第18話 単独プロジェクト決行

それから、村長からは怪奇現象の解決方法が確定次第、連絡してくれるとの事だ。僕たちは紹介された宿に向かう事になった。この村に宿は一つしか無いのだけれど。

村長宅に調査魔法で作製した報告書のような冊子を渡してきたので、後でしっかり確認してもらうとして、自分たちはこれから暇だ。村長宅にお邪魔したのは、午前11時位、巳の刻あたりだ。今は午後2時位。宿に案内されて、部屋の確認と少ない荷物を置いただけで暇を持て余してしまった。

ふと、そういえば、前にアドフさんが「俺も早くディーの役に立ちたい…」ってボソッと呟いてたなー。


「ねぇ、アドフさん。もし魔法が使えたら使ってみたいですか?」


近くの壁に凭れていたアドフさんがキョトンとした顔で、こちらを見た。そしてフッと笑った。


「そうだな。使えるなら使ってみたい。ディーの力になれるなら、使えたら嬉しい」


どうしてそんな事聞くんだ?と、


「いや、ただ気になっただけです。特に深い意味はありません。変な事言ってごめんなさい」


「いや、大丈夫だ。そもそも俺たち人はそもそも魔法の概念が無いんだ。まぁ、実際目の当たりにすると羨ましい能力だな」


この魔法が気持ち悪いとかと気味が悪いとかの感情でなくてホッとした。


本当はこういうの同意が必要なんだけど、否定されたり、怖がられたりしたく無い。僕の我儘なんだよな。


「いつか、アドフさんにも魔法、教えますよ」


「あぁ、その時はな」


ありもしない約束を取り付けたような会話。実際に一般人が魔法使いになれる事など、本来はあり得ない。そんな一般常識的な会話。本当はしっかりと話したいのに、そんな勇気が出ない。別にアドフさんの事を信用していないわけでは無い。むしろ頼りにしている。アドフさんがどう思っているかわからないが、僕はアドフさんがいてくれることで、得られる安心が大きく、本当に感謝している。


騙すような事をして悪いが、今夜決行させてもらおう。

宿の前で一度別れた。ガーディはこのまま宿の部屋に戻った。部屋に戻り、空間魔法で擬似空間を作り出す。その空間は他者の干渉を受けない為、一人で黙々と作業したい時に役立つ魔法だ。また、空間に時間制御が組み込まれている為、流れる時間は通常の半分以下だ。現実との時間差は専用の時計を用いて確認できる。


「さて、残り時間で完成させよう」


魔法袋から、A1サイズの画用紙を取り出し、魔法陣を書き記してゆく。内容は、使用属性・消費魔力量・魔力型・威力・射出速度・距離・範囲・操作性・魔法構築変動係数・マクロ設定・演算領域の設定・重力係数・持続力・付与魔力質・発動反動誤差設定・緊急キャンセルを陣に書き記してゆく。

あまりに複雑なので、5枚に分けて記載してゆく。


魔法陣は魔法文字によって発動する。文字の数は21

記号の組み合わせで一つの文字になる。文字自体は覚えるのは容易いが、魔法陣の魔力回路の構築と、発動条件の設定次第で全く発動しなくなる。魔法陣に隅々隙間なく均等に組んでゆく必要がある。


生まれつき|魔法創造構築者【クリエイトマジシャン】はこの創造魔法保持者が多い。といっても元の世界では、一世代に2〜3人しかいない。しかし彼らはその特殊属性によって多くの魔法を生み出してきた。ガーディ自身もそのひとりとして生を受けたが、殆どが消費魔力が大きく、自身しか使えない代物しか生み出せなかった。しかし、それでも人々はガーディを疎んではいないし、ガーディもあまり気にしてはいない。一応新しい魔法を創ることができるし、魔法道具マジックアイテムの併用で使える魔法もあるのだ。

しかし、全く年を取らないガーディに人々は恐れた。彼が寿命に関する魔法を生み出したのだと。実際の代物は、とてもじゃないが一般人が習得できるものではない。だが一応存在してしまった。ガーディは人々の不安要素になるなら、消えようと、同時期に開発した異界転移魔法を使用した。旅に出る前、彼の残した様々な文献を弟子に託した。自分の功績を存在意義を無駄にしたと思いたくなかった。そして彼は旅に出た。88歳の時である。


既に擬似空間に篭ってから8時間が経過していた。現実時間では4時間弱、やっと完成させた。この魔法もガーディが開発したが、正直魔力量が多すぎて、ガーディ専用の魔法陣になってしまっている。それもこの魔法の使用回数は片手で数えられるくらいしか行っていない。失敗の可能性のある、リスキーな魔法だ。でもどうしてもやりたかった。こっそりアドフをスキャンした時、適正者だとわかったから。


この後、アドフが宿に戻って来るまで、魔法陣の描き漏らしがないかチェックしていた。



アドフが帰ってきてからも、取り留めのない話でなんとか誤魔化したが、内心緊張で心臓が破裂しそうにドキドキしていた。もちろんこれから行う単独プロジェクトの事である。


失敗を恐れるなら、やらなければいい。皆がそう思うだろう。しかし彼には自分の魔法を授けたかった。単なる自分のエゴでしかないが、彼も魔法を扱えるようになれば、彼は魔法師若しくは魔法剣士に、ガーディは魔法師として共に道を進むことができると考えたのだ。アドフからも魔法を使ってみたいと言われたこともあり、魔法を教えてあげたいという気持ちが高ぶってしまった。


後になれば、なんて馬鹿なことをしたのだろうと思うことだが、この時のガーディはその様には考えることができなかった。


失敗の恐れよりも、成功の希望の気持ちが大きかったからである。


宿の部屋はツインで取っている為、二人で使う。最初は、シングル二部屋とるかどうか考えていたのだが、男二人、そう気を使う仲ではないだろうと、荷物の管理も兼ねて、あえて二人部屋にしたのだ。


その事で余計魔法行使を決行しやすくさせた。


決行は今夜遅く、アドフが寝てる間に行う。


「大丈夫」


自分にそう言い聞かせ、決行までの間、暫し体を休めた。

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