3

☆☆☆


人間は仮面をつけている動物である。必ずしも、だ。

仮面をつけてない人間など存在するはずがない。自分ではつけてないと思っているだろうが、気づいていないだけであり、仮面は必ずつけられる。仮面、というのは『嘘』と言い換えることもできるが、『嘘』というより『人間的本能』と言いかえた方がいいかもしれない。


自分を偽る。何が悪いのだろうか?俺にはわからない。

嘘をつかない人間はいい奴。何が?どこがいいのだろうか?俺にはわからない。


確かに、嘘をつかないのはいいことなのだろう。だが、はっきり言うと人間嘘をつかないのは不可能である。どんな心が綺麗な人間であろうと、人間である限り嘘をつかないのは不可能。


人間はみな、仮面をつけて暮らしている。

キャラを作り、考えを作り、相手を騙す。それが人間。


俺だって仮面をつけている。内心ではこのような考えなどをしているが、表ではイイ子ぶっている。まぁ最近、仮面が取れかけちゃってるけれどもそんなことはないのでほかってはいるが。


だから人は信用できないのだ。

俺は言いたい。



仮面をかけている全人類よ――猿を見習え。



と、心の中で呟きながら自分の部屋のベッドの上に寝転がっていた。このベッドフワフワしててちょー気持ちいい。


チラリと時計を見ると、午後6時30分をさしていた。夕食の時間は7時なのでまだ30分は余裕があるが、俺はベッドから起き上がり廊下へと向かった。


リビングでは女子全員でトランプをしていた。


「どこ行くの?」


「先に食堂行ってくるわ」


「「おっけい〜!」」


見事に藍里と芽結の声が重なる。

女子って仲良くなるの速いよな。もう美野梨も仲間になってるし。なんかキャラ忘れて普通に楽しんでるし。


俺はワイワイキャッキャ声を聞きながら部屋を出た。

廊下に1歩歩み出したその瞬間。俺は重大な事を思い出した。


……俺女装してねぇーじゃん。

ということはつまり……。


周りの女子達の冷たいのて痛い目線。コソコソ俺のことを言っている女子達。廊下にいた全員が俺に向くという、ちょー恥ずかしい現状。……現実逃避したい。さらば現実よ。

俺は静かに扉を開けて中に入った。


「どうしたの龍将君?」


「七虹すまん……ちょっと俺現実逃避してくるわ……」


七虹の頭の上に?が浮かぶ。そりゃそうだろうな。こんな子がそんな言葉の意味知ってるはずないもんな。

周りの女子もそうみたいで。


「……現実逃避とは、言わば『厨二病』と『中二病』と『オタク』ということね」


「へぇ〜そうなんだ〜ありがとね美野梨ちゃん」


理解できたんだ!?


「……ねぇねぇ美野梨ちゃん。ちゅうにびょうって2回言ったけど、何か違いはあるのかな?」


と、これは藍里。


「厨房の厨と書いて『厨二病』の方は、〈俺の右手がぁぁぁぁ!〉とか〈神に与えられしこの力を〉とか言うやつで、中学生の中と書いて『中二病』の方は、〈この世界は腐っている〉とか〈不良な俺格好良い〉とか言うやつよ」


うん違うと思うな。厨二病も中二病も同じだと思うんですけど?それはその中でも、という種類のこと言ってんじゃないの?


「ちなみにこれは、ハシペディアというエロ単語専門のサイトよ」


「ちげーだろ!」


「……マジレス乙(笑)」


「「「「「…………………………」」」」」


「……とりあえず、俺はみんなが食堂に入ってから行くわ」


「わかった。私達が行くときは声かけるね」


「別にいいんだけど……」


「……じゃあトランプの続きやりましょ!」


なんだろう。さすがは芽結だ。メリハリがよすぎて困っちゃうぜぇ。少しは俺くらい混ぜてくれてもいいんじゃないかな。まぁそれが人間というものだからいいんだけどね。


とりあえず勉強しよう。

俺は4日後にある学力テストに向けて勉強するため、部屋へと戻る。

2、3時間で綺麗に整頓した部屋の机に座り、スラスラとシャーペンを動かし始めた。その時だった。


横に置いてあった携帯電話(俺はドコココのアンドロイ〜ドスマートフォンだ)が鳴り始める。表示画面には『妹』という文字が。

ハァ……と溜息をつきながら電話に出る。


【あ、もしもしお兄ちゃん〜?】


「あぁそうだが……」


【え?本当に?】


ブチ。

とりあえず、もう電話には出ないようにしよう。俺にかけてくる女子にはろくな奴がいない。岡先生とか岡先生とか岡先生とか岡先生とか。


着信音が鳴り響く。ちなみに俺の好きな曲。これマジいい曲だから聞いてみて。

まぁ妹だししょうがないか。

俺は携帯電話を手に取り耳に当てる。


【なんで切っちゃうのよ〜マジありえな〜い!】


「いい加減本題入れ」


【ごめんごめん、怒らないでよお兄ちゃん〜!】


余計怒るぞ糞野郎。


【……私……妊娠しちゃったかも〜!】


ブチ。

〜〜〜〜〜〜。

ガチャ。


【いや、本当だって〜】


「ま、マジかよ……」


【マジレス乙(笑)】


「それついさっきも言われたわ!てかそんなことぐらいわかっとるわ!」


てかさっきからマジレスの使い方なんか間違ってるように思うのは俺だけだろうか。いや?合ってるのか?……もうどうでもいいや。後でハシペディアで調べればいいだけだ。

というよりこの妹、マジムカつくんですけど。というか俺『人』自体にムカつくんですけど。どうしてくれます?これ。


【……お兄ちゃん最近どお〜?私は奏楽かなで君とよろしくやってるよ〜】


「……リア充爆発しろ」


【リア充じゃなくてラブ充だよ〜】


「心底どうでもいいからとりあえず爆発しろ」


【どか〜ん!】


携帯から聞こえてくる口効果音。

……こいつマジ幼稚だわ。教育の仕方間違えたな俺の親は。

まぁそこに惹かれた哀れな男もいるようだが。

それと何か周りがガヤガヤしているような。女子の声が複数。まぁ部屋にいるのだろうから、その声はルームメイトのだろう。


「……そういえば、お前何組になった?」


【おっよくぞ聞いてくれましたっ!……5組だよ〜!】


この津我和歌つがのどかは中学3年生である。つまり来年上がってくる。やめてくれ。

兄弟揃ってこの学園である。そして、兄弟揃って推薦で入学。つまり入学金はタダ。基本的に推薦で入れるのは1学年3人までとなっている。基準はよくわからんが、俺と妹は奇跡的に推薦を貰ったのだ。この学園には感謝しなければならないところもあるのは確かなのだが。


こいつは先程喋っていた通りラブ充である。……相手が超絶イケメンの何でもできる超完璧人なもんだから、俺はそいつに顔を出せないでいる。比べられたら俺死んじゃうから。ゴートゥーヘルしちゃうから。

俺の妹はそこまで美人というわけでもないのだが……。


【お兄ちゃんは?】


「1組だ」


【……また〜?】


意味がわからない。1組になったのはこれで2回目だけど……2組の方が多いんですが?この子何言ってんの?


「……っで?本当の本題は?」


【いや〜ルームメイトと上手くやってるんじゃないのかな〜と思ってさ〜。あれじゃん?私お母さんやお父さんから『龍将の心配したれよ〜?』って言われてるからさ。一応しないとダメじゃん?】


一応っておま……てか普通に俺に連絡しろよバカ親ども!……いや、親のことを悪く言うのはよくない。ごめんなさい。


とりあえず、返答に迷う。

その1、そもそもルームメイトが女子であること。


……1とか言ってたけどこれしかないわ。うんこれ以外にもいっぱいあるけどこれが一番だわ。和歌になんて説明すればいいんだよ。


「実は俺、性転換しようと思ってさ。それでその準備として、女になれるために、女子と同じ部屋なんだ」


ってそう真顔で説明すればいいのか?……電話越しだから真顔とか関係ないけど。

いやいやいや。

そもそも俺性転換なんてしたくないし。嫌だし。


……どうやって答えようか。

と、いろいろ考えて出した答え。


「……そのな、いろいろ事情があって今女子と同じ部屋なんだ」


正直に言うしかない。

その答えは……。


【うん知ってるよ】


「は!?」


【今一緒にトランプやってるよ〜】


「何やってんだお前は!」


ブチ。

ドドドドド!

ガチャ!

ギリッ。


…………………………………いた。


俺の妹がルームメイト達とトランプをしていた。ババ抜きね。楽しいだろうね。じゃねぇよ!


「何でお前ここにいるんだ!?」


「いや〜さっき岡っちにお兄ちゃんの部屋番号教えてもらったんだよね〜」


あのクソ教師ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


「いつからいたんだ!?」


「お兄ちゃんが部屋を出てくる前だから……6時ぐらいかな」


嘘つけ!


「いや〜私皆さんとトランプやっていたのに、お兄ちゃん全然気づかないんだもん〜!マジウケる?」


「マジかよ!」


おいおいおいおい!俺が食堂行こうとした時にはいたってことかよ!なんで俺気づかないんだよ!てかどんな恥ずかしい場面を見られてたんだ!(女装し忘れて廊下に出てしまった時)

やべぇよ。マジやべぇよ。


「……龍将君の妹トランプ強いね〜」


ちょっとはタイミング考えてね芽結さん!?


「……りょ、龍将君って……バカだったんだね……」


おいあの大人しい七虹さんはまさかのボケ役ですか!?あと恥ずかしいなら言わんくっていいわ!


「……ちっ……相手が龍将だったら殴り殺してるところだったな……」


お前は本当に美女ランキング4位ですか!?残念ランキング4位の間違いじゃないですかね!?


「……まさか近親相姦だなんて……」


「お前はしばらく口を縫え!」


「どうやって?」


「口を閉じろって意味だわ!」


こいつはどこでも下ネタを言うんだな!


「……君……相当頭可笑しいんだね……ププ」


こいつは無視!

んだよもう!美女ランキングの上位3人がいるから安心してたのによ!全員結局は俺をいじりたいだけじゃないか!どこがハーレムだ!


……これは最悪だ……美女ランキング1位の活発な女の子に、美女ランキング3位の大人しい女の子に、美女ランキング4位のギャップがある女の子に、顔が可愛く行動も可愛い女の子に、全体的に可愛い女の子と聞けば誰しもハーレムだと思うだろう。だが空気が読めないけどメリハリがある女子に、その大人しいのとは裏腹にまさかのボケ役の女子に、口調とやることが男っぽくギャップなんてない女子に、下ネタが大好きな女子に、俺のことを付き纏う女子、と聞いた途端全てが覆る。ランキングも覆るぞこれは。


まぁランキング乗る者、裏があるのは確実なのである。はっきり言うと、ランキングに乗る奴はそのキャラを作っているからこそランキングに乗れるのである。逆に言えば、残念ランキングに乗る奴は大体が本心である。


いや、本心というわけではないのだが、限りなく近いであろう。だから、俺的には信用性においては残念ランキングの奴らの方が信用できる――


「りょ、龍将君……!じ、時間だから一緒に……行かない……?」


――前言撤回。キャラ作っててもいいから、俺は美女ランキングを信用する。

これが現実だぁぁぁぁぁぁぁぁ!


とはまぁ言ったものの、どうやって食堂に行くのか迷った。

そして、迷って話し合った挙句女装して食堂まで行くことに。

胸には先程のパンツをお借りして、豊かな大きさにして化粧をして、カツラをかぶったら完了だ。


ここで絶対的なルールは、声を発さないこと。それが絶対的ルールだ。これを破ると俺は下手したら退学になるかもしれない。


妹はルームメイトと行くらしく、俺の女装姿を見る前に先に戻っていった。これ見られてたら、次からお姉ちゃんって呼ばれるからな。


和歌は中学生。中学生は中学生専用の寮があるので、食堂もそっちだ。だから、一緒に食べることなどありえない。


俺は皆と部屋を出て、食堂へと向かう。

歩く度に廊下がざわつく。そりゃそうだろう。美女ランキング1位3位4位と謎の美人1名と残念ランキング1名と、そして女装すると結構可愛い(らしい)俺。その6人が廊下をスタスタと歩いているのだ。注目を集めても仕方がない。


……ただ、こんなにジロジロ見られるのは気分が悪いな……。

美女ランキング上位はいつもこんな気分になるのか、と少し同情してしまう。ちょっとこれはキツイな。男子だともっとキツイんだろうな。


さて、と。この寮にはエレベーターが付いている。何もう……寮というかホテルじゃん。みんなで修学旅行〜♪に来てるみたいじゃん。


6人でエレベーターに乗る。6人だと、丁度いい広さになる。

女子5人でべちゃくちゃ喋って俺だけ置いてきぼり。俺も混ぜて〜!って言えるわけないだろ。


と、食堂がある3階――を通り過ぎた。

なんでだぁぁぁ!?え?何この子達?押すボタン間違えた!?

そのまま1階に付き、全員が降りる。俺は喋りながら歩く5人の後ろに疑問に思いながらついていく。


ロビーをそのまま横に通り過ぎて、長い廊下を歩いた先にある『共同体育館』の目の前まで来てしまった。……あれ……?

と、入口の横に何やら紙が貼ってあることに気付く。


〈今日は『食べよう回!』の日です。それぞれ好きなところに座って、全校生徒で仲良く食べましょう!〉


と。

説明しよう『食べよう回!』とは、月に一度『共同体育館』に机と椅子を並べまくり、で仲良く食べよう!というものだ。

広さについては問題ない。約4000人が入れる程の大きさの体育館である。もうほぼ端が見えない感じである。


……しくったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!完璧忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

全校生徒がいるこの場に、俺は女装してきたのだ。……ゴートゥーヘル。


「……ププッ!……君……大丈夫なの……?」


「おいお前、最初の登場シーンの喋り方やトーンで話せや。もう全然違うじゃん」


これは……真面目にヤバイぞ。

と、戦場の扉がゆっくり、ゆっくりと開いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る