第25話 ノーザンホーク家への帰還

時を止めたまま、あのキツネ目野郎が米粒程も見えなくなる程遠のいた頃、魔法を解除した。本当はここから、馬車を使って移動したいのだが、馬車の大きさが大きさがなのでまたアレに見つかると面倒になるので、見つからないように徒歩で移動する事にした。保険としてキツネ目男が近づいてきたら、警報が鳴るように探知魔法を展開した。警報の条件は1キロメートル以内に入った場合と200メートルに進入した場合だ。警報音はそれぞれ別にしてあるので、気が付かずにエンカウントする可能性は低いだろう。しかし、ここは敢えて山脈を超えるルートで行くか?



相方を見上げれば、彼はどうした?と反応を返してくれる。彼はあれだろうか、一生を共にすると決めたひとには、一生尽す系男子なのか?それとも子供だからか?見た目は未成年者だけど、決して制限行為能力者ではないぞ! これでも常識と良識は持ち合わせているはず?だ。


「この先のルートを変更しようかと思います。向かう先は山脈を通る東側ルートにします。本当は西側ルートが最適なのですが……」


「そうだな。先ほどの男が追ってくる可能性を考えれば、きっと西側の迂回ルートを予想して追ってくるはずだ。ここはディーの言う通り山脈側のルートを使おう」


今回はこのような形になってしまったが。先行きが困難な方が楽しい旅になりそうだ。二人は西側のルートに行き先を変更し、行き先の問題が煮詰まったところで、一度アドフの実家に戻ることにした。先ほどは邪魔が入ったので、転移べなかったが、今回は周囲を探知魔法でしっかり確認し、人間の気配を感じないことを確認すると、いったんアドフの実家へ転移テレポートした。



目を開ければ、アドフ実家がある異空間についていた。一応この空間の接続先はアルムドゥスキアのクランシュタットで登録している。しかし亜空間である。この世界の動植物は地球に似たモデルのものを採用しているため、少し懐かしく感じる。だが、自宅の庭周辺を見回してみると、そこにはアルムドゥスキアで生息・栽培されている野菜や花が植えられている。恐らく、ノーザンホーク家の誰かが育てているのだろう。庭を眺めていると、自宅のドアが開く音がした。


「あら、アドフじゃない。もう、どうしたのまだ一週間ほどしか経ってないけど何か忘れものでもしたの?」


振り返れば、そこにはアドフの母、エリザベータがスコップを持って、庭作業をすると思われる装いをしていた。


「あぁ、一度報告することがあって戻ってきた」


そうなの? と可愛く首をかしげる母・エリザベータ。御年50歳になる見た目とは裏腹にとても若々しい見た目と、茶髪のゆるやかなウェーブヘアに豊満な胸を持つ、おっとり系の美女だ。


「じゃあ、後で家族が揃った時に話してちょうだい。大方暫く家を留守にするとか報告するつもりなんでしょうけど、一応お父さんが居る時に話してもらった方が都合がいいわ。今は外出しているから、家で待ってて頂戴。あと、ガーディ・スティングレイさんこんにちは。先日はまともな礼もできずに申し訳ありませんでした。この空間も私たち家族の肌に合っているようです。本当にありがとうございます」


アドフ母から丁寧なお礼をされた。ガーディの主観ではあるが、きっとこの母があるからこそ、アドフを含め今のノーザンホーク家があるのだと実感した。この点では、父・クラウスにグッジョブ(GJ)を送りたい。

クラウス自身も超絶ではないが、正統派のイケメンの部類に入るから、この一族の顔面偏差値には期待できそうだ。イメージ的に父・クラウスはイギリス系、母・エリザベータはハンガリー等の中欧系の顔立ちだ。


(くそぅ、アジア人顔のコンプレックスをゴリゴリ刺激してくるぜ!)


ガーディ自体はそもそも地球出身ではないのだが、顔立ちは一番日本人に近い。つまりヨーロッパ系の顔立ちは憧れなのだ。


少し切ない気持ちになりながら、自宅へお邪魔していると、父・クラウスが帰ってきた。軍服をカッチリと着ていることから、王都内へ出掛けていたのだと思われる。


「やぁ、これはガーディ様、ようこそおいでくださいました。数日ぶりですね。アドフィルゲインも大事ないようだね」


アドフ父はとても普段はとても落ち着いた紳士だ。最初に会った時は少々強引だったため。印象が違って見えたのだが、こちらが本来の性格のようだ。落ち着いたハンサム紳士は好きですよ。ノーザンホーク家の子供達の将来が楽しみです。

ガーディも一言挨拶を返した後、アドフは会話を切り出した。


「あぁ、父さんも変わり無いようで何よりだ。今日は現在の報告と今後について話にきた」


クラウスはそうかい、わかっているよ、とゆっくりと頷いてみせた。


「父さんと母さんに先に報告がある。俺はディーと共に暫く家を空ける。それと形式は違うがディーと婚儀の儀を挙げた。孫の顔を見せてやれないのは残念に思うがわかって欲しい」


クラウスは一度目を見開き、目を丸くした後、そうかい、と目を細めて笑った。エリザベータも「まぁ、そうなの?」とフフッと笑っていた。

この世界は同性婚は当たり前なのだろうか?

そして部屋の外から小さい女性の(歓喜の)悲鳴が聞こえたのは気のせいだと思いたい。


「私達は反対はしないし、好きにやりたいようにやればいい。アドフィルゲイン、君は少々真面目過ぎるからね、たまには親を困らせるくらいが丁度いいんだ。それに子供は君を含め六人はいるから、孫の顔は見れなくはないだろう?」


「そうね。ただ、これからほとんど会えなくなるのは寂しいから、たまには顔を見せて欲しいわ」


この家の会話を聞いていると、よく今まで無事だったなぁと感心する。平和な日本ではないのに。こんな呑気に見える会話のやり取りでもしっかりと相手との疎通が成立するくらい把握が得意なのだろう。


その後、王都の動きを聞いたり、ノーザンホーク家の今後について話し合った。


「私の場合は、アドフィルゲインの件があった後でも特に問題なく仕事が出来ていることから、今の仕事を継続するよ」


息子が大罪犯になっても、その親は処罰に対象にならないらしい。それかクラウスが何か手を打ったかだ。


「ただ、下の子供達は心配だから、国外に留学させようと思うのよね」


つまり現状はこの空間で生活し、クラウスはクランシュタット内での勤務、息子と娘はクランシュタット外の学校へ通うことを検討しているようだ。実際玄関扉に魔法を展開しているから、全く不可能ではない。

そしてエリザベータはこの空間の空気や土地が気に入ったのか、畑仕事に精を出すことにしたらしい。ちなみに色とりどりの花々は彼女の趣味の賜物だ。


「そうですか。それを聞けて安心しました。そうですね。この空間を今後も使用して頂けるのであれば、やはり転移魔法陣は肝要ですね。少し工夫を入れてみましょう」


先日この家の空間に施した魔法陣を改良する。この魔法陣の弱点はやはり扉から扉の移動しかできない点だ。これを改良する。もちろん行きはこの扉からだが、帰りはどこからでも帰ることができるように工夫を凝らす。魔法陣に刻む情報量は更に多くなるが、暴発するような膨大な情報量ではない。扉に魔法陣の改良を施し、実際の発動はカード式にした。イメージは、電車を使う人なら分かるだろうが、Sui◯apやPASM◯のような乗車型ICカードを採用する。使い方は、扉がある場所では、扉の前にかざし、それ以外ならば額に軽く触れ、行き先を念じるだけで転移が可能である。使用魔力は大気中にあるものを使用するので、原則魔力供給は必要ない。遠方であれば発動までにチャージが必要で時間が少し必要になるが、転移に対するデメリットは特に無く、転移先は必ず人が生存できる空間を自動指定する補正が付くことから、事故の危険性も殆どない。


「完成した魔法陣をに不備がないか再度確認した後、クラウスに人数分のICカードを渡し、使い方を説明する。


「これはすごい技術だ。これ程までの技術力はこの世界では聞いた事がない。君が異世界から来たというのは疑いようの無い事実なのだな」


なんとなく必要は全くないのだが、ICカードには転移魔法発動時に幾何学模様が発生するエフェクトの有無を選択できる機能がある。この機能はオンにしていれば、その人が魔術師である事のアピールになるし、オフにしていれば、隠密的に魔法が発動できる仕組みである。デフォルトはオフだが、使用したい時は念じるだけで使用可能だ。使う事はない機能だとは思うけど……。渡したICカードはノーザンホーク家の遺伝子情報を認識してから発動する条件なので、ノーザンホークの血族しか使用できない。つまり、客観的に見れば、ノーザンホーク家が転移魔術師になる。


この魔道具は前から考えていた物で、日本ではピンクのドアで何処へでもいける不思議ドアがアニメであったから作りたくなったのだ。結果的にはドアを作るのではなく、駅の改札をモデルとしたICカードを作成、触媒として、転移可能とした魔道具として完成した。近い未来、この魔道具は簡単に作成できるものなので、ノーザンホーク家から少しずつ広めて欲しいと思う。消費魔力は大気中のもので十分なので、負担はない。今はノーザンホークが潰れないために流通はさせないが、何れ改良したものを流通させようと思う。


「これで遠出の時も移動で時間を取られる事は減りますので、好きな時に使ってください」


それと、今後の転移魔術の普及についても話した。


「それは楽しみだ。便利な時代が来るのもそう遠くない未来かもしれないな」


本当にノーザンホーク家の両親は感受性が高い。否定的な意見が出ない事は嬉しい。ただ…


「これで可愛い男の子のキャッキャウフフをこっそり見て、瞬時に逃げる事が可能なのね」

と、部屋の外から囁き程度だが聞こえていた。彼女の才能という名の性癖にはため息しか出ない。

勿論、悪い意味で。

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