第16話 犠牲祭

イスラム教の国には、年に一回犠牲祭という行事がある。

生きた羊を買ってきて、家でさばいて家族みんなで食べるのだ。命をいただくことの尊さを、子供の頃から学ぶのだそうだ。でも、割礼(男性の性器を切って大人の仲間入りをする儀式)などの儀式と同様、生きた羊を目の前で殺す行為は今時の若者には馴染まなくて、怖がる人たちも増えているそうだ。

うちの近所でも、犠牲祭の数日前からメェー、メェーと、羊の声がするようになった。大家一家は親戚がたくさんいる田舎の島に帰って留守だった。

さらに、普段は野菜やお菓子やジュースを売っていた普通の小さな商店街で、生きた羊を売り出したのにはビックリした。


当日は街を歩くと道端で羊がさばかれていた。頸動脈を切ると、あまり苦しまずに死ぬそうだ。しかし血が排水路に流れていて生々しい。余った羊肉も、ミンチにしていた。

ラムチョップは日本より安く手に入って美味しかったけれど、生きた羊をさばく行為には簡単に慣れることのできない菜穂だった。

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