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「あのクラスさぁ。押しが強くない? こんな遅刻する勢いで詰められると思わなかったんだけど。メディアでももうちょっと慎ましいよ」

「……」


 当然のように隣の席に陣取って話しかけてくるウィリアム。相変わらず周りに居る人間からの視線を集めているがそんなのはどこ吹く風と言わんばかりの調子だ。


「なんでここにいるんだ」

「やだなぁ、授業受けるために決まってるじゃないか。それでこれって何の授業?」

「……操縦倫理だ。ウィングス部に所属するパイロットは全員学年始まりに受けることになってる」

「あー、あのあっても無くても変らない映像見て時間潰すやつね。帰っちゃおうかなー」


 あまりの言い分に少し眉をひそめるが、まあ毎年始めに見せられる教則映像ははっきり言ってつまらない。中学から毎年見せられているのだからいい加減飽き飽きしているのは同意だった。


「まあそれは置いておいてさ。さっきの話の続きだけど、運送の手配とかは諸々こっちでやるからさ」


 ウィングスはその巨大さもあり輸送もそれなりの手間だ。そう簡単にポンと移動することはできない。事前申請などで直接乗って行くことも出来なくはないが、当たり前だがとてつもない手間が掛かる。そもそもその方法をとるとなると最低でも1ヶ月前には手続きを終えなければならない。なので基本的にウィングスを移動するなら専用の輸送機が必要だ。


「難しく考えずにタダで点検受けられるって考えてさー。練習試合のあとで部活が始まる前、タイミング的には悪くないだろ?」

「昨日お前の手を取っておいてなんだが、はっきり言ってまだお前のこと信じてない」

「酷いなぁ」

「ある日突然やってきた転校生がウィングスの会社を持って居て、輸送から点検まで無料で引き受けますと声を掛けてくる」

「あー、それだけ聞くと詐欺っぽいねぇ」


 あっはっはと声を出して笑う。その笑い声にまたこちらを見る視線が増えるのを感じた。


「まあまあ、そんなに心配なら一緒に来れば良いじゃん。ていうかそれも目的なんだよね」

「目的?」

「見せてよ、君の操縦の腕」

「……」

「うちにシュミレーターあるからさ。最新式だよ?」

「最新式……」


 言葉の響きに少し心が動く。パイロットとして最新式のシュミレーターなど気にならないはずもない。


「そこらに出てるのなんてちょっと良いゲーム機程度の性能でしょ。あれウィングスの会社とは別口で作られてるからね。企業とかが実験で使ってるような純正品は使ってる技術も数世代先だし地形データとか機体性能のフィードバックも段違いだよ」

「……ウォールーンのデータもあるのか」

「いやだなぁ。昨日なんのためにデータ取ったと思ってるのさ。カスタムパーツまでバッチリ君のウォールーンⅡ仕様で動かせるよ。それにさぁ」


 ウィルの雰囲気が変るのを感じた。へらへらとした笑いとは少し違う、重みのある空気感を伴い言葉を告げる。


「もうしばらくちゃんと自分の戦い方で動かしてないんじゃないの? 困るんだよねぇ。それで情けない操縦でもされるとさ」

「……」

「僕に言ったよねぇ。僕のことを信用してないって…… でも取引を持ちかけた僕がこう言うのもなんだけど、僕の君の評価だって下手くそ後衛のへなちょこパイロットなんだぜ?」


 人を煽るのがうまい奴だと思いつつ、確かにこいつに自分の操縦を見せていない。取引というからにはそれを見せるのも必要なことだろう。だがそもそもなんでこの男は見てもいない俺の操縦技術に賭けるようなマネをしているんだと改めて思ってしまった。


「わかったよ。その挑発に乗ってやる」

「はっはー、そうこなくっちゃね。早速配送の用意してきちゃうね。じゃあまたあとでー!」


 そう言うが早いか高笑いをしながら教室を出て行った。


「……堂々とサボるなよ」


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