第35話  王道回必至?KY勇者とのフラグをへし折りたい!

各々が用事を終わらせ、ガーディはウィフィアス通称ウィー君をモフモフして時間を潰し、アドフは湾曲剣の観察をしている。そしてたった今、ガヴィールが帰った来た。ガヴィールはどこか機嫌が良さそうにしている。

「お帰りなさい、ガヴィールさん何か良いことがあったのですか?」

よく聞いてくれたと言わんばかりに体をこちらに向けた。

「ガーディ、面白い話がある。帝都に勇者が出現した」


「Let me see……勇者?」


聞き慣れているが、あまり聞きたくない単語が耳に入ってきた。


「魔王でも出現したんですか」

ガヴィールは楽しそうに笑う。

「そもそもこの世界で魔王なんぞ出現したことはないな」


どういうことだろうか。魔王はいないが勇者は出現した。

「何のための勇者?」

世界の何を守るのだろうか……。

この疑問に答えてくれたのは、やはりガヴィールだった。

「大方、世界大戦でも始めるのだろう。人間は定期的に領土争いとして、戦争を始める。毎回その引き金になるのが勇者召喚なんだ。もちろん引き金を引いた国は他の国からは一切の交流が絶たれる。それほど勇者召喚は強力なんだ」


つまり勇者召喚は宣戦布告の合図って事か。そして対戦相手は開戦国VS世界ということだ。つまりあれだ。

なんということでしょう!ではなく、

(なんということをしてくれちゃったんでしょう(怒り))ということである。

勇者召喚ダメ!絶対!!

元ネタもあれだが、勇者も大概アレである。お近づき厳禁だ!

これでは暢気に旅がし難くなる。手っ取り早いのは勇者を片付けることであるが、勇者がテンプレートだった場合、正直とっても、いやかなり、とてつもなく近づきたくないのが本音である。一度勇者フラグの渦中に入れば、確実に厄介事に巻き込まれる。

そして、ガヴィールは爆弾を落とした。

「そういえば、今夜からもう国外に出られなくなってるから」


「えええぇぇぇーーーっっっ!!」ドンッ!!

あっ、壁ドンされた。隣から。


ちょとまて、国外に出られないって事は、戦争が終わるまで旅ができないってこと?

「しばらく旅ができない?」

「普通ならそうなんだろうけど」

「ディーなら問題ないだろう。|転移(テレポート)使えばよいだろう」

あっ、そうだ。地図もあるし、無くても最悪クランシュタット領に戻れば旅を再開できる。

「そうだった。だったら勇者フラグ回避できるかも。それなら……」

「勇者を一目見に行きたいと申すのあろう?」

「何故分かったし」

「今のはそういう流れであろう」

フハハハと夜の宿に配慮した笑い方なんだろうけど、文字変換したら、死亡フラグビンビンの魔王様の笑い方でしたよガヴィールさん。それといつの間にかアドフさんが僕を背後から抱きしめてくるんですけど、今は背後霊のように思ってしまった。確かにアドフさんは恋人の兼旦那さんの位置づけですけど、たまには可愛い女の子を愛でたいものだ、と思ってしまうのは許してほしい。


かつて僕が暮らした故郷の友人が何をトチ狂ったのか、急に大掛かりな魔方陣を出現させ、世界中の女性(おばあさんも含む)を猫耳姿にしたことを思い出した。そのときのセリフが

《世界中のおにゃの子を猫耳幼女にしてやんよ》という呪文であった。馬鹿馬鹿しい呪文であったが、世界中の女性(老齢者を含む)が丸一週間猫耳姿になったのは、今でも衝撃的な記憶になっている。そして、彼の母親も猫耳姿を見て唖然となった彼の顔も忘れない。


ということで、全く纏まってはいないが、旅にあまり支障がないということで、このまま旅を続行し、ついでに勇者の姿を見てみようという、ミーハー感たっぷりの予定に決まった。何だかんだでこのパーティは喧嘩が無くて居心地が良い。アドフはガーディを溺愛しているし、ガヴィールは空気読めるし、情報収集美味いし、ウィー君はもふもふだし素晴らしいパーティだ。これで女の子が加入したら大喜びなのだが、アドフが束縛系ヤンデレ化に発展して、陵辱エンドとかしそうで怖い。自分自身もアドフのことがそういった意味を含めても好きだし、嫌われたくないとも思っているから、女性キャラ一人で皆が不幸になるなら、断然今のままを取ることにする。当分は女の子は仲間にならないと思ったほうがいいな。寂しいときは、ウィー君に癒してもらおう。


こんなにのほほんと生きていけるなんて、自分の周りは平和だと、つくづく感じたのだった。そしてこの世界の娯楽は少ないこともあり、夜遅くなる前には就寝時間になる。

当たり障りNightは、ガヴィールがウィー君をお風呂に入れている間に、こっそりやった。もちろん本番ではないがこれでも結構満たされるんだ。身体って不思議だ。


ウィー君が寝息を立ててから、他の面子も意識を夢に持っていかれるのにそう時間はかからなかった。



***************


翌日、旅の目的は明確なものは無いが、目先の方向としては、勇者を一目見に行くことである。正直魔王のいない世界で勇者って、微妙だよな。正義感の強い熱血系だったら正直居た堪れなすぎて、むしろ笑えて着てしまう。せめてそうならないように祈るばかりだ。



結果から申しましょう。笑いました。

帝国領国境近くの宿場町から、徒歩や馬車で移動して10日間、そこそこ観光しながらの移動だったので予定より3日程の遅延は出たが、元々急ぐ旅では決して無いので、観光旅行という形をとり、途中に寄る街々で簡単なギルドクエストを受けながら帝都へ進んだ。


さすがに帝都は勇者の情報で持ち切りだ。何でも今回、多くの神官の祈りの効果で勇者が召喚されたらしい。しかも一人ではなく四人である。男二人と女二人だ。四人とも若く、十代半ばに見える。概ね高校生くらいであろうか。

容姿はというと、男はザ・勇者って感じの正義感たっぷりのイケメン、もう一人は、イケメン君の影になって目立ってはいないが、そこそこ顔立ちは整っているが、どこか自身なさそうな?ちょっと陰気な雰囲気の漂う男の子。女のほうは、目に付いたのは、ツンデレ空手少女って言う感じの女の子。勝気そうな美少女だが、雰囲気から根っからのスポーツ少女なのだろう。この世界で武具を身に着けた彼女は篭手を身に着けただけで、相当な強さを発揮する、まさに勇者系美少女だ。もう一人の女の子は、比較的大人しそうな、イメージは図書委員をしているような、引っ込み思案な、少し自分に自身がなさそうな感じの女の子である。こちらはスポーツ少女のような目を引く容姿ではないが、強い風が吹けば散ってしまう、そんな儚げな印象を持つ可憐な女の子だ。きっと下ネタ程度で顔を真っ赤にしてしまうのだろう。童貞少年には堪らない女の子である。そしてこの可憐系女の子はなんと、この魔法が普通じゃない世界で、癒しの|能力(チカラ)を持つのである。その|能力(チカラ)は怪我だけでなく、病気も治療してしまうらしい。まさにチート能力である。テンプレ勇者少年は伝説の剣を抜くほどの使い手であり、少し陰気な少年は近未来を予知する能力がある。勝気な美少女は身体能力の大幅な上昇によって、超人並みの身体能力を発揮することができる。皆が皆一つの能力に特化した、突出性能力者である。


「でも魔法じゃないんだよなぁ」


確かに魔法が一般的ではない世界にとっては、こうした|能力(チカラ)は勇者や神子と呼ばれるにふさわしい力を持つに相応しいと考えるかもしれないが、所詮一能力なのである。それならまだ一部に突出していなくとも良いから、様々な属性に寄与した魔法の方が応用できるのではないかと思う。この世界には魔力があるのになぜかそれを利用できる人がいない不思議である。


遺伝子構造や魔力の感受性とかなんだろうが、本当に勿体無い話である。ただ憶測でしかないが、勇者召喚を行う際の神官の祈りは少なからず魔力を使用しているだろうと考えられる。人間の体内で生成できないことから、大気中の魔力を使って召喚に使用できる形にしていると考えられる。せっかくの旅なのだから、人間と魔力、魔法についての研究をしてみるのも良いのかも知れない。

旅の一つの目的に加えておこう。きっと所々にアイデアや知識の素を拾う事ができるはずだ。研究自体は好きだ。根を詰め過ぎないように適度に研究をしてみよう。きっと何かの役に立つかもしれない。


それにしても、帝都に入ってから勇者達をまだ遠くから見ただけで、実際に会って話したことが無い。情報は街にいるだけで勝手に入ってくるし、簡単な探索魔法を空に放つだけで、勇者関係の欲しい情報がたくさん入ってくる。中には、王道勇者君が、帝国騎士たち10メートル吹き飛ばしただとか、卑屈勇者君はチェスのようなボードゲームで文官や大臣たちを能力で振るボッコにしたとか、勝気女子は近衛騎士の訓練の組み手で無配を誇り崇められたとか、図書室系女子は、訓練(勇者的物理)で怪我をした騎士の治療を施し、騎士に惚れられてしまうといったイベントを、探索魔法からの情報から抜き出すことができた。全くリア充め! 爆発しろ…してください。そんな慌しい勇者達の時間でも、午後4時位には一度落ち着くらしく、なぜか四人で固まって話し合いというか、状況報告をするらしい。現在午後の3時半を、この世界で言えば申の終刻を指しているので、もうじき集合するだろうということで、会いに行くことにした。念話でアドフとガヴィールにどうするか尋ねたら付いていくということだったので、一緒に行くことにした。勇者達が集合する所も、王宮内ではなく、城下町の開けた自然公園なので気軽に行くことができる。日本人だろうか、どんな話をしようか、浮き立つ気持ちをあえて抑えずに、勇者達のもとに向かう。このとき後数十分後にはガーディーの気分が急降下することになるとは、まだ誰も知らない。





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