勇者でも英雄でもねぇ、ヒーローだ!
啓生棕
第一劇 お困りのそこのあなた!ここにヒーローがいますよ!
ここは中世ヨーロッパを想起させる異世界『グランデ』
そんな世界のそこそこ大きな町に、風変わりな2人組がおったとさ。
「…おいこらマキ!それ俺のドーナッツだ返せコンチクショウ!」
「この世は弱肉強食なのだよユウト…つまりお前が食べなかったのが悪い。」
「フザケンナ!久しぶりの砂糖菓子だったんだぞ!?最後の楽しみにとっておいたのに…!」
それは通りの一角に存在する、すこしさびれた事務所の一幕であった。
最後の楽しみを奪われ(男のくせに)悔し涙を浮かべているものの名はユウト。
上下共にライダースーツを着込んだ、一寸風変わりな25歳無職である。
対して彼のドーナッツを満足げにほおばっているものの名はマキ。
どこの科学者だと問いたくなるような丈の長い白衣を着こなす性別年齢不詳の無職だ。
そしてこの無職どもは前述した風変わりな二人組でもあった。
そもそもの話、このような服は中世ヨーロッパを模した世界『グランデ』では見かけないだろう、というのを前提に話すがもちろん彼らはこの世界の人間ではない。
とある目的のため、結託してこの世界へとやって来たのだ。
元いた世界に仕事があったにもかかわらず、である。
「それでだユウト、進捗はどうだ?」
「どうもこうも、みりゃ分かるだろう。依然進展なしだ。はぁ…スタントマンの仕事していたあの頃が懐かしい…」
「まぁ、そう腐るな。ほら新しい依頼が届いているぞ行ってこい」
「へーい。」
ただ悲しいかな、未だに彼らはそのスタートラインにも立っていなかった。
本来やるはずだった仕事とは似ても似つかない依頼を果たしに、ユウトは事務所を後にする。
外に出てすぐに振り返ると、彼が今拠点としている事務所の全容が視界に入った。
『お困りのあなた!ここにヒーローがいますよ!』
そうこの国の言葉で銘打たれた看板がでかでかと掲げられた通りのはずれにあるさびれた事務所。
別に仕事がないわけではない、どの世界でも悩みを持つものはいるし、その種類は千差万別だ。
この国にもそういった人たちのための施設があるのだが、それでも供給が足りてないのが現状で、そういった残り物が彼らに回ってくるのだ。
ただ残り物らしくそのほとんどは緊急性の低い、いわゆるお手伝いに近いもので-
「ヒーローは、何でも屋じゃないんだがな…」
理想と現実のギャップにさいなまれる成人男性の深いため息が零れ落ちるのだった。
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