第31話 ドラゴンに会いに行ってきた件について②
卵の生みの親の所へ、返却をするために森の中を進み、次第にキツくなる坂道を進んでゆく。ガーディは魔法で身体能力を底上げしているが、元々の体力がカス並みである事から、既にバテバテである。対するパートナーは涼しげな顔をしているのが心なしか腹立たしい。
「
なぜいつもの移動魔法を使わないかというと、万が一移動先にドラゴンにエンカウントしたら、強制バトルイベントに突入するからだ。それにこういった事は既にフラグが立ってるから大抵実現するからタチが悪い。そもそも卵を返却するイベントだって、危険極まりないイベントなのは間違いない。だからこそ、最小限の刺激で、迅速な行動を取らなければならない。
「少し休憩しませんか?」
「そうだな。少し休もうか」
先を歩いていたアドフが歩みを止め、ガーディを視界に止める。少し息が乱れている所を見て、休憩を了承した。
少し左へ逸れたところに木々が開けた場所を見つけたので、そこで休憩を取ることにする。
(今まで楽しすぎていたからなぁ。もう少し身体を鍛えないといつか歩けなくなりそう)
今後の小さな不安から、もう少し努力しようと決意を胸に、横に置いてある卵をスルリと撫でた。
(あれ? 卵が震えてる?)
「アドフさん、ちょっと卵触ってみてもらえませんか」
近くの木陰で休んでいるアドフを呼びつけ、自分の気のせいでは無いか確認をしてもらう。
そっと卵に手を当てたアドフが、その体勢で少しの間固まった。
「まずいな」
その一言で察する。
間に合わなかったと。
更に細かく震え、卵の腹には一筋のヒビが刻まれる。
本当はこの場所から離れた方がいいのだけれど、卵を放置しても良いのだろうか?
ドラゴンと言えど所詮は赤子であり無力だ。後々面倒かもしれないが、このまま見守る方法を選択した。
数十分かけて、殻を破り外の世界へと飛び出そうと必死に動く姿にエールを贈りながらも静かに見守る。
そして誕生の瞬間が訪れた。
現れた
まだ生まれたばかりでここは竜の巣ではなく、ただの地面だ。ドラゴンと言えど衛生的に綺麗な方がいいだろう。ガーディは魔法袋から取り出したバスタオルで、赤ちゃんドラゴンを包んだ。バスタオルに包まれたドラゴンはこの時初めて小さいながらも意志のある可愛い鳴き声を上げた。
バスタオルが水分を吸い込むことで、少しずつ羽毛が乾き、ふわふわの毛並みが露わになってくる。さすがマイクロファイバー製バスタオル。
すっかり乾いた赤ちゃんドラゴンを一度観察する。小さくピィピィ鳴いているがこの際無視をする。
「こいつはフェザードラゴンで間違いないな」
どうやらこのベビードラゴンはフェザードラゴンという種であるらしい。確かに羽毛がもこもこしている。ドラゴンと言えば爬虫類型でトカゲみたいな容姿と思っていたが、このドラゴンは比較的、鳥のようにも見える。即ちペットにしたい愛くるしさだ。ドラゴンの首元を撫でれば、すり寄ってくる可愛さも相まって、これは乱獲する気持ちが少しわかってしまった。
そしてこの展開は大変困った。即ち親ドラゴンとの戦闘濃厚だ。泣きたい。
「今、相当マズイ状況ですけど、それでもやはり行くしか無いんですよね」
「心配しなくとも、少なからずディーだけは護ると誓おう。しかし、心配が杞憂であれば一番だが…」
アドフの余裕のある態度はどういうことなのだろうか。イマイチフェザードラゴンの生態について不明な点が多いので、どれ位の強さで知能は高いかなど会わなければわからないのだ。ガーディは不安になりながらも、モフモフドラゴンを抱きながら、険しくなってくる山道を進んでゆく。
大分山道を進むと、ドラゴンの巣らしき大きな洞窟とその脇に木でできた直径3メートル程の籠が見つかった。
概ねここだろうと、判断し、近くに親ドラゴンがいないか観察する。同時に探索魔法を掛けて、強い生体反応が無いか確認する。
生体反応を半径3キロメートルに広げたところで、上空に一体、地上に人間らしき者が3つ、引っかかる。
上空にはドラゴンだろうが、地上は人間だ。先程の泥棒はあそこから動けないはずだ。では、この3人は別人か?
「アドフさん、近くに人の反応があります。敵か味方かわからないので、一度隠れましょう」
了承の返事をもらった後、少し様子を見るため、洞窟脇の茂みに身を隠すことにする。
10分程経過したところで、先程の探索魔法に探知された人達が姿を現した。
「本当にここがドラゴンの巣なの?もう疲れたんだけど」
「確かこの付近のはずだ。この山のボスとして君臨しているドラゴンは山頂付近のこの近くに住んでいると言われている」
「じゃあ早く卵回収して帰ろうぜ。ドラゴンとか相手無理だわ。普通に死ぬし」
「しかし、もし見つかったとしてもこの山は現在はフェザードラゴンが取り仕切っていると聞く。もし出会ったとしても、簡単に負けることは無いだろう」
「でも、ドラゴンって倒すのめんどくさい割に使えるところが牙と鱗だけだから命懸けで倒すことを考えても割に合わないのよねー。さっさと用事終わらせて帰りま……」
「えっ?」
話し合っている冒険者らしき三人組に陰が覆った。
上空を見上げればそこには翼を羽ばたかせるドラゴンがいた。その存在になって気が付いた瞬間。
「グギャァァァアッッ!!!」
フェザードラゴンが方向を上げながら、三人組を見下ろしている。翼を広げれば7〜8メートルはあるのではないかという大きさだ。
そして雰囲気から察するに、お怒りモードである。原因は…まぁあれでしょう。
フェザードラゴンが上空をから羽を打ち出してくる。その数は多く、地面や木に当たったものは、そのまま突き刺さっている。羽を硬化する作用があるのだろうか。そしてフェザードラゴンは羽を飛ばしながら、口腔内に光を溜め込む。羽による攻撃が止んだと思ったら、熱線が放出された。熱線は放射状に広がり、辺り一面を焼き尽くした。三人組はなんとか羽の攻撃は避けたり、防具で防いでいたようだが、熱線を一人が食らってしまったようだった。ガーディ達からはほんの軽く掠ったように見えていたのだが、触れた所は勿論、触れていない部分にまで火傷を負っている。余程あの攻撃が強烈なのか、流石はドラゴンといった所である。そして言っては悪いがフェザードラゴンは成体でも、あのもこもこの体毛がとキリッとしつつもどこか愛嬌のある顔立ちは少し可愛らしくもある。これで小さかったらペット扱いになるんだろうなー、とガーディはどこか見当違いな方向で考えていた。
「マズイな、あいつらを助けに行くぞ」
「えっ?」
アドフの声掛けに反応したガーディは今動けない一人を庇い、冒険者は一箇所に固まっていた。それに対しフェザードラゴンは再度口腔内に光を溜めている。
(成る程、纏めて熱線シャワーを浴びせる予定だな)
確かにそれではピチューンしてしまう。このまま見ていても仕方がないと言う事で、戦闘に介入させてもらう。
《もしもし、ドラゴンさん。聞こえますか?》
別に武力対抗するとは言っていないし、最初は話し合いだよね。それでダメだったら考えるけど。
《なんだ? 貴様は、何処にいる!》
ドラゴンは基本知能が高いと言われているが、この世界もそのようであった。テンプレ美味しいです。
ここです、とガーディはフェザードラゴンに向けて大きく身体を使って手を振った。
フェザードラゴン気がついたようで、こちらを鋭い目付きで見下ろしてくる。
《ドラゴンさん、僕の声が聞こえますか?》
《聞こえているが、言葉を交わすことのできる人間は初めてだぞ》
フェザードラゴンは疑いの目を隠すことなくガーディを見つめる。
《驚かせてすみません。僕とこの人はドラゴンさんに謝罪をしに参りました》
返事はないが、攻撃をしてこないことから、こちらの話を聞いてくれるのだろう。
《実は先程、ドラゴンの卵を持った者を発見したので、説得(物理)で卵返しに来たのですが》
《なんだと⁉︎》
怒気を露わにしたドラゴンは眉間らしき所に皺を寄せた。
《はい、それの事でですね、申し訳ないことに……》
《なんだ?早く言えッ》
(怖いぉ。ドラゴンピリピリだぉ)
と、ガーディは内心緊張しており、今にも意識を持っていかれそうだ。そのとき隣にいたアドフが、ガーディの手を握った。手の温かさに少しだけ平常心を取り戻した。
(まぁ、失敗したらしたでなんとかなる…よね)
再度ガーディはドラゴンに視線を向け
《お届けする前に孵化してしまいました》
《…………》
沈黙が痛い
反応がないので、バスタオルに包んでいた、フェザードラゴンベビーを見せた。
《……貴様が孵化させたのか?》
《意図させて孵化させたわけではないのですが、その時は僕が一番近くにいた事は否定できないですね》
《そうか……ならば仕方ない。そいつは多分お前らを親だと認識している。私が親になる事は叶わないだろう》
少し悲しげな返事と、「グルゥ……」という溜息のような鳴き声を零した。
悲しむのは仕方ない。ドラゴンは種類にはよるが、そうそう卵を生む事は少ない。少ない種族だと50年近くは産まない者もいるのだ。
ガーディはどのような言葉を返そうと悩むが、
《私はどうしても我が子の成長を見たい。子が成体になるまでの間側にいても良いだろうか?》
戦闘フラグ回避の予感。できれば穏便に済ませたいガーディにとっては良い流れだ。
《ですが、その大きさでは、行くとこ行くとこ阿鼻叫喚になると思うのですが》
《問題ない。要は人型になれば良いのだろう?》
そう言うと、フェザードラゴンが淡い光を放ちながら、どんどん縮小してゆく。最終的には身長2m弱のハンサム紳士が立っていた。
そう、紳士である。
「これで大丈夫であろう」
「……」
女性を期待していたなんて言えない。
「まだ何か問題あるのか?」
「あっ、大丈夫です。それと父親だったんですね」
一抹の望みを掛けて、本当はイケメンお姉さんを期待してみたが
「そうだな、フェザードラゴンは子育てを雄が受け持つ。慣習として決まってある」
なんとなく華が欲しかったが、仲間になってくれるのはありがたい。戦闘もしなくて済んだし、了承と返す。
「では、よろしくお願いします。それとこのベビードラゴンにまだ名前が付いてないので付けてもらえませんか?」
「私が名付けるのか?」
「そうです」
うむ、と悩むパパドラゴン。
「ウィフィアスなんてどうだ? ドラゴンが祀るドラゴニア神の中の御柱として存在している者から一部を取ったもので単純極まりないが、どうだろうか」
ガーディの腕にいるフェザードラゴンベビーは、ピィピィ鳴いている。なんとなくだが嫌そうではないらしい。もしくはただ分かっていないだけかもしれないが。
「試しに呼んでみればわかるのではないですか?」
ガーディは無理やり親ドラゴン(人型)にベビーを抱かせる。
「ウィフィアス」
ベビードラゴンは親の問いかけに、暫く見つめていたが、ピィと一鳴きした。
うーん、気に入ってるのかイマイチわからない。でも嫌そうでもないし、名づけ親も気に入ってるからこれで良いのだろう。細かいところは気にしない。
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