第21話 背信的悪意者と信者
「……」
どうしようか。あの後すっかり意識を失って、気がつけばもう直ぐて日が昇りそうな時間帯だ。結局アドフの観察を放棄した様な状態だが、彼は大丈夫だろうか。
と考えてもその彼が隣に居るんだけど。っていっても僕が全裸でアドフが下半身に布を巻きつけている状態で、アドフの腕の中にスッポリと収まっている。かくゆう自分も片腕をアドフさんに巻きつけて寝ていた。見た目お互い抱き合っているみたいだった。
(いや、きっと裸で寝たから寒かっただけだろうし)
実際暖かく、風をひいた様子はない。それどころか身が綺麗になっていた事から、彼が清めてくれたのだと寝起きの頭でも理解できた。温かいのもあって暫く同じ体勢でいたが、だんだん身体が痛くなってきたので、腕の中から抜け出そうと試みた。が、
(あっダメっぽい)
でも、起こすのも憚られるので、結局元の状態に収まった。
それから少ししてアドフが身じろいだのを確認し、ガーディは彼を不自然がないように、肩を叩いた。
寝ぼけているのか、抱き枕の様にギュッと抱きしめられ、少し苦しかった。彼の筋力なら絞め殺すことは出来ることだろうから、本気でやったんじゃ無いんだろうけど。
拘束はすぐに解け、おはよう、と声をかけられる。
声や言葉が残っていることに安心した。あると無しじゃ大違いだ。昨晩何故言葉を発しなかったのか疑問に残る。理由は後で聞くとして、今は一安心しておこう。
ガーディの頭をひと撫でして、アドフは起き上がる。ガーディも少し遅れて上体だけ起こす。ちょっと身体がビリビリした。
ちょっと顔洗ってくるわ、と部屋を出て行く後ろ姿を見送りながら、設定魔法【
ここは丁寧に簡易版では無く、詳細情報を見てゆく。
名前:アドフィルゲイン・ノーザンホーク
種族:ヒューマ
職業:旅人、騎士
HP:5680×2
MP:100000000000∞
物攻:1050×2
物防:1010×2
魔攻:12000000×2
魔防:6000000×2
速度:1365×2
幸運:380×2
装備:旅装束、革の鎧
称号:魔法適正、元クランシュタット騎士団長、
白の契約(絆)→効果:魅了(小)・能力プラス補正
スキル:火・水・風・地・雷・光・闇・
創造・時空魔法適正、
事務処理、コミュニケーション、教養指導
スキル特性:属性付加強化・身体能力強化増幅
その他:後天性魔力適正保持、魔力制限なし
************
魔力がとんでも無いことになっている。やっぱり後で本人に説明しないと駄目だな。それと、久しぶりに見た称号。白の契約(絆)、簡単に言えば婚約かな。契約には、白と黒、灰色が存在する。白はプラスの契約、黒がマイナスの契約、灰色は白と黒両方混在した不完全契約だ。さらに契約を細かく分けると、婚約に使う「絆の契約」、師弟関係や主従関係には「従属の契約」、奴隷契約には「隷属の契約」がある。白には能力にプラス補正が、黒にはマイナスの補正。そして契約や強制力が異なり、契約を無視した行動をとると、黒には苦痛を、白には契約方法によって異なる効果が発生する。
今回表示された、白の契約(絆)は婚約の契約と同じで、契約者は能力の増幅と魅了の効果により、契約者同士が互いに恋愛状態になる。この契約は強制的に新婚状態になるから、逆にお互いが離れると苦痛を感じる事により、自然と離れることはなくなる。つまりお互いが魅力的に見えてしまう、ある意味恐ろしい呪術の一つだ。自分のステータスを確認したら付いてた。白の契約(絆)。魅了の効果は(微小)になっていたが、十分に相手が魅力的に見える。軽くキラキラしたエフェクトが見えるような錯覚が起きるくらいだ。
魅了の効果の強さは、微小から、小中大、極大の五段階あり、白の契約(絆)は微小〜中の魅了が発生。またここの「魅了」の大きさは、相手にでは無く、自分が影響を受ける大きさで判定される。
なんと無くだが、昨日の魔法の条件はこの契約で間違いなさそうだ。メリットといえばメリットだし、デメリットともいえる。自分自身は自身で蒔いた種だと思って諦められるが、アドフは本当に好きな人ができる前に呪いを掛けられたようなものだ。しかも自分よりも影響のある魅了を掛けられている。多分辛いと思う。複数の意味で。
アドフが戻ってくるまで、これからどうするか考える。呪い持ちになった事は覆しようがないから、正直に言うか?いや、今言うべきではないか……。言わないといけないとは思いつつ、先延ばしにしてしまう自身の弱さを呪う。
「もう、聞かれたら正直に答えよう」
投げました。もうめんどくさい。魅了が解除されない限り相手に対する好意はうなぎ上りだ。今後はこの契約を解除する方法を見つけよう。若しくは魅了の相殺の方法を探す。当面の目標はこれだ!
「ディー、飯食いに行くか?」
あぁ、魅了を意識してかアドフが5割り増しでイケメンに見える。これはアレだ
キャー!ステキッ!抱いて! みたいな、ビッチ量産の呪だ。アドフは平気なのか?えっ?紳士なの?今まで紳士だったけど、昨日凄まじかったし場数は踏んでるのかな?とりあえず魅了はやばい。わかっていても、夜中の蛍光灯に群がる蛾の様に習性というものに引っ張られる。今の気持ちは、彼に抱いてもらえるなら奴隷になっても良いくらい判断力がおかしくなる。
「食堂に降りるのが辛いなら持ってくるが……。
すまないな。昨夜の事で怒っているかもしれないが、どうか今まで通り接してくれると嬉しい」
俺が言える立場ではないな。
小さく呟き
「食堂から飯貰ってくるな」
少し寂しそうに部屋を後にしたガーディは、ドアが完全に締まり、足音が完全に聞こえなくなった頃、少し飛んだ意識が回復した。
(昨日のこと覚えてるのー!!?っえ? 何処まで?)
えー、だとか、あー、だとかよくわからない喃語のように文字として意味をなさない言葉が口から漏れる。
昨日のアレは何だったんだ?考えれば考えるほどわからない。アドフは何処まで知っていて何処まで憶えているのか。そして自分の状態異常に気が付いている?これはもう、正直に言わないと駄目っぽい。話せるタイミングを見つけて、正直に白状しよう。
「今日はどうしようか?
このまま宿に居るのも良いが、外に出て気分転換も良いぞ!」
あれからアドフが食事を持って来て、一緒に食事を摂った。毎回黒パンだと滅入るが、あまり食事に気を使う程、心に余裕が無い。
「うん、この後少し散歩してみる」
体を動かせばラクになるかもしれない。
食事を片付けてもらい、自分は一度外の空気を吸いに行く。アドフもこの後鍛錬に行くと言っていていたので、今日は好きに行動しても良いだろう。
一階に降り、宿の玄関口に向かう途中に、宿の主人に会った。
「おはよう坊主。昨日は良く眠れたか?いや、寝不足か?昨日はツレの兄ちゃんに可愛がられたもんな!俺は別にイイと思うが、あんまり大声出すなよ。下手しちゃ宿内で丸聞こえだからな」
じゃあ、ごゆっくりな。と店の主人が去ってゆくのを見届けた……いや、固まっていた。
まるで情事を覗かれていたかのようないたたまれなさを感じ、ダッシュで宿を出た。
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