第3話 街を散策

その日は大家の人や前任者の人たちと連れだって、引っ越しの手続きなどをしながら、一通り街の中をまわった。菜穂が想像していたほど途上国らしくはなかったが、車の運転が荒かった。

その頃は夏がラマダン月。運転手が断食中で、注意力散漫で危うく隣の車にぶつかりそうになりながらの運転でヒヤッとした。

さすがに来たばかりで交通事故死はしたくない。

新しく住む家についた。ヨーロッパの少し良い邸宅のような大理石の床のおうち。アラベスクのセンスの良いお皿が飾ってある。

大家さんは本人たちがいない間に、鍵を開けて勝手にものを移動したりする。

日本のプライベートが通用しない国に来たと実感するのだった。


「お家どうですか?」と聞かれて、beautifulの意味で「キレイですね」と言ったのだけど、「掃除が行き届いていますね」と訳されてしまったのがわかった。

私もこの国に来る前に、半年だけフランス語を勉強してきたのだ。

ニュアンスを自分でうまく伝えられなくて、悔しいなと感じた。

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