9 やっぱり俺は普通の高校生……だよな?
★★★
――記憶戻ったからなんだ?俺はあんな過去どうでもいい。
学校に行く途中、俺は無意識にそんなことを考えていた。確かに、過去の記憶には、俺は『狼』としてあらやる敵を捕食してきた『勇者』だ。だが、俺は今、『一般の高校生』として生活をしている。昔のことなど関係なく暮らしているのだ。こんな記憶が戻ったからなんだっていうんだ?母さん達だって昔の記憶は当然ながらあるわけだし、それでも極普通の家族として暮らしている。俺ら家族はもう昔のことは捨てたんだ。
と、自転車を立ちこぎしながら坂を上がる。もう俺は『勇者』などではなく、普通の高校生なのだ。と、そう思った瞬間。なぜかペダルが自転車から外れ俺はそのまま、あのカゴと車輪が繋がっている鉄の部分に、股間を強打した。そして坂をそのまま転げ落ちた。
あのクソジジィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
俺は股間を押さえながら、頭や腕など包帯ぐるぐる巻きにしながら、俺のクラスの列の1番後ろに並んでいた。まさかの朝礼の日だった。どうやら、萌愛が時計にいたずらをして時間を1時間ずらしていた。それで、事故って血まみれで学校行って、保健の先生に手当てしてもらってこの状態だ。なんだあの先生。元医者か?ていうか今思ったけどね、俺って体女じゃね?え?じゃあこの股間押さえてる手は……俺はヒョイと手をどけた。見てないよね?ね?みてないよね〜?萌愛が時計をズラしてくれてたおかげで、朝礼には間に合ったものの……まさかの股間強打ね。女子も打つと痛いんだね。ムスコがないから痛くないのかと思ってたぜ☆彡
ところでヘルに先程ものすごい殺意を持った目で睨みつけられたので、朝礼終わったら校内で逃げようと思う。
全員が体育館に集まると司会が進行する。
[今から朝礼を始めます]
と、禰津幽香先輩の声がマイク越しに聞こえる。あ、禰津幽香は一応生徒会3年女子副会長である。一応。ていうかなんでなったんだろうと俺は思う。こんなのがなったら――
[全員、勃★!★精!]
こんなふうになるだろうが。誰だよこいつに投票しやがったのは。いやまぁ立候補してたのこいつだけだけど。
[間違えました。全員、気をつけ!礼!]
とんでもねー間違えだわ。
幽香先輩の掛け声に合わせて礼をする。もう高校生にもなると、気をつけとかいうのはやらない。立ってるだけで気をつけでしょ?え?違うの?
もう早く後期になってくれないとこの人ほんと暴走すんぞ。
[早速、校長先生のお話を聞きます]
そう言うと、校長先生がステージの上に上がる。正式名称なんてしるか。ステージでいんだよステージで。
[気をつけ。礼!……オッパイ]
おいなんか最後に小さくなんか下ネタ聞こえたんですけど!?おい校長先生困ってんだろ。聞こえてんだよ!小さい声で言ったつもりですかぁ?
ってあれ?校長先生なんか頭おかしくない?
[えー、これで3回目の朝礼です。もう1年生も慣れてきたと、思います。学校にも慣れて――]
ポロり。
体育館が一瞬で静まり返った。
校長先生は落ちたソレを拾い、そのままステージから消えた。
ズ、ズ、ズラかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?道理で不自然かと思ったよ!中身まるピカピッカンやん!お坊さん並にピッカンカンだよ!?シャイニング・ヘッドだよ!?
[校長先生のカツラ話ありがとうございました]
おいぃぃぃぃぃ!?悪化させんなぁぁぁぁぁぁ!デリケートだから!カツラかぶってるやつはデリケートだから!やめてあげて!?
[続いて、急遽転校してきた、転校生を紹介したいと思います]
「え?誰かくるのー?」
「アメリカ人?」
「誰々ー!?イケメンかなー!?」
と、女子達や男子達、全員がざわめき始める。ほんと誰だろ。こんなところで発表するぐらいだからな。
[性欲が抑えきれないのはわかりますが静かに!]
一瞬で静まり返る。あ、逆に幽香先輩が副会長のほうがいいのかもしれない。一瞬で生徒を黙らせる力を持っているカッコわら。
[実はですね、転校してきたのは3日、4日前だったかな?それぐらいからもう学校で生活はしています]
その一言でなぜか俺のクラス全員が俺を向く。何か嫌な予感が。
[では、紹介したいと思います!]
そして、幽香先輩が挙げた名前は。
[優凪ヘルさんでーす!]
【おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!】
ちょ待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!なんでわざわざ朝礼で発表すんだよ!?は!?おかしいだろ!いやマジ待って!?
俺は無意識に立ち上がっていたらしく、全員の視線がこちらを向いている。
ね?ね?俺は今負傷中だぞ!?包帯ぐるぐる巻きだよ!?ね!?
俺は幽香先輩に案内され、ステージの上に上がる。
ね待って!ちょ待って?ね?と、ヘルん見ると大笑いしていた。
お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ほんとチートだな!チート能力をここで使うな!殺意ってこういうことか!?あ?こういう精神的に殺す気か!?もうマジ待って。
拍手されながら上がったが、マイクを手渡されると拍手が止んだ。え?何話すの?
[え、あ、あの、え、えー、え、えと……]
と、何を言えばいいのかわからず、言葉がでない。
[え、えーと、愛知県名古屋市から転校してきました。ゆ、優凪ヘルと言います!に、日本とアメリカのハーフです!え、英語は少ししかしゃ、喋れません!よ、よ、よろしくお願いします!]
と、デタラメばっか言ってお辞儀をする。へっ嘘は最高だぜっ!
[えーと、英語少し喋ってもらってもいいですか?]
[え!?]
まさかの英語をしゃべれと?え?自己紹介だけじゃないの?え?
ちょやべどうしよう。もうこうなったら『いや、異世界救う前に俺を救えよ』の中で出てきた英語を言ってやるか。聞いとけよ俊将!
[ I am pretty like a spirit device!(アイアムプリティーライクアスピリッツデバイス)]
【……】
当たり前だが、静まり返る。ははっ!
意味はってか?意味はな、『私は精器みたいに可愛い!』という意味だ!本に書いてあったんだよ!俺は英語サッパリだから他の英文なんてわかるわけねーだろ!こういうラノベででてきたもんしか覚えられねーんだよ!つまんなかったけど!『いや、異世界救う前に俺を救えよ』とかおもしろくないけどね!
[……えーと、意味は?]
[私はやっぱり可愛い!という意味です]
嘘つくしかねーだろ?おい。
[では次の質問!……処女ですか?]
[はぁ!?何言ってるんですか先輩!?]
マイク越しにツッコミをしてしまった。まぁ女の子っぽく言ってるから大丈夫だろう。大丈夫じゃねーよ!
おいまたこの質問かよ!俊将と同レベルかよ!ていうかそれ以上だったな!
[処女なのか!?果たしてヤリ★ンなのか!?]
[……ではありがとうございました]
[ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ!答えてぇぇぇぇ!処女なのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?]
俺は無視してステージからおりる。もう静かにしてろ。もうそろそろ殴んぞゴルァ。
と、俺が列の1番後ろに着く頃には静かになっていた。もう包帯邪魔。股間痛いの我慢してたんだぞ!
そして、次の表彰にうつり、そのまま朝礼は終わった。
★★★
逃げようとしたけど、怪我してたから走り回れないことに気付き、諦めた。あのチートには勝てん。
どうやら公開自己紹介で満足したらしい。小さいなおい!別に俺そこまでダメージ受けてないし!
もちろんのことだが、都茂龍架は休みだ。
朝礼が終わったらすぐに1時間目が始まる。もう痛すぎて眠くもないわ。
1時間目の休み時間。2時間目が美術のため美術室に行かなければならない。その移動中。3年A組とすれ違う。どうやら1時間目は3年生の先輩方が美術だったらしい。次々と知らない人が通っていく。いや、全員知ってたらキモイだろ。てか俺は今仮にも転校生なんだけど。先輩方は俺をチラ見してくる。まぁ朝礼であんなことになったからな!キモイんだよ!こっち見んな!……女子の気持ちがほんとわかるわ。いい体験ですな〜……なわけねーだろ!
と、馬鹿なことに筆箱を落としてしまった。「あー」と言いながら拾おうとしたその時、後ろから誰かがのしかかってきた。
バタン!
と俺は下敷きにされる。目を開けると、そこには3年生の先輩の顔が目の前に。3年生の間、いや、全学年から人気がある
その先輩が今、俺を床ドン!している。え?壁ドンならぬ床ドンかよ。ていうかほんと俺中身は男だから。
……ちょっと待って。え?何このドキドキ。というか早くどいてくれませんかねぇ?
「ご、ごめんね!わざとじゃないんだ」
そう言いながら起き上がり、俺の手を引っ張る。……何この気持ち。やめて。
「怪我はないかい?」
「だ、大丈夫です……」
「はいこれ。ごめんね」
と、落ちていた筆箱を拾って渡してくれた。
「ちょっと友達と遊んでてさ、後ろ見えてなくて。……君、朝礼の時の優凪ヘルちゃんだよね?」
「は、はい……」
そんな優しい声音で言わないでぇぇぇぇぇ!
「自己紹介面白かったよ」
この先輩意味わかってやがるぅぅぅぅぅ!
「それと……」
俺の目の前に来てアゴを上げてきた。まさかの顎クイだと!?
「君、可愛いね……」
ドキッ。
「『狼』になって君を食べたいな」
ズッキュン!
そう言って、智哉先輩、いや、智哉神
ともやしん
は立ち去っていった。
ウフ、ウフ、ウフフフフフフフフフフフフ。笑みが止まらない。
待って、俺、男なのに。え?何この感情。待って。ね?俺は男、智哉神も男。絶対にダメだよ。ウフフ。や、ヤバイよ。俺ヤバイよ。こ、こんな短時間なのに。嘘ヤバイよ。
――俺、恋しちゃったかも。
★★★
そんな蓮雄のことを知っている人から見たら、気持ち悪いことが起こってからもう昼休みの時間になっていた。未だに頬が赤く染まったのが治らない。あの後、しっかり考えて絶対にアウト!BLアウト!と思って気持ちを切り替えたはずなのに。なぜか俺が男になった状態で床ドンされている光景が脳内に浮かぶ。ちょキモイからそれはやめて。せめて女にして。
昼休み、屋上のベンチに座って空を見ていた。いつもの定位置に寝転がずに。
これはヘルに言ったほうがいいのだろうか?いや、言ったら即座に殺されるだろう。ていうか、まず恋してんのか俺。ていうか、これもうBL話になってんじゃん。ということで、ここからは本当に恋愛にしようと思う。ここからは俺は女。俺は女だ。俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女俺は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女私は女!
そして5時間目の休み時間。なぜか女子達が集まってきて、
「ヘルちゃんなんかあった?」
「え?何にもないよ?」
「いや、なんかさっきより女の子っぽくなったというか……」
「この数時間で女子力がグンと上がったというか……」
「なんか超女の子……」
「なわけないじゃん!私は全然女子力なんてないよー!やめてよー!」
「そうかなー?」
「なんか恋してる乙女みたいな……」
「こ、恋だなんてし、してないよ!」
「あ!動揺してる〜この〜」
「誰なんだ?誰なんだ!?」
「誰々〜教えてよ〜」
「だから違うって!恋なんてしてないよ〜」
「嘘つき〜絶対恋してるよ〜」
「やっぱり俊将君?いつも仲良く話してるし」
「な、なわけないじゃん!やめてよ〜ただ単に仲良いだけだよ〜」
「まぁそうかもね〜」
「絶対ありえないも〜ん!」
「だよねだよね〜!なんかアニヲタだもんね〜」
「気持ち悪いよね〜」
「っで、俊将君じゃないとしたら……蓮雄君?」
「え?いや何言ってるの〜?なわけないよ〜親同士が知り合いで仲良いだけだよ〜?」
「ふ〜ん?そういうのって恋に発展するんだよね〜」
「だよねだよね〜!隣のクラスの杏奈ちゃんと中村君なんてそうだもんね〜」
「だよねあそこ!超ラブラブだよね〜!」
「もうほんとやばいよ〜」
「やっぱり蓮雄君か〜?このこの〜」
「やめてよ〜!本当に違うんだから〜!」
「え〜じゃあ同級生ではないのかな〜」
「え〜郁魔君じゃない〜?やっぱりイケメン狙い〜?」
「え〜?それなら3年生の智哉先輩〜?」
「あ!そういえば今日美術行く時床ドンされてたの見た!」
「え!?まじ!?」
「いやあれは事故で〜!」
「いいな〜!」
「うわ〜ズルイ〜!」
「これは智哉先輩に恋したで決まりだね〜」
「だから〜恋してないって〜」
「嘘つけ〜」
「ほんとだって〜」
とともにチャイムが鳴る。
おいどんだけ使ってんだよ。無駄だろ!ただ稼いでるだけだろこの〜!
――え?何この女子トーク。
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