第17話 やっと村に入る許可が下りました(強引)

村の朝は早い。日が昇った時刻に殆ども者が起きだし、朝の支度を始める。ある者は井戸で顔を洗い、ある者は炊事を始める。この世界は基本早寝早起きなのだ。


そんな中、ガーディはと言うと。


「ドゥフフッ、そんなポロリだなんて。計画的なポロリは萌えではありませんよ。不意打ちが大事なのです。つい髪留めを、落として急いで拾おうとした時にッッ、てのが萌えってやつなんですよ。フヒヒッ計画的犯行は愚の極み!オタクをバカにしているでござる。それに比べてアニメ同人は最高である。拙者も恥じらいを見せる胸に顔を埋めたいブヒィ〜」


気持ち悪い寝言を言いながら、爆睡していた。

ガーディは寝ている時の口調は拙者調で、一々漏れる言葉に不快語が混じる。


彼はそう。オタクであり、日本の聖地を愛している。

彼は自身を聖地ホープの伝道師と呼んでいる(自称)。

ただのオタク民であるだけなのだが。


近くにはアドフがいたが、彼はガーディの言っていることがイマイチ理解できていなかったので、ドン引き発言は気がついていない。好感度低下は回避されている。

知らないって幸せ。


結局ガーディが起きたのは、午前9時過ぎ。

村人と比較して、4時間は遅く起きている。


「アドフさん、もう起きてたんですか?昨日は夜遅くまで起きていたのですから、ゆっくりしてて良かったんですよ」


ってか、夜更かしして元気って実は徹夜してたのかな。見張りでもしたのか。


「いや、夜遅くまでの警備はこれまで幾度もやってきていたから、慣れている。問題無い。それに日が昇れば勝手に起きてしまうしな」


なんという健康体。ぜひそこの引きニートの諸君!

アドフ殿を見習わんか!彼こそが理想の健康系リア充リアルライフバディだぞ!

朝から鍛錬しちゃう系男子だぞ!僕?無理ムリ、布団でゴロゴロしていたい。布団こそ至高の宝具である。サラサラふわふわな布団に包まれて、自分を受け止めてくれる、健気で柔らかい枕を堪能したいのだ。あの包まれる感覚は嫌いな奴はいないだろう。いたら変態認定してやる。


なんとか、ぼーっとする頭を働かせ、身支度を整える。そろそろお風呂入りたい。例え普段浄化魔法の使って綺麗にしてても、気分的にスッキリしたい。

オレ、この件が片付いたら、お風呂はいるんだ……


「……」


アドフさんそんな目で見ないで。ただ言ってみただけだから!

冗談もそこそこに、朝食を魔法袋から取り出し、モソモソと食パンを食べた。アドフさんは既に鍛錬中に見つけた木の実を食べて済ましたらしい。なんていうワイルド。若干口の中がパサパサしたが、黒パンよりは柔らかくて美味しい。食パンは何もつけなくても美味しい。

その後は身支度を整え、早速村へ行く準備をする。一応昨日魔法で浄化をかけたが、他の原因で病気になっては堪らないので、しっかりお守りを所持する。


村の入り口に行くと、昨日とは別の村人が警備してた。そしてしっかりと停められた。


「君たち、今はこの村には入れない……、悪いが、ほんとに、悪いんだけど村の外を迂回して先を進んでくれないか。頼み、ます…」


停められたけどさ、なんかもっとこう、強そうな人にできなかったの?だんだん小声になってるし、小声で、(俺、村長に怒られるじゃん)って聞こえてた。もう、こっちチラチラ見てるし。アドフさんも流石に気になったのか、僕にアイコンタクトをして、このオドオド警備当番さんに話しかける。


「いや、今日は村長に会いに来た。この村の怪奇現象についてだ。村には入れないのもそのせいだろう?」


さらっとこちらからの要件を伝えたのだが、警備の兄ちゃんは少し固まったあと、何故か猛ダッシュで、村の中へ駆けて行った。いや、訪問者放置だよ。いいの? 入っちゃうよ。いいの?入るよ?ねぇ?フリ?フリなのこれ?任務ほっといて行くとか何それ怖い。


結局待つ事にして、何人か別の住人らしき人を連れてきていた。


「村長の家へ連れて行く。ついてこい」


村人が踵を返し、村の中心へ向かっていく。オドオド君はこちらをチラチラ見ながらも村の中心に向かっていく。


ガーディはアドフと顔を見合わせ、すぐに後をついて行く。村の中心より少し進んだところに、他の民家よりも大きな建物が見えた。案内役の村人もそこに入っていく。きっとここが村長の住宅なのだろう。


中では、案内役が30代位の男性と話していた。彼が村長なのだろうか、若い気がする。話が終わったのか、案内役とこの住宅の住民がこちらに戻ってくる。


「これは冒険者様、ようこそいらっしゃいました。私はエリアス・シオルと申します。村長のアデル・シオルは只今外出しておりますので、もう少ししたら戻って参りますので、少々客間でお待ち頂きますようお願いします」


挨拶のあと、客間に案内されるため、部屋に案内された。廊下と玄関は石壁であるが、丁寧な塗装を施しており、部屋のインテリアもワイン色調で統一されており、自宅の管理がなされていると感じ、小さな村でも、村長レベルになると、金回りが良くなるのかな。サンプルがないからなんとも言えないが。


客間に案内され、着席を促される。椅子はフンワリふかふかだ。ここで、真剣に仕事は出来まい。村長はテーブルを挟んで反対側の椅子に座る。その間に案内役達は退出していった。

横にはエリアスが控えている。


「さて、あの者達から話は聞いたが、どこでこの村の情報を知った?」


まぁ、そう聞くだろう。情報源が予想の範疇意外なら、どこかで情報漏洩がおきている筈だからだ。


「いや、昨日ですよ。村の様子がおかしかったので、勝手に調べさせて頂きました」


「昨日か、では村の事情を詳しく聞きに来たわけか?」


村長が様子を伺うような目つきで腕を組む。

ガーディは肩を竦める。


「いえ、もう調査は終わりましたので、報告に参りました」


ガタッと音がした。村長が急に立ち上がったからだ。


「どういう事だ。まだ正式には依頼は受理されていない筈だし、村の様子がおかしいだけで、原因がわかったのか?」


ガーディはニヤッと笑い。


「はい、一晩かかりましたけど、原因どころか、解決しましたよ」


「……」


村長が固まった。文字通り固まった。

代わりにエリアスが続きを促した。


「はい、詳しい内容はこちらの調査書をご覧ください」


そう言い、事前に複製してあった、調査書という名の分厚い冊子を渡す。


では、説明致します。と前置きを言い、

「原因はお手元の調査書の100ページをご覧ください。そこには……」


要約すると、原因はウイルス感染。元は改良種ボヴァンハリアが元々持つウイルスが突然変異を起こし、人体に感染性と増殖性が強化された、病原ウイルスに変化した事が原因だ。


更に、この変異型ウイルスは、変異前のウイルスと抗原型が酷似しているため、普段ボヴァンハリアに接触する機会が多かったため、変異前の非病原性ウイルスの時に既に抗原と接触し、抗体を免疫中に保有していた為、村人には変異型ウイルスに変化した後も、現存する抗体で対処できる為、村人には現在発症する者はいなかったと考えられる。つまり日常的にワクチンを接種されているのと同じ状態だったという訳だ。



「成る程、ではこのウイルスが原因なのですか、免疫を持っていない村の外の人が発症する訳だ。しかし原因がわかっても、解決するにはそれ相当の準備や資金がかかるのではないか?それに解決方法も全く見当もつかないというのに」


ふふっ、とガーディは軽く笑う。心ではわかってないなーこの人は。この事実を伝えに来たという事は、既に手は打ってあると伝えに来た事の意味であるのに。


「詳しくは申せませんが、既に、病原ウイルスを排除しており、今後同じような症状が出る人は、今後絶対にとは言い切れませんが、暫くは出ないかと思われます。排除の方法は教える事は出来ませんが、もし、同じように発症する人が現れた場合、対処方法はあります」


一つはワクチンを作る事。二つ目はボヴァンハリアの原種、クランシュタット牛イサルスオックスから、非病原性ウイルスを抽出し、それを曝露させ、抗体を作り出す。

資料から見てわかるが、この村人とイサルスオックス種を扱う国民は皆抗体を保有している。なので、現状、ワクチンを作り出す技術が無いうちは、イサルスオックスとボヴァンハリアから非病原性ウイルスを一度感染させ、抗体を作り出すしかない。


幸い今まで村に4ヶ月以上の乳幼児が居なかったため、村人は誰も発症しなかったが、現在村にいる赤ん坊が4ヶ月を過ぎた頃に、母親由来の免疫細胞がなくなる事で発症していた。ある意味奇跡だったかもしれない。


一通り説明を行い、現状は安全だと伝えた。

本当は特効薬を渡したいが、使用期限が短いもののため、渡す意味が無い。


「今の話が本当ならば、ありがたい事この上ない。しかし本当かどうか確認したい。少しの間この村に滞在してはくれないか?」


急ぐ旅でもないし。了承する。

それに村にいる間にやりたい事がある。

できれば宿でやりたかったから、村に滞在できるのは嬉しい事だ。

それに、堂々と宿で寝られるのは、良い。何故か、チート野宿すると後ろめたい気持ちになるのだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る