ヒーローはお手伝いではありません!

「ユウトちゃん!屋根の修理ありがとさん!いつも助かるわあ!」

「こっちも仕事だからな!きにすんなってばぁさん!」

「誰がババァだい!?まだピチピチだよ!!」


 張りのきいた大声が昼間の住宅地を飛び交う。

 声の主は先程名前が上がった異世界人(地球)『ユウト』と今回の依頼主である中年くらいのおば…………ご婦人だ。


 先程依頼の一つであった『屋根の修理』を終わらせて歓談を楽しんでいたところのようだ。


 そしてキリのいいところで話を切り上げ、別れを惜しまれながらもユウトはその場を後にした。


 そして急ぎ足で次の目的地へ向かう。

 そんなに急いでいったい何をするつもりなのかというとー


「おーい、おやっさん!仕事にきたぞー!」

「おう坊主!遅かったじゃねぇか、さっさと持ち場につけ!」

「了解!」


 今度は賑やかな雰囲気の酒場へとやって来たようだ。

 おやっさんと呼ばれた壮年の男性と幾人かの従業員が接客業に精をだしていた。

 そしてユウトも後から合流して彼らにならいまた仕事にいそしむのだ。


 実はこれで今日三度目の依頼だったりするのだが、如何せん『手伝い』という名目なので賃金が格安。

 掛け持ちしなければろくな稼ぎにもならなかったのだ。


 というわけで早朝郵便物の配達、次に大工の真似事、そして最後は居酒屋でウェイトレスをこなし、彼の一日の業務はようやくおちつきをみせるのだった。


 そんな過密スケジュールをこなせば、すべてが終わる頃には日が沈む。


 心身ともにヘトヘトになりながらも日銭を稼ぐため、彼は身を費やすのだった。



「でもやっぱ、不満はあるよなぁ。いい人たちばかりだけど」


 帰り道、ぼそりとつぶやくユウトの姿はどこか煤けて見えることだろう。

 灯りの少ない町中をこれでもかと同化している。

 鬱屈とした気分といま着ている黒のライダースーツのおかげかもしれない、なにか得があるわけでもないが。


 いや、一つだけあるにはある。

 夜闇に紛れやすいということだ。

 これが現代日本であれば、車から気づかれにくくなり危険だ。く しかしこの世界には車を作るほどの技術はまだない。

 あっても馬車かそれに類するものだけ。

 それらも完全に日が沈んだ頃には、もはや行き来することは少ない。

 気づかれずに馬に蹴られて死ぬようなことはまずないだろう。

 では今は安全かというとそういうわけにもいかない。

 どこの世界でも夜になるとよからぬことを企む輩がわき出てくるから。


 ユウトは一身上の都合で自衛の力を持たない。

 仮に暴漢なり賊なりに出会ってしまえば逃げることしかできないのだ。


 だったら見つからないよう気を付けた結果、なのだがー


「こんなの、カッコ悪いよなぁ…………。はぁ、異世界来てまでなにやってんだろ」


 目的を達成できない、やるせなさを一心にこめてぼやく。

 そのときだ


ーガタッ!…………!…………!!


 遠くから荒々しい物音が聞こえたのは。



  

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