第2話 魔法少女は諦めない
・は場所
・駅前周辺の大路地
彩無は灰色の炎の大玉を放った。
マキナ「かなえ!
叶「わ、わかった!
叶は赤い光に包まれてる。
叶「なにこれ、すごい! 」
叶の靴と靴下が消える。
叶「ああっ! その靴高かったのに! 」
叶の眼鏡と髪を止めていたゴムが消えた。
叶「ちょ、視力悪いから見えないんだけど! 」
叶の視界がぼやける。
マキナ「文句を言うな! 」
叶の服とズボンが消える、下着も消える。
叶は頬を赤く染めて、慌てて胸と股間を手で隠す。
叶「ちょっと、これはありえないんですけど! 」
マキナ「我慢しろ」
叶の体を白い光の粒子が包み、やがてそれは白いスカートや服になった。
ボッと何かが燃えるような音がして、叶の髪は赤くなり叶の視力がよくなった。
赤い光が消えて、周りは灰色の炎で包まれた大路地。
叶は両手で人間の首を絞めるように杖をつかんだ。
叶「ちょっとマキナ! 変身するときに裸になるとか聞いてないんですけど! わたしは変身するたびに自分の裸体をさらさないといけないの? 魔法少女やるとは言ったけど露出狂になるとは一言も言ってないんだけど! 」
マキナ「神様がそういう仕様にしたんだから仕方がないだろ! 」
叶「なにその神のいたずら!? いたずらにも程があるでしょ! 」
マキナ「お前の全裸で人の命が救えると考えれば、安いもんだろ! 別に減るもんじゃないし……」
叶「減るわよ、減りますよ! もうやだぁ……こんなんじゃお嫁にいけない……」
叶はその場にしゃがんで泣き出す。
マキナ「おい、そんなことしてる場合じゃないぞ。後ろを見ろ」
叶「え? 」
叶は振り返ると少し離れたところに逃げ遅れた少女が倒れていた。
叶は立ち上がり少女のもとに向かう。
マキナ「炎はお前が
叶「そうよね。よっこらしょっ! 」
叶は少女を背負うと安全な場所を探して走り出す。
叶「さっきから気になってたんだけど、炎の中なのに息が苦しくないのはなんで? 」
マキナ「初めての
叶「へぇ~そうなんだー」
叶(スーパーマルオブラザーズでいうスター取ったときみたいな感じかな)
叶は赤い帽子をかぶったおじさんがスターを手に入れた瞬間、全身が七色になり、ぶつかるだけで敵を粉砕していく状況を想像した。
・駅前周辺 大路地から少し離れた場所
叶が炎で包まれた大路地を抜けると、そこには一人の警察と一人の女子高生がいた。
女子高生「え、なんかコスプレお姉さん出てきたんですけど! マジウケる! 」
女子高生はスマートフォンで何度も叶の写真を撮る。
叶「えっ、ちょっと! 」
叶はあわてて顔を隠す。
警察「きみは何者だ?」
叶「えっと……この子頼みます! 」
叶は少女を警察に渡し、再び灰色の炎の中に入っていった。
警察「おいっ! 」
女子校生はツブヤイッターというアプリを開いて
「火災現場なうw なんか杖持った痛い人出てきたマジウケるw」
という文を書き込み、さっき撮った叶の写真を添付して投稿した。
・駅前周辺 大路地
叶(コスプレお姉さんか……痛い人だとおもわれてるよね~きっと……)
彩無「誰や! そこにおんのは! 」
叶は足を止めた。
叶「ごめん今の声聞いてなんか怖くなってきた……」
マキナ「なにを言ってるんだ! 敵はすぐそこだぞ! 」
マキナはパタパタと羽を動かして前に進もうとする。叶はそんなマキナを引っ張る。
マキナ「おい、引っ張るな! はやくいくぞ! 」
叶「無理! 無理! 無理ッ! ゲホッ、ゲホッ! 」
叶は急にせき込んだ。
叶(あれ? 急に息が苦しくなってきた……もしかして加護終わっちゃった? ヤバい、ヤバい、なんとかしないと! )
叶はデッキからカードを一枚ドローした。ドローしたカードは、
マキナ「なにを! 」
カードが消えた瞬間、灰色の炎は消えた。目の前には
彩無「ここで会うと思わんかったぞ! 赤色の魔法少女! 」
叶の足は震えている。
叶(どうしよ……めちゃくちゃ怖いんだけど……)
叶の頭に桃の笑顔がよぎる。叶は杖を持っていない方の手のこぶしを強く握った。
叶(いや、やるんだ! わたしにかかってる! )
叶「よっしゃあっ! かかってきなさい放火魔! 女子大生魔法少女カナエちゃんが相手よ! 」
叶は杖を構えた。
マキナ「わりと乗り気だな」
叶「こうでもいわないとやってらんないのよ……」
・とある研究所 モニターのある部屋
大きなモニターがあり、詩音と喜助は駅周辺の状況を見ている。喜助はにやけている。
喜助「いや~、まさか赤色の魔法少女が女子大生だったとは! これまたびっくりだな! 」
詩音「喜助さん、鼻の下伸びてますよ~気持ち悪いっす」
喜助「えっ! 詩音ちゃん人のこと言えないでしょ! 」
詩音は喜助に冷たいまなざしを向けた。
詩音「あぁ? ふざけないでもらえますか? 」
喜助「あ、はい……すいません……」
喜助(銀髪美少女が消えた瞬間、ご機嫌斜めになっちゃったなぁ~ 詩音ちゃん)
ウイーン(ドアが開く音)
黒髪の男がタオルで自分の髪を拭きながらモニターのある部屋に入ってくる。彼の名は
喜助「おおっ、親友! 今日はもう終わりか? 」
宗助「ああ、それより
喜助「そうなんだよ! 聞いてくれ! 女子大生が炎の中で……」
詩音「安心してください。
宗助「そうか……ならいい」
詩音「でも、おもしろいことがありましたよ」
宗助「なんだそれは? 」
詩音「赤色の魔法少女が誕生しました」
宗助の目つきが鋭くなり、モニターを見た。
詩音「どうですか? 」
宗助「あれが赤色の魔法少女だと? ……違う……あんなものは違う……偽物だ! 」
ウイーン(扉の開く音)
宗助はモニターのある部屋を出た。
喜助「やっぱり怒るよな~」
詩音「まぁ、宗助さんが言ってることは間違いではありませんからね」
・とある研究所 様々な機械が置いてある部屋
緑の液体の入った機械の中に黒い髪の少女が入っている。
彼女の意識はない。
・駅前周辺 大路地
杖を持った叶と
叶「マキナ、一つだけいい? 」
マキナ「なんだ? 」
叶「そのお……この服のサイズって変えられないの? さっき走ってる時からちょっと……サイズが小さいなぁ……って思ってるんだけど……」
マキナ「その服はお前の体のありとあらゆるデータをもとに作られている。バスト、体重、運動能力などからだ。具体的な数値を言うと……」
叶「言わなくていいから! それ、うかつにべらべら喋っていいものじゃないから! とにかくサイズを変えれるかどうかを教えて! 」
彩無「おい! なにこそこそ話してんねん! お前、ワイをたおすんやろ? はよ始めろや! 」
叶「当然よ! 今すぐにでも倒してあげるわ! 」
彩無はニヤリと笑う。
彩無「えらい余裕やんけ! ほんなら、こっちから先に仕掛けさせてもらうわッ! 」
彩無は両拳に灰色の炎をまとって叶に襲い掛かる。
叶「くっ」
叶は彩無の右ストレートをかわす。続いて彩無は何度も何度もパンチを繰り出すがそれもなんとかギリギリ避ける。
彩無「ちょこまかうっとうしいな、お前ッ! 」
両手を組んで上から下に振り下ろす。叶はそれを避ける。彩無の攻撃は地面に当たり、爆発が起きる。
マキナ「服のおかげで身体能力が上がっているが、逃げているだけでは勝てないぞ! 」
彩無は再びに両拳に炎をまとって殴りかかる。
叶「マキナ! ちょっと痛いかもしれないけど……我慢して! えいっ! 」
叶は彩無の左ストレートをかわした。おもいっきり杖を上下に振り下ろし、彩無の頭を殴った。
彩無「ぐはっ! 」
彩無はひるんで、拳の炎を消して自分の頭を押さえた。
叶「がら空きなのよ! せいっ! 」
叶はわき腹にまわし蹴りを決めた。
彩無「ぐはっ! 」
彩無は吹っ飛んだ。そして、車に激突し、倒れた。
叶「(マキナに向かって)痛かった? 」
マキナ「あぁ、なかなか痛かった。今度からぼくで何かを殴るのはやめてくれ。頼むから」
叶「はい、二度としません」
彩無は立ち上がった。
彩無「こいつはどうや! 」
彩無は無数の小さな火球を生み出し、叶に向けて放った。叶は彩無に背を向け、走り出した。次々と爆発が起きる。
叶「うわっ! 」
叶は爆発の中、逃げて小さな路地に入った。そこは行き止まりだった。
叶「うそっ!? 行き止まり!? 」
路地の入口に彩無がやってきた。
彩無「ここまでや。赤色の魔法少女」
彩無は灰色の炎の大玉を生み出した。
叶「マキナ! どうしたらいい? 」
マキナ「こんなところで使うのはもったいないが……かなえ! デッキから
叶はデッキから
彩無「くたばれ! 」
彩無は大玉を放った。
マキナ「はやく使え! 」
叶に大玉が迫る。
叶「
叶が
彩無「なんや? またわけのわからん力か? 」
マキナ「この
叶「でも、ここだといずれ不利になる」
彩無「これはどうや? 」
彩無は無数の小さな火球を生み出し、放った。赤い球体が火球を防ぐ。
叶「なんとか持ちこたえて! お願い! 」
彩無は火球を放つのをやめた。
彩無「なんで壊れへんのや! 」
赤い球体は消えた。
マキナ(やはり、効果時間が短いか…… )
マキナ「かなえ、こんどは
叶はデッキから
マキナ「ぼくの目をあいつに向けろ! 」
叶は杖の目を彩無に向けた。
叶「こう? 」
杖の目から小さな光の球が三発放たれた。
彩無「なんや!? 」
彩無に直撃し、爆発した。煙で彩無がどうなったのかはわからない。
マキナ「今のうちだ! 」
叶は全力で彩無の横を抜けて、大路地へ出た。振り返ると爆発で生じた煙がなくなるとそこには無傷の彩無の姿があった。
叶「全然効いてないじゃない…… 」
彩無「そんなもんか? お前の力」
叶の足は震え、ゆっくりと後退した。
叶「うわぁぁぁぁぁッ! 」
マキナ「待て! 落ち着け! 」
叶は彩無に向けて、
彩無は灰になり、
灰は宙で再び、彩無になった。上を見る叶。彩無は全身に炎をまとい、落下してきた。マキナは羽をパタパタ動かして、なんとか叶を移動させる。彩無が地面に激突し、爆発が起こる。
叶「うっ! 」
叶は爆発の衝撃で吹き飛ばされ、こける。立ち上がり、彩無がいる場所から少し離れる。
マキナ「しっかりしろ! 戦闘に集中しないと、お前が死ぬぞ! 」
叶「わかってる! わかってるけど…… 」
叶は再び、杖の目を彩無に向けて
叶「あれ? 出ない……出ない! 」
マキナ(もう、弾切れか!? )
彩無は無数の小さな火球を生み出す。
マキナ「使用に制限がある魔法は使うべきじゃないか……。かなえ、こんどは
叶は
マキナ「それで切り払え! 」
叶「わ、わかった! 」
叶は飛んでくる二発の火球を切りばらった。三発目の火球をなんとか回避するが、四発目が頬にかすって血が流れた。そのあとも無数の火球が飛んでくる。
叶「負けるかああああああああああ! 」
叶「おらああああああああああああああああッ! 」
叶は切り払いながら、走って彩無に迫る。
彩無「な、なんやと!? 」
叶「今度は……わたしが仕掛ける番だッ! 」
彩無「調子にのんなや! 」
叶が目の前に来て、慌てて拳に炎をまとい、右ストレート。
叶「遅いんだよッ! 」
叶はしゃがんで、回避した。そして下から切りかかる。
彩無(やばい! )
彩無はなんとか回避しようとするが、右腕を切断される。
彩無「ぐっ……ぐわああああああああああああッ! 」
彩無は切断されたを抑えて叫んだ。切断された箇所からは様々な色の液体が出ている。彩無は叶から離れた。
叶「はぁ……はぁ……マキナ、あいつから出てるのって……」
マキナ「あぁ、あれが人間の色だ」
彩無はひざまずいた。
彩無「はぁ……やってくれるやんけ魔法少女……ちょっとこれはきついな……」
マキナ「かなえ、今がチャンスだ。
叶「……うん……わかった……」
叶がデッキからカードを取り出そうとすると、彩無は灰になって飛んで行った。
マキナ「逃がすな! 」
叶は灰の後を追った。
・とある研究所 モニターのある部屋
詩音と喜助がモニターで叶の戦闘の様子を見ている。
喜助「なかなかやるじゃねぇかあの子。初めてにしちゃー、上出来だろ」
詩音「そうっすね。まぁ、わたしには劣りますけど」
詩音(それにしても彼女の魔法……。
詩音「でも、まだわかんないっすよ~。彩無は
喜助「でも、彩無は追い込まれてるし大丈夫だろ」
詩音「どうなるかなんて最後までわかりませんよ。なんせ、魔法少女も彩無も……この世界の神でさえ予想できないイレギュラーな存在なんですから……」
・とある研究所 何もない広い部屋
宗助と四機の人型ロボットがいる。
ロボA「戦闘訓練スタート」
四機のロボットは持っているマシンガンを宗助に向けて発砲する。宗助は銃弾を避けながら、ロボットに近づく。
宗助「
宗助の手に双剣が現れる。銃弾を避けつつ、その剣でロボットAの首をはねた。
宗助(あんなものは認めない……)
空中に高く飛ぶ。ロボットBは上を見上げると、落下してくる宗助に首をはねられる。宗助は着地し、ロボットCの方へ走る。
宗助(絶対に認めない……)
ロボットCはマシンガンを捨て、ナイフを装備した。そして、構える。宗助はロボットCにめがけて片方の剣を投げた。ロボットCは飛んでくる剣をナイフで払う。宗助はロボットCのナイフを持っている方の手を切断し、続いて首をはねた。
ロボットDが宗助にマシンガンを発砲した。宗助はロボットCを盾にした。ロボットCは爆発した。
宗助「ぐっ……」
宗助は後ろに吹き飛ばされた。そして、落下した。立ち上がる。ロボットDはマシンガンを再び宗助に向ける。
宗助の頭にモニターに映っていた叶の姿がよぎる。
宗助「……認めてたまるか……認めてたまるかああああああッ! 」
宗助が叫んだ瞬間、無数の剣が宙に現れた。そして、ロボットDにめがけて飛んでいき、ロボットDを串刺しにした。ロボットDはその場に倒れた。
宗助は膝に手をついた。宗助の汗の粒が床に落ちる。
宗助「はぁ…はぁ…俺は……認めない……絶対に認めない……赤色の魔法少女は……ありす、お前だけだ……」
・市街地 大通り
叶は灰になって飛んで行った彩無を追って、駅周辺からだいぶ離れた大通りに来た。駅前周辺と比べると人が多い。
叶を見て写真を撮ったり、騒いだりする人もいたが叶は気にせず灰を追いかける。
灰はガソリンスタンドの空中で止まり、彩無になった。
叶「やっと姿を現したわね。ここで倒す! 」
彩無「……ふふっ……ふふふふ……ふははははっ! 」
叶「何がおかしいのよ! 」
彩無「いや~、ここまでついてくるとは思わんくてな~。まぁ、ええわ」
彩無は笑うのをやめ、全身に灰色の炎をまとった。
マキナ「気を付けろ、何か仕掛けてくるぞ! 」
叶「うん」
叶は杖を構えた。彩無はニヤリと笑って、ガソリンスタンドに突っ込んだ。
マキナ「まずい! ここから離れろ! 」
叶「え? 」
ドガーン!(爆発音)
叶は大爆発に巻き込まれる。ガソリンスタンド周辺は灰色の炎が燃え上がり、煙が立ち込める。近くにいた人も爆発に巻き込まれて、助けを求める人、やじ馬などで大通りは騒がしくなった。
叶「ゲホッゲホッ、痛たたた……。マキナ、大丈夫? 」
叶の体には小さなすり傷がいくつもあり、頭からは血が出ている。叶は立ち上がる。
マキナ「ぼくは平気だ。それよりも、お前……ひどい傷じゃないか!
叶はカードをデッキから取り出そうとするが、デッキがないことに気づく。
叶「あれ? ない! デッキがない! 」
マキナ「さっきの爆発で飛ばされたのか? 」
叶はデッキを探して、フラフラと歩いた。
叶「どこ~? 」
マキナ「かなえ、あそこ! 瓦礫の下」
叶は瓦礫をどけて、デッキを取った。
叶「よかった~」
マキナ(それにしても、奴はガソリンスタンドに突っ込んだんだ? 叶にダメージは与えられるかもしれないが、これくらいでは死なないことくらいわかっていたはずだ……だとしたら……なぜ? )
「誰か助けてくれー! 」
叶には誰かが助けを呼ぶ声が聞こえた。叶は声がした方へ向かった。そこには男性と血だらけの女性が倒れていた。
叶「だ、大丈夫ですか? 」
男「妻の出血が止まらないんだ……。さっきから意識もない」
叶「大丈夫、わたしが何とかします! 」
叶は
マキナ「おい! それは何度も使えるものじゃない! まずは自分に使うべきだ! 」
叶「それは無理! だって、色を抜かれた以外で死んだ人はあいつを倒しても助からないんでしょ? だったら、わたしはここで使うよ。自分のことはあとでいい」
叶はそういって、
男「す、すごい! ありがとうございます! ありがとうございます! 何かお礼をさせてください」
叶「お礼とかいいですって! 」
「ほんま素晴らしいな~」
どこからか彩無の声がした。
マキナ「やはり、死んでいなかったか」
男「なんだこの声? 」
叶「今すぐここを離れてください! できれば周りの人にもそう呼びかけて! 」
男「え? 」
叶「はやく! 」
男「わ、わかりました! 」
男は妻を背負い、大声でここから離れるように呼びかけながらこの場を去った。叶は杖を構える。
彩無「ほんなら始めよか……これがワイのとっておきや! 」
大路地に燃え盛る灰色の炎、煙、灰が一か所に集まる。そして彩無の形をした灰色の炎になった。
彩無「どうや、驚いたか? 」
叶「全然、大したことないわね。ただの炎になっただけじゃない」
マキナ「何があるかわからない。うかつに仕掛けるなよ」
叶は後ろを見た。まだ全員が逃げたわけではない。
彩無「よそ見すんなや! 」
彩無の体から無数の小さな火球が放たれる。
叶「
叶が叫んだ瞬間、
叶「これなら時間を稼げる」
彩無はニヤリと笑う。
彩無「無理やな」
叶「なんで!? 」
マキナ「どうやら、さっきの爆発を吸収して威力が増したようだ」
叶「だったら……解除ッ! 」
叶は彩無の方へ走った。
叶「
杖の先端に刃が生まれ、叶はそれで火球切り払いながら進む。
彩無「やっぱ、それで来るか……」
彩無は火球を放つのをやめた。
叶「せいやッ! 」
叶は彩無の胴体を切り裂いたが、切った感触がない。
叶「なッ!? 」
彩無「最高にハイなワイの炎で灰になれやッ! 」
彩無の全身が激しく燃え、爆発が起きる。急いで両手で防ぐ叶。
叶「ぐっ……あああああああああああああッ! 」
叶は吹っ飛び、地面に落下した。服はところどころ燃えて、ボロボロになっていた。
叶「な……なんで攻撃が効かないの? 」
マキナ「あいつは大量の炎を吸収したことで自分自身を炎にしたんだ」
叶「でも、あいつの出した炎の球は切り払えたじゃん」
マキナ「おそらくあれが奴の本当の能力なんだと思う。炎を切らすことが出来れば元状態に戻すことが出来ると思うんだが……」
叶はゆっくりと立ち上がった。
叶「それまで、あいつの攻撃を避け続けろってこと? 難易度高いなぁ……」
彩無「おいおいどうした魔法少女? もう終わりか? 」
彩無の体から無数の小さな火球が放たれる。
叶「
叶は
彩無「これならどうや? 」
彩無の腹部から炎のドリルが放たれる。叶は
叶「ぐぬぬぬぬぬ……」
メキメキと音をたて、
叶「ヤバい! 」
爆発が起きる。目を開ける叶。その前には杖でなく、人間の状態のマキナが目の前に手を広げて、火球から叶を守ったかのように立っていた。
叶「……マキナ……? 」
マキナはその場に倒れる。叶はマキナを抱きかかえた。マキナの服はボロボロで体は血だらけだった。
叶「マキナ、しっかりして! マキナ! 」
マキナ「ぼくはそう簡単に死なない……今のでも命に別状はない……それより、かなえ……お前は逃げろ……今のあいつとまともに戦っても……たぶん、勝てない……」
叶「ここまで来て何言ってんのよ……わたしがあいつを倒さないと……あいつに色を抜かれた人も……桃も助からないじゃん……」
マキナ「お前はそのために死ぬのか? 」
叶「それは……」
マキナは立ち上がった。
マキナ「……巻き込んで悪かった……お前は十分やった……だから、もういいんだ……あとはぼくが何とかする……」
彩無「まーだ生きとったかお前ら。うっとうしいな~」
彩無は無数の小さな火球を生み出した。叶は黙って、立ち上がった。そして、マキナのまえに立った。
マキナ「かなえ? 」
叶「ごめん、それは無理……」
マキナ「お前、ぼくの話をちゃんと聞いてたのか? 死ぬんだぞ? 」
叶「わたしの知ってる魔法少女はどんな時も諦めない。まぁ、あんな化け物と戦うような魔法少女ではなかったけどね。わたしはそんな魔法少女に憧れていたんだ。ここまで来たらそうありたいんだ。だから、ここで諦めたくない。ここで諦めるような奴をわたしは魔法少女とは呼ばない」
マキナ「今のお前の魔法では勝てないんだぞ? 奇跡でも起きない限り、勝てないんだぞ? 」
叶「起こすわよ。奇跡くらい起こしてやるわよ! 魔法少女になれたのも奇跡みたいなもんだし……何度だって起こしてやるわよ! 」
マキナは笑う。
マキナ「ふふっ……お前は変わった奴だな……」
マキナは叶の隣に並んだ。
叶「変わってるのはお互いさまよ! 」
マキナは杖に変身した。叶は杖を持ち、構える。
叶「さっきまでのはウォーミングアップよ! ゲームで言うと、チュートリアル! だから、覚悟しなさい! 魔法少女カナエ&マキナはめちゃくちゃ強いからッ! 」
マキナ「その言い方だとぼくも魔法少女みたいじゃないか」
叶「細かいことは気にしなさんな」
彩無「いちいちムカつくなぁ! いい加減、くたばれや! 」
彩無は火球を放つ。叶はデッキから
叶「
目は輝き、カードは消えた。
彩無「逃げんなや! 」
マキナ「どうするつもりなんだ? 」
叶「とりあえず、逃げながら考えたいんだけど……水であいつの炎を消すことってできない? 」
マキナ「できないこともないが、あいつが水に近づくとも思えない。それにあいつの炎を弱めるためにはかなりの量が必要だ」
叶「そうよね……マキナ、わたしが最初に使った
マキナ「あの魔法は本来、壊れたものを元に戻すもので彩無によって壊された建物などをもとに戻すものだ。だが、かなえの場合は効果が弱い。さっきも炎を消すくらいしかできなかった」
叶「じゃあ、カードを重ねて使えって言ってたのは? 」
マキナ「あれはカードの威力や効果を上げるためだ。それに、奴を封印するには
叶「なるほ……どッ」
叶は火球を回避する。爆発の中を逃げる。
・とある高校
叶は彩無から逃げ続けていた。気が付くとそこはとある高校の前だった。
叶「なーんかいい案ないかな~」
叶は高校の方を見た。校舎には水泳部全国大会出場の垂れ幕がかかっている。
叶「きた! わたし、ひらめいた! 」
マキナ「どうするつもりだ? 」
叶「まぁ、わたしに任せなさい! 」
叶は
叶「ごめんなさい! かならず弁償しますから! 」
叶は高校の中に入っていく。
彩無「待てや! 」
彩無はあとを追うが叶を見失う。
彩無「くそっ! どこいった! 」
彩無はあたりを見回す。
叶「こっちよ! 」
彩無は声がした方に向かった。そこは水の入ってないプールで、叶はその中にいた。
彩無「どうしたの? こっちに来ないの? あ、もしかして水が入ってなくてもプールが怖かったりする? 」
彩無「そんなわけあるか! 」
彩無はプールサイドからプールの中に入った。
彩無「もう逃がさへんぞ」
叶「もう、逃げる気はないから安心して……」
彩無は手をドリルのように回転させ、叶に襲い掛かる。
彩無「これで終わりや! 」
叶は
叶「終わるのは……あんたほうよッ! 」
杖の目が輝き、
彩無「な、なんやねん驚かしやがって! 何にも起きてないやんけ! 」
空か一粒の水が降り、彩無の頭に落ちた。
彩無「ん? 」
彩無は空を見上げる。そこにはプールと同じ形をしている大きな水の塊があった。水は滝のように降り注ぐ。
彩無「ば、馬鹿なッ! 水だとッ!? ぶぶっ……ぶぶぶぶぶ……」
彩無は水に飲まれる。
叶「どうよマキナ、わたしの秘策は……ぶぶっぶぶぶぶっぶ……」
叶も水に飲まれる。
マキナ(自分がまきこまれるところまでは考えなかったか…… )
しばらくして、彩無はプールから上がろうとしていた。その姿は全身に炎をまとったものではなく、元の灰色のトカゲ人間に戻っていた。誰かが彩無に手を差し伸べた。彩無はその手をつかんだ。
彩無「おお、すまんな。サンキューサンキュー」
彩無は顔を上げた。手を差し伸べていたのは叶だった。
彩無「げっ、魔法少女!? 」
彩無はプールサイドの端に逃げた。
叶「裸になった……爆発で服がボロボロになった……びしょびしょに濡れた……大勢の人があんたの犠牲になった……桃も巻き込まれた……」
マキナ「それもこれで終わりだ」
叶「そう。これで終わり」
叶は彩無をにらんだ。叶は
彩無「やめろ! 来るな! あっちいけ! 」
彩無は手のひらに炎を生み出すが、すぐに消えた。
彩無「な、なんでやねん! 」
叶「これで終わりッ!
彩無「ぐああああああああああああッ! 」
彩無の腹部から、様々な色があふれ出しプールサイドに飛び散る。返り血のように叶も色を浴びる。
彩無「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇッ! 」
やがて彩無は赤い光に包まれて消えた。宙には
叶「へぇー、封印したらカードになるんだ……」
叶は
叶「飛び散ってる色はこのままでいいの? 」
マキナ「ああ、すぐに元の人間のところに戻るさ」
叶の
マキナ「これからも今日のように戦わなくてはならない」
叶「毎回これはきついかな……」
マキナ「大丈夫。かなえなら出来る。これからも一緒に戦ってくれ」
叶「うん。よろしくね」
マキナ「これはサービスだ」
マキナが指を鳴らすと、彩無との戦いでついた傷が消えた。
叶「うわっ、すごい! 」
マキナは急にふらつきだした。
叶「えっ!? どうしたの!? 」
マキナ「すまない……ぼくは一度……
マキナはプールに落ちそうになる。
叶「ちょ、危ない危ない! うわっ! 」
叶は落ちそうになるマキナ手をつかむが、一緒に落ちる。
・とある研究所 モニターのある部屋
喜助「変な子が魔法少女になっちゃったなぁ…… 」
詩音「ほんと、そうっすよね~」
詩音と喜助が見ているモニターにはマキナをおんぶして歩いている叶の姿が映っている。
・帰り道
叶はマキナをおんぶして歩いている。
叶「結局またびしょびしょ……ちょっとマキナ、起きてよ! 」
マキナ「ごめん……睡魔には勝てない……ムニャムニャ……」
叶「はぁ……まったく……」
叶(なんとか彩無を倒すことが出来た。私の胸にはその達成感があり、背中には銀髪の少女の重みがある。これからのことはこれから考えればいい。とにかくお疲れさま、わたし。今日やるべきことはすべて済ました。済ました……よね? 何か忘れてる気がするけど……ま、いっか)
〈つづく〉
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