弱きを助け強きをくじく、そのこころは?
ーいいかい、ユウト君。
ーこの世界でも基本、いざこざやいさかいには関わらないようにしてくれよ。
ーヒーローとしての心構え、という点でもそうだけど。いまの君じゃなりたての盗賊にだって勝てやしないんだ。
ー普通の異世界転生やら転移なら、特典なり順応するためのシステムが送られたりするものなんだけど。
ー私たちって自前でわたってきたじゃん?ぶっちゃけ不法侵入みたいなものなんだよね。
ーそんなことだから、上位存在から加護は得られないし特典なんてもっての他、強さとしては恐らく最弱クラスなんだよ私たち。
ーいまは堪え忍ぶ時だ。だから厄介事は避けて離れてるんだよー
「わかってる、わかってるけどー」
苦悶に満ちた呟きとは裏腹に、ユウトの足は着実に騒動を起こしている場所へと近づいていく。
彼は頭ではわかっていても、体が勝手に動くタイプらしい。
もとの世界「地球」にいたころと大して変わらない身体能力しか持たないユウトではあるがー
ー誰かの、助けを呼ぶ声が聞こえた。
空耳かもしれない。それでも、放っておけるほど冷酷にもなりきれなかったのだ。
荒々しい物音が聞こえる。
近くなっていくにつれ、その全容も少しずつ明らかになっていく。
「クソッ!逃げんじゃねぇよ!手間かけさせやがって」
「離して!噛みつくわよ!」
あからさまに荒くれ者の姿をした男が、か弱そうな少女を組伏せている。
文面からも犯罪性の高さとか、修羅場の雰囲気とか伝わるだろうし、実際それを目で確認することができたユウトは並々ならぬ事情があることを認識する。
見るからに、厄介事である。
見るからに、揉め事である。
見た目として、男が女を組伏せるという、ある意味
そしてユウトは、この世界に来てまだまもないー
単純バカであった。
もう一度言おう
単細胞バカなのだ。
無駄に身体の動かしかたを知っている、正義漢(バカ)なのだ。(大事なことなので3回言いました)
そのバカは、詳細な状況判断をせず。
現場発見後からスピードアップさせて、手前で跳びあがり―
荒くれ者()へとドロップキックをかましたのだった。
見事な不意打ちであったそうな。
◇
「なんだろう、ものすごーく嫌な予感がする。大方ユウトがついにやらかしたんだろうけど」
すでに営業時間を終えて事務所の受付を片付けているマキは唐突の寒気に身震いを起こしていたが、その時期とドロップキックが決まった時間は同じだったとかじゃないとか。
少なくともユウトが帰ってきたときに盛大なため息を漏らすことになるのは想像に固くない
◇
いくら実力的な意味でおくれをとろうとも、この世界にも物理の法則というものがある。
重ければ重い程、早ければ早い程力が強くなる。
荒くれ者(?)とユウトの体格差はほぼ互角、そして不意打ち気味に決まった助走をつけたドロップキックは防御する暇を与えずもろに突き刺さった。
「げぽらッ」と肺から息を吐きだす音とともに横に吹っ飛んでいく!
そして飛ばされたさきには積み上げられた木箱、途中で方向転換できるわけもなく、そのまま木箱へ突貫!
木が折れる音、硝子が割れるおと水がぶち撒かれる音ともに、漸く荒くれものは静止したのだった…………。
「やっば…………あとで弁償しねぇと」
顔を青ざめるのも一瞬、すぐに気持ちを切り替えることにしたようだ。
まずは目の前の危機的な状況をどうにかしようと、唖然としていた少女の手を握り
「…え、何?」
「ほら立って!逃げるぞ!」
状況をつかめない少女の手を引き、脱兎のごとくその場から駆け出していった。
後には凄惨な事故現場に男が一人取り残されたという。
勇者でも英雄でもねぇ、ヒーローだ! 啓生棕 @satoutuyukusa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者でも英雄でもねぇ、ヒーローだ!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます