第19話 日本人会のクリスマス会

大晦日の1つ前のエピソードになるが、外国には日本人会というのがあった。

参加するかしないかは自由で、する場合は会費を払って、バーベキューや運動会、クリスマス会などに呼ばれる。それとは別に、政府関係の仕事をしてたりすると、大使館のレセプションパーティーに呼ばれたりする。


クリスマス会は菜穂が初めて外国の日本人社会にデビューできた行事だった。デビューは遅すぎたくらいだ。本当はピアノコンサートとかもあったけど、遠かったり夜遅くてなかなか行けなかった。

料理は見た目はすごく豪華だった。その国でも有数の5つ星ホテルだし。カービングの施されたカボチャなんかもあった。

残念ながら味は日本人には少し薄くて大味。それでも、普段食べてる食べ物より、ずっと美味しくて安心できるものが食べられた。


イベントでは抽選があってガラス工芸品が当たってしまったけど、日本に持って帰れないものだからとても残念だった。せっけんとかハンドクリームとかの詰め合わせなど、日本で配れるものとか、何より日本の食べ物が食べられた方が嬉しい。普段そんなにお茶漬けとかゴボウ漬けとか大好きでもないのに、ずっと食べてないとやたら恋しくなった。


歌は日本人補習校に通う子供たちの余興はかわいかったけれど、そんなに歌のうまくないおじさんの延々と続くカラオケには飽き飽きした。ピアノを弾いてた大使館の職員の婦人も少しうらやましかった。


菜穂も5歳からピアノを弾いており、合唱もカラオケも大好きなのに、活躍の場が与えられないことがなんとも悲しかった。

おうちで大きなチキンの丸焼きを買ってクリパをした時に、余興でイタリア語の歌を歌ったきりだった。


日本に帰ったら、また音楽に携わりたいと心から思った。クラシックとポップスがほとんどだったので、アラブ音楽やアフリカンな音楽は趣味に合ってなくて、普段タクシーの中でアラブ音楽や流行りのインド音楽を聴くのもつらかった。


クリスマスパーティーは、本当に本当に数少ない途上国の余興だった。

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