第36話  お前、本当勇者だな! は褒め言葉?

「ちょっと勇紀ゆうきあんたまた、訓練場の備品壊したでしょっ⁉︎」


「ごめんごめん、まだ能力チカラの制御ができなくて。皇帝様だって許してくれるし、師匠である、ギルドマスターのギルバートだって怒らなかったじゃ無いか。それだけ俺たちが規格外で特別って事なんだよ。この世界を守るために多少の失敗は仕方が無いんじゃ無いかな?」


「あんたそう言って、いつも簡単にポンポンともの壊してると、そのうち請求されても知らないからね!」


「由利さん、あまり小浮気おぶき君に言っても聞かないだろうから、無理しなくていいよ」


彼女は十五夜もちづき日向である。物静かな文学少女だ。

由利さんとは、由利ゆり美波みなみ、空手少女である。小浮気おぶき勇紀ゆうきは熱血系正義のヒーロー系男子である。


「大体、芳賀はがも何か言いなさいよ!

あんたいつも素知らぬ顔で遊んでるじゃない!」


芳賀と呼ばれた男の子は、やれやれといった呆れ顔を作る。


「由利さん、勇紀は元からこんなんだし、そうそう治らないそれに俺はこれでも能力を使った訓練をしているんだ。俺の能力も精度が大事だ。決して遊んでいるわけじゃない」


芳賀は由利に向かって呆れたような物言いをした後、再び目の前の盤面に視線を移した。対戦相手は既に涙目の状態で芳賀に付き合っている。


空気を読めない小浮気は皆の方に顔を向け、よしっと言い、

「俺たちがこの国を救うんだ。だから絶対に強くなろうぜ!」


返事はない。

由利は冷たい視線。

芳賀は蔑む視線。

十五夜は不安そうな視線

をそれぞれ小浮気に向ける。


「大丈夫だって、俺らクラスメイトであると同時に昔からの友達じゃないか!

絶対なんとかなるし、元の世界にだって帰れる方法がある。

皇帝のアスラ様だってそう言っていただろ?

皆でこの国を救おうぜ!」


お前ってホントおめでたい奴だな…。


一人が呟いた言葉は他のメンバーの耳に届く事はなかった。



***********


程度には幾つか緑化計画と称した公園がいくつか設置されており、国民は日々の活動の一部として利用している。


「大きな公園ですね。ここの近くに勇者様(笑)が居るのですか?」


帝都の中心地区だというのに大きな自然公園が設置されているところを見ると、帝都は自然好きなのだろうか。


「情報によると勇者様(笑)はこの辺りにいるらしい。広い場所だが、結構大雑把で目立つ奴だと聞くから、すぐに見つかると思うがな」


ガーディ、アドフ、ガヴィールの三人は公園の中を進みベンチが幾つかある休憩スペースに向かう。

ベンチは背もたれのないものが2つ、背もたれのあるベンチが3つと、余裕を持って置かれている。そのベンチに静かに座っている女の子と背もたれのないベンチに寝っ転がっている男の子が先客としていた。

女の子はマフラーにニットのセーターに厚手のコート。意外にもスラックスを着用している。さすがにこの国はスカートを履いて外出する文化は浸透していないのかもしれない。それか彼女の好みか。男の子は学ラン姿にマフラーを巻いている。


少年はこちらに頭だけ向け、ふーん、と鼻を鳴らし、再びそっぽを向いてしまった。女の子はこちらに目を向けたが、慌てて目線を下に向けられてしまった。やはり男で複数人で固まっていることの弊害だろうか?


女の子に話しかけづらい。日本風に言えば、ナンパっぽく見えるだろう。


「あんたら、俺たちに用があるんだろ?」


学ラン少年は寝っ転がって目を閉じたまま何でもない風に声を出した。


全くの関心なしかと思ったが、一応は気にかかっていたようだ。


「こんにちは。すみません、ジロジロ見てしまって。あなたの着ている黒い服が物珍しくて、つい見てしまいました」


あなたたち勇者なんでしょ?

なんて言うのは野次馬と同じだ。興味本位だけで近づくのは相手に失礼である。

全くその通りなんだけどね!


「ふぅん、まぁ別に良いんだけど。君たち俺たちの事勇者だって知って来たんじゃないのか?」


バレていました。

少年からのジト目が繊細な心を突き刺す。

ジト目は少女キャラならおいしいのに…。


「噂で勇者様が、この公園に現れることがあると聞き、会えるかなぁって、ちょっと気になってここに来てしまいました」


「そう」

少年は上体を起こし、こちらに顔を向けた。


「で、満足した?大方に特殊な力とか見えてもらいに来たんだろうけど、生憎俺とこの子の力って、ある程度環境がないと使えないんだよね」


ということは、この二人は戦闘向きの能力ではないのだろうか?

それとも威力がデカすぎるとか?


「だからさ、無理なんだよ。見せるものなんかない。それ以上ないなら帰って、これ以上俺たちの貴重な自由時間を奪われたくないし」


この少年、結構な物言いである。まぁ、ここまで言うなら、別に無理して何かを聞き出したいわけでもないし、帰ろうと、踵を返す。


アドフもガヴィールも少年の物言いに怒りを露わにするのかと思ったが、二人に怒りの色はない。

「もういいのか?」

アドフが無意識なのか意識的にしているのかわからないが、最近やけに頭を撫でてくる。子供扱いだが、見た目子供だし、まぁ良いか、と特に文句はない。

決して、頭を触られて気持ち良いとか思っていない、はず……散髪時に美容院行くとほぼ必ず寝てしまう位ウットリしちゃうけど、断じて無い、と思いたい。


「大丈夫です」

帰りましょうと、アドフとガヴィールの手を引いて、ここから立ち去る事にする。ウィー君はガヴィールにお願いしている。


「君たち、俺たちに用があったんだろう?もう帰るのか?芳賀もわざわざ追い返すような真似しなくたっていいじゃ無いか。俺たちは勇者なんだからもっと人に親切にしなきゃ!」


あっ、勇者っぽい勇者だ。

学校内のカースト順位高そうなリア充系の少年が、美少女と共に現れた。




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