第2章 独学で極める帝国編

第33話 新領 !ソロビエシアート帝国領

現在、ドラゴンの背中に乗って絶賛空中散歩中である。そして背に乗りやすいように、馬で言う鞍を設置した。ちょっと道具はダサいが、ドラゴンライダーだ。


山と山の間を抜けるようにして飛行をする。移動速度が馬車と比較しても格段に早いので、顔にかかる風は、風の防壁で殆どカットしている。なんとも心地よい風だ。まるで飛行船に乗っているような乗り心地なので飽きがこない。何よりフェザードラゴンはモフモフだ。これは癒し効果を高めてくれる。モフモフは素晴らしい。


「あそこの渓谷を抜ければ、帝国領に入る。近くの村から検問所があるから、その手前で降りるぞ」


もうすぐで、このモフモフ天国から抜け出してしまう事に少なからず落胆してしまう。この隙にモフモフを堪能してしまおう。

今まで緩く動いていた両手を、羽毛を掬うように肌触りを堪能した。


「すまないがガーディよ。その触り方はまずい。飛行が不安定になる」


確かに触れているところがピクピクと小さく痙攣している。擽ったかったのだろうか。


すみませんと謝り、触り方を撫でるだけに戻し、ふわふわな羽毛を堪能した。


(触り方がエロい。毛の中に、指を一本一本絡めて丹念に触れる動作は刺激が強すぎるぞ!)


フェザードラゴンは背中にから脇腹にかけて羽毛の下は敏感ポイントである事をガーディは知る事はない。



数時間のゆったりとしたフライトに身を委ねた頃、ガーディ一行は山脈を通り抜けた。その先は広い大地と広大な森が広がる。そしてクランシュタットには無いものが視野いっぱいに広がる。それは真っ白くて見ただけでヒヤリとした気持ちにさせる。そう、雪である。ソロビエシアート帝国は領土の多くが雪に覆われた地帯であり、一部の地域を除き、農作地帯としては適さないものの、各地域では、多くの鉱物を採掘できる点から工業産業が発達してきた。その天然鉱物から作られる数多の武器、防具は一級品として、各国へ輸出されている。所謂、工業帝国である。


山の麓から少し進んだ所に検問所らしきものが見えたので、その少し手前に降りる事にした。


「ここが帝国領なんですね」


「そうだな。俺も帝国領に来るのは初めてだ」


山の麓から向かって北へ進むと検問所がある。ここで立ち止まっても仕方ないので、検問所に足を運ぶ事にした。

「入国税の事を忘れていました……」


入国の際の手続きの一つとして、税を納める必要があった。この国の通貨は二種類使えて、一つはクラン、もう一つはルーヴェルという通貨である。どちらも使えるが基本はクランが主流であり使い勝手は良い。

ちなみクランシュタットと通貨クランは名前上の関係は無いらしい。


検問所で支払う税金は一人1000クラン(10000ルーヴェル)であるため、三人で3000クラン支払った。痛い出費である。クランシュタットで、金を売ったが、それで得た資金は今は残り少ない。

なんとかソロビエシアートで資金を工面しなければと、ガーディは心で誓う。


十数人の列の後ろに並び、20分程でガーディは無事に検問所を突破する事ができた。


検問所の先も暫くは街道は続いている。地図上ではあとま3km程度で宿場町にたどり着く。今日は宿場町を到達目標にした。ここからは街道沿いを進んで行くので、ガーディは馬車を使用する事にした。


「【ステ】おいで」


魔力を風に乗せて囁けば、愛馬の【ステ】が召喚された。最近の彼女はほぼ荷馬車引きで申し訳ないが、本人もまんざらでも無いので、いつも活用してもらっている。ステを召喚している間は魔力供給の優先がステにとなるので、魔力に依存するステにとっては好都合なのだ。


ふふん、と鼻を鳴らすステはどうやらご機嫌は良いようだ。

「ステ、またよろしくね」

ガーディは愛馬の鼻筋を撫でた。ステが満足そうに鳴くのを確認して、馬車に乗り込む。

ガーディが手綱を引き、歩み始める。帝国内の道は比較的整備されているが、道には雪が薄く積もっており、道の端々に雪が積み上げられている。おそらく除雪を定期的に行っているのだろう。道はこの先ずっと雪道であるが、埋まりそうな心配は無いし、ステが馬車を引いている限り、事故を起こす心配もほとんどない。優秀な愛馬である。


馬車を20分程で進ませたところで、宿場町が見えてきた。それと同時に空から雪がパラついてきた。降ってくるのが雨ではなく雪というところを見ると、やはり国外へ出たのだなと、すこし感慨深くなる。


宿場町に着けば、馬車から降り、馬車の荷台をしまう。ステは送還せずに、このままいてもらう。一応リード代わりの手綱を手に持つが、元々幻獣であるステは通常の馬とは違い、意思疎通が完璧に行う事ができる。そうそう暴れたりはしないが、街の住人の目を考えると、どうしても見た目だけ馬を制御している様に見せる必要がある。ステもその事を分かっているから優秀だ。凛々しくて、気高くて賢いそれを体現したのがステだが、やはりネーミングセンス的には失敗したと後悔している。


ここは宿場町というだけあって、複数の宿以外にも、飲食店や酒場が点在しており、看板もはっきりと記載していることから、実に探しやすく良い街だと思った。


「僕は薬屋と鍛冶屋に行くので、皆さん各々用事が終われば、この部屋に戻ってきて下さい」


宿は直ぐにきまり、入浴施設のある宿に決めた。これはガーディの意見だが、アドフもガヴィールも特に反対は無かった。


ステは最初馬小屋に入れるか聞かれたが、ここで一度ステを送還することにした。召喚自体そこまで魔力は使わない。馬小屋に拘束するより何倍もマシである。


宿の内装を確認した一行は、ガーディは薬の調達と、鍛冶屋で金を売りに行く。アドフは前の村でメンテナンスをした剣以外にも使えそうな小ぶりの剣を見に、ガヴィールは酒場で酒を飲みについでに情報収集だそうだ。ウィフィアスはガーディが預かり一緒に連れて行く。三人はこの後各々の用事を済ませる事になった。

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