第7話 やっとイベント発生
まずは声を一時的に変える。さすがに少年の声だと、説得は不可能だろう。
声質は、少年か青年か中年か老年かどれにでも当てはまるようで、でも特定できない。そんな声に設定した。
ローブも今着ているものではなく、昔からきている、魔術師のローブだ。これなら、顔も見れない。しいて言うなら口元だけ見えるだろう。その口元も魔法で加工し、ニタッと怪しい笑みを浮かべたように見せる幻をかけた。
さぁ、あとは玉座のあるこの扉を開けるだけだ。
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俺はアドフィルゲイン・ノーザンホーク
王都クランシュタットの近衛騎士団団長の役職を務める。
当時28才にして、近衛騎士団団長の役職を賜り、騎士階級が準男爵になった。
しかし、今はもちろん、当時も自分より年上の者たちは、年下の若造が団長として、就任することに反対が多く、まとめるのにかなりの時間を要した。しかし、何とか2年間かけて、近衛騎士団を纏めることができた。
近衛騎士団には、騎士団長の下に、副団長がおり、その下に黒騎士部隊と白騎士部隊がある。
副団長はもう五十路のベテランだ。黒騎士部隊長と白騎士部隊長も共に40歳近い。
そんな中、一人自分は、まだ20代の若さで近衛騎士団長になったのだ。
2年たった今でもやはり、皆納得いっていないのかもしれない。
だが、俺自身、決して鍛錬を欠かさなかったし、今の自分に奢り高ぶってもいないと断言できる。
しかし、やはり部下の配慮が足りなかったのだな。
今この状況になって、改めて気付かされるとは。
あれは二日前だったか、王都内を巡回中、犯罪や闇取引が行われていないか、監視するために、大通り周辺だけでなく、裏通りやスラム街も巡回することになっている。また、この場合トラブルに遭遇した場合、一人で対処できない時は烽煙を上げることになっている。
俺も昼を過ぎたあたりだろうか、スラムの一角に絡まれている少年がいた。
この土地ではあまり見かけない顔立ちの少年だが、移民だろうか。
金銭や身ぐるみを要求されているようだ。
こういったトラブルも、近衛騎士の仕事の一つである。
まずは仲裁に入るのが鉄則だ。
「貴様ら、何をしている!」
こちらに気が付く、大人二人と少年、少年はなぜかこちらを見つめている。表情は怯えているでもなく、怒ってもいなく、焦っているようでもない。
何というか、急に知人に会ってビックリした。そんな表情で、ひたすらこちらを見続けていた。
俺もこの少年に気を取られたのか、俺を見て脱兎のごとく逃げて行ったのを追いかけることはしなかった。
とりあえず少年に声を掛ける事にした。
「坊主、大丈夫か」
声を掛ければ、今我に返りましたと言わんばかりな反応をした。
そして、丁寧なお礼を述べてくれたのだった。
そのあと、大通りに案内する最中、彼のことを簡単に聞くと、どうやら彼は旅人らしい。そして今は無一文であることが判明した。
「本当に身ぐるみ剥がされてしまうところでしたね」
そういって苦笑いする少年だったが、俺はこの少し抜けている少年が気になっていた。どう気になっていたのかはうまく表現できないが、彼に多くはないが、金銭的援助をするくらいには気になっていた。
大通りにつくころを見計らい、彼に決して多くはないが、せめて何日間は寝泊りができるよう、お金を渡した。
彼は申し訳なさそうに笑い、「ありがとう」と呟き、俺にハグしてきた。
たまにはこういうのも良いのかもしれないな。
小さなことではあるかもしれないが、人助けだ。悪い気はしない。
彼と別れ、その後定例の巡回を終え、王城内に帰還した。
そこはもう俺の居場所はなかった。
俺は、即座に捕らえられ、大臣たちのいる大広間に連れていかれた。
そして言い渡されたのは
「国王並びに皇子殺害計画の首謀者として処刑宣告とする」
俺は何を言っているのか理解できなかった。
一体誰に嵌められたんだ? わからない。やはり俺が騎士団長の地位にいるのが納得できない奴らか?
いや、ほかの線もある可能性もある。
この大臣たちが、誰かと共謀して俺を排除した可能性もある。
俺には味方はいなかったのか。やはり俺は騎士団長は荷が重すぎたのだな。
俺は今地下牢にいる。そして目の前には第二皇子、アレクシス・エルノ・ミスカ・クランシュタットがいた。
「こんにちは。ご機嫌いかがかな。
近衛騎士団長様…いや、元騎士団長様かな?
君はとても優秀な騎士様みたいだったけど、ごめんね。君みたいな現国王に忠実な家臣は邪魔なんだ。
別に、僕は王位なんて関係ないことだけど、あの人の目的の達成のためには君が今後邪魔になってくるんだ。だからね、ここは君に死んでもらうんだけど、今回は特別に公開処刑というイベントとして、君には踊ってもらうことにしたよ。
せいぜい楽しませてね。そうそう、処刑時刻は今日の昼の3時の刻だから、あと、2刻半くらいだね。あと残りの人生悔いのないようにねって、もう絶望しかないか。あはは、じゃあ次は処刑台でね。楽しみにしてるよ」
口元を歪ませて笑いながら第二皇子は去っていった。
俺はもうすぐ死ぬのか。なぜか実感がないな。もうこうなったら全てを受け入れるしかないな。
そう思っていても、やはり心は、魂は正直だ。
涙が溢れて止まらない。やはり俺は生きたい。無理だと分かっていても生にしがみつきたい……。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉおお!!!!!」
あぁ、誰でもいい……助けてくれ……。
その呟きは、虚空へと消えていった。
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