14 敵の数嘘ついてるだろ!とかいう疑問は捨てろ(笑)
★★★
俺はいつの間にかニコラス王国の洞窟に来ていた。無意識でだと思うが。あと5時間。来たからにはもうやるしかない。別にニコラス王国を救うわけではない。何度も言うが、俺は異世界救うより俺を救いたいんだよ。俺が救われるためには俺の体がなきゃならない。なんかさっき『俺は約束を守りにいく』とかわけわからんこと言っていたが、実際のところ俺の体を取り返しにいくだけだ。もうね、俺はとっくに『勇者』とかいう役職は捨てたからね。その前に俺がいた世界なんてもうないからな……。
洞窟を出ると、そこは前世の記憶を持つゴースト達の国だ。あまりにぎわってはいない。というより、ゴーストの気配がない。歩いてみても家にもどこにもゴーストの気配がない。なんだろう、すごい不気味な感じがする。少し歩いて立ち止まり、剣を出現させる。
――まぁわかってるけれども。
「ニューヘル女王!ひっかかりましたね!」
その声とともにすべての家の屋根の上にゴーストが現れた。全員が蓮雄に剣を向けている。まぁこういうことだ。もう俺らが来る前にこのニコラス王国はとっくに魔王リヴェルトンの支配下にあるってことだ。あの国王もやらせで、依頼者というものもニューヘル女王を殺すため。まぁだいたい予想はついていた。魔王リヴェルトンが残りの反逆者よりも先に地球を征服しにくるわけがない。多分ヘルも気づいているはずだ。ヘルは俺を暴れさせるために、わざと捕まった。ヘルのおかげで思う存分暴れれるぜ。
ゴーストの数、およそ1万。上からみれば、すべての屋根が真っ白に染まっていて、王国はすべて雪になっている。ふん。これが多い?なわけ、多分こいつら全員倒したとしても、まだ向こうには10万ぐらいいるだろう。そんなもん俺の相手じゃねぇ。
「ひっかかったぁ?何言ってんだよ。ひっかかったのはてめぇらのほうだ!」
そう笑いながら飛び込むと同時に、ゴースト達が一斉に蓮雄を襲いにかかる。
筋肉マッチョ型、人形、白玉型などさまざまなゴーストがいる。たまにサングラスとかおしゃれしたやつとかいるけど。――敵の数嘘ついてるだろ!とかいう疑問は捨てろ(笑)。
殺しても殺してもまだ物足りない。なんだろう。
蓮雄が思う存分暴れているおかげで、周りの家がぐちゃぐちゃになったり、血まみれになったりする。
たまに蓮雄も家の中に飛び込み、待ち伏せして殺したり。面白い殺し方を試してみたりと、暴れていた。
地上も少しおとなしくなると、蓮雄はジャンプしてゴーストを殺しながら屋根の上に着地する。そして、笑いながら飛び込む。次々と殺されていくゴースト。
屋根の上ではたまに足下の瓦がはずれて、切り殺されそうになるが、剣を弾いてそのまま斬る。
そこまで強い相手ではないし、順調に殺していく。
屋根から屋根に飛び移る。
もう夜になっているため、月が見える。まぁそんなものを見ている場合ではないが、血しぶきでたまに赤色に染まる月は案外美しい。実際に赤色に染まってるわけじゃないからね?
俺は必殺技というものがまだ使えない。だからめんどくさくも1体ずつ殺しているのだ。必殺技さえ使えればまぁ簡単。
というか、ゴースト達から見れば恐ろしいもんだよね。こんな可愛らしい女の子が『狼』みたいに笑って殺していく姿……あー恐ろしい!わらわら。あ、可愛らしいってヘルが可愛いわけじゃないからね?俺が、可愛らしいんだからね?勘違いしないでよね!ぷいぷい!まぁ相手は真剣に殺しあっているのに、俺はこんなふざけていられるというのは、まぁ力の差というやつか……経験という差というやつか……それとも、それぞれの心か……どれにしろ、俺よりゴースト達のほうがゴミというわけだ。
それから10分後。俺はある家の壁に息を荒くしながら座ってもたれかかっていた。蓮雄の顔や手や服などには血が大量についている。中には蓮雄の血もあるが、だいたいはゴースト達の血だ。今思ったのだが、ゴーストも血を流すんだな。
別に追い込まれたというわけではない。逃げ込んだのだ。ちょっと休憩に、ね?いや、敵が多いとかそういう問題は決してないからね。
外では「おいどこへ行った!?」「くそ!絶対に殺せ!」「おいこっちだ!」「まじでか!?」などの声が聞こえてくる。すると、
[どうだぁ?調子は]
胸と股にモザイクがかかったヘルが現れた。あのー?言っておきますけど、体は俺だからね?男の胸と股にモザイクかかってんだよ?
[ほう?急に現れてもびっくりしない……か……]
何やらメモりだすヘル。
[じゃあ次は裸で登場だな]
「言っとくけどそれ俺の体だからな!?」
[で?]
「でじゃねーよ!……ったく……めんどくせぇ奴だな……」
ほんと、こいつとかかわってるとろくなことがねぇ。
[……どうやら魔王リヴェルトンが援軍をよこしてきたらしい]
「ん?」
[魔王リヴェルトンはすべての戦力をここに集めた。つまり、だ。私達を本気で潰すらしい]
「道理で俺があんなに殺しても殺しても減らねーわけか……」
[あぁ。大方見積もると敵の戦力は約20万。そしてこちらの戦力は2人]
「あれ?戦力が間違ってはないか?」
そう言いながら立ち上がる。
「こっちの戦力は……2人で1億……だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
天井をぶっ壊して屋根上に立ち、その家の屋根上にいたゴーストを殺して地上に降り立つ。すると、ヘルもついてきた。
「おい何ついてきてんだよ!」
[は?]
「お前、俺が思う存分暴れさせるためにわざと捕まったんだろ!?」
[は?貴様何を言っている?貴様を暴れさせるためだと?なわけ。私は面白そうだったから捕まったまで。貴様のことなど考えてもおらんわ]
……………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
ちょっと待て!ということは俺の思い違い!?というかえ!?面白そうだからわざと捕まっただと!?なんだとゴラァ!心配したんだぞゴラァ!……いや、心配してないから。全然してないから!
と言っているうちにゴースト達に取り囲まれてしまった。
フフっとヘルと蓮雄が笑う。2人は目を合わせうなずくと、剣を背中を合わせて構えた。
【さぁどこからでもかかってきやがれ!俺(私)達を殺してみな!】
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」という掛け声とともにゴースト達が一斉に襲いかかってきた。それと同時に、2人の戦闘も始まる。
2人を中心として円状にゴースト達がいて、そこからどんどんと飛び出してくる。そして、どんどんと殺していく。屋根上から飛んでくるやつも殺していく。
2人はナイスコンビネーションでどんどん殺していく。だが、一向に減らない。さすがに多すぎる。
★★★
フ、フフハハハハハハハハ!なんだ、まだ完全体ではないのか。まぁそれが完全体になっていく姿もおもしろい。ほんと、おもしろいことになりそうだ。
男がそう思っていると、
「神よ……ここからはどうすればいいのだ?私はあなた様の言う通りにすべての戦力を送り込みました」
「んーそうだねぇ……ここで待っていればいいと思うよ」
男がニコリと笑った。リヴェルトンはよくわからなかったが、なんとなく苦笑いをした。
「そ、そうですか……」
「ただ、待っていればあの子はここに来るからね」
男はそう言った。
銀髪のストレート。赤色の瞳。優しい顔つきをしているが、感じられるのは優しいとかそんなもんじゃない。誰もが、『狼』を想像するだろう。初めて見る人は、男の後に大きな『狼』が映し出されることだろう。灰色のコートを身にまとっていて、さらに『狼』を連想させる。
「え?それでは私は……」
「さぁ?そんなの知らないよ。……んーあの子だったらリヴェルトンぐらい殺しちゃうかもね」
「な!」
男は笑った。
「あなた様を信じて全戦力を送り込んだのですよ!?」
「勘違いしてないかな?確かに送り込んだ方がいいんじゃない?とは言ったけれど、一言も殺せれるなんて言ってないよ?」
「で、でも!殺せれる前提での話だったはず!」
「だから?」
「……」
「リヴェルトン。君の役目はもうとっくに終わってるからね。君はもう用済みなんだよリヴェルトン?」
「な……」
「用済みはいてもらったら困るからね」
ニコリ。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!ふざけやがって!」
「ふざける?ふざけてるのはリヴェルトン、てめぇーだよ。この俺に逆らうとはな!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!何様のつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
リヴェルトンの怒りが爆発した。
リヴェルトンの横に魔法陣ができて、そこから無数の波動弾が放たれる。
あっという間に男がいたところは煙につつまれた。
リヴェルトンが笑って波動弾を撃っていると、急に魔法陣がパリン!という音ともに消えた。そして、後ろから衝撃がくると、リヴェルトンは煙の中に吸い込まれていった。いや、それは煙ではない。――獣だ。
煙で作られた獣、『狼』の口の中にリヴェルトンは吸い込まれていった。それを確認したのか、その『狼』は口を閉じて、何回もくちゃくちゃ噛む。中からリヴェルトンの悲鳴が聞こえてくるが、無視。こういうのは無視。いや、大丈夫ですか!?とか言っても、そうさせたのは俺だし。俺だから。というか、俺に逆らったのがいけないんだよ。調教するぞゴラァ。や、でも調教するなら美人の女がいいな。あの落ちていく顔がたまら――いかんいかん。こんなことを考えてる場合じゃなかった。
別に殺すわけではない。死ぬ寸前のところで吐き出す。『狼』の口から出てきたリヴェルトンは、両足がなく、あと全身血まみれになっていた。これじゃあ喋れそうにないな。
リヴェルトンの真下に魔法陣ができ、その魔法陣がリヴェルトンを通り抜けていく。リヴェルトンを通り抜けるとその魔法陣は消えた。
すると、リヴェルトンが元の姿に戻っていた。
「どうだ死ぬ寸前の気分は」
「……と、とてもお、恐ろしかった、です」
「そうか。死ぬたくなければ次は俺に逆らわないことだな。……まぁ次はないと思うが」
「……」
リヴェルトンは酷く怯えていた。
「ねぇリヴェルトン。僕はそんなことをしたくはないんだよ?だから、もう僕には逆らわないでね」
先程までとは真逆の違う雰囲気と口調。
「……は、はい……」
「うん、それでいいんだよ。……でねリヴェルトン。君は僕に、怒りと恨みと憎しみとかいろいろ抱いているでしょ?それをさ、バグ・レオンにぶつけなよ」
「……」
「その方があの子も本気でかかってくるし、それに、そっちのほうが見てて面白いからね」
「……」
「なんで黙ってるのかな?やっぱり僕が嫌――」
「バグ・レオンをぶっ殺す!絶対に!」
「そうそうその
そう言って男はその手で煙の『狼』を消した。
「あ、もう一つ。ニューヘル女王を捕らえているよね?」
「は、はい」
「じゃあそれを利用してね。そっちのほうがあの子も燃えるだろうし。それと、くれぐれもニューヘル女王を殺さないように。なぜかって?そんなのリヴェルトンが気にする必要はないよ。ただ、もしもニューヘル女王を殺してみろ」
雰囲気、口調が変わった。
いつの間にか現れた剣をリヴェルトンの首につきつける。
「てめぇーが気づいた時にはそこは地獄だぞ?」
「は、はははははははははい!」
「うんわかればいいんだよ」
男の雰囲気と口調が変わり、剣を消した。
「と、長くここにいてもね。それでは僕は退散するよ」
「の、残らないんですか?」
「ん?なんで残る必要があるのかな?」
「バグ・レオンを殺す、とかこの戦いを見る、とか……」
「んー……それもいいかもね。でも、僕が殺すのはまずいかな。それに、僕はいつでも見てるから。だから残る理由なんてないね」
「そ、そうですか……」
男が背を向ける。
「せいぜいいい死に方をしてね。
――てめぇは俺の言うこと聞いときゃあいいんだよこのゴミ」
そう言って男は闇に消えた。
残されたリヴェルトン。
――あれが二重人格を操る男、か。
闇に消えた男を見て、心の中で呟いた。
リヴェルトンは立ち上がると服に付いたホコリを払う。
――バグ・レオンを殺して貴様も殺してやるからな。
闇に向かってそう目で言った。もしも声に出してたら殺されてたな。
★★★
さぁ何時間経っただろう。体内時計は3時間ぐらいなんだけどな。あと、どんぐらい殺しただろうか。自分的にはもう10万は殺して、ヘルも10万ぐらいは殺しているはずだ。だが、実際はそうでもなかった。2時間で合計10万だ。2時間経っても尚、円状を崩してなかった。いや、崩せれなかった。どんどんゴースト達が寄ってくる。俺とヘルは背中を合わせて息を荒くしていた。
「なぁヘル。これ無事に帰れたらおっぱい揉んでいいか?体入れ替わって、見てるけどまだ揉んではいないんだよね」
[貴様ぶっ殺すぞ]
「ちなみに下の方はトイレで見ちゃって鼻血出した」
[貴様マジで殺すぞ!]
「いや、そういうヘルも俺のムスコ見てんだろ?」
[み、見ておらんわ!]
「嘘はいいから。……ところで、この会話いる?」
[いらんわ!]
「ごめんごめん。死ぬ直前ってボケたくなるもんなんだよね」
[縁起でもないこと言うな……死にはせん。私の体を死なせてたまるか]
「ハハ」と笑うと、穏やかな顔が変わった。いや、こんなふざけてる場合じゃないからな。
結局、まだまだ敵はいるというわけか。だ、だが問題はねぇ。
すると、俺らを中心に大きな魔法陣ができた。ヘルだ。その魔法陣から空中に魔法陣が飛んでいく。そして、魔法陣がどこかに触れるとそこから火が出てくる。あっという間にニコラス王国は火の海となる。その火で燃えていく家や、燃えていくゴースト達が。
「わぁお。こりゃすごい演出だ」
[ふん。これなら数が減っていく]
「最初からそうしろよ……」
[すいませんでしたね。ところで貴様。さっき死ぬ直前とか言っていたが――]
「それ撤回。だけど、おっぱい揉むのは約束な!」
[おい貴様!]
ヘルの声を待たず、蓮雄はゴースト達に飛び込んでいった。
[やれやれ……どうしたもんかね……まぁ絶対に揉ませないけどな!]
ヘルもそれに続きゴースト達に飛び込んでいった。
火がだんだん強くなり、辺りが真っ赤に染まったころ。体中が痛く、熱かった。すぐそこには火とゴースト。時にはゴーストを火の中にぶち込んだり、時には自分が火の中にぶち込まれそうになるが、なんとか踏ん張ったりしようとすけどそんな芸当俺にできるわけねーだろ。火の中にぶち込まされましたけど何か?えぇ熱かったですよ?何か?火傷?何か?何か?
それから2時間後。ニコラス王国に来てから4時間が経とうとしていた。ようやくほぼ全員殺せた。あとは……
「おやおやこれで戦うのは3回目でしょうかねぇ?」
ベール司令官だ。傷も完璧に治っている。
ここは魔王リヴェルトンがいるところに繋がる扉の前だ。まぁベール司令官が待ち伏せしてるのはわかっていたことだが。
「うるせぇ。てめぇーはもうあと何秒かで死ぬぞ?」
「はぁ?何を言って――」
グサリ。
何やら感触が、と思った時にはすでに遅し。
ベール司令官は、下の魔法陣から出てきた『
[ダサいな貴様。私の魔法陣にも気づかないなんて]
ヘルがトタトタと歩いてきた。ヘルも全身傷だらけだ。
『針地獄』というのは、魔法陣がその場に1分ないと発動できない。つまり、1分前からヘルは準備をしていたのだ。
「あれれ?3回目登場で即死ですかぁ?」
「な!て、てめぇーら!」
「さぁて?死ねよクズ」
その瞬間、ヘルがもっと強めた。
ベール司令官は血を吹く。
「フ、フ、フハハハハハハハハ!」
ベール司令官が豪快に笑った。ヘルはそれが気に食わなかったのか、上に魔法陣を作る。
「さて、通させてもらうよ」
「てめぇらはここで死ねぇぇぇ!」
「ぎゃあぎゃあうるせーよ」
ベール司令官の横を通り過ぎる。
「お前はここで死んどけ」
その瞬間、上の魔法陣から『針地獄』がでてきた。ベール司令官は上と下から針地獄に刺されている。身動きはとれないから、そのうち死ぬだろう。
2人は扉を開けて、中に入った。
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