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嵐のような始業式を経た翌日、事件と言っても差し支えない騒ぎがあったとしても学校生活は普通に進められていく。
「えー、今年からこのクラスに編入するウィリアム・M・バードくんです。昨日も紹介があったから皆知ってると思うけど仲良くね」
「ウィリアムです。よろしくー」
しかしこのクラスは元凶が転入するクラス。昨日の騒ぎをそのまま引き継いでしまうほどのざわつき具合だ。先生も仕方なしと諦め気味であるように見えた。
「席は灰崎くんの隣ということで」
今日来た時点で席が空いていたことに少し疑問を持っていたが、まあ予想通りと言えば予想通り、ウィリアムが隣の席に座った。
「よろしく、ハイザキ」
「……」
相変わらずどこか腹が立つ笑みを浮かべながらこちらに馴れ馴れしく声を掛けてくる。はっきり言って止めて欲しい。
「なんか仲いい?」
「知り合いなんじゃない。昨日席空いてなかったよねあそこ。ずれたっしょ」
一つ前の二人組がそうささやき合っているのが聞こえる。同じようにクラス全体も似たような話がささやかれているのが感じる。こいつのことはほとんど知らないし仲良くもないので本当に止めて欲しい。
「静かにー、とりあえず今日の予定を……」
そう言いながらプリントなどを出し始めた先生をよそにウィリアムがこちらに話しかけてきた。
「無視は酷いなハイザキー。共犯者としてコミュニケーションは欠かさないでくれ給えよ」
「……用がないならあまり話しかけるな」
「冷たいなぁ。用は有るよ。部活の開始は数日後からって聞いたからさぁ。君のウォールーン僕の工房に運びたいんだよね」
「……」
「うわぁ、嫌そうな顔」
「嫌だからな」
「ふはっ! 正直だなぁ」
笑い声にまたクラスメイトの視線がこちらへと寄せられる。そんな様子に先生も困り顔だ。比較的若手の先生でもありすこし控えめな性格の人だったと記憶している。困らせるのも忍びない。
「後で聞くから今は黙っていろ。HR中だ」
「あー、ゴメンネせんせー。続けて続けて」
軽い態度の謝罪に相変わらず困り顔でアハハと苦笑しながら中断していた話を再開した。だがクラスの浮ついた空気がそう簡単に切り替わることはない。HRが終わったら囲まれそうだ。今日は授業ではなく選択科目などのオリエンテーションが主だ。次の時間も移動教室である。早々に撤退するが吉かも知れない。
「目立つ真似をするな」
「普通に過ごしてるつもりだけどなぁ」
「とにかく、俺を巻き込むな」
そう言って俺は先生の話が終わるのを見計らい早々に席を立った。
「あれ、どこに…… うおっ」
「バードくん質問しつもーん」
「昨日の凄かったなぁ! どっから来たんだっけ?」
「ここに来たってことはやっぱウィングス関係で来たんか!」
案の定浮き足だったクラスメイトたちにウィリアムは包囲されていた。少しざまあみろと思いながら教室を出た。
「灰崎!」
「……はぁ」
しかし廊下に出た瞬間ものすごい声量で呼び止められた。思わず頭を抑えてしまう。俺はなにか悪いことをしただろうか。
「なにそのため息! この間の試合のログ見たわよ! なにあれ! ドドドドド下手くそ! オマエそんなんで良いと思ってるの!?」
「そんなに叫ばなくても聞こえる……」
どこかで聞いたような文言を添えながら甲高い声で詰め寄られる。
「叫ばずにいられるはずがないでしょ! いつもそうやってぼーっとして!」
「お前はいつもうるさい。少しくらい落ち着いたらどうだ」
「オマエがいつもアタシの神経逆なですることばっかりしてるからでしょ!」
この頭二つ分ほど小さいにもかかわらずこちらを見下している少女は
「アタシを押し退けて試合出ておいてなに無様に負けてんのって言ってんの!」
「お前が帰省中で出られないっていうから代わりに出たんだろ」
「アタシはあんなに下手くそじゃない! 代わりになってない! ていうかアタシはフロントでしょ! なんでバックスやってんのよ!」
「……知るか」
「なんのためにアタシが! ~~~~~ッ!!!!」
要領を得ない、言葉にならないと言った風な怒りをぶつけられる。だいたいいつもこんな感じなのだが。
「よく分からんがもう行くぞ」
「待ちなさいよ! 特訓、そう特訓よ! 情けない試合した罰! 今日の放課後付き合いなさい。部活開始もまだなんだしどうせ暇でしょ!」
「……」
頭の中でウィリアムの用事と北龍との特訓、どちらが面倒かという考えが頭を過ぎった。が、ギリギリのところであのうさんくさいやつの方へと軍配が上がる。
「先約がある。じゃあ俺は行く」
「あ、ちょっと…… 操縦倫理のやつでしょ、私も…… もー!!!」
なおもなにか後ろで叫んでいる声はしたが気のせいということにしたい。
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