!」


 映助が歓声を上げて指をさすので、宗次は何事かと首を向けた。

 そこには、校門に背を預けて立つ一人の美少女がいた。

 染めているのか、薄い桜色の長い髪を、両脇で縛りツインテールにしている。

 子供っぽい髪型に反して、その四肢はスラリと長く伸び、胸は大きく膨らみながらも腰はキュッと引き締まり、全身から香るような色気を醸し出していた。


「ハイカラな子だな」

「激マブやん! ワテ、ちょっと声かけてこようかな」


 都会の子は流石に違うなと感心する宗次の横で、映助は瞳にハートマークを浮かべて身をよじる。

 そんな二人の様子に気づいたのか、美少女はふとこちらを見たかと思うと、パッと花咲くように笑顔を浮かべ、宗次達の方に向かって駆け出した。


「えっ?」

「ま、待つんや、まずは交換日記からで……」


 驚く宗次と、彼の背に隠れる映助に向かって、美少女は走り寄って――そのまま通り過ぎて、後ろを歩いていた少年に抱きついた。


「うわっ! 誰だお前っ!?」

「分からない? 音姫よ、千影沢音姫ちかげさわおとめ

「えっ、隣に住んでた、あの音姫ちゃん!?」

「うん、ずっと会いたかったよ英人あやと!」

 音姫と呼ばれた美少女は、抱きついた勢いのまま、英人と呼ばれた少年の唇に自らのそれを重ねた。


「なんでやぁぁぁ―――っ!」

「……都会の子は、凄いな」


 一瞬で失恋して絶叫する映助と、ただ呆気に取られる宗次。

 この時こそ、歴史における彼らの役割が、決定された瞬間だったのかもしれない。

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