第32話 ドラゴンに会いに行ってきた件について③

戦闘モードが一段落したので、先ほどの冒険者風の男女三人組に歩み寄る。警戒をしているのは雰囲気でわかったが、一人が火傷でショックを起こしていたから、回復魔法で修復する。実はこの程度の回復魔法は比較的楽に行える。

その代わり欠損や広範囲終末内部壊死は治せない。つまり進行癌は治療不可だ。回復魔法は他に、時属性と聖属性がある。ガーディは時魔法は使用できるが、聖属性は、聖魔法の再現された劣化版のみ使用できる。だが、時魔法が使用できれば、聖魔法は使用できなくてもあまりデメリットはない。

治療を終え、三人から事情を聞く、少し渋っていたが先ほど助けた甲斐もあって、教えてくれた。


「……というわけで、今王都で、ドラゴンの卵を使った妙薬を作っている。その材料を、レイブン伯爵が掻き集めているらしい」

「なるほどね。ちなみに噂程度でも構わないんだけど、その妙薬って何に効くの?」


「噂というか、一般的に知られているのは、精力向上で、どんな不能でも一発で回復するらしい」


「あっ! ……たぶんそれ、僕が原因かもしれない。そして誰が欲しがっているか心当たりがある」

どういうことだ、と視線が一斉にこちらに向く。

「ちょっとクランシュタットの王と謁見したときに、ちょっとした呪い掛けちゃったんです。その中の一つがアレが起たないというもので、きっと病気か何かと勘違いしているのかなと思います」


そもそも国王様もいい年なのに、ヤリタイ盛りなのかと、ちょっと引k……お元気ですね。人の事言えない。

まさか自分が蒔いた種だと、ちょっと申し訳なくなるが、こればかりは、国王に充てた呪いを消すわけにはいかない。というより自分が消したいと思わない。だったら別の方法でアプローチするしかない。

いくつか方法はあるが、やはり確実なのは、ドラゴンに接触できなければ良いという事だ。その方法は単純で、結界をこの山脈に張り巡らせる事。その結界は即ちドラゴンの隠蔽化・基礎能力強化である。特に隠蔽化は隠密性が上がり簡単に見つけられなくなる。反対に人間が立ち入れば、能力の高い人間のステータスが減少する状態にする。即ちドラゴンにはバフ、人間にはデバフを作用させる。もっとも人間の基礎ステータスが一定以下ならデバフの効果は影響しない。みんながみんな影響受けたら、人間がこの山を越えられないと思う。


「という事で、一度村に報告をしてから、各山に結界を張りながら進んでいきますので、ドラゴンさんよろしくお願いします」


「承知した。それと私の名はガヴィールだ。今度からそう呼んでくれ」


確かに人型になってまでドラゴンさんはまずいだろう。これからはきちんと名前で呼ぼう。


「よろしくお願いします。ガヴィールさん」

ガヴィールは頷き、満足そうに息子であるウィフィアスを撫でる。

ウィフィアスも気持ち良さそうに鳴いている。腕の中でもぞもぞしているのは微笑ましいが、先ほどガヴィールさんは生まれて直ぐに見たものを親と認識すると言っていたが、この子はどうやら、ガーディー自身以外にも、アドフやガヴィールにも直ぐに懐いている。親と認識しているかわからないが、身内に近しい存在と認識しているのだろうか。とにかく、息子がしっかり親に甘えているのは良い事だと思わず頬が緩む。


ガヴィールさんはこの後、山を離れるため、山のNo.2である、ウィングドラゴンのアヴァルさんにボスの座を明け渡す話をしていた。アヴァルさんは完全に山の支配者になるのではなく、ガヴィールさんが戻ってくるまでの間、代役としてこの山を管理すると言っていた。因みにウィングドラゴンは真っ白な体毛に青灰色の爪と瞳をしている。アヴァルさんは人型をとっていないのでわからないが、ガヴィールさんは肌の色が小麦色の肌で銀髪だ。通常の人間には無い組み合わせの色だ。その銀色の髪も短く切りそろえられており、逞しさの中にセクシーさが同居するモテ男だ。ドラゴンは皆容姿が良いのだろうか。

念話上ではアヴァルさんの声はイケメンだった。耳が幸せである。


その後、帰りが面倒なので、冒険者三人組みと途中で拘束した四人組を回収して、|【転移(テレポート)】で村へと戻ってきた。冒険者達を村に引渡し、自分たちは、昨日泊まった宿を再度使う事を決め、今日は四人用の大部屋を用意してもらった。もちろんガヴィールさんがドラゴンである事は言っていない。言えば、大なり小なりパニックになるからだ。


ベビードラゴンのウィフィアスはガヴィールに終始抱えられたままの状態だったが、村人からは何も言われなかった。

この後聞いたところでは、褐色肌と銀髪は、祖先にドラゴンの血を引く者と考えられ、ドラゴンテイマーと呼ばれているらしい。血を引くではなくドラゴン本人なんだけどと、口にできずその話に便乗して、ドラゴン親子は無事に宿を使うに至ったのである。


現在は宿の部屋の中、ガーディとアドフ、ガヴィールとウィフィアスの三人と一匹が集合している。


「では、改めて自己紹介します。僕はガーディです。魔法使いやってます」

「俺はアドフィルゲイン・ノーザンホークだ。元だが騎士団長をしていた。剣には自信がある」


ガヴィールは二人の顔を見て、覚えたとでも言うように何度か頷いた。


「私はフェザードラゴンとウィングドラゴンを両親に持つガヴィールだ。この件では息子がお世話になった。卵が無くなった時は頭が真っ白になったがこうして息子が戻ってきてくれたことに心底ホッとした。改めて礼を言う。ありがとう」


改めて深々と礼をされると少しむず痒いのか、ガーディは口をモゴモゴさせて変な顔になった。


その顔を見たアドフは優しく笑い、ポンポンと頭を軽く撫でる。


「礼を言うのはこちら側だ。人間の都合で自分の子を危険に晒してしまった事は種族は違えど重要な犯罪だ。そこを穏便に済ませていただいたガヴィール殿には頭が上がらない。礼を言うのは俺たち人間の方だ、ありがとう」


頭を下げあった所で、空気が穏やかになった所で、ガーディ達は明日に向けて身体を休めた。


ドラゴンも夜は休むのだろうか……。

明日聞いてみよう。



************


どうやらドラゴンも夜は休むようだ。この世界のドラゴンは外気の気温に影響されやすい種族が多く、気温が下がる夜に休む事が多いそうだ。

という事は変温動物に近いのだろうか?

完全な変温動物ではないということから、その辺は異世界という事で片付けてしまおう。


朝は平和そのものだった。


アドフは寝ているガーディを胸に抱き留め、ウィフィアスはガヴィールの顔によじ登っていた。ガヴィールは顔を顰めていたがどこか幸せそうだ。


少し時間が経った頃、ウィフィアスがピィピィ鳴く声で皆が起き出す。

ガーディは寝起きにひとつモフモフを堪能した後、身支度を整える。


「ガヴィールさんは人間の食べ物ってどうしているんですか?」

これから朝食を食べる予定だが、朝食はどうするのだろうか?

「人間の食べ物も食べなくはないが、やはりこの姿でも基本は肉食メインだな。私達フェザードラゴンやウィングドラゴンは肉意外にも果物も食するし、魚も食らうこともある。だから完全な肉食ではなく、肉食寄りの雑食であろうな」


成る程、肉食系ね。野菜は嫌いなのかな?


「でしたら、朝だけ僕達と同じ食べ物で、その後は別のご飯にしましょう」


決まりですと、ガーディは手を叩き、話を完結させる。

それから少しして食堂の開店時間が過ぎた頃、ガーディ達は三人と一匹は食堂へ向かう。


朝食の内容は、黒パンに塩味の効いた野菜スープ、それとベーコンエッグと追加で頼んだ蒸し鶏だ。

うちの肉食系は朝から食欲ありなので多めにしてもらう。本当にドラゴンなのかと思うくらいナイフとフォークの使い方が綺麗だ。赤ちゃんドラゴンのウィフィアスは牛型の動物から採ったミルクをメインに、柔らかく解したツナ缶を与えている。ツナ缶は日本産のツナ缶を使用しているので薄味でも美味しい。


朝食を摂り、簡単に身支度を整えた一行は、再び山脈を目指す。少し村から離れた所からは|【転移(テレポート)】を使い、ガヴィールの巣の辺りに跳んだ。


「さて、ガーディはこれからどの方向を目指すのだ?」

「この山々を順番に結界を貼って行くには、西に向かいながらかけていき、端までたどり着いたら今度は北東部に進みながら結界を貼って行けば、ロスなく進む事ができると思います」


「そうか。ならば私の背に乗ると良い。早く着くはずだ。今から始めるならば、夕方には終わるだろう」


それならば有難いと言う事でお言葉に甘えることにした。




まずは隣の山、ドラゴンの護送により、10分足らずで到着してしまった。その後ここのボスドラゴンに挨拶をして、結界を貼らせてもらう。役割としては、ガーディが魔法陣の展開までを行い、アドフが魔力を流す流れだ。意外にもアドフの魔法親和性が高く、少量の魔力で大きな効果があるらしい。ファンタジー的に言えば、魔力の質が良いらしい。


結界を貼り終われば、次の場所に向かう。そこでガヴィールが他のドラゴンのネゴシエーターを務め、ガーディが魔法陣の展開、アドフが魔法を発動させる。このスムーズな流れを、ひたすら繰り返していった。


繰り返す事24箇所目、最後の魔法陣展開、構築、発動を終えれば、辺りは既に夕方に差し掛かっている。村への報告と忠告をするため、転移ではなく、ガヴィールの背に乗って村へ向かう事にした。


今回は村の少し手前ではなく、入り口に堂々と降りる事にした。この方がインパクトがあって良いと思う。


案の定、ザワつきに見舞われた村人達は立ち止まり、この世の絶望を頭から被ったようなひどい顔をしていた。ガーディがガヴィールの背中からは降りると、ガヴィールが人型を形取った。


「貴方がたは旅の方の……そしてそちらはドラゴンテイマーの方の……」


ガヴィールはククッと笑い、

「私はドラゴンテイマーではなく本物のドラゴンだ。今はそんな事どうでも良い。今はこの坊主から話がある」


この場にいる村人達は一斉にガーディを注視する。ガヴィールが話の主導権をこちら側に向けた事に心でお礼を言い、ガーディは村の面々に説明をした。


それは、この山はドラゴンの住処であり、それを無暗に侵さない事。どんなに実力があろうとも、この山では一定の人間は弱体化する事、ドラゴンの卵は迷信の可能性が極めて高いことをなんとか分かりやすく掻い摘んで説明する。


「…という訳で、以上の事を知っていただき、守ってくれるようなら、村を襲う事はないのでご安心ください」


逆を言えば守らなければ、その時は保証しかねるという事を認識してもらう。これは人間とドラゴンの共生をしていくための最低のルールであり、人間側からのの侵略抑制をするためでもある。


「わかった。今後村で冒険者を見つけたら、無暗に山の奥に進ませないように警告は必ずしよう。それでも行くという場合は私達では止められない。その時はドラゴンに押し付けてしまう形になってしまうが許して欲しい」


少し人間本位ではあるとは思うが、これは仕方ないのかとも思う。しかし今後は人間次第だ。結界は強力なので、今後、そういったものが山奥に入れば、無事に帰ってくる事は困難であろう。それを承知の上でなら、やむなしという事である。


冒険者は一先ず村経由で王都に送ってもらう事として、ガーディ一行は明日山越えをする予定である。


明日中には、帝国領には入れるだろう。まだ安心はできないが、ガヴィールがいるなら、山脈越えは難しくないだろう。


昨日使った宿を、再度利用する事を決め、

皆が思い思いの時間を過ごし、村の夜は更けてゆく。

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