第6話

うちへ来ない? と大介が誘ってきたのは、それから二週間が経つ頃だった。

大介の家は共働きで、母親が戻るのも夕食時ぎりぎりの時間。放課後まっすぐに帰れば、十八時前後までの約数時間、家は留守状態になるというのだ。

知り合って二週間で家に呼ぶなんて、普通に考えれば早すぎるのだろう。けれど、やりとりの量でいったら、私と大介はこの二週間で普通の男女の二ヶ月分は既に一緒にいるんじゃないか、と思う。出会ってから私たちは、毎日何通もメールをして、二日に一度は会っていた。学校がある日は夕方から、大介が部活、もしくは私が予備校のある日には遅い時間からでも会って、お互いのことを話した。

莉珠にはもちろん、言っていない。これからも、きっと言わない。だけど、もしも言ったら、どうなるだろう? 想像するとき、私は甘い気持ちを抑えることができなかった。

電車から降りた人の群れのなかから、大介が大きく手を振って、姿を見せた。真っ黒な学ラン姿が嬉しそうに駆けてくる。私はそれを、彼が昨夜「いつもの場所で」と言った、改札前の大きな楠の木の下で、手を振りながら見つめている。

「わりぃ! 寒かったろ? もっと暖かいとこで待ち合わせにすればよかったっ」

歩き出すと、大介は車道側にいた私の背に手をかけて、そっと、道路の内側に導いてくれた。さすが莉珠の選んだ人、と私は思う。もしくは、莉珠が選んだ人だ、という認識が、彼に大きな価値を感じさせているのかもしれない。この人は、女の子を気持ち良くする振る舞い方を知っていた。週末に、二人で私の新しいブーツを選びに行った日から、大介はこんな風に時々私をエスコートしてくれる。

背中から大介の手が離れるとき、私は彼を見上げる。そして大介はそのとき、決まって私を見ているから、視線がじっと何秒か絡み合う。私が目を逸らさずにいると、最後は必ず大介が、「あんま見んなって!」とふざけて、目を逸らした。

「見ちゃだめ?」

「だめじゃねーけどよっ」

こんなとき航なら、たまらなくなって目を逸らすのは私のほうだった、と思い出す。航は、こちらが恥ずかしくていられなくなるまで、じっと私を見つめて放さなかった。

——視線でいけると思った。

莉珠が初めて航に会ったあとで、言った言葉。あの眼差しで、航は初めて会った莉珠のことも見つめたのだろうか。莉珠が照れているところもまた、想像がつかなかった。先に目を逸らしたのは、どっちだったんだろう。

わからない。でも、確かなのは、航の目に映る莉珠もきっと綺麗だということ。そして今この瞬間も、航の目には莉珠の姿が映っているだろうということだ。莉珠は今日、航と三度目のデートをしている。そして、三度目で強引に恋の幕を降ろした暁には、二人で打ち上げをしようと約束をしている。

——瑠衣ちゃんは、優しいお姉さんだねぇ?

私は心のなかでぐっと足を踏み出し、高飛びをするみたいに、今日その言葉を越えていく。

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