第2話 バレンタイン戦線異状あり
ジャンル:現代恋愛???
使用お題:全て
ラスボスは王子様
まめまめしい
鬼の攪乱
インドア
手ぶらでは帰れない
『バレンタイン戦線異状あり』
横谷美希は決意していた。必ずやこの戦場から、戦利品を手に己が城へ帰還するのだと。目の前に広がるそこは……デパートの催事場、チョコレートフェアの特設会場だ。バレンタインデーを次週に控えた土日、そこはまさしく戦場と化していた。
だが、決して手ぶらでは帰れない。普段はインドア派で、土日は家でまったり平日の仕事の疲れを癒したいタイプの美希が、意を決して出陣してきたのだ。ここで何も手に入れられなければ、今年最初の決意は早々にご破算である。
「よし! 絶っっ対に!! 素敵なチョコを手に入れて、渡す!!!」
気合いを入れるため、決意を声に出した。そう、今年の目標最初のひとつ、それは意中の男性にチョコレートを渡すことだ。
お相手は、硬派といえば良いのか、あまり色恋沙汰に関心がなさそうなタイプである。男子にあげるのだか女子で交換するのだか、はたまた自分で食うためなのかも良く分からないような、女子好みのチョコレートは選択肢から除外する。
「シックで、スマートで、男の人に『箱もとって置いて大切に使おう』なんて期待しちゃ駄目よ……気兼ねのないパッケージの……」
出陣前に念入りにチェックしておいた出店一覧を手に、一直線で目的地を目指す。目の前に広がるのは、人、人、人。お目当ての店の前にも長蛇の列ができており、普段の美希ならば「何をしに食べ物のためにこんなに列を作るのか」と首を傾げるレベルだ。
「一生にいっぺんくらい、並んでやるわよ」
そのくらいで死にはしない。多分。
そうして、艱難辛苦の末にようやくどうにか、美希はチョコレートを手に入れたのだった。
そして来るは聖・バレンタインデー。
今年はド平日のその日、美希は高級ブランドの紙袋に入ったチョコレートを手に出社した。しかしそこに、意中の彼の姿はなかった。
「まさしく、鬼の霍乱だねぇ」
のんびりそう笑うのは、ベンチャーの社長である彼の、参謀役を務める青年だ。
「頑丈だけが取り柄の奴が、牡蠣に中るなんてね。ノロらしいから来週まで自宅療養だよ、全く世話の焼ける」
仕方なさそうに肩をすくめる青年は、まめまめしい性格で学生時代から彼を補佐し続けてきた人物だ。容姿も良く、穏やかでスマートな雰囲気を持っている。美希の周囲の女性陣からは、いわゆる「王子様系」である彼の方が人気が高い。
「横谷さん。何か社長に用事があれば、僕から伝えるよ?」
にっこり笑って、手を差し出される。その先には、美希が持ち手を握るチョコレート入りの紙袋。
「い、いえ。大丈夫です!」
反射的にチョコレートを背後に隠し、首を振って二、三歩退いた。
まさかチョコを預けるわけにはいかない。きっとこの青年は、今夜も彼の元へ粥でも作りに行くのだろう。
そう、ラスボスはこの「王子様」だ。
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