第20話 賢者モードの時程辛いものはない

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俺は今意識を失って、静かに寝息を立てる彼を見て、暫く硬直した。いや、違うなあまりの事に思考が止まっただけだ。一度自身を落ち着かせると、今の現状に意識を向けた。彼は意識はないが、まだ俺のブツがあられもない場所に突き刺さっているのを確認して、焦りを抑えて傷付けないように慎重に引き抜く。ズルリと嫌な音を立てて引き抜かれた場所からドロリと白い液体が栓を外された事で溢れ出てくる。その事実をもう一度確認することで、自分がしでかした行為を再認識した。


「すまない……」



今は身の周りの整理よりも、彼の身を綺麗にする必要がある。この宿は風呂が自慢というだけあって、24時間好きな時に入ることができる。彼を抱き上げ、風呂へと連れて行く。風呂場は階下にあるが、時間が時間なだけに誰とも会う事は無かった。


浴室内にも誰かいる事はなく、貸切状態だ。本来ならゆっくり湯に浸かりたい所だが、先ずはディーの身体を清めなければならない。自身は後回し、当然だ。身体を洗う湯は源泉から水で薄めて使用する。ディーに湯をかけ暖めてやる。何度か繰り返し、頃合いを見て、俺を受け入れていた場所を丁寧に洗い、精液を掻き出してやる。時折ディーが「ひぅ…あぁ」と声を漏らすが、気にせず……本当はムラッとくるが気にしないふりをして、作業に徹する。何度か彼が喘ぐのを聞くが、流石に手を出す事は憚られる。彼の身を綺麗にした後は、自身も軽く洗い、直ぐに浴室から出た。部屋に戻る間も誰にも会う事はなく部屋に戻る。


部屋に入れば、先ほどの行為を否が応でも意識させられる。ディーを清潔な布団に横たわせ、毛布をかけてやる。それからは、汚してしまった寝巻きや寝具を一度整理し、窓を開けて換気をする。汚した寝具は明日宿の主人に謝る事にした。ただ、不思議な事が一つ、窓を開けて換気をしたのだが、風が一瞬吹いたかと思えば、部屋の空気が一瞬で入れ替わったかの様に匂いや息苦しさが改善された。

(まぁ、そうゆう事もあるのだろう)


摩訶不思議な事はディーで散々経験している。普通は何もない所からは何も生まれない。世界の常識だ。この常識をディーは覆した。彼は本当に何者なんだろうか。静かに思考を巡らしながら、彼を見つめる。


俺は確かにディーを襲った。寝ていると、急に身体が暖かくなる感じがして、意識が戻るとまるで自分が自分でない様で、身体が勝手に動いた。あの時の俺はこの小さな身体を喰らいたい。そんな気持ちが渦巻き、誰にも渡したくはない、一種の渇望にも似た、欲求を満たした。普段の俺ならば抑制できない筈はない。だからあの時は自分でも不思議だった。それに動く身体はただ欲しいと、彼が欲しいとその感情だけだが、彼を暴力で支配したりはしなかった。結果的に違う意味で奪う形になってしまったが。俺はすまないと思いながらも、途中で止めるという選択肢は無かった。


そしてできればあの感情はあの時だけなら良かったのだ。あの時よりは落ち着いているが、今も尚、彼を欲しがっている。願わくなら、一生傍にいてかの腕の中にいて欲しいと思ってしまう自分がいる。その時自分に落胆した。俺は彼が心配だから付いてきたのではなく、彼を手に入れたい……好きという感情が俺を動かしていた。その事実に俺は情けない声で笑ってしまった。


(結局自分本位な理由だったんだな……)


それに今更ながら思う。彼は一人でも大丈夫だ。彼の魔法は強力で便利だ。逆に俺がお荷物になっている。まぁ、最初からそんな予感がしていたが、改めて認識すると結構心にクルものがあるな。彼と自分を比較する度に落ち込んでゆく。


(もう一度自分のできる役割を考えなければならないな)


静かに寝息を立てる彼の頬を軽く撫でると、すり寄ってくる事が可愛らしくて


(やっぱりダメだな。襲っちまいそうだ)


(どこかで禁欲する方法も探さないといけないな。寧ろ見つけないと俺が保たない)


アドフは別の意味で新たに決意をした。


それから、布団が一組しか使えるものがないということで、ちゃっかり二人で一つの布団で寝る事にした。据え膳食わぬは男のなんちゃらである。


翌朝、ガーディが目を覚ました時、驚きに硬直した事は言うまでもない。

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