第8話 騎士様救出作成

現在わたくし、ガーディ・スティングレイは、王座の間にいます。しかも勝手に入りました。


当然

「何者だ!! どうやってここへ侵入した!」


真っ当な判断である。


しかし、今のガーディは、某ホラーノベルゲームのチェ○ャ猫になりきっているため、ニタッとした少し裂け気味の口元を晒し、不気味な雰囲気を発していた。


とりあえず、跪き、挨拶をする。


「わたくしは、名もなき旅人でございます。国王陛下にお願いがあって参りました」


名乗らないガーディに、周りの近衛騎士は、口々に罵詈雑言をぶつける。


「よい、して、要件とは何だ」


頭上から渋い声が降ってくる。これは国王の声だ。とりあえず要求を述べることは許された。


「いや、先ほどこの町で公開処刑が行われると聞きまして、その件で相談があるのです」


国王の眉間にしわが寄った。


「続きを申してみよ」


ガーディは相変わらず不気味な笑みを浮かべている。


「はい、その処刑人を頂きたく思っているのですが、もちろんお礼は致します」


王は一言


「ならぬ」


「それはどうしてでしょうか」


国王はさらに眉間にしわを寄せ、


「王族を狙ったものは生かしておけぬ。王族に対し危険因子はすべて排除しなければならない。例え同じ王族であったとしても、他の王族に危害を加える危険があるのなら、それも切り捨てる覚悟もある」


ガーディは、息を吐き


「それでは、最悪生きていなくても結構です、ですが身柄を私に譲っていただけないでしょうか」


国王はしかめっ面のまま、呆れたようにため息をつく。

まったく器用な人だ。


「貴殿に、身柄を渡すことで、我らにどんなメリットがあるのだ」


この言葉に、ガーディは心でよっしゃあ! とガッツポーズをした。


「そうですねぇ、ではこの世界にはない特別な代物を献上しましょう」


国王が、顎に手を置いた状態から、腕を胸の前で組んだ仕草をした。態勢を変えるのは興味を持った証拠だ。


「今、お持ちしていますので、お出ししましょう。こちらです」


ガーディーはあらかじめ用意した麻袋から、made in Japan の手鏡と懐中電灯を取り出した。


「それは何というものだ?」


国王も興味を持ったようだ。


「はい、これはとある人種の人々が発明した、【懐中電灯】というものと、その人々が使っている【手鏡】でございます」


嘘は言っていない。


近衛騎士が手鏡と懐中電灯を国王の方に持っていく。


国王は手鏡を持ち


「これほど精巧に作られた鏡は初めて見た。きっと価値も最高ランクのものだろう。このカイチュウデントウとやらは、どのように使うのか」


「はい、この懐中電灯は、暗闇を照らす照明器具の一種でして、電気…いや小さな雷を原動力として動いております。持ち手の筒に黒い突起物を一度押しますと、光が照射されます」


ガーディの言葉を聞いた国王は、恐る恐るスイッチを押した。


すると筒の上部から光が溢れだしたのだ。


さすがに、国王のみならず、この空間の誰もが驚いている。


掴みはばっちりだ。


「それで、国王様、それぞれの価値なのですが、一つ一つが大変貴重でして、それ一つで国が買えるかと」


国王は半分話を聞いているのかいないのか、よくわからないが、すごく懐中電灯に興味津々だ。


「それで国王様、あの処刑されるものを頂いてもよろしいですかな」「……、処刑後、死亡を確認次第好きにしてよい」


交渉は一応うまくいった。ホントは処刑されないのが一番なんだけど、これにはしっかり作戦があるので問題ない。後は処刑のタイミングを誤らなければ成功だ


ガーディは近くの近衛兵に、予備の蓄電池(エネ○ープ)と太陽光発電機能付き充電器を使い方を説明し、渡した。


懐中電灯の電池が切れて大暴れされたら敵わないから、しっかりアフターフォローは付けておく。




*************



現在の時刻

昼の3時の刻

処刑時間だ。


会場には多くの見物人が押し寄せている。

何しろ、公開処刑は1年に一度あるかないかのことらしい。

皆悪趣味といえば悪趣味だが、この世界には娯楽が少ない。

こういったものもイベントになってしまうのだろう。


そして、処刑の時間が始まった。



「かの者、アドフィルゲイン・ノーザンホークは国王並びに皇子殺害計画の首謀者として処刑執行を本日この時を持って執行する」


アドフは処刑台に立たされている。そして、手足を縄で固定された。


両サイドには槍を持った執行官がいる。

ということは、槍で貫いて、その後剣などの刃物で首を切ることになるのか。


ギロチンだったらあまり苦しまないのだけど、今回の方法は、罪人側がより強く苦しむ方法を取っている。なにせ、一撃で死ねないのだから。




罪人からの一言では

アドフは何も言わなかった。

そしてアドフは目を閉じ、死の受け入れを容認した。


そして、しばらくの静寂のあと、ついにその槍が振り下ろされた。




*************



ガーディは、槍が動いた瞬間、魔法の行使を開始した。

一:【瞬光】時がゆっくりになる。【光の最上級魔法】

二:【スケープゴート】身代わり魔法。【土の最上級】

三:【不可視】【気配遮断】使用者が見えなくなり、気配も消える【光の上級魔法】

四:【ムーブメント】身代わりとアドフを一瞬でチェンジさせる【光の上級魔法】

五:【転移】あらかじめ指定した座標に瞬間移動する【風の上級魔法】


この間わずか0.05秒である。


会場も一瞬風が吹いた位しか感じないだろう。


そして今回の要のスケープゴートは事前に、精巧に魔力を練った一級品だ。

本物のアドフとも勝るとも劣らない、瓜二つの身代わり人形だ。

因みに、しっかり血糊は出るし、骨のようなものや筋肉の感触や硬さは精巧に再現してある。この文明ではこれが偽物と見抜くのは至難の業だろう。



とりあえず上手くいったのだ。

国王側は処刑の儀式はできたし、僕はアドフを助けられたし、民衆は処刑執行されたと思い込んで盛り上がっているし、みんなハッピーだ。

それに、国王からは、処刑執行後、アドフを頂いても良いという許可もいただいた。


すべて作戦通りである。


魔法マジ有能。

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