第2話
お母さんからは、汚いから裸足になっちゃだめ、と言われた深い絨毯の上を、靴と靴下を両手に持って、スキップのリズムで、みちると駆けていく。まっすぐに続いた廊下の突き当たりを曲がると、そこからは左の壁の上半分がガラス張りの大きな窓になっていて、フロントやカフェテリアのある一階のロビーを見渡せた。
「すごい」自然と足が止まって、ほたるもみちるも靴を床に置き、低い窓枠に手をかけて見下ろす。
階下一面に敷き詰められた、肌色の大理石のつるつるとした輝き。その真ん中にそびえ立つ、大きなクリスマスツリーのてっぺんは、ほたるやみちるの足元にまで届こうとしていた。
ツリーに付けられた、金色や赤色のきらめき。
「あの頃から、一年なんだね」みちるがぽつりと口を開いた。
「うん」
「・・・・・・大丈夫? もう」
みちるはその目で、じっとこちらを見つめる。そして小さな声で聞いた。ほたるしか見ていない真剣な眼差しの下では、窓枠に肘をついた手の、細い指先が、頬に添えられている。
「うん。もう、慣れてきたっさ」
「そっか。 よかった」
みちるはひらりと背を向け、またゆっくりと廊下を歩き始める、さっきまで頬杖をついていた指先は、一旦窓枠に静かに降りて、そこからぽろぽろぽろと、ピアノを弾くみたいに、一本一本、順に宙に降りていった。
お母さんみたい。
みちるは時折、大人のような身のこなしをする、杏里たちには、「かっこつけてるー!」なんて言ってからかわれている。だけどそれは、みちるが身につけた、自然な振る舞いなのだ。
彼女の佇まいに、ほたるは憧れた。だからこんな風に、一番の親友として彼女の隣にいることが、何より誇らしい。だって、こうして一緒にいると、それが少しだけ、自分のものになっていくような、そんな気がするのだ。
みちるの一歩後ろを、ほたるは急いで、また歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます