第26話 挨拶

アドフは6人兄妹だが、今日自宅に居るのは3人で、他の3人は学校へ行っているらしい。ちょうど義務教育にあたる年齢なので、今自宅にいないのは不思議ではない。また、それぞれ下の兄妹達はクランシュタット王国内の学校ではなく、隣国のイェルハルド公国に通っているらしい。そこならクランシュタットの事件もあまり情報が渡らない為、余計なトラブルは起こらないと両親が判断した為だ。


!? 家に居るのが3人……学生も3人……では、客室の外で聞き耳を立てていた長女は……サボりか?



イェルハルドはクランシュタットと異なる文化が発達しており、独自の医療技術と福祉制度を展開している、非常に穏和な国だ。イェルハルド公国が世界の医療技術を保持していると言っても過言ではない為、各国の医師や医学生がこの国へ留学している。


現在クランシュタット王国は覇権争いで国の勢力が減衰している為、強国では現時点ではないが、元々は、軍事力あり、文化ありの強国であった事から、現在もある程度は王国としての文化を維持しているが、現在の状況を見るに、覇権争いはなんとも醜い争いだと考えさせられる話である。


本日はこの空間を更に快適にする為のメンテナンスを行う為、今日は自宅という名の屋敷にお邪魔する事にする。屋敷の広さを数字で表すと、300平方メートル程で、部屋が8SLDKの二階建てだ。この広さだと兄妹が6人居ても余裕だな。騎士職は儲かるのだろうか……。


通された二階の客室は申し分ない部屋だった。手入れも行き届いているし、この家をエリザベータが管理をしていると思うと、主婦は凄いと感嘆の息が漏れる。実際は週に何度かハウスクリーニングを使っているのだとか。後で聞いたら教えてくれた。


部屋に案内され、一人になればまずやりたい事があった。


「そーれっ!」

ボフッという音と、小さなスプリング音。そう、ベッドダイブである。久しぶりのベッドに心が躍るようだ。暫しの間ベッドの感触を堪能した後、やる事を実行に移す。


窓の側に近づき、外が良く見える様に、窓を開ける。今回は空間のメンテナンスの為、新機能は大して付加しない。目的は、快適な居心地の改良と、転移て正確性、バグ対策だ。自分で異空間を作っておいて無責任かもしれないが、事故が起こる可能性は少なからずあるのだ。それを今回予防する為にセイフティーネットワークを構築する。それは独立したセイフティー設定を複数行い、各々のネットワークで監視する構造である。モデルはPC(パーソナルコンピュータ)のセキュリティシステムである。基本外敵対策ではないが、不備のアップデートとしての機能としての意味では間違ってはいないのかなと考えている。ネットワークデータも全てデジタル化し、一つ一つをファイル化し、グループ毎にフォルダ化して、整理をする。この機能に自動修復機能をつける事で、壊れたデータを解析し再生する事で、問題を解決を迅速に行う事ができる。デジタル化って凄い。


「終わったー」


大事なメンテナンス作業なので、魔法がメインだとしても、ジャンルはデジタル魔法なので三時間近くかかってしまう。しかし、それだけ大事な作業なのだ。手抜きはしない。

欠陥ダメ、絶対! である。


作業が終わった事を伝える為、人の気配がする方へ移動する。


一階に下りると、左手に書斎がある。ここに、アドフとクラウスが話をしていた。

話の内容はよく聞こえないが、今後についてお互い話しているらしい。書斎にある机に座り、こクランシュタット王国の内情や他国との外交関係、害獣の被害など、今必要なのか? という会話を繰り広げられる。


話の内容はどうでもいいと思ってしまうが、いかんせんかの親子、美声なんだよ。耳が幸せである。日本なら声優になれるのではないか?

と本気で思う。ボケっと訳にはいかないので、声をかける。


「お話中失礼します。先程メンテナンスが終了しましたので、おしらせします」


「あぁ、そうか。お疲れ様。今日はゆっくり休んでいってくれ。後で浴室を使えるようにしておきますので、ご自由にお使いください」


クラウスはガーディに対して敬意を持って接してくれているが、絵面は子供に敬語を使う大人である。何が言いたいかというと、違和感が凄い。もっとラフにして欲しい。凄く他人行儀に思えて少し寂しい。


「クラウスさん、僕に対してはもっと気軽に接して頂けると嬉しいのですが……せめてディー君って呼んでください」


ねっ!と子供らしくウインクをして気さくさをアピールする。一時期あざとさを極める練習をしたのだが、効果はあったのかな。


「はははっ!そうかい。ではディー君この度は本当に感謝している。改めて礼を言うよ。アドフィルゲインもこんなに可愛い子と一緒に居られるなんて羨ましいね。ただあまりこの子に負担をかけてはいけないよ」


恐らく床事情なのだろうが、勘違いしているが、ガーディは見た目少年だか、中身は300歳過ぎのご老公だ。この親子よりも何倍も歳を取っている。そう言えば自分の年齢って言ったかな?

言ってなかったかも……ま、別にいいよね。


この後、エリザベータさんの手料理をご馳走になり、今は充てがわれた自室に寛がせて貰っている。


「やっぱりいいよな、家暮らし、この世界でも家を作りたいな」


旅を続ける身であっても、やはり住む場所があるのは羨ましいし、安心がある。ぼーっと考え事をしていると、コンコンとドアをノックする音が耳に届く。


「はい、ぞうぞ」


ゆっくりと開けられ、顔を覗かせたのは一番知っている顔である。


「ゆっくりしているところ悪いな。たいした用ではないのだが、先程、父がディーを養子に入れたいと言いだし断わっておいたのだが、もしまた父が変な事を言ってきたら、気遣いはいいから正直に答えて欲しい」


なるほど。確かにこの家は苗字があるから、上級市民の中でも地位は低くないようだ。中級市民や上級市民でも苗字が無い国民は一定数存在する。また後で知る事だが、苗字が複数に区切ってある人程階級的地位が高い人が多い。そういうお国柄なのだ。


アドフさんにわかりました。と伝え、まだ部屋を出て行かない彼に一度疑問に思い、すぐに別の何かがあると気がつく。勿論契約を結んだ事に起因した。


「アドフさん、ちょっとこちらでお話ししませんか?」


声をかければ、あぁ、と短い返事を貰い、二人でベッドに腰掛ける。別に最初からやましい事があるわけでは無い。ただこの部屋に椅子が二脚置いていないのだ。唯一ある椅子も少し遠くに設置されているが、高価そうだがあまり使い勝手は良くなさそうな素材の為、使用頻度は少ないのだろう。


「アドフさんのご両親とっても暖かい人ですね」

ただ、ギャグキャラじゃないのは少し勿体無いとは思った。優しい親もテンプレだが、ツッコミ所満載な夫婦もまたテンプレなのだ。


「あれでも昔は厳しかったのだぞ。今は比較にならない程落ち着いているがな」


「そうなんですか?ではその甲斐があって今のアドフさんがいるんですね」


そうかもしれないな、と軽く笑う彼を見て幸せだなーと思う。こうして彼を見ていると、この前の夜が思い出される。ちょっぴり怖くて、恥ずかしくて、快感でおかしくなりそうだったひと時。思い出せば身体の奥底が疼く感覚が生まれる。


「ねぇ、アドフさん。魔王って知ってますか?」


「魔王か……。伝承や物語ではたまに見かける程度だが、人間と敵対し世界を闇と恐怖で支配する者として知られている。物語では勇者と物語セットで登場し、最終的に魔王は滅ぼされるか、封印しているな」


「やはりどこの世界にも魔王は討ち滅ぼされる運命なんですね。やはり悪い存在なのでしょうか……」


「そうだな、全部が全部悪いとも限らない。魔王が現れれば文化が変わる事がある。それが良い方向に動くとも聞いた事があるからな」


伝承の魔王様は異世界から来た存在がモデルなのだろうか?

自分が産まれた世界は魔王が7人いて、その中の一人が総括魔王として君臨している。もっとも魔王だからって世界征服もしないし、人間とも敵対はしていない。ただ、魔族の王としての役割だ。人間の王とも何ら変わりは無い。


「魔王は不思議な力を使うとかありますか?」


「伝承でなら、何も無いとこらから炎や風、氷などを生成し、攻撃に使用していたそうだ。勇者についても同様で、こちらも想像できない力を使うらしい。それと勇者は必ず聖剣というものを持っているな」


ここまでくると、史実な気がする。テンプレートだし。


「この世界の魔王様も大変ですね。でも、もし会えるなら会ってみたいですね」


「そうか? まぁディーが会いに行くなら俺も一緒に着いて行くがな」


ありがとうございます。と軽くお礼を言う。あくまで伝承だからいるかどうかわからないというのがこの話を深刻にさせない理由だろう。


僕は隣に座る彼を見つめた。



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