第9話 状況確認

死刑の時が刻一刻と迫っていくのを、周囲の空気、そして大量に押し寄せられた民衆の熱気を肌で感じていた。


公開処刑というものはどの例もこのようなものだ。人一人死んでゆくのをまるで何かのイベントかと見間違えるくらい盛り上がる。


そして、当事者は今回は俺だ。

俺は使い捨ての人形のように、舞台で踊り、そして散ってゆく。


たとえ今抗った所で、何も変わりはしない。

それどころか、自分の家族…両親、妹、弟達に被害が出ても可笑しくない。御家取り潰しなど日常茶飯事なのだ。

この処刑では、俺一人いなくなるだけでよい。

大臣や国王からはそう申し使った。


しかし、家の家族自身はそれ程裕福ではないし、まだ小さな妹や弟がいる。絵に描いたような貧乏家庭だ。子供を6人作るなら、もっと家族計画をしっかりと立てとけば良いものを。

まぁ、大家族は今の時代珍しくないし、楽しかった思い出も多い。それに、俺の剣の才能を認められ、騎士として登用して貰えた時は素直に嬉しかった。家族にも申し分ない量の仕送りができたのだから。


でもそれも今日で終わりか……。


家族には、王宮側から伝えると言っていたからわからないが、きっと、俺の死は風の噂で耳にするのだろう。最後に一目でも家族の姿を見たかった。更に贅沢を言うのなら、恋人くらい作ってみたかったものだな。


ハハっと、乾いた笑いを上げた頃、ちょうど、処刑台の準備が整ったらしい。


俺は、処刑台に登り、手足を縄と鉄腕に括り付けられた。


そして、開始の合図がなる


「かの者、アドフィルゲイン・ノーザンホークは国王並びに皇子殺害計画の首謀者として処刑執行を本日この時を持って執行する」



その声を聞き、これが己の最後か……。

願わくは、残された家族のだけでも幸せになってくれればと、己の最後を受け入れた。




そして、外さの時は訪れた。

槍を振るう音、民衆のざわめき、大臣達の笑い声

色々な音が、最期に届いてくる。

だが、その音の中に、一陣の風が吹いたと感じ、すぐにその風が頬を撫でた。


そしてその後の記憶はプッツリと途切れた。




*********



身体が温かい。そして、身体が柔らかなものに包まれている。


俺はゆっくりと眼を開けた。


俺はあの世に逝ったのか?


少しの間視界がぼんやりとしていたが、この部屋は少し狭いがある意味一般的な宿の間取りだ。


俺は今、上質ではないが、一般的な敷布団と上に掛けられた毛布は何故か上質で、肌触りが桁違いに心地よい。そして、布団には暖かな液体の入った袋が

あり、布団の中を温めていた。


しばらく、ぼんやりとしていたが、不意に部屋のドアが開いた。



部屋に入ってきたのは、灰白色のローブを着た少年であった。


「君は……」


少年は柔らかな笑みを浮かべ


「おはようございます。アドフさん」


あぁ、あの時の少年か。


「すまない。状況が理解できないんだ」


ふふっと、少年……ガーディは笑う。


「では、どうぞ質問をして下さい」


俺は箍が外れたように、たくさんの事を聞いた。


「ここはどこだ」


「ここは僕が滞在している宿屋の一室です」


「誰が運んだ」


「僕ですよ」


「どうして俺は生きている」


「僕が助けだしました。もちろん国王の許可は取ってますよ」


「どういうことだ」


「国王様に、処刑が終われば好きにして良いと許可を頂きました」


「だが、俺は生きている。どういうことだ」


「それは問題ありません。見かけ上はあの時の死んでいましたから」


「俺の家族は、無事なのか」


「はい、みなさん家ごと安全な所に避難させております」


「君は……何者なんだ……」


「僕は、魔法使いです」



「そうか……」

はははは……、と乾いた笑いを上げるアドフ。しかしその顔をガーディに向けて、


「君の事情はともかく、助けてくれたこと、感謝してもし足りない。本当に助かった。ありがとう」


ガーディはうんうん頷きながら、

アドフさんは理解力のある人だな、と改めて感心した。


「それでは、アドフさん、今日はゆっくり休んでください。食事も後で持ってきますから、僕は少し用があるので、出かけますが、宿からは今日は出ないでくださいね」


ドアが閉じた音を聞き、また一人の空間になった。


これは夢かもしれない。

寝たらきっと夢から覚めるだろう。


最期に見た夢がこんなでも良いのかもしれない。




************


大魔法使い(自称)ガーディは、アドフが寝ている間に、アドフの家族に会いに行っていた。


まだ家族は健在で、両親、

妹三人、弟三人の子沢山家族だ


そして、そこそこ家がデカイ。

なんでも、父も準男爵の爵位持ちらしい。


子供達は基本独り立ちしたら、平民になるのだが、家にいる間は爵位持ちの扱いらしい。


っていっても、次男よ、君はもう25歳あたりではないか?大人だよな……まあいいや。アドフに似てイケメンだし、こっちは優男に近いけど。


更にその下は十代二人、9歳と7歳と5歳がいる。


そして両親が若い。

もう50歳は過ぎたらしいが若いな。

30半ば位に見えるぞ。


一家揃ってみなさん暗い影を背負っております。


まぁ、一家の長男が殺されたのだから当然か。

にしても、彼の冤罪によって、この家も何れ取り上げられ、最悪一家皆殺しにされる事だってあるのだが、皆さんわかってらっしゃるのか?


どの世界だって、犯罪者の家族はもう日陰しか歩けない事はわかっているはずだ。


だから俺が来たのだけれど。


暗いオーラを纏う一家にとりあえず要件だけ伝える。


「ノーザンホーク家の皆さんこんにちは。これから引越しをしましょう!」


うつむいたアドフ父が顔を上げた。


「君は誰だい?」


もっともな質問です、ハイ。


「私は、アドフィルゲイン・ノーザンホークさんの友人(仮)です。アドフさんの事は問題ありません。後で会えるでしょう。それよりも、国の兵たちが来る前に引越しをの準備をしなければ、貴方達は無事では済みません。アドフにさんはきっと家族を大切にするはずです。アドフさんの思いを叶えるため、貴方達をこれからある場所にお連れします。

家・ご・と・ね ♪」


「必要なものや、知人の挨拶は後でやっていただきたいので、まずは安全な場所へ行きましょう。

準備があるので、3分間は動かないでくださいね~。」


「はっ?ちょっと待ってくれ、どういう事だい?よくわからないから説明してほしい」


うーん、面倒だけどやっぱり家移動とか急展開だよねー。

という事で、秘技【カクカクシカジカ】

「……という事です」


「そうかい、でも…うーん……」


「大丈夫です、皆さんの肌に合わない所でしたら元に戻すのでご安心ください」


「それなら、いや…、わかった。君に任せよう」


御父様以外会話に入ってこない。ちょっとシュール。急展開事項なのにね。

大人しい家族達、逆に心配。子供達も少しは騒ぐくらいが普通だけど、この雰囲気じゃ、無理なのかなぁ。


「さぁ、準備はできましたよ。今から翔ぶので皆さん椅子に座ってくださいね」


着席を確認してから、ちょっと恥ずかしい詠唱を唱える。

『風の民よ、光の民よ、異界なる精霊よ、この大地に眠る数多の力、我が力と大地の力を糧とし、我が願いを叶え、時空を超えた新たな空間を導き出せ』

【異空間転移】同時発動【虚偽の外壁】多分不完全爆発を起こしていないから、成功だとは思うけど、詠唱ってメチャメチャ恥ずかしい。

枕に顔を埋めたい位恥ずかしい。


でも、成功したからいいや。


転移した先は、アルムドゥスキアであって、アルムドゥスキアではない。一種の異空間魔法だ。


もちろん空気の組成はアルムドゥスキアと同じだこの空間は、擬似的な別世界、でもアルムドゥスキアと繋がっている。この空間と行き来するには、扉が必要。むしろ扉があれば良い。扉がある場所に魔法陣を描き、魔法を起動させるスイッチを作る。そして、使用する時だけONに、それ以外はこの異空間、イメージはアルプスの山々だ。もみの木だって、山羊だって、高くそびえるアルプスの山脈も再現した。今にもヤギのユキちゃんが飛び跳ねそうだ。


気候は、実際のスイスよりも温暖で過ごしやすくしており、夏も冬も気分を出す程度に、あえて過酷にはしない。

だって、暑いのと寒いの苦手だし、せっかく作る空間なら、理想的にしたい。


扉の取り付けも完成し、あとはせっかく創った空間が消滅しないように、空間を固定する。


最後に、自分の魂の一部を触媒とした、魔力で創った、擬似的な神を創造する。


神と言っても人型ではなく、概念であり、平和を司るための、象徴である。

でも、害意を排除する機能もあるから、SEC○Mみたいなものかもしれない。

えっ、また隠れてないって?

気にしたら負けだと思う。


とりあえず初期設定は簡単に終わった。


玄関に設置した、どこでもドァ……魔法のドアの使い方を教え、お守りを皆に2個ずつ渡す。


1つは、この間創った、無病息災御守り。

もう1つは、瞬間転移魔法陣を付与した、地球では使い道がなかった御守りである。瞬間転移の御守りは空間の魔力を使用し発動できるが、地球には魔力が薄すぎて使用できないポンコツ品だった。


この世界は比較的魔力があるから、なんとか発動できる。いやー、役に立ってよかった。





「さて、ノーザンホーク家の皆さん。これから好きに行動しても大丈夫だと思いますけど、基本この空間を出るときは、玄関から、帰ってくるときは、この御守りを使用して帰ってきてください。

また、守護結界の御守りはまだ用意していないので、くれぐれも闇討ちされないように気をつけてください。私はアドフさんを連れてきますので。

玄関のドアは、スイッチをONにしたら、行きたい場所を念じてください。近くの扉のから出られますので。それでは一度離れますので、どうぞごゆっくり」

ガーディがいなくなったこの摩訶不思議な空間に残されたノーザンホーク家一同は、驚きやら悲鳴やらよくわからない絶叫を響かせたのだった。


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