第30話 ドラゴンに会いに行ってきた件について

翌日、すでに太陽が真上に到達した頃

「知らない天井だ…」

嘘です。知ってます。宿泊した宿の天井です。天井のシミの数も同じです。


寝坊しました。

今日は山に行って調査する予定でした。なぜ私のパートナーは起こしてくれなかったのでしょうか?

パートナー曰く

「可愛い相方が疲れて休んでいるのであれば、それを見守るのが男の役目だろ?」

と言っておりました。何故その答えに行き着いたし⁈謎の紳士を発揮したわがパートナーは通常運転です。勇者とかみたいに勘違い紳士にならないでね?

これ、マジで。


「予定は少し狂いましたが、出発しましょう」

なんだかんだで遅めの朝食兼昼食を摂り、早速山の見える方向に向かって進む。


村も少し離れた所で、ちょっと旅のムードは足りないかとは思うが、浮遊魔法で進む事にする。


浮遊魔法は風と重力を座標演算でコントロールする魔法技術だ。実は最近改良したもので、これがあれば自分だけでなく、複数のものを同時に操作することができる。実は参考資料はアニメや小説と言ったものである。科学と想像力は素晴らしい。


参考資料をもとに魔法陣を構築したので、詠唱も想像力も必要無い。また、風属性を持っていれば、重力属性もカバーできる。魔法陣に術式を付与するので、どうしても紙などに描いた術式を身につけなければならないのが弱点だが、身に付けるだけで使えるのだから、お手軽即席魔法である。


アドフさんにも、浮遊魔法の原理をザックリと伝える。最初はコントロールに手間取っていたが、自分自身をコントロールするだけなら、操れるようになっていた。なんでも体幹を上手く使うとできるらしい。そういうところは異世界人だなぁ、と思う。


浮遊魔法というよりも移動速度的に飛行魔法になっているが、明らかに馬車よりも移動速度が速いので、移動に時間を取られずに移動することができた。



現在、山の麓まで来たが、今のところ竜種には出会っていない。此処で立ち止まっても進展が無いので、早速進む事にする。

まだ麓ということもあり、少し坂のある森のような印象だ。苦もなく進むことができる。一時間程進んだ所で、道が急に厳しくなってきた。

自身とパートナーに体力補助魔法を掛け、ブーストする。これだけで全く違うので楽に進むことができた。


さらに進んで行くと

「グギャャァァア」やら「グォォォオッ」という、独特な鳴き声が聞こえきた。ゲームとかなら竜種なんだろうけど、どうだろう。一度確認したい。


鳴き声の聞こえてきた方に少し進むと、草木をかき分ける音と、人の声が聞こえてきた。


「早くしろ、追いつかれるぞ」

「わかってるって、ちょっ、ちゃんと持てよ! 落として割れたりしたら無意味になるぞ」


「なぁ、もうやめようぜ。これ山を出る前に追いつかれちまうよ」





そこそこ離れていると思ったが、声の主とすぐに会う事になった。そして彼らを見ると、ため息が出た。仕方ない。だってこいつら「大きなタマゴ」を抱えている。


この前の『たまごドロボウ』のフラグ、そういえば立ててしまっていた。


「げっ⁈ なんだ?人か?」


どうやらこちらも気がついたらしい。

別に隠れていたわけでは無いが、少しバツが悪い気がしてしまう。こちらから動くと余計に拗れそうなので、相手の出方を伺う。たまごドロボウは4人だ。身なりは冒険者風であり、丈夫そうな防具と武器を所持している。


「おい、お前らもドラゴンのタマゴを取りに来たのか?」

「いや、違うな。近くの村で最近ドラゴンをよく見かけるようになったと、村人から依頼されてな、見てきて欲しいとの依頼を受け、こうして確認にきた」


質問にはアドフが答え、ガーディは彼の背に隠されている。これはパートナーを守っているのか、それとも戦力を隠しているのか定かでは無いが、ガーディは見た目は唯の少年なので、戦力外として見られる事が多い。それ故、前に出て戦闘はもとより交渉も表立って行う事は最近は少なくなり、アドフが役割を担う事が多くなっている。


「って事は、俺らの事も報告するんだよな?」

「そうなるな。少なからず原因である可能性は高い。秘密にする道理は無いな?報告させてもらう」


アドフの答に反応した冒険者風の泥棒が獲物を取り出した。4人のうち2人がこちらに刃を向け、残り2人はタマゴの警備や保護を担っている。


「そういう事なら、俺たちも遠慮なく殺らせてもらう。殺れ!」


そう言うや否や、獲物を持った男2人がこちらに向かって飛び出してくる。一人は長剣、もう一人が短剣を持っている。


「俺がやろう」

アドフがガーディを後ろに下がらせ、自らの武器である大剣を構える。

元々離れていなかった両者の距離が一気に狭まり、先に長剣と大剣が交差する。一瞬の甲高い金属音の後、武器の特徴や使用者の技術から、長剣が弾かれ、持ち主もノックバックを起こす。しかし、その隙に短剣を持った男が、アドフの懐に入り込み、下から斬り上げる。僅差で気がついたアドフが、重心を引き戻し、上体と腕を翻す事で、剣で防ぐ。短剣がそもそも超近接武器のため、一度攻撃に失敗すれば、迎撃を防ぐため、一度距離を取ることは多い。しかし短剣を防いだのは大剣のため、攻撃の衝撃は少ない。

このメリットを活かし、短剣所持者が距離を取る前に一気に畳み掛ける。体勢を整えたもう一人が再度切り掛かってくるが、間合いに余裕がある。短剣を持つ方に攻撃を定め、大剣を最小限の動きで振るう。この時の狙うポイントは短剣の刃と柄の間だ。この位の相手なら問題なく当てる事ができる。

狙い通り短剣に当て、彈き飛ばす事に成功する。

うッ、という呻き声が相手から漏れる。手に与える衝撃も大きい事から、すぐに手に武器を持って反撃する事は難しいはずだ。

そう確認し、次は今間近に迫る長剣を気配で察知する。先程大剣を振り抜いた体勢から上体を起こし、腕を引き戻す事で、向かってくる長剣を正面から受けず、流すように大剣を振るう。長剣の勢いを殺す事でアドフに与える衝撃はほとんど無い。殺された衝撃は、第二撃を与える時間をなくす。相手が体勢を戻す時間を利用し、アドフは長剣を受け流した体勢のまま大きく踏み込み、上段から剣を振り抜いた。

甲高い金属音が響き、長剣が持ち主の手を離れ、数メートル飛翔した後、地面に突き刺さる。


その後素早く相手に峰打(両刃だから柄で)をして、意識を刈り取る。

「付加魔法試せなかったな……、ディー、終わったぞ」


アドフは少し物足りなかったようだ。ガーディはアドフの剣技に見惚れていたが、声をかけられた事で、意識を戻した。


「えっ?あっ。はい。お疲れ様でした。こちらも残り二人を【空絶】で空間ごと隔離しました。多分逃げられないと思います」


「あぁ、ありがとう。できればこの者たちを村に引き渡したいのだが、卵がな…」


現在ドラゴンの卵自体も空間魔法の【空絶】によって保護され、卵自体にも万一間割られないように結界を張っている。

現に今ヤケになったのか、卵を割ろうとしている。本当にやめて欲しい。


「そうですね。卵はドラゴンに返したいですね。そのまま放置しても危ないし、かといって村に持ち帰れば、下手したら村が火の海ですね」

アドフとガーディはお互い無言で目を合わせる。


「よし、卵を先に返しに行こう。もしドラゴンが攻撃してきても、ドラゴンを倒せる自信は無いが、ディーだけなら守る自信はある」

ガーディは、はい、と一言呟き、


「そうですね。僕もドラゴンを拘束する位できるので何とかなると思います。このドラゴンの卵の模様から…ウィングドラゴンかフェザードラゴンあたりですか?」


卵を結界に干渉し、男から奪い取り、ドラゴンの種類を考察する。


「そうだな、確かにたまごが薄い青みのある色はウィングドラゴンかフェザードラゴンだが、たまごの底部に茶色の斑点模様があるから、きっとフェザードラゴンだろう。彼らは起こると手に負えないが村に被害が心配だ。返しに行こう」


そうですね、と返答し、たまごドロボウを拘束魔法で一纏めにして、その上に【空絶】をかけ外部干渉も遮断する。

あまり気が乗らないが、卵を返しに行こう。


「行きましょうか」


こうして、たまごの生みの親に会いに、足を進める事となった。

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