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神木学園ウィングス競技部、パイロットとメカニックの部門に分かれ、それぞれ二十三人と五十四人の大所帯である。所持ウィングス機は背景企業であるウォードス社、クルーエンジニアリング社、タイルショット社、クリアホーン社、トーメイス社の五社が提供したそれぞれ提供する四機、計二十機と個人所有のウィングスが三機だ。
「リットノン、アーシエス、タイルショット、ローズブル、アルサースね。型式が古いなぁ。まああんまやる気なさそうだしね。背景企業として取り合えず建前くらいはって感じか。整備機材の方が充実してるのはエンジニア目当てかな。利益優先見え見えでわかりやすいね」
校長室を離れてウィングス競技部の格納庫へとやってきていた。今日は部活動が学校全体で休みという事もあり部員はいなく、巨大な機体だけが佇んでいる。その中をタブレットを弄りながらキョロキョロと見回しつつ奥へ奥へと歩いて行く。
「奥にあるのが個人機ね。
「……」
「ハッハッハ、怖い顔。そう睨むなよ」
なにもかもが唐突で理解出来ない。いっそ今までのは夢だったと言われた方がすんなりと信じられそうだ。
「お前は一体何なんだ」
「自己紹介はしたけど。ああ、君も名前覚えられないタイプ?」
「茶化すなよ」
改めて思い返しても、この目の前の変人に会ったのはあの鋼鱗の練習試合の折にすれ違った時が初めてのはずだ。こんな強烈な人間をそうそう忘れるわけがない。
「なにが目的なんだ。俺に会いに来たってのか。背景企業として莫大な金を出してウィングス関連の特権をもぎ取って? 馬鹿げてる」
「ああ、はいはい。そこからね」
近くにあった作業用のキャスター付き椅子をたぐり寄せながら座り込み、小脇に抱えていた機械を弄り始めた。
「この間すれ違った時に話したことが全部だよ。君がちゃんと操縦してるとこが見たいわけ。下手くそ後衛くん」
「……お前があそこに居た理由が今ならわかる。鋼鱗に入るはずだったんじゃないのか。あの模擬戦自体お前のために組まれた試合だったんじゃないのか。六条重工の出資校だぞ! そんなところがお前のためだけに練習試合を用意するんだ。とんでもない待遇だ」
「そうだね」
「日本屈指のウィングス関連企業だ。そんな興味本位で断るような規模の話じゃない」
「えー、別に興味がある方に行くのは普通のことじゃない? あっちはなんか堅苦しそうだったし僕には会わなそうだったからさー。自分で色々自由にできるならそっちの方が楽しそうだしねっと。おー、やっぱこの機体後期型か。僕も初めて見たなぁ」
話を聞いても埒があかないと思い始じめていると弄っていた端末を見ながら嬉しそうに言う。その言葉を聞いて慌ててウィリアムの肩をつかんだ。
「おい待て、お前その機械なんだ。俺の機体情報見てるのか? システムはシャットダウンしてるはずだぞ。外部から見られる情報なんて……」
「自作のスキャン装置。シャットダウンって言っても諸々維持装置は働いてるしそっから内部データは多少わかるし、正式登録されてる機体なら多少外装弄ってても重心とかパーツバランスから素体の情報くらいは取れるよ」
ほら、といった風に弄っていた端末をこちらに見せてくる。機体の品名、型番、エンジンやブースター、細々とした装備品や外装、並んでいるデータは全てとは言わないが確かに自分の機体の物に相違なかった。
「これは…… 個人で持ってて良いのかそんなもの」
「技術自体は少し前からあるよ。民間に流れるのは都合が悪いから出回ってないけど。僕はほら、個人というより企業として持ってるから」
そう言いながらこちらに端末を押し付けて立ち上がった。それを横目で見つつ、手元にある端末を操作すれば詳細情報がかなりの精度で出ており、今もなお何かの情報を解析しているのか少しずつ情報が付け足されていた。本当にこんなものが存在して尚且つその技術が完全に企業の中で秘匿され続けるなんてことが可能なのか? そもそもこんなものが合ったら企業間の技術流出が深刻になるのではないか? そんなことを疑問に思い、しかしそこで思考を止め、機体に触れようとする奴の肩を改めて掴んだ。
「そもそもの話勝手に人の機体情報を盗み見るな。離れろ、触れるな!」
「カリカリするなよ。どうせ整備も生徒がメインでやってるんでしょ。そんな下手くそに触らせるより僕に任せた方が絶対良いって!」
そう言いながら手をわきわきと動かしながらおもちゃを前にした子供のように目を輝かせながら無理矢理進もうとするのを押し退け、機体との間に立ち塞がった。
「お前みたいな得体の知れない奴に機体を触らせるわけがないだろうが!」
「乱暴だなぁ。自己紹介はしただろー?」
「聞けば聞くほど胡散臭さしか出てこないんだよ!」
相変わらずヘラヘラとした態度を崩さないウィリアムに対し睨み付けるように叫ぶ。
「酷いねぇ。全く、わかったよ。君が承諾するまでは機体には触らないよ」
やれやれと言った風に肩を竦めながら先ほどまで座っていた場所に戻って腰を下ろした。なぜこちらが呆れられなくてはならないのだとまた頭に血が上るのを感じる。
「じゃあまあ話をしようじゃないか。これからのこととか諸々。納得いくまでね」
そう言いながらこちらの苛つきなど考えていないように、こちらにキャスター付きの椅子を転がし着席を促してきた。
「……次に茶々入れてきたらその場で帰るからな」
「わかったわかった、全く冗談通じないなぁ」
椅子に座り、ウィリアムと向かい合う。そして、ウィリアムの話に耳を傾けた。
「……本気で言ってるのか?」
一通りの話が終わり、話の荒唐無稽さに思わず頭を抱えた。
「僕は冗談は言うけど嘘は言わないよ」
「冗談だった方がましだ」
確かに、嘘はないのだろう。恐らく全てを話している訳ではないが、それでも今話したことを、こいつは本当にやる気でいる。
「……その話、勝算はあるんだろうな」
血迷ったことを言っていると理解していた。しかし、この男の提案を簡単に蹴ることが出来ない理由が俺にはあった。俺の言葉を聞きニヤリと笑うウィリアムの顔を見てすでに少し後悔しているが……
「さぁ? 君の腕次第かな」
「お前の実力を疑ってるんだ」
「おー、自分は大丈夫って? 自信満々じゃん。いいねぇ」
そう言いながらウィリアムは手を差し出してきた。若干の躊躇はあったが、その手を取った。
「それじゃあ共犯ってことでよろしく…… えー」
「灰崎だ。名前くらいは覚えろ」
「そーそー、ハイザキ。僕はウィルでいいよ」
こうして、歪な協力関係が結ばれた。
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